1月11日、オバマ政権のバイデン副大統領が、カーネギー平和財団での演説で、以前から退役が予定されていた核弾頭に加えて約500発を昨年中に一方的に退役させたと発表するとともに、「核攻撃を抑止すること――そして、必要とあれば報復すること――を米国の核兵器の唯一の目的(役割)とすべきであると確信している」と述べました。同日、ホワイトハウスは2009年プラハ演説後の核状況に関するファクトシートを発表しました。
参考
- なぜ、いま核の先制不使用宣言か No.2 2016年10月
- 核兵器禁止条約と先制不使用とどっちが大事? 2016. 9. 5
- トランプの指を発射ボタンに触らせるな:核ミサイルを一触即発の警戒態勢から外せ 2017. 1. 13
- 核のない世界と一触即発の核ミサイル発射態勢解除──日本に協力求める米団体 2014.10.27
- 冷戦後の偶発核戦争特集
下の表はこれを受けて、米科学者連合(FAS)」のハンス・クリステンセンが同団体のサイトで更新した世界の核兵器数の推定です。米国の予備も含めた保有核は2016年9月末現在で4018発、前年9月末の4571発と比べると553発減っています。昨年9月以後さらに削減が進んで現在約4000発との推定です。(これに約2800発の解体待ち弾頭を加えた合計6800発が米国の総数となります。この他に核兵器のプルトニウムの芯の部分「ピット」2万個以上がテキサス州パンテックスの核弾頭組立・分解施設で保管されています。)
国名 | 戦略核 | 戦術核 | 予備/非配備 | 保有核 | 総数 |
---|---|---|---|---|---|
ロシア | 1790 | 0 | 2700 | 4490 | 7000 |
米国 | 1590 | 150 | 2260 | 4000 | 6800 |
フランス | 280 | ─ | 10 | 300 | 300 |
中国 | 0 | ─ | 260 | 260 | 260 |
英国 | 120 | ─ | 95 | 215 | 215 |
イスラエル | 0 | ─ | 80 | 80 | 80 |
パキスタン | 0 | ─ | 120 -130 | 120 -130 | 120 -130 |
インド | 0 | ─ | 110 -120 | 110 -120 | 110 -120 |
北朝鮮 | 0 | ─ | ? | ? | ? |
合計(概数) | 3700 | 150 | 5645 | 9585 | 14900 |
Status of World Nuclear Forces(2017年1月11日バイデン副大統領演説後に更新)
クリステンセンは、右のグラフを使って、オバマ政権での削減は今回の発表分を入れてもわずかな下降線としてしか見られず、冷戦後の政権の中で最も小さいと指摘します。削減数を絶対数で見ると、ブッシュ(父)9497発、クリントン3182発、ブッシュ(子)5304発、オバマ1255発。前政権から引き継いだ総数に対する削減の割合で見ても、それぞれ 43%、23%、50%、24%という具合です。共和党の牛耳る議会やロシアのプーチン政権の影響に左右されるところが大きいとはいえ残念な結果です。しかも削減は予備用と推測されます。「憂慮する科学者同盟(UCS)」は、今回の削減は歓迎するとしながらも、同団体が要求してきたのは、配備核兵器 500発、予備 1300発(戦略核 1000発、戦術核 300発)の削減であったことに触れています。(Biden Announces Reduction in US Nuclear Stockpile, Expresses Support for No-First-Use Policy)
オバマ政権は核兵器の役割を敵による核攻撃の抑止に限り、先には核を使わないとの先制不使用宣言をすることを検討したが、日本を含む同盟国の反対などを理由に宣言を見合わせたと報じられています。バイデン副大統領の次の発言は日本が賛成していれば結果は違っていたかもしれないことを覗わせます。
米国の計画における「攻撃下発射」手順(敵核ミサイルの発射確認後、着弾を待たずに報復用ミサイルを発射すること)への依拠を減らすようにとのオバマ大統領の指示の一環として、国防省は、わが国の計画・プロセスの調整を行ってきた。核攻撃の様々なシナリオにいかに対応するかを決める上で大統領に以前より大きな柔軟性を提供するためである。
私たちは、2010年の「核態勢の見直し」において、核兵器の唯一の目的が他国による核攻撃の抑止となるような条件を作り出すことを約束した。これに従い、我が政権の期間中、私たちは、第二次世界大戦以来我が国の安全保障政策において核兵器が持ってきた重要性を着実に減らしてきた――いかなる敵も核兵器に頼ることなく抑止し打ち負かすための我が国の能力を改善し、同盟国にそのことについて安心してもらうようにしながら。
我が国の核兵器以外の能力、それに今日の脅威の性格を考えれば、米国による核兵器の先制使用が必要となる――あるいはそれが意味を成す――信憑性のあるシナリオを想像するのは難しい。オバマ大統領と私は、核以外の脅威は、核以外の方法で抑止し、わが国及び同盟国を守ることができると確信している。
次の政権は、その政策を提示することになる。しかし、「核態勢の見直し」の指示から7年、大統領と私は、これまでに目標達成に向けて十分な進歩を遂げており、核攻撃を抑止すること――そして、必要とあれば報復すること――を米国の核兵器の唯一の目的(役割)とすべきであると確信している。
出典:予稿(Remarks by the Vice President on Nuclear Security,Washington, DC,Wednesday, January 11, 2017)、動画