核情報

2017.10.17〜

もんじゅで突然出現、核兵器30発分の謎
──2011年からのミスを改めるのに去年国際的定義が変わったからと「説明」

原子力委員会事務局が8月1日に発表した『我が国のプルトニウムの管理状況』(pdf)(2016年末現在)で、高速増殖原型炉もんじゅ敷地内に存在するプルトニウムの量が前年と比べ251㎏増えました。2010年8月に装荷されながら、その直後の8月26日に起きた燃料交換用の炉内中継装置落下事故のために未照射のままになっていた燃料中のプルトニウムです。11年発表の『管理状況』(10年末の状況)で保有プルトニウムとして報告しておくべきだったのに、炉内にあるからと保有データから消してしまうミスを犯していたのです。今6年後の発表で「出現」した理由について、事務局は、日本を含む9ヵ国が1997年に策定した「『プルトニウム国際管理指針』改定に伴う定義の変更」のためだと説明をしていますが、「指針」の策定に関わった米国側代表は、元々定義は炉内にあっても未照射のものは当然保有プルトニウムとして報告するというものだったと述べています。

参考

以下、今回の事態の背景を概観した後、原子力委事務局の保有プルトニウム・データの扱い方の問題点と、その間違いを認めようとしない姿勢について、文書を見ながら検討してみましょう。そこから、再処理政策の失敗を認めず、核兵器利用可能物質の蓄積を正当化し続ける官僚機構の本質が浮かび上がってきます。

  1. もんじゅの251㎏のプルトニウム出現問題背景概観
    1. 玄海3号炉プルトニウム報告ミス報道(2014年6月)
    2. 16年、高浜3号炉の未照射MOXに関し正しい報告するも、もんじゅの251㎏を見過ごす
    3. もんじゅの251㎏を登場させるための言い訳「定義の変更」──すでに変更されていたことを忘れた?
    4. あったかなかったか分からない会話?
    5. 阿部委員長代理、再処理正当化の論理の確認──「そこまではまだ検討していない」と事務局
  2. 原子力委員会事務局の無謬性の検証──『管理状況』と委員会会合議事録から
    1. 原子炉に装荷したMOX燃料のプルトニウムは照射してもしなくても保有量から消してOK?
    2. 2015年12月に高浜3号機に装荷されたMOX燃料の扱いをどうする?
    3. いまになってもんじゅの炉内未照射燃料を保有量に含めるための言い訳――「プルトニウム国際管理指針」改定
    4. 2016年にすでに「我が国の定義」を変更
    5. 15年までの勝手な「定義」
    6. 「プルトニウム管理指針」の共通文書に日本の「定義」が入りこむ余地はない
    7. なぜ今になって「改訂」か?
    8. 「改訂」の必要などないと米国交渉者
  3. 議事録抜粋

もんじゅの251㎏のプルトニウム出現問題背景概観


玄海3号炉プルトニウム報告ミス報道(2014年6月)

2012年9月に発表された『管理状況』(11年末現在)(pdf)における同様のミスを14年5月末に核情報が「発見」した際、同委事務局は問題を認めようとしませんでした。このときの問題は、11年3月に玄海3号炉に装荷された「ウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)」に含まれていた640㎏を保有量データから消してしまっていたというものです。同炉は3・11の影響で運転が再開されず燃料は照射されていませんでした。核分裂生成物(死の灰)が生じていないので、簡単にプルトニウムを取り出すことができる状態だったのです。当然、プルトニウム保有量として報告すべきものです。ところが、「プルトニウム管理指針」に基づき国際原子力機関(IAEA)を通じて共通の書式で公表する「報告」でも12年、13年にその間違った数字を使いました。

この問題について共同通信が報じた(政府、意図的な過小報告でないと共同通信に──報告から消えた640kgのプルトニウム)直後の原子力委員会の会合(14年6月10日)で同委事務局は、炉に入れただけで保有量から消してしまうこの報告方法には問題はなかったと説明しました。なぜなら、『管理状況』の「国内に保管中の分離プルトニウム」の定義は、「再処理施設で分離されてから原子炉に装荷されるまでの状態のプルトニウム」となっているからだというのです。日本のプルトニウム保有量を国内外に発表する際に、そんな勝手な定義をすること自体が問題だという点が理解できないようでした。

この時に即座にそれまでの報告の仕方の間違いを認めてデータを見直し、もんじゅのプルトニウム251㎏の扱いの間違いも訂正して保有量に移しておくべきだったのです。しかし、事務局は、14年9月の『管理状況』(13年末の状況)発表まで何もせず、この発表で、13年3月に炉から取り出されていた玄海の640㎏を保有量として復活させただけでした。

16年、高浜3号炉の未照射MOXに関し正しい報告するも、もんじゅの251㎏を見過ごす

2016年7月27日発表の『管理状況』(pdf)(15年末現在)では、前年12月に高浜3号に装荷されながら、16年1月まで未照射のままだったMOX燃料に入っていた721㎏を保有量として報告しています。分離プルトニウムの定義をさらりと変えて「原子炉又はその他の場所での未照射MOX燃料」を含むとしました。「定義」を変えて正しい報告をしたということは、実質的に以前の間違いを認めたことになりますが、事務局はそうは言いません。いずれにしても、この時にもんじゅの251㎏を「分離プルトニウム」に入れて報告すべきだったのは明らかですが、事務局はこれを見過ごしたようです。もんじゅでの保管量は前年の報告の時の31㎏のままにされました。

もんじゅの251㎏を登場させるための言い訳「定義の変更」──すでに変更されていたことを忘れた?

それで、今年の報告でいよいよ251㎏を登場させてもんじゅでの保管量を282㎏とするに当たり、IAEAの定義が変更されたので「我が国の定義」も変更したためという無理筋の理由をとってつけたように持ち出したということのようです。上に見たように日本の「定義」は昨年すでに変更されていたことを忘れたとでもいうのでしょうか。言い訳の繰り返しは恥の上塗りとなっていることにも気づかないのでしょうか。

この頑なに間違いを認めようとしない姿勢は、官僚機構から出てくる再処理政策の正当化の理由を読む際に忘れてはならないものです。

あったかなかったか分からない会話?

以上の背景からすると2016年9月にあったという「改訂」を巡る会話はこんな感じだったのでしょうか。

2016年9月ウィーン

A国 「玄海のはまずいよ、今回の高浜ので正解だよ、ほかは大丈夫?」

日本側A 「やっぱ、そうだよね。じゃあ、うちとしては今後はIAEAに送る文書で『(炉内に装荷されながら未照射のままのプルトニウムを含む)』ってのを挿入するね。玄海の時に間違ってたって言うのはいやだもん。」

*日本側B 「あ、やばい。もんじゅにも炉に入れたままのがあった!」(行きの飛行機の中か帰りの飛行機の中か?)

2017年夏

事務局C 「もんじゅの奴、指針の改定があったから日本の定義も変えたってことにして表に出そうか?」

事務局D 「だけど、日本の定義は去年変えちゃってるよ。いいの?それで?」

事務局C 「大丈夫だよ。去年変えてたなんて誰も気が付きゃしないよ。」

事務局D 「そりゃそうだね。まあ、今年はうるさい阿部委員長代理もデータ発表の会議に出ないし、いいか。」

正式な「改訂」があったのなら、事務局は改訂に至った経緯を説明し、各国との話し合いの場で「玄海の報告の仕方は正しかった」と確認されたのかどうかを明確にするとともに、改訂合意の文書を公開すべきでしょう。そして、改訂にある「(炉内に装荷されながら未照射のままのプルトニウムを含む)」という文言を使っていない国々に抗議するのかどうかも知りたいところです。

阿部委員長代理、再処理正当化の論理の確認──「そこまではまだ検討していない」と事務局

阿部信泰委員長代理:6ページ、最後の段落のひとつ前の段落、最後に「長期的に、日本のプルトニウム保有量の削減という目標が達成されるであろうと認識している」と。ここは非常に重要な文章で、原子力委員会としては減っていくと、こういう認識であると、こういうことですね。川渕さん、この長期的にって、どのぐらいの期間を考えられておられるんですか?

事務局(川渕英雄企画官):えーっと、まあ非常に難しいところでありますけれども(笑い)、あの、えー、まあ、あの、そこまではまだ検討はしていないということ。

事務局(?):軽水炉の再稼働がどれぐらいのスパンで動き出すかというところがかかわってくる話だとは思いますけども、やはり10、20、そういう単位だと思っております。

出典:第34回原子力委員会定例会議 2017年10月3日 音声(議事録が掲載されるまで配信) ( 上記引用部分は 01:44:50 ⇒ 01:45:54 )

*阿部委員の言及している該当部分(「日本のプルトニウム利用について【解説】(案)」について(pdf) 平成29年10月原子力委員会 より)

……

以上のことから、プルトニウムが溜まり続けることはなく、六ケ所再処理工場等の操業・加工に伴うある程度の増減はあるものの、一定のバランスの下で管理することが可能であると考えられ、長期的に、日本のプルトニウム保有量の削減という目標が達成されるであろうと認識している。

引き続き、国(原子力委員会)が関与して、原子力事業者のプルトニウムの需要や利用実態等を正確に把握するとともに、その妥当性を確認し、使用される予定のプルトニウム量を勘案することとする現在の仕組みの下で、適切なプルトニウム・バランスをしっかり確保していく方針である。

原子力委員会事務局の無謬性の検証──『管理状況』と委員会会合議事録から


原子炉に装荷したMOX燃料のプルトニウムは照射してもしなくても保有量から消してOK?

2014年6月10日の事務局の説明は、640㎏は炉内に装荷したプルトニウムとして分類しているから消えてはいない、問題ないとの趣旨でした。「原子力委員会への報告としましては保管プルトニウムではなく・・・炉内に存在する量としてここで御報告をしたということでございます」。炉に装荷した後実際に照射されたものと、照射されていないものを混ぜてしまっている分類でいいとの見解です。IAEAを通じて国際的に発表する「保有量」から640㎏が何の説明もなく消えてしまっているのも問題ないと言います。『管理状況』で「国内に保管中の分離プルトニウム」とは、「再処理施設で分離されてから原子炉に装荷されるまでの状態のプルトニウムを指」すと定義しているから問題ないという主張です。IAEAに送る「報告」にはそんな説明はありません。該当部分には「原子炉又はその他の場所での未照射MOX燃料又はその他加工製品に含まれるプルトニウム」とあるだけです。未照射の640㎏は当然ここに入れなければならないものです。

また、英文でも発表される『管理状況』に記されている原子力委事務局の勝手な「定義」は、契約書に入っている細字の不利な条項のようなもので、ほとんどの人は読みません。各種情報を総合すると、原子力委員会のほとんどの人も(委員も事務局員も)理解していなかったようです。読む側は、未照射プルトニウムはどこにあろうと保有プルトニウムとして報告されるだろうと当然の期待をします。

この時点では問題の640㎏はすでに使用済み燃料プールで保管されていました。2013年3月に炉から取り出されたのです。阿部信泰原子力委員会委員長代理は、事情を早く国際的に説明するよう事務局に促しました。しかし、事務局はこの助言を受け入れず、14年9月の『我が国のプルトニウムの管理状況』(pdf)(13年末現在)(以下、『管理状況』)発表まで事態を放置しました。そしてこの14年版『管理状況』で、640㎏が13年末の保有量として突如顔を出すことになります。事務局は、12年版報告の仕方の間違いを国際的に説明しなくても、これで乗り切れたと考えたようです。

2015年12月に高浜3号機に装荷されたMOX燃料の扱いをどうする?

ところが、2016年7月27日発表の『管理状況』(pdf)(15年末現在)では、前年12月に高浜3号に装荷されながら、16年1月まで未照射のままだった721㎏をどう扱うかという問題が浮上しました。核情報は、2014年6月以降、マスコミ関係者との会合・面談で、ある年の12月31日にMOX燃料が装荷され、翌年に炉の稼働が再開された場合、このMOX燃料をデータからその年末の保有量から消すのかという問題だと説明していました。

16年版「『管理状況』では、721㎏を保有量から差し引かず、正しい形で報告しました。下に示す通り、「原子炉施設で保管されている新燃料製品等」の「実用原子炉」の項の数字が前年と同じ2051㎏となっています。

2016年版『管理状況』(pdf) 4ページ

プルトニウムの量

(注4)に次の説明があります。

平成27年(2015年)12月に未照射MOX燃料が原子炉内に装荷されたが、平成27年末時点では未照射(平成28年1月に原子炉起動)であることから、当該未照射MOX燃料中の分離プルトニウム 720kg(うち、核分裂性プルトニウム 467kg)を含めている

さらに同日の会合での事務局説明ではこの「原子炉施設等」全体に関し次のように述べています。

ここでは、JAEAの常陽、もんじゅ、それから、実用発電炉において新燃料として保管されているもの。これについては、原子炉内に装荷された未照射のMOX燃料や、未照射のまま原子炉内から取り出されたMOX燃料というものを含んでおります。それから、大学・研究機関の研究開発施設において研究用に保管されているプルトニウムや、臨界実験装置用の燃料というものも含まれております。今回、平成27年中ですけれども、原子炉内にMOX燃料を装荷し照射したというものはございませんでした。

これは、結果的に2012年の発表の際の間違いを認めたものです。阿部委員長代理は会合(pdf)で以前の「統計上の誤操作」に言及しています

ところが、このとき、どういうわけか、2010年8月に高速増殖炉もんじゅの炉内に装荷されながら、その直後の8月26日に起きた燃料交換用の炉内中継装置落下事故のために、未照射のままになっていた251㎏について報告に入れ損なってしまいました。上記項目のもんじゅの部分は10年末分以降、ずっと31㎏となっています。

いまになってもんじゅの炉内未照射燃料を保有量に含めるための言い訳──「プルトニウム国際管理指針」改定

さて、このミスをどうするか。今年8月1日発表の『管理状況』(pdf)で、もんじゅのこの251㎏を保有量に含めることにしました。そして、今回の変更の理由として、2016年9月に「プルトニウム国際管理指針」改定があったためという説明を付けました。

しかし、そうでしょうか。上述の2016年7月に15年末の状況について報告した際の説明をもう一度見てみましょう。「常陽、もんじゅ、それから、実用発電炉において新燃料として保管されているもの。これについては、原子炉内に装荷された未照射のMOX燃料……を含んでおります」と言っています。ですから、当然、このときに251㎏を保有量として表に出すべきでした。もちろん、以前の報告の仕方が間違っていたと認めることが前提となります。

ところが、忘れてしまっていたためかどうかは別として、2016年版でなく17年版『管理状況』で251㎏を登場させることになってしまった原子力委員会事務局は、「国際管理指針の改定」があったから報告方式の変更が必要になり、それに伴って「我が国の定義」も変更したと説明しています。

2017年版『管理状況』(pdf)(16年末現在)の関連部分を見てみましょう。

6ページ

(注4) IAEA「プルトニウム国際管理指針」において報告対象となるプルトニウムの見直し(平成28年9月)を受け、平成28年分の報告において、平成22年8月もんじゅの炉内に装荷した未照射の燃料体(251kgPu)の保管プルトニウム(未照射分離プルトニウム)を計上した。なお、「平成28年末までに炉内に装荷された未照射分離プルトニウム総量-炉外へ取り出した照射済みプルトニウム総量」には、この燃料体に含まれるプルトニウムが計上されている 。

10ページ (プルトニウム国際管理指針に基づきIAEAを通じて公表する平成28年末における我が国のプルトニウム保有量

3. 原子炉又はその他の場所での未照射MOX燃料(炉内に装荷された照射前を含む)又はその他加工製品に含まれる未照射プルトニウム

12ページ

「プルトニウム国際管理指針」改定に伴う定義の変更】

平成28年9月に、IAEA「プルトニウム国際管理指針」のANNEX B(民生未照射プルトニウム保有量)の項目3.の記述を明確化する目的で「原子炉又はその他の場所での未照射MOX燃料(炉内に装荷された照射前を含む)又はその他加工製品に含まれる未照射プルトニウム(注:下線部を追記)」に変更なされたことに伴い、参考4「プルトニウム国際管理指針に基づきIAEAを通じて公表する平成28年末における我が国のプルトニウム保有量」の民生未照射プルトニウム保有量の項目3.の記載を同様に変更した

また、我が国の定義について「国内に保管中の分離プルトニウム」とは、「再処理施設で分離されてから原子炉に装荷し照射されるまでの未照射分離プルトニウム(注:下線部を変更)」に変更する

2016年にすでに「我が国の定義」を変更

ところが、実は、前述のようにすでに2016年版『管理状況』(pdf)で、それまでの日本の勝手な「定義」を「原子炉内に装荷された未照射の混合酸化物(MOX)燃料」も含むと改正していたのです。

2016年版『管理状況』(pdf)

2ページ

「国内に保管中の分離プルトニウム」(【別紙】1.(1))とは、再処理施設で分離されてから原子炉に装荷及び照射されるまでの状態の未照射分離プルトニウムを指し、次のものが含まれる。

……

③ 原子炉施設等:常陽、もんじゅ及び実用発電炉において新燃料として保管されているもの(原子炉内に装荷された未照射の混合酸化物(MOX)燃料、未照射のまま原子炉内から取り出されたMOX燃料を含む)、大学・研究機関の研究開発施設において研究用に保管されているプルトニウム及び臨界実験装置用燃料。

「装荷及び照射」という表現があいまいですが、③の説明は正しい常識的定義に変更されていました。当然、もんじゅの251kgもこのときに③に入れて報告しなければならないものでした。

15年までの勝手な「定義」

これと比べ、2015年版『我が国のプルトニウムの管理状況』(pdf)(14年末現在)では次のように「定義」していました。

「国内に保管中の分離プルトニウム」(別紙 1.(1))とは、再処理施設で分離されてから原子炉に装荷されるまでの状態のプルトニウムを指し、次のものが含まれる。

……

③ 原子炉施設等:常陽、もんじゅ及び実用発電炉において新燃料として保管されているもの(未照射のまま原子炉内から取り出されたMOX燃料を含む)、大学・研究機関の研究開発施設において研究用に保管されているプルトニウム及び臨界実験装置用燃料。

この定義のために、新燃料として炉外に保管されているものだけを保有量とし、炉に入れたMOX燃料は未照射のままのものも、「国内に保管中の分離プルトニウム」には入らず、国内外に発表する「保有量」から消えてしまっていたわけです。そして、こう「定義」しているのだから問題ないというのが2014年6月の事務局の説明でした。「プルトニウム管理指針」に基づく共通の書式による発表ではこのような日本独自の「定義」の説明などはされません。

「プルトニウム管理指針」の共通文書に日本の「定義」が入りこむ余地はない

ここで、米、露、英、仏、中、日、独、ベルギー、スイスの9ヵ国が1997年に策定した「プルトニウム管理指針」に基づいて国際原子力機関(IAEA)を通じて各国がそのプルトニウム保有量を発表する際の共通書式について見ておきましょう。基本項目は次の二つです。

民生未照射プルトニウムの年次保有量

使用済民生原子炉燃料に含まれるプルトニウム推定量

そして、前者は次の4つに分かれています。

1. 再処理工場製品貯蔵庫中の未照射分離プルトニウム

2. 燃料加工又はその他製造工場又はその他の場所での製造又は加工中未照射分離プルトニウム及び未照射半加工又は未完成製品に含まれるプルトニウム

3. 原子炉又はその他の場所での未照射MOX燃料又はその他加工製品に含まれるプルトニウム

4. その他の場所で保管される未照射分離プルトニウム

炉内に装荷されながら未照射のままのMOX燃料のプルトニウムはこの項目3に入ることは明らかです。日本の勝手な「定義」など通用しようがありません。

なぜ今になって「改訂」か?

2014年の日本、プルトニウム保有量を640kg過小報告 玄海3号装荷後使用せず取り出したMOX燃料 2014. 5.28~の中で、「日本は、混乱を招かないような報告方法について『プルトニウム管理指針』関係国及びIAEAと協議すべき」と提言しておきました。

日本の「定義」が正当だとするなら、それとは違う報告の仕方をしていることの明らかなドイツなど関係国となぜ協議をしようとしなかったのか。あの時に何もせず、2016年9月に「改訂」があったというのはどういう経緯からか。「改訂」決定はどこに出ているのか? 事務局は明確な説明をすべきしょう。

「改訂」の必要などないと米国交渉者

なお、「プルトニウム管理指針」に基づく国際原子力機関(IAEA)への連絡文書集で見ると、例えばベルギー、スイス、ドイツ、ロシアの今年の「報告」ではこれまでと同じ文言が使われていて、「改訂」が反映された様子はありません。日本だけが次のように「炉内に装荷されながら未照射のままのプルトニウムを含む」という文言を追加しています。

Plutonium contained in unirradiated MOX fuel, including that loaded into a reactor core prior to use, or other unirradiated plutonium in fabricated products at reactor sites or elsewhere.

また、米側の代表として指針作成の交渉に関わったフレッド・マクゴールドリックは、核情報へのメールで、元々指針の「定義」は炉内に入っている未照射MOX燃料のプルトニウムも含むものだと述べています。

[玄海3号の640㎏問題に関して]「率直に言って、この間違いはたいしたことではないと思う。問題の物質が保障措置の下に置かれているからだ。だが、なぜ日本政府あるいは業界関係者が間違いだったと認め、今後はこういう間違いを犯さないと言わないのかが理解できない。」(2014年9月15日)

「指針に従う国々は全ての未照射プルトニウムを報告することに同意した(使用済み燃料中のプルトニウムも報告している)。問題のプルトニウムは、照射されていないようだから、指針に従い、未照射プルトニウムとして報告されるべきである。未照射MOXとプルトニウムの間に差はない。」(2014年9月16日)

「米国を代表して指針の交渉に当たったものとして、指針は明確に未照射MOXを含んでいたと断言できる。」(2017年10月10日)

要するに元々指針の定義は「炉内に装荷されながら未照射のままのプルトニウムを含む」ものであって、指針「改訂」などは必要なく、そのような追加をしようがしまいが、日本がさっさと間違いを正しておけばよかっただけだということです。

議事録抜粋


2014年6月10日阿部信泰委員長代理「できるだけ早く出した方が」

原子力委員会 定例会議 第19回 ○議事録(PDF形式: 376KB)

この表を拡散の観点からものすごい関心のある人が見るためには、ある意味では問題のない数字も含まれているので、彼らの観点からするともっと一番大事な数字が欲しいと、そういう意味においては640kgは大事な数字だったのですね。入れたのに照射しないで、要するにその気になればまた加工できるプルトニウムだったわけなのですね。

……

恐らく一度装填して運転しないで取り出すなんていうことは普通はあり得ないので、これは福島事故の後という異常な状態で起こったわけなのですが。それについていろいろな誤解、混乱があってこういう報道が出たかもしれないので、そういう意味においてはこれはこういうことなのだということはできるだけ早く私は出したほうがいいのではないかなという感じがいたします。

2016年7月27日阿部信泰委員長代理 「統計上の誤操作」

原子力委員会 定例会議 第24回 ○議事録(PDF形式: 299KB)

それから、九州電力は、玄海の3号機というのはMOX燃料でやるとなって、これもまた非常に複雑な話ですけれども、一度これは動かしたのですね。その後、更に新しいMOX燃料を入れたのですけれども、その直後に福島事故があって動かさないことになっちゃって、しばらく入っていたのですけれども、動かさないのに入れておくのも何だというので、一旦取り出したのですね。それについては、一旦入れたので、引き算をしてあったのですけれども、これは間違いで、照射していないで取り出したのですね。これは去年の報告書で、そういったちょっと統計上の誤操作があったので、これは訂正したという経緯があります。これも、ですから、これはこれからもし動き出して、一旦取り出したけれども、まだ照射していない燃料を、運転を始めるとこれは照射されるので、そこは引き算されるということになるだろうということですね。

関西電力は、高浜の3号機、4号機がMOXを使うことになっていて、3号機については、この参考説明にありましたように、入れて、しかしながら動かし出したのは今年に入ってからなので


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