2009年11月16日

大統領、TLAM/Nってなんですか?

「記者会見で大統領にこんなふうに聞いてみるといい」と提案したのは、米国「憂慮する科学者同盟(UCS)」のグレゴリー・カラキー氏。11月5日に東京で開かれた会合でのことです。2013年に退役予定のこの潜水艦発射用核付きトマホーク巡航ミサイルが日本の要請を理由に延命されようとしているからです。記者会見での実際の核関連の質問は、被爆地訪問、投下の正当性、北朝鮮情勢と核軍縮との関係などでした。大統領は将来の被爆地訪問の可能性に言及しましたが、被爆地で大統領は何を語ることになるのでしょうか。TLAM/N延命決定の報告でしょうか。

オバマ大統領の広島・長崎訪問が早期に実現した場合、現状のままでは、大統領はこんな説明をしなければならなくなります。

「核の役割を減らし、核兵器の数も減らしたいのですが、日本政府の官僚たちが、日本用の核の傘が弱体化するからとの理由で、退役間近のTLAM/Nという戦術核兵器を退役させないでくれと言っているし、生物・化学・通常兵器の攻撃に対しても核報復の脅しをかけておいて欲しいと言うし、米国の官僚たちは、日本の要求を聞き入れなければ日本が核武装しそうだと言うし、残念ながら、核兵器の役割を強化し、TLAM/Nも延命することにしました。」

もっとも、大統領自身、まだ、日米両国の官僚たちの動きを把握していないかもしれません。鳩山首相についても同じことが言えます。

オバマ大統領訪日の前日に原水禁が大統領に宛てて出した書簡は、この問題に焦点を当て、「もし、大統領が、日本を安心させる必要があるからとの名目でTLAM/Nの延命を決めれば、それは、大統領のプラハ演説を聞き、大統領が核兵器のない世界への道に向けた措置を講じつつあるとの希望を抱いた日本の、そして、世界中の人々を深く落胆させることでしょう」と述べ、鳩山首相と直接語り合うよう求めています。

広島市の秋葉市長は、被爆地訪問の可能性についてのオバマ大統領の発言を受けて、11月13日、「オバマ大統領の広島・長崎訪問ができるだけ早い時期に実現することを期待し、そのための環境を整えるよう努力したい。」コメントを発表しました。

最も重要な環境の一つは、日本の現政権が、これまでの政権の核政策との決別を明確に表明することでしょう。原水禁の書簡でも指摘されている次の二つの問題の解消のためです。

  • 1)2013年に退役予定の核付きトマホーク陸地攻撃ミサイル(TLAM/N)の延命を日本が求めているとされる問題。
  • 2)現在進行中の米国の「核態勢の見直し」の中で、核兵器の唯一の役割は、他国による核兵器の使用を抑止し、必要な場合には、これに応じることにあるとする方針をとることが検討されているが、日本の反対が理由となって、その採用が見送られようとしているとされる問題。

外務省に対し、密約問題解明の過程で、これらの問題に関連して、外務省関係者が米国に何を要請して来たのか明らかにするよう要求することが必要です。

以下、大統領の訪日の際の核問題関連発言を抜粋して貼り付けておきます。

参考




オバマ大統領の訪日時の核関連発言抜粋

●11月13日共同記者会見

冒頭発言

(9)我々は、核兵器の拡散を止め、究極的には核兵器のない世界を目指すという我々の共通のコミットメントに関して議論を行った。自分がプラハにおいてこれらの目標を追求するための包括的な議題を提示して以来、日本はこれらの取組の中で優れたパートナーであった。そして我々は共に、歴史的な安保理決議を9月に採択した。我々は現在、管理の行き届いていない核物質の安全を確保し、不拡散体制を強化する、新たな国際的なコンセンサスを構築している。

(10)そのために、我々は、北朝鮮及びイラン情勢の双方を議論し、双方が国際的な義務を果たすことが絶対的に不可欠であるということを認識した。仮に彼らがそうすれば、彼らはより良い未来に向けて扉を開くことができる。仮にそうでなければ、我々は既存の国連安保理決議の履行において団結を維持し、国際的な文脈の中で不拡散のアジェンダに向けて引き続き取り組んでいく。

オバマ大統領に対する質問

 核のない世界を標榜するオバマ大統領は、任期中できれば広島・長崎を訪れたいとの意向を示したと伝えられるが、そうした意向は持っているのか。過去日本で2発の原爆が投下されたことについての歴史的意味をどう捉え、現在もそうした選択は正しかったと考えているのか。その上で北朝鮮の核問題などの情勢を踏まえて、日米同盟強化や核軍縮で日米両国がどのような連携を図るべきと具体的に考えるか。その同盟強化に絡む普天間基地の移設問題は、いつまでに決着させるべきと考えるか。日本が更に来年に結論を持ち越したり、日米合意とは別の選択肢を選んだ場合、それを容認する考えはあるか。

オバマ大統領の答え

核兵器及び不拡散の課題は、鳩山総理と自分が首脳会談で繰り返し議論を行った分野である。自分は、我々が核のない世界というビジョンを共有していると考える。しかし、我々は、本件が遠い目標であり、我々がこの目標を達成するために当座は特定のステップを踏む必要があるという認識である。これには時間がかかる。この目標は、恐らく我々が生きているうちには達成できないであろう。しかし、この目標を追求することで、我々は核兵器の拡散を止めることができる。我々は管理の行き届いていない核兵器の安全を確保することができる。我々は、不拡散体制を強化することができる。核兵器が存在する限り、我々は米国民及びと米国の同盟国の対して引き続き抑止力を提供するが、我々は、ロシア政府と協力し、核保有量の減少に向けたステップを既に踏んでいる。そして我々は引き続き核不拡散問題に取り組んでいきたい。

 広島及び長崎の帰結によって、核兵器の問題に関して日本は明確に独自の見解を有している。そして、自分は本件が鳩山総理のこの問題に対する深い関心の動機の一助となっていると確信している。自分は将来、両市を訪問することは当然光栄なことであり、それは非常に意義深いことだと思う。自分は現時点では訪問する計画を有していないがこれは自分にとって有意義なものとなる。

 北朝鮮に関し、我々は今後平壌といかに前進を図るかということについて徹底的な議論を行った。我々は、北朝鮮による実験及び本年前半に発生したいくつかの敵対的な行為によって明白に当惑させられた。我々は我々の目標は朝鮮半島の非核化であると繰り返し述べてきた。これは、東アジア地域の安全保障にとって不可欠なものである。そして日米は、六者会合の他のパートナーと共に、北朝鮮に対し、北朝鮮の人々の利益となり、その安全を長期的に亘って高めると自分が信じる国際社会への再加入という方途や扉が存在するということを示すために引き続き取り組みを行っていく。彼らは、その扉を通り抜けなければならない。現時点では、我々は既に導入されている制裁を引き続き履行し、日本及び他の六者会合メンバーとともに我々の安全保障上のニーズと平壌がより良い方向に動くことを説得することを満たす戦略の策定に向けて引き続き緊密に連携する。

出典:日米首脳共同記者会見 官邸

●11月14日演説

しかし、私達が21世紀のこの挑戦に対処する間にも、20世紀の遺産であるセキュリティーへの脅威、すなわち核兵器がもたらす危険に対処する努力を倍加しなければなりません。

プラハにおいて、私は世界から核兵器を無くすることへのアメリカのコミットメントを確認し、この目標を追求するための包括的アジェンダを提示しました。(拍手)私は、日本がこの努力に参加したことを喜ばしく思います。地球上のいかなる二国も日米ほど核兵器の能力を知っている国々はないからであり、私達は核兵器のない未来を求めなければなりません。これは私達の共通のセキュリティーにとって根本的なことであり、私達に共通の人間性にの最大の試験です。私達の未来そのものが懸かっています。

さて、はっきり言いますが、核兵器が存在する限り、米国は韓国と日本を含む同盟国の防衛を保証する強力かつ効果的な核抑止力を維持します。(拍手)

この地域でエスカレートする核軍拡競争は、数十年間にわたり増大してきた成長と繁栄を損ねることを、私達は認識しなければなりません。このため、私達は核不拡散条約の基本的な契約、すなわち、全ての国は平和的な原子力への権利を持つ、核兵器保有国は核軍縮へと進む責任を持つ、非核兵器保有国はそれを断念する責任を持つという原則を支持するよう求められている。

実に、日本は、この道を選ぶことにより真の平和と国力を達成できるという世界に対する手本の役割を果たしています。(拍手)日本は何十年間にもわたって、核兵器開発を拒否しながらも平和的な原子力の恩恵を享受してきたし、いかなる尺度に照らしてもこのことは日本の安全を増大させ、その立場を強化してきました。

私達は、その責任を果たし、私がプラハで打ち出したアジェンダを前進させるために、この国際的努力を受容する国連安全保障理事会の決議を日本の助けを得て全会一致で承認しました。私達は、備蓄核兵器を削減するためのロシアとの新合意を追求しています。私達は、核実験禁止条約を批准し発効させるために努力します。(拍手)来年の核安全保障サミットで、私達は4年以内に世界の脆弱な核物質を全て保護管理するという目標を推進します。

さて、前に述べたように、世界的な核不拡散制度を強化することは、いかなる個別の国をも槍玉にあげるためのものではありません。それは全ての国が自国の責任を果たすためのものです。それはイラン・イスラム共和国も含みます。北朝鮮も含みます。

北朝鮮は何十年にもわたって、核兵器の追求も含めて、対決と挑発の道を選んできました。その道がどこに通じるかは自明なはずです。私達は平壌に対する制裁を強化しました。私達は、彼らの大量破壊兵器活動を規制するためのこれまでで最も広範囲にわたる国連安全保障理事会決議を採択しました。私達は脅しに屈することなく、言葉だけでなく行動を通じて明瞭なメッセージを送り続けます。それは北朝鮮の国際義務順守拒否は、安全を増すのではなく安全を損ねるだけだというメッセージです。

しかし選ぶことができる別の道があります。米国は、パートナーと提携し、直接の外交の支援を得て、北朝鮮に異なる未来を提示する用意があります。北朝鮮は、自国民の恐ろしい抑圧を悪化させてきた孤立ではなく、国際社会への統合という未来を手にすることができます。北朝鮮は極端な貧困の代わりに、貿易、投資、観光が北朝鮮国民により良い生活の機会を提供しうる経済的機会の未来を手にできます。それは増大する不安定ではなく、より大きな安全と尊敬の未来です。好戦的態度ではこの尊敬を勝ち取ることはできません。国際的義務を全面的に守ることにより国際社会に参加する国により、それは達成されなければなりません。

ですから、この未来を実現するために北朝鮮が取るべき道は明瞭です。6カ国協議に復帰し、核不拡散条約への復帰を含む従来のコミットメントを守り、朝鮮半島の全面的かつ検証可能な非核化を目指すことです。そして北朝鮮の近隣諸国との全面的な関係正常化も、拉致被害者の消息について日本の家族が全面的な説明を受ける時にのみ可能です。(拍手)これらは全て、北朝鮮政府が自国民の生活を改善し国際社会に仲間入りすることに関心があるならば、同国政府が講じることができる措置です。

出典 11月14日 大統領演説全文(大使館訳、pdf)

●オバマ大統領訪日関連リンク集

投稿者 kano : 2009年11月16日 13:35