核情報

2019.11. 5〜

中東情勢の混迷とトルコ配備の米戦術核

10月6日にトランプ大統領がシリア北部から米軍を撤退すると発表した後、トルコ軍が同地域にいるクルド人勢力に攻撃を掛けた結果、中東情勢は混迷を極めています。この状況の中、シリアから最短で約110キロメートルの地点にあるトルコのインジルリク基地に置かれた約50発の米国のB61型核爆弾のセキュリティーが注目されています。「米科学者連合(FAS)」の核問題専門家ハンス・クリステンセンらは、早急にこれらを撤去すべきだと訴えています。以下、主として、クリステンセンのブログ(Urgent: Move US Nuclear Weapons Out Of Turkey 2019年10月16日)を参考に、この問題について要約しておきます。

冷戦時代の遺物──米欧の政治的「きずな」

欧州配備の米国の核兵器について米国も受け入れ側の国々も公式には明確な情報を提供していません。以下、クリステンセンらの調査によって「公然の秘密」となっている状況を見てみましょう。

トルコ配備の核兵器は、現在ヨーロッパの「北大西洋条約機構(NATO)」諸国の5カ国6基地に配備されている約150発のB61型核爆弾の3分の1を占めます。他の4カ国はベルギー、ドイツ、イタリア、オランダです。ギリシャと英国に配備されていたものは、それぞれ、2001年と2004~2007年に米国に持ち帰られました。

もともと、米国の核兵器の欧州配備は、1949年に設立されたNATOが旧ソ連およびその同盟国側(「ワルシャワ条約機構(WTO)」(1955年設立))の圧倒的通常兵力に対抗するためとして進めたものです。1954年から核砲弾、核爆弾、短距離ミサイル、核地雷など米国のさまざまな核兵器の欧州配備が進められ、1971年には、その数は最高の約7300発に達しました。冷戦終焉時には約4000発だったその数は、大幅に減り、種類も核爆弾だけになったのですが、WTOが崩壊し、米ロの立場が完全に逆転しているにも関わらず、配備が続いています。NATOは、ヨーロッパ各国と米国の政治的きずなの象徴として、これらの核を配備し続けるべきだとの態度をとってきています。

欧州配備の米核兵器1954-2008年(クリステンセン/FAS)


出典:U.S. Nuclear Weapons Withdrawn From the United Kingdom – Federation of American Scientists


欧州配備の米核兵器 2019年(クリステンセン/FAS 2019)

 現在配備中の基地    撤去した基地

出典:Urgent: Move US Nuclear Weapons Out Of Turkey – Federation of American Scientists

危険なトルコ配備

下の表にあるように約80発は米欧の「核共有(ニュークリア・シェアリング」の対象で、核戦争となった場合、トルコを除く受け入れ国4カ国のパイロットが自国の航空機で投下することになっています。インジルリク基地の状況は特殊で、米国もトルコも戦闘飛行隊を常駐させていません。非常時になると他所から航空機が飛来して運びだして使用する計画です。トルコのパイロットが投下に関わる計画かどうかは曖昧です。非常時の飛来はロシアに「核攻撃準備」を知らせるようなもので、モントレー国際大学院不拡散研究所ジェームズ・マーティン不拡散研究センターのジェフリー・ルイスは、この基地は「名ばかりの栄誉を与えられた」貯蔵施設に過ぎないと評しています。

トルコでの核配備は60年前に始まりました。クリステンセンによると、2000年時点ではインジルリクに90発が配備されていて、そのうち40発はトルコのF16機で投下されることになっていました。もともと別の二つの基地に配備されていたこれら40発は、2005年頃までに米国に撤去となりました。

残りの50発は、トルコにおける2016年7月のクーデター未遂事件の際に注目を浴びました。インジルリク基地のトルコ軍が関係していたということで、一時、同基地への送電が遮断され、米軍関係は基地からの移動を禁止されました。

クリステンセンは、自分たちは何年も前から撤去を主張していたのに、米政府が問題解決を先延ばしにして今の状況を招いたと批判します。現在では、核セキュリティーのために撤去を決定すると、関係が悪化しているトルコを放棄したと見られるという事態になってしまっているからです。しかし、今決定をしないと、さらに危険な状況の中での撤去を迫られることになりかねません。輸送にはC-17輸送機が2機必要だろうとクリステンセンは見ます。

10月14日には、ニューヨーク・タイムズ紙が、週末、国務・エネルギー両省高官らが撤収の検討、と報じました。同月17日には、民主・共和両党の上院議員が、インジルリク基地にある米空軍の人員及び「アセット」を他の場所に移す可能性について報告するよう大統領に要求する法案を提出しました。

クリステンセンは、「欧州における米国の戦術核についてどう考えるにしても、トルコはもはや容認できる場所ではない」と述べています。

欧州配備の米国B61 型核爆弾2019年(クリステンセン/FAS)

国名空軍基地名核兵器航空機
ベルギークライネブローゲルB61-3/-4 20発F-16
ドイツビュッヘルB61-3/-4 20発PA-200
イタリアアビアノB61-3/-4 20発F-16 (米軍)
 ゲディB61-3/-4 20発PA-200
オランダフォルケルB61-3/-4 20発F-16
トルコインジルリクB61-3/-4 50発無[飛来計画]
計:5ヵ国6基地150発  

出典:Urgent: Move US Nuclear Weapons Out Of Turkey – Federation of American Scientists

【追記】欧州配備の米国B61型核爆弾2021年(クリステンセン/FAS)

国名 空軍基地名 核兵器 各国運搬航空機
ベルギー クライネブローゲル B61-3/-4 15発 F-16
ドイツ ビュッヘル B61-3/-4 15発 PA-200
イタリア アビアノ B61-3/-4 20発 F-16 (米軍)
ゲディ B61-3/-4 15発 PA-200
オランダ フォルケル B61-3/-4 15発 F-16
トルコ インジルリク B61-3/-4 20発
計:5ヵ国 100発

参考

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