核情報

2010. 4.14

米国「核態勢の見直し(NPR)」(2010年4月) 抜粋

米国「核態勢の見直し(NPR)」(2010年4月)(英文pdf) 抜粋訳

*報告書は、ゲーツ国防長官の序文と要約からなる15ページ(ローマ数字のページ番号)と本文49ページからなる。抜粋は本文から。抜粋は、網羅的であることを目指したものではない。見出しは「核情報」が付けたもの。

NPRの全体像については国防省記者ブリーフィング用資料全訳を参照

参考




  1. 基本的アプローチ
  2. 核兵器の役割の低減──消極的安全保証と「拡散国への威嚇」
  3. 「唯一の目的」宣言の可能性
  4. 核廃絶の難しさ
  5. 欧州配備戦術核の維持 
  6. 核付きトマホークの退役
  7. 拡大抑止の確認 アジア・中東
  8. 新START交渉に向けて
  9. 1991年締結のSTARTTと現状
  10. 新START
  11. 新START後 
  12. 戦略原子力潜水艦(SSBN)の維持 
  13. ICBM 単弾頭化 
  14. ICBMの2030年まで寿命延長
  15. 戦略爆撃機の維持
  16. 警戒態勢の維持
  17. ミサイル防衛
  18. 解体待ち核弾頭
  19. 核実験・新型核・核弾頭維持管理
  20. 個別の核弾頭維持管理計画──W-76、B-61、W.78
  21. 核削減と核関連施設増強



 

基本的アプローチ

国際的安全保障環境の根本的変化とそれに対する米国の今日までの対応を描写した後、NPR報告書は、核兵器政策・態勢の5つの基本目的に焦点を合わせる。

  1. 核拡散及び核テロリズムの防止
  2. 米国の国家安全保障戦略における核兵器の役割の低減
  3. 削減された核戦力レベルにおける戦略的抑止と安定性の維持
  4. 地域的抑止の強化と米国の同盟国・パートナーに対する再保証
  5. 安全でセキュリティーの確保された効果的核兵器の維持

・・・

冷戦終焉以来、国際的な安全保障環境は劇的に変わった。世界的核戦争の脅威は遠のいたが、核攻撃のリスクは高まった。

今日、最も差し迫った極端な脅威は、核テロリズムである。

・・・

今日のもう一つの緊急の脅威は、核拡散である。新たな国──とりわけ、米国及びその同盟国・パートナー、そして広く国際社会と対立関係にある国々──が核兵器を取得する恐れがある。核の野望を追求する北朝鮮とイランは、不拡散の義務に違反し、国連安保理の指示を無視し、彼らが作り出した危機を外交的な手段によって解決しようとの国際的努力に抵抗している。

・・・

これらの国々による地域的侵攻の可能性は、抑止にとっての問題をもたらすだけでなく、米国の同盟国・パートナーに再保証する問題をももたらしている。冷戦時代は、我が同盟国は、ソ連の脅威を前にして、安全でいられる保証を米国がコミットしていると示していることに求めた。今日の環境は非常に異なる。米国の同盟国の中には、核とミサイルの拡散を含め、安全保障環境における変化についての不安を募らせ、米国が自国の安全保障にコミットし続けることを再保証するよう望んでいる国々がある。再保証をすることに失敗すれば、非核国のうちの一ヶ国、あるいはそれ以上が自らの核抑止を追求する決定をする可能性がある。そして、それは、NPT体制の崩壊と核兵器使用の可能性の増大の一因となりうる。(注)

・・・

核テロリズムと核不拡散という緊急の脅威に立ち向かう一方、米国は、既存の核兵器国──主としてロシア及び中国──との戦略的安定性を確保すると言うもっとなじみ深い問題にも対処しなければならない。

p.2-4

我々にとって現在の最も緊急の安全保障問題は、核拡散と核テロリズムを防ぐことであり、このためには何千発もの核戦力はほとんど意味を持たない。

p.45

核情報注:次を参照:

 

核兵器の役割の低減──消極的安全保証と「拡散国への威嚇」

米国の安全保障と米国の軍事戦略における核兵器の役割は、ここ数十年の間に相当低減しているが、現在さらなる措置を講じることができるし、そうすべきである。

米国の核兵器の基本的役割(fundamental role)──核兵器が存在する限り続く──は、米国、同盟国、パートナーに対する核攻撃を抑止することにある。

冷戦の間、米国は、また、ソ連やそのワルシャワ同盟諸国による大規模な通常兵器攻撃に対して核兵器を使用する権利を留保していた。さらに、国際条約に従って、米国がその化学・生物兵器(CBW)を(これらを保有あるいは追求し続けている国もあるなかで)放棄して以来、米国は、米国及びその同盟国・パートナーに対するCBW攻撃を抑止するために核兵器を使用する権利を留保した。

冷戦以来、戦略的状況が根本的な形で変わった。

第一に、そして、何よりもまず、ソ連とワルシャワ条約が消滅した。

・・・

第二に、米国、同盟国・パートナーの通常戦力は、今や、地域的アクターの通常兵器の脅威を抑止し、必要とあれば、打ち勝つための広範な効果的通常兵器対応オプションを提供している。ミサイル防衛や対大量破壊兵器(WMD)能力がCBW攻撃に対する抑止及び防衛を強化している。

このような状況の中で、非核攻撃──通常、生物、化学兵器の攻撃──を抑止し、必要があれば、これに応じるという米国の核兵器の役割は、相当に減少した。米国は、非核攻撃を抑止する上での核兵器の役割を減らし続ける。

そのために、米国は、今、以前からの「消極的安全保証」を以下のように宣言することによって強化する用意がある──米国は、核不拡散条約(NPT)に加盟し、その不拡散の義務を遵守している非核兵器国に対して核兵器を使ったり、使うとの威嚇をしたりしない。(注)

この修正された保証は、NPTに加盟し、完全に遵守することの安全保障上の利点を強調し、条約に加盟している非核兵器国に対して、米国その他の関心をもつ加盟国と共に、不拡散体制を強化するための効果的な措置を採用するよう説得することを意図したものである。

この強化された保証をするに当たり、米国は、この保証を受ける資格のある国が、米国またはその同盟国・パートナーに対してCBWを使用した場合には、通常兵器による壊滅的な報復に直面することになると断言する──そして、このような攻撃に責任のある個人は、国家指導者であれ、軍の司令官であれ、完全にその責任を追及されることになる。

生物兵器の壊滅的な潜在力と生物技術開発の急速なペースからして、米国は、この保証における変更──生物兵器の脅威の進展・拡散及びその脅威に対処する米国の能力の状況によって正当化される可能性がある──をする権利を留保する。

この保証の対象となっていない国──核兵器を保有している国、核不拡散の義務を遵守していない国──の場合には、米国あるいはその同盟国及びパートナーに対する通常兵器あるいはCBWの攻撃を抑止する上で米国の核兵器が役割を果たす可能性のある状況が狭い範囲で残る。従って、米国は、現時点では、米国の核兵器の「唯一の目的」は米国とその同盟国及びパートナーに対する核攻撃を抑止することにあるとする普遍的な政策を採用する用意はないが、このような政策が安全に採用できる条件を確立するために努力する。

しかし、このことは、新しい保証の対象となっていない国に対して核兵器を使う意図が高まったことを意味するものでは決してない。実際、米国は、米国が核兵器の使用を考えるのは、米国またはその同盟国及びパートナーの死活的国益を防御する極端な状況の下でのみだと強調することを望むものである。

核の不使用の65年近くに亘る記録が永遠に伸びることが米国のためであれ、また、すべての国のためでもある。レーガン大統領が宣言したとおり、「核戦争は勝つことができないものであり、決して起こしてはならない。」

要約すると、次の原則が米国の核政策の指針となる。

米国は、核軍縮を追求するとのNPT第6条の下での約束を果たし、向こう5─10年間に進展を示してみせる。

我々は、米国自身及びその同盟・パートナーの安全保障を高める一方で米国の核兵器の役割と数を減らすために努力する。

米国は、米国あるいは同盟国・パートナーに対する核攻撃の抑止を米国の核兵器の唯一の目的とすることを目標とし、通常兵器能力の強化と、非核兵器による攻撃を抑止する上での核兵器の役割の低減とを続ける。

米国は、米国あるいはその同盟国・パートナーの死活的国益を防御するために極点な状況でのみ核兵器の使用を考慮する。

米国は、NPTに加盟し、その核不拡散の義務を遵守している非核兵器国に対しては、核兵器を使用したり、使用するとの威嚇をしたりしない。

p.15-17

米国の核態勢は、地域安全保障構造において極めて重要な役割を果たす。拡散国は、米国あるいはその同盟国・パートナーに対するいかなる攻撃も、打ち破られること、そして、核兵器のいかなる使用も効果的かつ圧倒的な報復に直面することを理解しなければならない。最高司令官として大統領が、米国のいかなる報復についても、その具体的な性格を決定する。しかし、核兵器を追求することによって、これらの国は、いかなる紛争であれその賭すものを相当に上げてしまっていることを理解しなければならない。

p.33

核情報注:

  • 米国は1978年及び1995年に下のような保証をしていたが、実際には、生物・化学兵器に対する核の使用について曖昧政策を採り続けていた。今回は、同盟関係についての条件が抜け、代わりにNPRを遵守している国という新たな条件が入っている。
  • 1995年4月5日 (NPT再検討・延長会議の直前)

    「大統領はつぎのように宣言する。

    米国は、以下の場合を除き、核兵器の不拡散に関する条約の締約国である非核兵器国に対して、核兵器を使用しないことを再確認する。すなわち、米国、その準州、その軍隊、もしくは、その他の兵員、その同盟国、又は、米国が安全保障上の約束を行っている国に対する侵略その他の攻撃が、核兵器国と連携し又は同盟して、当該非核兵器国により実施され又は支援される場合を除き、それらの非核兵器国に対して核兵器を使用しないことを再確認する。」

  • クリントン・ブッシュ政権の政策については米国『大量破壊兵器と戦う国家戦略』を、
    先制不使用については、先制不使用問題早わかりを参照。

参考

  • 4月6日NPR発表記者会見(英文)でのゲーツ国防長官の発言
  • NPRは、イランと北朝鮮に対して、非常に強いメッセージを持っていると思う。なぜらな、それは、宣言政策に、あるいは、NPRの他の要素の中にあるからだ。基本的に、我々は、イランや北朝鮮のようなNPTを遵守していない国を切り取っている。そして、基本的に、そのカテゴリーにある国に関しては、核兵器を取得した非国家アクターも同様だが、すべてのオプションが開かれている。

    だから、イランと北朝鮮へのメッセージがここにあるとすると、それは、規則に従えば──国際社会に加われば──我々は、あなた方に対して一定の義務を負う、そしてそれはNPRで述べられているということだ。しかし、規則に従わないのなら、拡散者になるのなら、我々があなた方を扱うに当たって、すべてのオプションが開かれている。

 

「唯一の目的」宣言の可能性

米国は、通常兵器の能力を強化し、非核攻撃の抑止における核兵器の役割を低減し続ける──米国あるいはその同盟国・パートナーに対する核攻撃の抑止を米国の核兵器の唯一の目的とすることを目標として。

p.17

いずれ、核兵器を持っているすべての国が核攻撃の抑止を核兵器の唯一の目的としても安心できるように、地域的安全保障構造を強化し、化学・生物兵器をなくするための努力を続ける・・・

NATOを含めた各種安全保障体制は、米国及びその同盟国・パートナーに対する核の脅威が存在する限り、核の側面を持ち続けるが、我々は、将来核兵器の役割と数を減らすことを追求し続ける。今後、米国及び同盟国の非核能力及び対WMD能力が向上を続け、地域安全保障構造が強化され、そして、とりわけ生物化学兵器を含む他の脅威を抑制する上での進展を評価する中で、米国は、核攻撃の抑止を核兵器の唯一の目的とする政策に移行するのが賢明と言える状況に関して、同盟国・パートナーと協議する。

p.47-47

 

核廃絶の難しさ

最終的に米国その他が、国際的不安定性と安全保障欠如の悪化を招くことなくその核兵器を放棄できるようになる条件は、非常に厳しい。その中には、対立関係の国家を核兵器の取得に向かわせる可能性のある地域紛争の解決、核拡散防止の成功、主要な懸念国の計画及び能力に関する透明性の大幅な拡大、軍縮義務の違反を探知することのできる検証方法・技術、そして、このような違反を抑止するのに十分な力と信頼性を持つ施行手段などがある。明らかにこれらの条件は、今日存在していない。しかし、我々は、これらの条件を作り出すために積極的に努力することができるし、そうしなければならない。

p.48-49

 

欧州配備戦術核の維持

米国は、冷戦終焉後、その非戦略(「戦術」)核兵器を劇的に削減してきた。今日、残っているのは、ヨーロッパの限定的な数の前進配備核兵器、そして、米国内に貯蔵された少数の核兵器だけである──これらは、同盟国・パートナーに対する拡大抑止を支援するために世界各地に配備することができる。ロシアは、ずっと多くの非戦略核兵器を保有しており、その相当数が幾つかの北大西洋条約機構(NATO)諸国の領土近くに配備されていて、NATOにとって懸念材料となっている。

非戦略核兵器は、両国の非配備の核兵器と共に、将来の米ロ間削減取り決めに含むべきである。米国は、ヨーロッパにおける将来の配備に関して同盟国と協議を行う所存であり、NATOの過程においてコンセンサス決定を行うことにコミットしている。同盟国・パートナーとの協力の下に、NPRは、以下の措置を講じることを決定した。

空軍は、F-16に代えて、F-35 ジョイント・ストライク・ファイター(統合打撃戦闘機)を導入し、両用能力(通常兵器と核兵器の両方を運搬する能力)の戦闘機を維持する。

後に詳述する通り、米国はまた、B-61核爆弾の全面的な寿命延長プログラム(LEP)を実施する。これにより、F-35 での機能を保証すると共に、B-61 の信頼を維持するために確実性──安全性、セキュリティー、使用コントロール──の強化を図る。これらの決定は、同盟に対する米国のコミットメントを支えるために非戦略核兵器を前進配備する能力を維持できるよう保証する。これらの決定は、核抑止及び核共有に関するNATO内における将来の決定を先取りしようというものではなく、すべてのオプションを可能にしておくものである。

p.27-28

ヨーロッパでは、前進配備の米国の核兵器は、冷戦終焉後劇的に削減されたが、少数の米国の核兵器が残っている。北大西洋条約機構(NATO)諸国に対する核攻撃のリスクは、これまでにないほど低くなっているが、米国の核兵器の存在は、NATOのユニークな核共有取り決め──非核国が核計画作成に参加し、核兵器運搬用に特別な設計をされた航空機を保有している──は、同盟の一体感に寄与しており、また、地域的脅威に曝されていると感じている同盟国・パートナーに対して再保証を提供している。(注)NATO諸国を防衛する上での核兵器の役割は、今年、NATOの戦略概念の改訂に関連して議論される。NATOの核態勢におけるいかなる変更も、NATO内部における徹底的な検討の後に──そしてNATOによる決定によって──のみなされるべきである。

p.32

核情報注:NATO諸国はNATOとしての核戦略を決める過程に関わっており、一部の国では核戦争となれば米国の核爆弾をその航空機に搭載して核爆撃を行う体制をとっている。

参考

 

核付きトマホークの退役

米国は、核搭載海洋発射巡航ミサイル(TLAM-N)を退役させる。

このシステムは、米国の核兵器ストックにおいて重複した役割を果たしている。危機に際して核兵器を前進配備する幾つもの方法のうちの一つであった。他の方法としては、例えば、核爆弾あるいは巡航ミサイルを搭載した爆撃機の前進配備や、両用の戦闘機の前進配備がある。さらに、米国のICBMやSLBMは、どんな潜在的敵国でも攻撃することができる。TLAM-Nの抑止・保証の役割は、これらの他の方法によって十分に代替可能であり、米国は、信頼性のある拡大抑止態勢・能力を提供することにコミットし続けている。

p.28

参考

  • 大統領、TLAM/Nってなんですか? 核情報 2009年11月16日
  • 「米国戦略態勢議会委員会」最終報告書(二〇〇九年五月) p.26
  • アジアでは、拡大抑止は幾つかのロサンジェルス級攻撃潜水艦の巡航核ミサイルの配備によるところが大きい。トマホーク陸地攻撃ミサイル/核(TLAM/N)である。この能力は、これを維持する措置が講じられなければ2013年に退役となる。アジアにおける米国の同盟国は、[NATO諸国と]同じようには核計画策定に組み込まれておらず、運搬手段システムへのコミットメントをするように求められてはいない。我々の作業の中で、アジアの幾つかの米国の同盟国の一部は巡航核ミサイルが退役について非常に憂慮するだろうということが明らかになった。

 

拡大抑止の確認 アジア・中東

アジアと中東では──NATOに相当する多国間同盟構造が存在せず──米国が、主として、二国間同盟・安全保障関係を通して、また、前進配備の軍事プレゼンス及び安全保障の約束によって、拡大抑止を提供してきた。

冷戦が終わると、米国は、その前進配備の核兵器を太平洋地域から──水上艦船及び汎用潜水艦からの核兵器の除去も含め──撤去した。それ以来、米国は、中央の戦略戦力と、危機の際には、必要とあれば東アジアに非戦略核システムを配備する能力に頼ってきた。

現政権は、東アジアと中東におけるその同盟国・パートナーと、平和と安全保障をいかにして協力的に強化するのが良いかを決めるため、そして、米国の拡大抑止が信頼できるものであり、効果的であることを保証するために、戦略的対話を進めている。

p.32

 

新START交渉に向けて

2009年春に行われた戦略兵器削減可能性についてのNPRの詳細な分析の結果、米国は、ロシアが同様の削減をするとの前提に立てば、現状より相当少ない戦略核弾頭によって安定的な抑止を維持できるとの結論に達した。

・・・

分析では、4つの要件を満たすことに焦点を当てた。

保証された第2撃[報復攻撃]能力による戦略的安定性を支持すること

予期されていない技術的問題あるいは運用上の脆弱性によって必要になった場合には、一つの柱から別の柱に重点を移すことによって効果的にヘッジする能力を持てるように各柱において十分な戦力構成を維持すること

条約の下で計算対象となる非核即応地球大攻撃能力(通常弾頭のICBM及びSLBM)を追加する可能性を考慮して、必要な最小限核戦力より余裕を持たせる。

向こう数十年あるいはそれ以上の間、必要な能力を維持する。訓練を受けた十分な数の軍人及び文民要員と適切なインフラを維持することも含む。

・・・

p.20-22

 

1991年締結のSTARTTと現状

2009年12月に失効した1991年のSTARTTの下では、米ロのそれぞれの戦略的運搬手段(SDV)の数を1600に制限していた。米国は、この失効した条約の計算規則の下では、まだ1200のSDVを保有と計算されるが、配備されている戦略兵器関連の数は900以下である。残りは、基本的に「幻影」である:通常兵器のみの運搬システムで、特にB-1B爆撃機とSSGN[巡航ミサイル原潜](SSBN[戦略原潜]から、通常弾頭の海洋発射巡航ミサイル搭載用に改修されたもの)、あるいは、もう使われていないが廃棄はされていないICBM用サイロ及び重爆撃機である。

p.21

核情報注:

巡航ミサイル原子力潜水艦(SSGN)は、戦略弾道ミサイル原子力潜水艦(SSBN)を核戦力から外し、通常弾頭の海洋発射巡航ミサイルが搭載できるように変えたもの。Gはguided(誘導)を指す。クリントン政権は、1994年に18隻あった戦略原潜を14隻にし、残りの4隻を、SSGNに改修することを決定。この作業はほぼ完了と米議会調査局(CRS)の報告書(2009年2月23日)(英文pdf)が伝えている。SSGNは、1隻当たり154発の通常弾頭巡航ミサイル(トマホーク)を搭載可能。

参考

 

新START

国防長官、統合参謀本文(JCS)、それに、戦略軍司令官は、米国の配備及び非配備SDVの上限の削減を支持した。この提言の前提は、通常兵器用B-1B爆撃機及びSSGNを条約適用上の計算から外すことと、B52の一部を通常兵器用のみの能力に改修・転換する可能性を受け入れることだった。NPRの分析に従い、米ロは、新STARTの下における以下のような相互の上限に合意した。

計算対象の核弾頭の上限1550

別の上限として、配備ICBM、配備SLBM、配備核能力重爆撃機合わせて700

配備及び非配備のICBM発射装置、SLBM発射装置、及び、核能力重爆撃機合わせた上限800

新 STARTの下では、[核及び通常兵器の]両能力の爆撃機は、戦略運搬手段及び1個の核弾頭として数えられる。この計算方法が採用されたのは、重爆撃機は、どちらの側に対しても[報復能力を破壊してしまう]第一撃の脅威を意味せず、また、日常的には、核兵器を搭載している爆撃機はほとんどあるいは全くないことを考慮してのことである。(注)

・・・

全体的な技術的ヘッジの規模を相当減らしながら、米国は核弾頭の一部を「アップロード(再搭載)」する能力を維持する。将来のあらゆる──米国の運搬システムまたは弾頭の、あるいは、安全保障環境の根本的劣化の結果として生じる──問題に対する技術的ヘッジとするためである。

・・・

p.21

核情報注

この核搭載可能爆撃機は各1発搭載と計算する新ルール(実際は1機に6-20発搭載可)の計算方式を使うと、2010年初頭現在の米ロの戦略核は、それぞれ次のように減ると米国科学者連合(FAS)のハンス・クリステンセンが指摘している。

 米国 2100=>1650       ロシア 2600=>1740

SORTにおける爆撃機搭載核爆弾の数え方については次を参照。

新START条約抜粋訳・解説の「参考

 

新START後

新STARTの批准と発効後、本政権は、さらなる削減と透明性についてロシアとの議論を追求する。これは、公式な合意及び/あるいは並行的な自発的措置により追求可能である。これらの後続的削減は、これまでの二国間合意よりも範囲の広いものでなければならない。戦略的核兵器だけでなく、両国のすべての核兵器を対象とするものである。

p.30

 

戦略原子力潜水艦(SSBN)の維持 

NPRは、米国の残存可能な報復戦力を保証するためには、大西洋と太平洋の両方におけるSSBNの継続的海洋配備、それに、危機の際に追加の潜水艦を急激に増やす能力が必要だとの結論に達した。この要件を支えるため、米国は現在、14隻の核兵器能力を持ったオハイオ級SSBNを保有している。

2020年までに、オハイオ級潜水艦は、以前のどの潜水艦よりも長く就役していることになる。従って、用心深いヘッジとして、海軍は、短期的には14隻すべてのSSBNを維持する。将来の戦力構成評価により、また、残っているSSBNが今後どのように老朽化するかによって、米国は、この10年間の後半においてオハイオ級潜水艦を14隻から12隻に減らすことを検討する。この決定は、SSBNに配備された核弾頭の数に影響を与えるものではない。

海洋におけるプレゼンスを長期的に維持するためには、米国は、オハイオ級潜水艦の後継艦の開発を続けなければならない。最初のオハイオ級潜水艦退役は、2027年に予定されている。新しい潜水艦の設計、建造、試験、配備に関連したリードタイムはとりわけ長いため、国防長官は、海軍に後継艦の技術開発を始めるよう指示した。

p.22

 

ICBM 単弾頭化 

今日、米国は、ミニットマンV型ICBMを450基配備している。これらには、1から3の弾頭が搭載されている。NPRは、安定的な抑止──そして、将来の米国の戦略原潜の脆弱性の可能性に対するヘッジとして機能するために──必要なICBMの型と数を検討した。

米国は、すべての配備ICBMの単弾頭化を実施し、ミニットマンV型ICBMは、それぞれ、核弾頭を1個しか搭載しないようにする。(MIRVed弾道ミサイルは、個別誘導複数目標再突入体(MIRV)を持つ。DeMIRVingは、それぞれのミサイルを単一弾頭搭載とする。この措置は、どちらの側にとっても先に攻撃を仕掛けようとのインセンティブを減らすことになり、安定性を高める。(注)

p.23

核情報注

ただし、ミサイルの数をあまり減らさず、ミサイルから下ろされた(ダウンロード)された核弾頭を相当数廃棄しないで保存しておくので、いつでも再搭載する(アップロード)することが可能。つまり、米国は一気にミサイル搭載弾頭数を増やす能力を持つことになる。

参考

 

ICBMの2030年まで寿命延長

ICBMは、米国の核戦力態勢に相当の利点をもたらす。極めてセキュリティーの高い指揮・統制、高い即応率、比較的低い運転コストなどである。国防省は、ミニットマンVの寿命延長計画(LEP)を続ける。議会の指示に従い、このミサイルの就役を2030年まで維持するためである。後継ICBMについての決定は数年間は必要ないが、その決定に必要な情報を提供するための研究は今開始しなければならない。従って、国防省は、2011年度及び2012年度に選択肢に関する初期研究を開始する。

・・・

p.23

 

戦略爆撃機の維持

米国は現在、核兵器搭載可能な爆撃機として、B-52H爆撃機76機とB-2爆撃機18機を保有している。NPRは、空軍は核能力を持つ爆撃機を維持すると決めた。ただし、B-52Hの一部は、通常兵器のみの役割とするために改造する。

核能力を──より正確には、二重能力を──持つ爆撃機を維持するのには、二つの主要な理由がある。第一に、この能力は、トライアドの別の柱の技術的問題に対して、また、地政学的不確実性に対して、迅速かつ効果的なヘッジを提供する。第二に、核能力を持つ爆撃機は、米国の同盟国・パートナーに対する攻撃の可能性に対する拡大抑止にとって重要である。ICBMやSLBMと異なり、重爆撃機は、目に見える形で前進配備することができ、これによって、危機の際に米国の決意とコミットメントについて知らしめることができる。

米国の二重能力を持つ重爆撃機は、常時核警戒態勢に置かれるのではないため、追加的通常兵器戦力を提供することができる。重爆撃機の価値は、第二次世界大戦以来何度も実証されてきた。砂漠の嵐、コソボ、イラクの自由苦戦、不朽の自由作戦などである。国防省(DoD)は、B-2ステルス爆撃機のアップグレードを支えるために向こう5年間で10億ドル以上を投資する。これらの能力向上は、生存可能性を維持しミッションの有効性を高めるのに役立つ。

DoDは、2010年QDR(4年に1度の防衛見直し)及びNPRに続く分析において、適切な長距離攻撃能力構成を検討している。重爆撃の他、非核迅速地球大攻撃能力も含まれる。この研究は、DoDの2012年度の予算案に影響を与える。さらに、空軍は、この先10年のうちに寿命に達する現在の空中発射巡航ミサイル(ALCM)の代わりを導入すべきか、導入するとすればいかにすべきかについて2012会計年度に、情報に基づく決定が行えるように選択肢についての評価を行う。

p.24

 

警戒態勢の維持

NPRは、米国の戦略戦力の現在の警戒態勢の変更の可能性について検討した。今日、米国の核能力を持つ重爆撃機は、常時警戒態勢から外されている。ICBMは、そのほとんどすべてが警戒態勢に置かれたままになっている。そして、どの時点をとってみても、SSBNの相当数が海洋に出ている。NPRは、この態勢を維持すべきだとの結論に達した。

・・・

NPRは、ICBMの警戒態勢(アラート)率と戦略原潜の海洋遊弋率を下げることを検討したが、このようなステップは、「再アラーティング」が完了する前に攻撃しようと言うインセンティブを敵に与えることによって、危機安定性を減じることになるとの結論に達した。同時に、NPRは、重爆撃機を常時核警戒態勢に戻す必要はないとの結論に達した。3本柱(トライアド)の他の二つの柱が相当の警戒率にあるとの前提である。

もっと長期的には、NPRは、将来の警戒態勢の減少に到るかもしれない検討を始めた。例えば、ミニットマンV ICBM戦力の後継システムに関する初期的研究において、国防省は、新しい形態の配備によって、迅速発射のインセンティブを無くすか、減じる一方でこの3本柱のうちの一つの残存性を確保することができるかどうか検討する。

p.25-26


核兵器の将来の削減の達成目標を設定するとともに、「警告時間(warningtime)」び決定時間を長くするための追加的オプションについて評価し、核使用に関連した誤警報及び判断ミスのリスクをさらに低減するため、大統領の指示による新START後の軍備管理目標の検討を完成させる。

p.47

参考

 

ミサイル防衛

米国の地域的抑止及び再保証の目的への非核システムの寄与は、新STARTにおいてミサイル防衛についての制限を避けること、そして、重爆撃機あるいは長距離ミサイル・システムを通常兵器の役割に使うオプションを新STARTが除外しないようにすることによって保護することができる。

p.25

ロシアとの戦略的対話は、米国が、我が国のミサイル防衛は、そして、将来の米国のいかなる通常弾頭の長距離弾道ミサイル・システムも、新たに出現している地域的脅威に対処するためのものであり、ロシアとの戦略的バランスに影響を与えることを意図したものではないと説明することを可能にする。(注)一方、ロシアは、その近代化プログラムについて説明し、その現在の軍事ドクトリン(とりわけ核兵器をどれほど重視しているか)について明確にし、そして、その戦術核について西側にある懸念を緩和するためにとることのできる措置──その戦術核システムをロシア内の奥深くの少数のセキュリティーの確保された施設に集める作業を進めることなど──について議論できる。

p.29

核情報注: ロシアのラブロフ外相は、条約調印の2日前の4月6日、次のように述べている(ASDNews)
「米国の戦略的ミサイル迎撃能力の数的及び質的増強がロシアの戦略核戦力の有効性に重要な影響を与え始めた場合には、ロシアはSTART条約を放棄する権利を持つ」


地域的安全保障構造の強化は、核兵器の役割と数を減らす中で地域的抑止を強化する米国の戦略の重要な部分である。これらの地域的構造には、効果的なミサイル防衛、対WMD能力、通常兵力投射能力、そして統合指揮・統制など──すべて強い政治的コミットメントによって支えられている──が含まれる。目指しているのは、米軍あるいは米国の同盟国・パートナーを攻撃しようとする国々があっても、これらの国々の攻撃は鈍らされ、これらの国々の目的の達成が、強化された諸能力により阻止されるようにすること──そして、これらの国々がこの現実を理解し、このような攻撃をすると脅したり、遂行したりしないようにすることである。

・・・

効果的なミサイル防衛は、問題国に対する地域的抑止を強化するとの米国のコミットメントにとって欠かすことのできない要素である。このように米国は、このような国々に対処する核抑止を維持する一方、通常兵器及び弾道ミサイル防衛の能力を含め、米国の抑止の他の重要な要素を強化しているのである。

p.33

核情報注:ミサイル防衛は27回登場。

 

解体待ち核弾頭

今日、解体を待っている核弾頭が数千発あり、この数は、新STARTの下で一部の核兵器が軍事的保有状態から外されていくと、増えていく。我々は、解体待ち核弾頭を無くすのに10年以上かかると見ている。下に概観するような核兵器用インフラ近代化のための投資によって、米国が、責任のある形でこの解体待ち核弾頭の数を減らし続けることができるようになる。

p.38

 

核実験・新型核・核弾頭維持管理

米国は、核実験を行わず、包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准と発効を追求する。

米国は、新しい核兵器を開発しない。寿命延長プログラム(LEP)は、以前に実験された設計に基づく核構成要素のみを使い、新しい軍事ミッションを支援したり、新しい軍事的能力を提供したりしない。

米国は、核弾頭の安全性、セキュリティー、信頼性を確保するためのオプションを、議会の定めた「保有核兵器管理計画(SMP)」に従い、研究する。あらゆるLEPのアプローチが検討される。既存の核弾頭の改修、異なる核弾頭の核構成要素の再使用、そして、核構成要素の取り替えである。

核弾頭LEPのための工学的開発engineering development(核情報注)に進むいかなる決定においても、米国は、改修または再使用を優先する。核構成要素の取り替えは、SMPの重要な目的が他の方法で達成出来ない場合にのみ、そして、特別に大統領が許可し、議会が承認した場合にのみ、実施する。

p.39

注:次を参照。核兵器の開発段階とは?

参考:地中貫通型核兵器・小型核・核実験準備態勢基礎情報

 

個別の核弾頭維持管理計画──W-76、B-61、W.78

現政権は、2017会計年度での完了を目指し、潜水艦用核弾頭W-76のために継続中のLEPに対し、また、B-61爆弾の2017会計年度に生産開始を確保するべく、同核爆弾のための包括的なLEP計画及び後継活動に対し、十分な資金提供をする。

核兵器協議会(NWC)は、ICBM用核弾頭W-78のためのLEPのオプションに関する研究を2010年に開始する。同研究は、国家核安全保障局(NNSA)及び国防省と協働で実施する。この研究は、将来のすべてのLEP研究と同じく、完成した核弾頭を様々な運搬手段で使用する可能性を検討する。核弾頭の種類を減らすためである。

p.39

 

核削減と核関連施設増強

安全で、セキュリティーの確保された効果的な米国の核兵器を、核兵器が存在する限り、維持するためには、米国は、近代的な物理的インフラ──各国立安全保障関連研究所とそれを支援する施設群──と、核抑止を維持し、大統領の核安全保障アジェンダを支援するために必要な特殊なスキルを持った高度な能力の労働力を持っていなければならない。

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我が国の核兵器の長期的安全性、セキュリティー、有効性を確保し、核不拡散、核科学捜査、対テロリズム、危機管理、インテリジェンス分析、条約検証措置などを含むあらゆる種類の核安全保障作業を支援するためには、核関連インフラと高度なスキルの労働力のための投資が必要である。

このような投資によって、いずれ、技術的突発自体に対処するための大量の非配備核弾頭の維持への依存を減らすことができるようなり、これは、米国の核兵器のさらなる削減を可能とし、ゼロへの長期的な道を支援する。活性化したインフラは、また、潜在的競争者が、新しい核能力を展開することにより有利な立場を永久的に確保できると考えないようにする上で役立ち、地政学的ヘッジとして維持されている核弾頭の数を減らすのにも有効である。

p.40-41


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