2009年11月09日

密約調査命令と核兵器配備要請の矛盾

 岡田外相の命令で11月末を目処に日米の密約の調査が進められています。密約の一つは、核兵器を搭載した艦船の寄港を容認するというものです。ところが、現在、核搭載する唯一の艦船戦略原潜は日本に寄港しないが、日本の港をしばしば訪れる攻撃原潜用の核付きトマホークの延命を日本側が要請しており、これは、「持ち込ませない」との原則に矛盾すると米国の専門家が7日発売の『世界』12月号の記事で指摘しています。

『世界』の記事を書いたのは、デンマーク出身のハンス・クリステンセン。 「米国科学者連合 (FAS)」の「核情報プロジェクト」ディレクターで、世界各国の核配備についての権威として知られている人物です。核情報でも、彼のデータを紹介しています。(例えば「世界の核兵器 2009年」

日本と似た非核政策をとっていたデンマークでも実は核搭載機の領空飛行に関する密約があったことが1990年代に明らかになりました。『世界』の記事は、このことに触れながら、民主主義を守るためにも核についての議論を公開の形で進めなければならないと論じています。

問題の核付きトマホークは墓場行きを免れるか核トマホーク、日本の協力で?で紹介した2013年に退役予定の核弾頭型巡航ミサイル(TLAM/N)です。父親の方のブッシュが艦船から撤去して以来、陸に置かれたままのこの核兵器を復活させるよう日本が「要請」がしているというのです。

日本の要請が実現すれば、核搭載艦船の寄港を認める密約が必要になってしまいます。「密約はあったことは調査により明らかになったが、今後、核搭載艦船の寄港を認めないことにしたと発表するけれども、実際は、このような寄港を今後も認める」との新たな密約です。でなければ、日本が核搭載を要請したのだから、寄港を認めざるを得ないとして、非核三原則を2原則、あるいは、陸上配備だけを禁止する2・5原則にしようとする動きがでてくる可能性があります。

また、朝日新聞は、11月6日、「日本『核の傘』縮小を懸念 自公政権時に米に伝達と言う記事で、ハンス・クリステンセン氏によると、

「日本政府当局 者は、米国に維持してほしい核戦力を「信頼性」「柔軟性」など6項目に分類。 近代化された核弾頭、原子力潜水艦、B52爆撃機などを具体例として列挙した 書面を提示したという。

 諮問委員会が最終報告書の巻末に記した協議先リストの中では、日本政府の当局者として在米大使館の公使ら4人の名前が挙がっている。」

と報じました。(詳細は、『世界』の記事を参照。)

今回の密約調査と合わせ、日本側がどのような要請をしてきたのかを明らかにすることが重要です。そして、鳩山政権が非核三原則を堅持しようとするのなら、「持ち込ませない」の原則や密約解明の趣旨と矛盾する核付きトマホークの寿命延長、攻撃原潜への再配備などは要請しないとオバマ政権に明確に伝えなければなりません。

下に、世界12月号の紹介文と岡田外相の密約調査命令のコピーを載せておきます。

世界12月号の紹介から

新たな密約へ? 日本の核の秘密

―過去の密約の検証、継続する秘密主義の解明・解消に向けて―

ハンス・クリステンセン 田窪雅文=訳・解説

 岡田外相は、就任翌日の9月17日、密約問題が「外交に対する国民の不信感を高めている」として11月末を目処に問題を調査・報告するよう外務省に命じた。

 4つの密約のうち2つが、核搭載艦船の通航・寄港の容認と有事の際の沖縄への再持ち込みに関連するものだ。1992年以来、米海軍の水上艦船・攻撃原潜には核は搭載されておらず、戦略原潜は日本に寄港しないから寄港問題はなくなっている。筆者は、太平洋の核配備状況を詳説し、在日米軍基地に核を持ち込む必要も米軍側にはないと説明する。

 しかし、核付きトマホークを日本に頻繁に寄港する攻撃原潜に載せるよう日本側が要請していると米議会報告書が示唆している。密約は過去のものではない、その土壌はなくなっていないのだ。外相は、「持ち込ませない」の原則の放棄か新たな密約化を必然化するこの秘密要請についても、調査を命じるべきだ。

いわゆる「密約」問題に関する調査チームの立ち上げ 外務省から

平成21年9月16日

外務事務次官 薮中三十二殿

いわゆる「密約」問題に関する調査命令について

 外交は国民の理解と信頼なくして成り立たない。しかるに、いわゆる「密約」の問題は、外交に対する国民の不信感を高めている。今回の政権交代を機に、「密約」をめぐる過去の事実を徹底的に明らかにし、国民の理解と信頼に基づく外交を実現する必要がある。

 そこで、国家行政組織法第10条及び第14条第2項に基づく大臣命令により、下記4点の「密約」について、外務省内に存在する原資料を調査し、本年11月末を目処に、その調査結果を報告することを求める。

 なお、作業の進捗状況は随時報告し、必要に応じて指示を仰ぐよう併せて求める。

 一 1960年1月の安保条約改定時の、核持ち込みに関する「密約」

 二 同じく、朝鮮半島有事の際の戦闘作戦行動に関する「密約」

 三 1972年の沖縄返還時の、有事の際の核持ち込みに関する「密約」

 四 同じく、原状回復補償費の肩代わりに関する「密約」

外務大臣 岡田 克也

(核情報注:組閣が16日夜、組閣記者会見で岡田外相の順番が回ってきたのは12時を過ぎていたというようなタイミングのため、日付に矛盾がある。

参考

投稿者 kano : 2009年11月09日 18:05