核情報

2011. 1.27

2010年NATOリスボン・サミット、約10年ぶりの新「戦略概念」採択──欧州配備の米国戦術核は不要だが削減に慎重?

2010年11月にリスボンで開かれたNATOサミットで採択された新しい「戦略概念」は、欧州に配備されている米国の約200発の戦術核兵器に政治的・軍事的役割がないことを示唆する一方、これらの核兵器のさらなる削減についてはロシアの戦術核兵器の数の大きさを考慮すべきとすると同時にミサイル防衛の重要性を強調しています。

デンマーク出身で米国在住の専門家ハンス・クリステンセンは、戦略概念の発表された11月19日、「米国科学者連合(FAS)」のサイトに載せたブログ記事(英文)のタイトルを「一歩前進、半歩後退」として、この文書の評価を示しました。以下、この記事や米国NGO「軍備管理協会(ACA)」『アームズ・コントロール・トゥデイ(ACT)』誌12月号に掲載されたドイツ人専門家オリバー・マイヤーの記事「NATO、核政策を改定」(英文)などを参考にしながら、新戦略概念の特徴を見た後、両文書及び関連文書の抜粋訳を載せておきます。




目次

  1. 妥協の産物──フランスの強硬姿勢
  2. 日本とフランスの類似性
  3. 米欧のリンクとしての戦術核の役割の消滅
  4. 2011年ヨーロッパ配備の米国核兵器(核爆弾B61)
  5. 登場したロシアの戦術核の削減とのリンク
  6. 中核的要素としてのミサイル防衛
  7. 抜粋訳
  8. 参考 リンク集



妥協の産物──フランスの強硬姿勢

2010年戦略概念は、初めて、核兵器のない世界のための「条件を作り出す」との目標を謳う一方、「核兵器が世界に存在する限りNATOは核同盟であり続ける」と宣言しています。これは、2009年4月のプラハ演説でオバマ大統領が、「核兵器のない世界の平和と安全を追求する決意」を表明し、「核兵器のない世界に向けて、具体的な措置」を取るとしながら「核兵器が存在する限り・・・安全かつ効果的な兵器を維持」するとしていたのと比べると、目標部分が、後退した感がありますが、後半部分は基本的に同じです。

新しい戦略概念の内容は、プラハ演説をしたオバマ米大統領、米国内の政治状況、「核兵器のない世界」という考えに反対するサルコジ仏大統領、ロシアの脅威を懸念する国々などの妥協の産物と言うことでしょう。核問題について非協力的なフランスの態度が問題だったとする外交官ら証言をマイヤーは報告しています。戦略概念で謳われた内容を今後の核政策その他に具体的にどう反映させるかは、2011年に行われる抑止に関する「総合的見直し」作業で話し合われることになります。この「見直し」は、フランスが2009年4月のNATO統合軍事機構復帰後も参加していない「核計画グループ」においてではなく、NATO全体で行われます。イヴォ・ダールダー在ベルギーNATO米国大使は、だから、この見直しは、「核態勢の見直し」ではなく、「抑止態勢の見直し」なのだと強調しています。

そもそもフランスは、2009年7月のG8サミットの「不拡散に関するラクイラ声明」(英文)外務省仮訳)や2009年9月24日の「核不拡散・核軍縮に関する安保理首脳会合」における国連安保理決議1887(英文)外務省概要説明)で、「核兵器のない世界を構築すること」ではなく、「核兵器のない世界に向けた条件を構築すること」を約束・決意するとの文言を採用するよう働きかけて成功しています。

リスボン宣言は、「見直し」の期限を設定していませんが、マイヤーによると、2011年半ばには見直し報告書がでるはずだと数人の外交官が言っているとのことです。フランスの態度が、実際の核政策にどのように現れるのか、フランスの反対を押し切って設置された大量破壊兵器の管理・軍縮に関する「委員会」の動きと共に、見守る必要があります。

日本とフランスの類似性

NATOにおける議論を見るに当たり、日本の核政策を想起すべきです。日本は、日本に対する核以外の攻撃に対しても米国の核による報復(核の先制使用)の可能性を残して欲しいと考え、次のように主張してきています。「いまだに核などの大量破壊兵器を含む多大な軍事力が存在している現実の国際社会では、当事国の意図に関して何ら検証の方途のない先制不使用の考え方に依存して、我が国の安全保障に十全を期することは困難」であり、「、我が国としては米国との安全保障条約を堅持し、その抑止力のもとで自国の安全を確保するとともに、核兵器を含む軍備削減、国際的核不拡散体制の堅持、強化等の努力を重ねて、核兵器を必要としないような平和な国際社会をつくっていくということが重要である」。

(1999年08月06日 高村外務大臣)

1999年の戦略概念の見直しの際に焦点の一つとなりながら採用されなかった「先制不使用」宣言は、今回も採用となりませんでした。米国が2010年「核態勢の見直し」で使った次のような文言も入りませんでした。

「米国は、NPTに加盟し、その核不拡散の義務を遵守している非核兵器国に対しては、核兵器を使用したり、使用するとの威嚇をしたりしない。」

「米国は、通常兵器の能力を強化し、非核攻撃の抑止における核兵器の役割を低減し続ける──米国あるいはその同盟国・パートナーに対する核攻撃の抑止を米国の核兵器の唯一の目的とすることを目標として。」

参考

米欧のリンクとしての戦術核の役割の消滅

今回の戦略概念で重要な点の一つは、ヨーロッパ配備の米国の戦術核兵器に関する表現の変化です。NATO諸国は、先に触れた「核計画グループ」でNATOの核戦略について議論するだけでなく、ヨーロッパの一部の国が米国の戦術核の配備を受け入れてきました。現在ヨーロッパの5ヶ国(ベルギー、ドイツ、イタリア、オランダ、トルコ)の6つの基地に約200発配備されているとクリステンセンらが推定する米国の戦術核(B61型核爆弾)は、受け入れ国内の米軍基地に置かれたものと、ベルギー、ドイツ、オランダ、イタリア各国の空軍基地に置かれたものとあります。後者は、いざ核戦争となった場合は、これらの空軍のパイロットが運んで行って投下することになっています(トルコのケースは、曖昧)。

2011年ヨーロッパ配備の米国核兵器(核爆弾B61) (FAS/NRDC推定)
国名基地名投下機推定核兵器数
ベルギークライネブローゲルベルギー軍F-16機10-20発
ドイツビュッヘルドイツ軍トーネード機10-20発
オランダフォルケルオランダ軍F-16機10-20発
イタリアアビアノ米軍F-16機50発
ゲディトーレイタリア軍トーネード機10-20発
トルコインジルリク米軍機(+トルコ軍F-16機)50(+10-20)発
合計 150-200発
"出典: Norris R. S,Kristensen H. M., Bulleting of the Atomic Scientists 2010;67:64-73 "

1999年戦略概念は、第62段落で次のように述べていました。

「同盟国の核戦力の基本的目的は、政治的なものである:すなわち平和を保ち、強制及びいかなる戦争をも防ぐことである。これらの核戦力は、軍事的侵略に対する同盟国側の対応の性格について、いかなる侵略者も不確実性を感じるよう保証することによって、不可欠の役割を果たし続ける。これらは、いかなる種類の侵略も、合理的なオプションではあり得ないことを示す。」

2010年戦略概念では、これが消え、次の部分だけが残りました。

「同盟国の安全保障の究極の保証は同盟の戦略核戦力──とりわけ、米国のそれ──によって提供される。独自の抑止的役割を持つ英仏の独立した核戦力は、同盟国の全体的抑止及び安全保障に貢献する。」

ただし、英国の戦術核がなくなったこともあり、2010年戦略概念の第18段落では、「英仏の独立した『戦略』核戦力」という表現に置き換えられ、全体として戦術核兵器ではなく「戦略核兵器」が重要だと強調する格好になっています。(フランスは、以前から、所有する核兵器はすべて戦略核だと主張しています。)

そして、1999年「戦略概念」第63段落にあった、欧州配備の米国の戦術核は、NATOの「ヨーロッパ側及び北米側加盟国の間の不可欠の政治的・軍事的リンク」だとする文言が消えました。また、これらの戦術核は、「戦略核戦力との間の不可欠なリンクを提供し、大西洋を挟むリンクを強化する」との第64段落の文言も消えました。

クリステンセンは、このような変化は、「米国の戦術核兵器をヨーロッパに前進配備することにNATOが置いている重要性を減らそうとの試みを示唆するものと見ることもできる」と指摘しました。

米国NGO「軍備管理協会(ACA)」のダリル・キンボール事務局長も核情報へのメールで、「不可欠の政治的・軍事的リンク」という表現がなくなっていることは、「戦術兵器の前進配備は、NATOにとって軍事的役割も、政治的役割も持っていないという事実を暗黙裏に認めるものと解釈すべきだ」と述べています。

ただし、63段落にあったものに似た「核の役割に関する集団的防衛計画過程、核戦力の平和時の配備、それに、指揮・統制・協議への可能な限り広範な参加を確実にする」との表現が、新戦略概念の第19段落に入っています。これは、欧州NATO諸国が「核計画グループ」の議論に参加し、米国の核・非核両用の爆撃機をヨーロッパに配備し、実際の核兵器の使用に関する決定に米国以外のNATO諸国が関わる仕組みを維持することだけで、満足させられるものかもしれないとクリステンセンは見ます。マイヤーも、この文言は将来の核態勢の変更の可能性を否定するものではないとの米国側交渉関係者の発言を紹介しています。

もっとも、フランスの外交官は、NATOの戦略概念はまったく変わっておらず、1999年の戦略概念にあったものが省略されているのは、簡潔さを追求したためだと主張しています。

登場したロシアの戦術核の削減とのリンク

軍事的にも政治的にも意味のないものなら、欧州配備の米国の戦術核は、即座に撤去しても問題ないはずだと言うことになります。実際、2009年10月にドイツが撤去提案をして議論になっていました。ところが、2010年戦略概念は、欧州配備の戦術核のさらなる削減に関しては、ロシアの戦術核の量の大きさを考慮しなければならないと主張しています。これについて、クリステンセンは、NATOは、ロシアの戦術核には関係なく、欧州配備の米国の戦術核の数を1999年から2010年までに約480発から、約150ー200発に一方的に削減してきていたのに、今回急にロシアの戦術核とリンクさせることの矛盾を指摘しています。約5000発以上と推定されるロシアの戦術核(配備は約2000発)の削減は重要だが、公式に米国の欧州配備核とロシアの戦術核をリンクさせるのは、欧州配備核はロシアを対象としたものでないとのこれまでの政策に矛盾すると指摘して次のように述べています。

NATOは、何度も、ロシア側の削減を要求することなく一方的な削減を行ってきた。新しい戦略概念は、「NATOはロシアに対する脅威とならない」し、NATOは「どの国も敵とはみなさない」と宣言している。

だから、今になって欧州における米国の核兵器の量がロシアとリンクされていると論じるのは、NATOが欧州配備の米国の核兵器の量を決めるのに際してロシアを睨んでいた冷戦時の政策に似ている。

さらに、ロシアの戦術核態勢は、欧州における米国の核態勢よりも、NATOの優勢な通常戦力への対処や中国との長い国境の防衛に関するロシアの見方に関係している。これらの要因が、ロシアの戦術核兵器の多さを決めていることからすると、欧州配備の米国の戦術核兵器の削減と交換に、モスクワがその戦術核の削減に応じるとは信じがたい。

そして、1990年代初頭のブッシュ大統領(父)の一方的削減措置の成功のことを考えれば、「ヨーロッパから米国の核兵器を一方的に撤去する方が、ロシアからの反応をより効果的にもたらすことになるだろう」と論じます。

中核的要素としてのミサイル防衛

2010年戦略概念で注目されるもう一つの点は、ミサイル防衛が集団的防衛の中核的要素として強調されていることです。ミサイル防衛の重要性は、ダールダー米国大使が2010年11月22日にその古巣ブルッキングズ研究所で行った講演でも、強調されています(末尾に、キンボールACA事務局長の質問に大使が答えた部分を訳出して掲載

しておきます)。ドイツは、欧州ミサイル防衛システムに関するNATO内での合意がNATOの核兵器への依存をさらに減らすことに繋がると主張しているが、フランス側は、核抑止とミサイル防衛は「相互補完的」だとしているとマイヤーは指摘しています。フランスの様々な主張が今後の協議で通れば、結果的に2010年戦略概念は、1999年のものより後退したものとなってしまう可能性があります。

参考

抜粋訳

2010年戦略概念

前文
[この戦略概念は]
核兵器のない世界のための条件を作り出すとの目標の追求をNATOに義務づけるものであるが、核兵器が世界に存在する限りNATOは核同盟であり続けることを再確認するものである。・・・
16
同盟の最大の責任は、ワシントン条約第5条に定められている通り、我々の領土と我々の国民を攻撃から守り防衛することにある。同盟は、いかなる国をもその敵国とみなしていない。しかし、加盟国のいずれかの安全保障が脅かされた場合におけるNATOの決意については、何人といえども、疑いを抱くべきではない。
17
核及び通常兵器能力の適切な組み合わせに基づく抑止が、我々の全体的戦略の中核的要素であり続ける。核兵器の使用が考慮されなければならないような状況は、極めてありそうにない。核兵器が存在し続ける限り、NATOは核同盟であり続ける
18
同盟国の安全保障の究極の保証は、同盟の戦略核戦力──とりわけ、米国のそれ──によって提供される。独自の抑止的役割を持つ英仏の独立した戦略核戦力は、同盟国の全体的抑止及び安全保障に貢献する
19
我々は、我々の国民の安全と安全保障に対するいかなる脅威も抑止し、これに対して防衛するのに必要なあらゆる範囲の能力をNATOが持つことを確実にする。従って、我々は:
  • 核及び通常兵器の適切な組み合わせを維持する・・・
  • 核の役割に関する集団的防衛計画過程、核戦力の平和時の配備、それに、指揮・統制・協議への可能な限り広範な参加を確実にする
  • 我々の国民及び領土を弾道ミサイル攻撃から防衛する能力を、我々の集団的防衛の中核的要素として開発する。この能力は、同盟の不可分の安全保障に貢献する。我々は、ロシア及び他の欧・大西洋パートナーとのミサイル防衛協力を積極的に追求する。
  • 化学・生物・核大量破壊兵器の脅威に対して防衛するNATOの能力をさらに開発する・・・

 協力による国際安全保障の促進

  軍備管理、軍縮、拡散防止
26
NATOは、可能な限り低いレベルの戦力における安全保障を求める。軍備管理、軍縮、拡散防止は、平和、安全保障、そして安定に貢献するものであり、同盟のすべての加盟国の安全保障が低下しないよう保証すべきである。
  • 我々は、国際的な安定を促進し、すべての国にとっての安全な世界を追求し、また、核不拡散条約の諸目標に従った核兵器のない世界の条件を──すべての国にとっての安全保障を低下させないとの原則に基づいた形で──作ることを決意する。
  • 冷戦終焉以来の安全保障環境の変化に従い、我々は、ヨーロッパに配備された核兵器の数を、そして、NATO戦略における核兵器への依存を、劇的に減らしてきた。我々は、将来におけるさらなる削減のための条件を作るよう追求する。
  • 将来におけるいかなるさらなる削減においても、我々の目的は、ロシアとのあいだで、ヨーロッパにおけるその核兵器の透明性を高め、NATO加盟国の領土からこれらの兵器を遠ざけるよう移転するとの合意を得ることであるべきである。いかなるさらなる措置も、ロシアの短距離核兵器の量の大きさとの不均衡を考慮に入れなければならない
33
NATOとロシアの協力は、平和、安定、及び安全保障の共通のスペースを創出するのに貢献するものであり、戦略的重要性を持っている。NATOは、ロシアに対し、何の脅威をももたらさない。それどころか、我々は、NATOとロシアの間の真の戦略的パートナーシップを見たいと考えており、これに従い、ロシアからの同様のものを期待しつつ、行動する。

2010年NATOリスボン・サミット宣言

30
我々の戦略概念は、NATOが我々の国民の安全と我々の領土の安全保障に対する脅威を抑止し、これに対して防衛するのに必要なあらゆる能力を持つことを確実にするとの我々のコミットメントを強調するものである。このために、NATOは通常、核、ミサイル防衛戦力の適切な組み合わせ(mix)を維持する。我々の目標は、我々の集団的防衛の中核的要素としての抑止を強化し、同盟の不可分の安全保障に貢献することにある。我々は、理事会に対し、同盟に対する脅威を抑止し、これに対して防衛するNATOの全体的態勢を、変容する国際的安全保障環境の変化を考慮しながら、見直し続けるよう指示した。この総合的見直しは、戦略概念で合意された抑止・防衛態勢に基づき、大量破壊兵器及びミサイルの拡散を考慮しながら、すべての同盟国によって実施されなければならない。見直しの不可欠の要素としては、NATOの核態勢を始めとする必要なNATOの戦略的能力、それに、戦略的抑止・防衛のためのミサイル防衛その他の手段などがある。これが関係する核兵器は、NATO用に指定されたもののみである。

オバマ大統領プラハ演説 2009年4月5日(抜粋:米大使館訳)

まず、米国は、核兵器のない世界に向けて、具体的な措置を取ります。冷戦時代の考え方に終止符を打つために、米国は国家安全保障戦略における核兵器の役割を縮小し、他国にも同様の措置を取ることを求めます。もちろん、核兵器が存在する限り、わが国は、いかなる敵であろうとこれを抑止し、チェコ共和国を含む同盟諸国に対する防衛を保証するために、安全かつ効果的な兵器を維持します。しかし、私たちは、兵器の保有量を削減する努力を始めます。

参考

1999年戦略概念

62
同盟国の核戦力の基本的目的は、政治的なものである:すなわち平和を保ち、強制及びいかなる戦争をも防ぐことである。これらの核戦力は、軍事的侵略に対する同盟国側の対応の性格について、いかなる侵略者も不確実性を感じるよう保証することによって、不可欠の役割を果たし続ける。これらは、いかなる種類の侵略も、合理的なオプションではあり得ないことを示す。同盟国の安全保障の究極の保証は同盟の戦略核戦力──とりわけ、米国のそれ──によって提供される。独自の抑止的役割を持つ英仏の独立した核戦力は、同盟国の全体的抑止及び安全保障に貢献する
63
信憑性のある同盟国の核態勢と同盟の連帯及び戦争防止への共通のコミットメントの表明は、核の役割に関する共同の防衛計画過程、自らの領土への核戦力の平和時の配備、指揮・管理・協議体制へのヨーロッパ側同盟国の広範な参加を必要とし続ける。ヨーロッパに配備され、NATO用とされた核戦力は、同盟のヨーロッパ側及び北米側加盟国の間の不可欠の政治的・軍事的リンクを提供する。従って、同盟は、ヨーロッパに適切な核戦力を維持し続ける。これらの戦力は、戦争を防止する上での同盟国の戦略の信憑性のある効果的な要素として見られるのに必要な性格と適切な柔軟性・生存性を持たなければならない。
64
同盟国は、安全保障状況の劇的な変化──ヨーロッパにおける通常戦力レベルの低減及び対応の時間[的余裕の]増大など──に伴い、外交その他の手段による危機状態の緊張を緩和させる、あるいは、必要となれば成功裏に通常戦力の防衛を実施するNATOの能力は相当改善された。従って、同盟国が核兵器の使用を考慮しなければならなくなるような状況は、極めてありそうにない。従って、1991年以来、同盟国は、冷戦後の安全保障環境を反映する一連の措置を講じてきた。これらには、NATOの非戦略核戦力の種類と数の劇的な削減が含まれる。例えば、すべての核砲弾及び陸上発射の短距離核ミサイルの全廃、核の役割を持つ戦力の準備態勢の基準の相当の緩和、そして、平和時の継続的核非常事態対応計画の廃止などである。NATOの核戦力は、もはや、どの国も標的にしていない。しかし、NATOは、現存する安全保障環境に従った最小限のレベルにおいて、ヨーロッパ配備の適切な非戦略戦力を維持する。これらは、戦略核戦力との間の不可欠なリンクを提供し、大西洋を挟むリンクを強化する。これらは、核・非核両用の航空機及び少数の英国のトライデント核弾頭からなる。しかし、非戦略核は、通常の状況では水上艦船や攻撃型潜水艦には配備されない。

イヴォ・ダールダー在ベルギー北大西洋条約機構(NATO)米国大使講演(2010年11月22日)

Success at the Lisbon Summit: The U.S. Perspective

(ダリル・キンボールACA事務局長の質問に答えて)

ダリル、あなたが1999年と2010年の両方の戦略概念に書いてあることを非常に詳しく読んでいるというのは驚かない。核関連の文言だけでも、2010年にあることと1999年にあったこととを読んで、何が異なるかを見るのは非常に重要だと思う。2010年のものが短いというだけではなく、違っている。どう違うか幾つかの点についてあなたは指摘している。だが、NATOは、核兵器について様々な考え方を包含している同盟だ。プラハの演説の後に生じたこの不一致は、消滅していない。だが、我々は、これについて、前進できるように話し合う方法を見いだした。

あなたがNATO共同宣言からピックアップした最も重要なセンテンスは、通常戦力及び核戦力だけでなく、通常・核ミサイル防衛戦力も含めた「適切な組み合わせ」という考え方だ。これは、「組み合わせ」にミサイル防衛を初めて加えたものだ。「適切な組み合わせ」という表現は、2009年に採用されたものだ。だが、今回、抑止・集団的防衛について考えるに当たっての中核的要素として、ミサイル防衛を追加している。これによって、何が「適切な組み合わせ」かについて考え直すことができる。だから、我々は、「核態勢の見直し」ではなく、「抑止態勢の見直し」をすることにしたのだ。

21世紀において、同盟は、脅威に対処するのに、どう協力し、どのような態勢をとるべきか。どのような通常能力が必要か。どのようなミサイル防衛能力が必要か。どのような核能力が必要か。いろいろなパターンがある。最も重要なのは、ハンス(クリステンセン)が言及したものだ。すなわち、核兵器が存在し続ける限り、NATOは、核同盟であり続ける、というものだ。これは、オバマ大統領がプラハで言ったことに完全に符合する。大統領は、核兵器が存在する限り、NATO──米国は、安全で、効果的な抑止力を維持すると述べている。これは同じことを若干違った形式で表明したものだが、このパターンの重要な再確認だ。

しかし、このパターンを前提にして、抑止を中核するとして、この抑止戦略を核・通常・ミサイル防衛戦力が構成するとして、適切な組み合わせはどのようなものだろうか?どう歩を進めるか。これが、来年[2011年に]やろうとしている議論だ。そして、重要なのは、これが、すべての同盟国──28の同盟国──の間での議論になるということだ。核NATO──核事業──に入っている27ヶ国だけではない。「核計画グループ(Nuclear Planning Group)」は──フランスがメンバーとなっていないため27ヶ国からなるが──核兵器の問題を扱う傾向がある。これは変わらない。だが、もっと広範囲な「見直し」は、我が同盟国すべてによってなされる。そして、フランスは、この「見直し」の積極的な参加者となる。これは、間違いなく、面白い作業となると確言できる。これは新しく、違ったものとなり、重要な要素となる。そして、この作業の中で、戦略概念の中で打ち出したバランス──抑止の重要性と軍縮への貢献の重要性との間のバランス──が「見直し」全体を通して維持されなければならない。そして、この正しいバランスを見いだすのは、控えめに言っても、面白いものとなるだろう、私のようなオタクにとっては。

参考 リンク集


核情報ホーム | 連絡先 | ©2010 Kakujoho