核情報

2017.10.31〜

非核三原則──持ち込ませずについての議論が必要?

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石破茂元防衛相が9月6日のテレビ朝日の番組で、米国の核の傘で守ってもらいながら「持たず、つくらず、持ち込ませず、議論もせず」でいいのかと発言して論議を呼んでいます。これでは抑止力が弱まりはしないか、という問いかけです。一方、日本に対する核以外の攻撃に対しても核で報復するオプションを米国が維持することを望んできた日本が「持ち込ませず」と言うのは勝手すぎないか、とも問えます。日本は米国が「核を先には使わない」という「先制不使用政策」をとることに反対しているのです。

米国は日本の核武装を防ぐために先制不使用宣言をあきらめた

オバマ政権が2009年と16年に「先制不使用政策」の採用を検討しながらこれを見送った主要な理由の一つが日本でした。16年には日本が不安を感じて核武装するかもしれないという懸念をジョン・ケリー国務長官が表明したと報じられました。先制不使用策採用を支持し日本自身の核依存度を減らす形で「持ち込むな」と言いやすくするのか。持ち込みを容認してすっきりさせるのか。ここで議論の前提となる要点をいくつか整理してみましょう。

「持ち込ませず」を巡る議論の前提整理

1)実は非核2.5原則──寄港密約

日本側の「持ち込み」の概念には、寄港・通過と配備が含まれる。米国側は事前協議の対象となるイントロダクション(導入=配備)には、寄港・通過は入らないと解釈。日本はこの定義の違いを理解しながら、事前協議要請がないのは寄港がないということだとの論法を使い続けた。民主党政権の岡田克也外相が委託した有識者委員会(座長:北岡伸一東京大学教授)は2011年3月「暗黙の合意による広義の密約があった」と結論づけた。安倍晋三首相も14年1月31日の衆院予算委員会で、寄港・通過の「密約」について「ずっと国民に示さずにきたのは間違いだった」述べている。

2)実は非核2原則?──沖縄再配備密約

有事の際の沖縄への再持ち込み合意の「密約」があったことを、1969年11月19日の佐藤・ニクソン「合意議事録」が示している。2009年12月に佐藤栄作元首相邸で存在が確認されたものだ(読売新聞報道)。米側が「日本を含む極東諸国防衛のため、重大な緊急事態が生じた際は、日本と事前協議を行ったうえで」沖縄への再持ち込みと通過の権利の承諾を必要とするとし、日本側は「そうした事前協議があれば、遅滞なくその要求に応える」と記されている。

有識者委は、この件は引き継ぎがされておらず密約と言い切れないとの結論を下した。だが、これらの二つの「密約」は今も米国側では活きていると見られている、と分析する日米の専門家が少なくない。石破発言の後、非核三原則を堅持すると主張した日本政府は二つの密約について米国と破棄の確認をすべきだ。

3)めざすは戦略原潜の寄港と日本母港化?

1992年以来、米海軍の水上艦船・攻撃原潜には核は搭載されていない。1991年9月27日、ブッシュ(父)大統領が一方的核削減措置の一環として、これらの艦船から核兵器を撤退すると宣言した。続くクリントン政権が水上艦船の非核化を決定する。最後まで作業の残っていた海上発射の核付きトマホーク巡航ミサイルの弾頭の解体が2012年に終了した。 残っている艦船用核兵器は戦略原子力潜水艦搭載の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)だけだ。戦略原潜は、特別な示威行為以外は寄港を必要としない。2003年以降、米国外の寄港例は3回だけだ。石破発言の後、「日本の安全保障政策に携わる関係者の1人は、非核三原則を見直し、核兵器を搭載した米軍の原子力潜水艦を日本に配備すれば済むと指摘」した(ロイター:9月6日)という。まさか戦略原潜の日本母港化要請ではあるまい。

4)海外配備は欧州配備の航空機用核爆弾のみ

地上発射の戦術核は、上述の一方的削減措置により全面的に撤去され、解体された(地対空用の核弾頭及び核地雷はすでに配備から外されていた)。現存の戦術核はB61型核爆弾約300発しかない。実際に配備されているのは欧州5カ国(ベルギー、ドイツ、イタリア、オランダ、トルコ)の6基地にある約150発だけだ。

5)欧州核のような核共有の検討?

石破元防衛相は核共有の検討が必要とも述べている(テレビ朝日9月7日)。上記5ヵ国に配備された核は、いざとなればトルコを除いて受入国のパイロットがそれぞれの国の「2重目的機」(通常兵器・核兵器のどちらでも搭載可能)に載せて爆撃任務を遂行する計画だ。通常は米国側の管理下に置かれ、米国大統領の使用許可があって初めて、受入国の航空機に搭載される。一方、受入国が欧州配備の核兵器の使用に関する協議に参加できる仕組みになっていて、受入国側にも拒否権が存在する。防衛相の望みはB61型核爆弾の配備と使用の拒否権か?

6)再配備の必要性は?

日本の外交官は2009年、上述のトマホーク用弾頭の維持を求めた。このとき、米科学者連合(FAS)の核問題専門家ハンス・クリステンセンはこう指摘した。「日本への配備に頼らない広範な核能力から言って、核の傘が日本に核兵器を再導入するオプションの維持を必要とするという一部の政府関係者の主張は、根拠が薄弱だ」(『世界』09年12月号 岩波書店)。戦略原潜のSLBMや、米本土のミニットマン3大陸間弾道弾(ICBM)、戦略爆撃機(一部はグアムに前方展開)があり、場合によってはノース・カロライナ州の基地に配備されている戦闘爆撃機も使えるからだ。最近の韓国への再配備論についても「軍部は必要性を感じていない」と述べている。戦略爆撃機の日本配備はどうか? 「これらの爆撃機はすでにグアムに配備されており、中国や北朝鮮からのミサイル攻撃にさらされやすい日本に置く必要はない」(核情報へのメール:17年3月19日)。

参考:

冒頭導入部

米国は日本核武装を防ぐために先制不使用宣言をあきらめた

1)実は非核2.5原則──寄港密約

  • 密約調査命令と核兵器配備要請の矛盾
  • 非核三原則・非核2.5原則
  • 〇非核三原則

    「核は持たず、作らず、持ち込まさず」という原則。1967年12月11日に佐藤総理大臣が国会で表明。

    1967年12月11日衆院予算委員会

    核の脅威にどう対処するのかという松野頼三議員の問いに対して:

    「核は保有しない、核は製造もしない、核を持ち込まないというこの核に対する三原則・・・のもとにおいて日本の安全はどうしたらいいのか、・・・私はジョンソン大統領とこの前一九六五年に会ったときも、また今回会ったときも、日米安全保障条約というものは日本が受けるいかなる攻撃に対しても守ることができるのか、言いかえるならば、核攻撃に対してもこれはやはり役立つのかと、こういうことを実は申しております。ジョンソン大統領は、明らかにあらゆる攻撃から日本を守りますと、かように申しております。」

  • 〇非核三原則国会決議

    非核三原則は、1971年以後の国会決議で国是として確認されている。

    非核三原則に関する国会決議

  • 〇非核2.5原則

    川口順子外相の私的諮問機関「外交政策評価パネル」(座長・北岡伸一東大教授)は、2003年9月18日に提出した報告書の中で

    北朝鮮が核兵器開発を本格化したとき、日本を守る抑止力を、どの程度制限するかは大問題。国民の良識を信頼して、実は(一時寄港は認める)2.5原則だったというべきではないか

    と述べている。

  • いわゆる「密約」問題に関する調査結果 外務省

2)実は非核2原則?──沖縄再配備密約

3)めざすは戦略原潜の寄港と日本母港化?

4)海外配備は欧州配備の航空機用核爆弾のみ

5)欧州核のような核共有の検討?

  • ずさんな保安体制の欧州配備の米国戦術核兵器──NPTにも違反 核情報 2008.6.26

    *現在は欧州配備のB61型核爆弾は約150発に。

    ハンス・クリステンセンのStatus of World Nuclear Forcesの表(現在最新更新2017年7月8日)参照。.

    注hは、現在欧州5カ国6基地の配備数は約150発としている。

    注iは、非配備の予備2200発は、戦略核2050発と非戦略核150発が含まれると推定されるとしている。この150発がB61型爆弾。B61型戦術爆弾(B61-3, -4, -10)の数は、配備中・予備合わせて、300発ということ。

6)再配備の必要性は?

追補 日本核武装論の利用


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