核情報

2016. 4. 4

米高官、再処理反対の立場をNHKに再度表明──
 核セキュリティー・サミットに合わせ単独インタビュー

3月17日の上院外交委員会公聴会で日本の原子力発電所の使用済み燃料再処理計画について、経済性も合理性もなく、核拡散防止の観点から「すべての国がプルトニウム再処理の事業から撤退してくれれば、非常に嬉しい(happy=喜ばしい)」述べたトーマス・カントリーマン米国務次官補(国際安全保障・不拡散担当)が4月1日、核セキュリティーサミットに合わせたNHKとの単独インタビューで「不拡散の観点から言えば、どの国も再処理をしなければ、その方が喜ばしい」との立場を再度表明しました。

  1. 背景説明
  2. カントリーマン国務次官補発言集

参考

報道された部分だけだとカントリーマン国務次官補の発言の文脈が誤解されかねないので、以下、背景を概観した後、これまでの発言を抜粋しておきます。上院外交委員会公聴会でのボブ・コーカー委員長やエドワード・マーキー上院議員の発言との関係を見ておくことも重要です。やり取りから米国で日本の再処理がどのような問題になっているかが見えてきます。

背景説明

カントリーマンは、米高官が日本の核燃政策「懸念ない」と発言修正?──カントリーマン国務次官補、実は懸念確認で紹介したように、3月28日のオンライン記者会見で、日本が核武装するとの懸念を持っているということではないし、日本の再処理政策の「選択について承認するとか反対するとかというのは米国の役割ではない」とした上で、次のように述べていました。

しかし、最も緊密な同盟国として、我々両国には透明性についての責任がある。両国が、核燃料政策サイクル政策の選択肢と関連する核不拡散面での懸念事項、核セキュリティー面での懸念事項、経済面で懸念事項について、非常に明確にしておく責任がある。それで、我々は、これらの選択について、両国同士で、また、日本の人々に対してできるだけ透明であるように務めていく

経済的に意味をなさないことをするのは日本の勝手だし、止めろと言うのも難しいが、この政策が北東アジアや世界の核セキュリティー問題、核拡散問題に与える影響についての米国側の懸念は、日本政府や日本国民に明確に伝えていくと述べたわけです。

残念な読売新聞のまとめ

このオンライン記者会見について報じた読売新聞の3月29日の記事は、文脈からの上の二つのセンテンスの要約と解釈される部分で次のように述べました。

中国が国連などの場で批判している日本のプルトニウムの蓄積について、「世界全体がわかるように透明性のあるやり方で進めてきた」と指摘し、今後、国際社会の懸念払拭に同盟国として協力していく考えを示した。

読売新聞がカントリーマン次官補との単独インタビューで得た情報でないとすれば、どうしてこんなまとめになってしまったのかは不明です。公聴会での発言についてはいち早く報じ、また、オンライン記者会見については恐らく、日本の報道機関で唯一報道したと言う点で評価すべき読売新聞ですが、まとめが残念でした。

見出しの<日本の核燃政策「懸念ない」…米高官が発言修正>にある懸念は、本文にあるとおり、「日本が核不拡散の政策から外れる懸念」です。元々、日本が核武装をするつもりだろうとは言っていませんし、公聴会で次官補がそんなことを言うはずがありません。「懸念」は、日本のプルトニウムの奪取の可能性=核セキュリティーに関わるものや、日本の政策がアジアや世界の核拡散(及び緊張関係)に与える影響であって、これについては記者会見では政府と国民に伝えると明言しています。

ちょっと残念なNHK放送の最後の強調部分

実は、このオンライン記者会見での発言はNHKからの質問に対する答えとしてなされたものでした。それで4月1日のNHK単独インタビューが実現したようです。

NHKの放送で流れたカントリーマン自身の声を訳すと次の通りです。

それに、再処理は近隣諸国との間で緊張を生み出す。すでに目撃されている通りだ。再処理はまた、経済的に存続不可能なものだ。だから、厳密に不拡散の観点から言えば、どの国も再処理をしなければ、その方が嬉しい(happier=喜ばしい)……

[日本の再処理について]それは、日本の政策選択だ。その政策を承認するとか反対するとかというのは米国の仕事ではない(=そういう立場には米国はない)。

上の発言は基本的にはオンライン記者会見での回答と同じです。NHKの放送では次のような流れでカントリーマンの発言を整理して、カントリーマンがこのインタビューで公聴会の発言を修正したと結んでいます。

  1. 公聴会での発言について
    「すべての国が再処理から手を引いてほしい」(これが日本にも核燃料サイクル政策の放棄を求めたものだとして波紋が広がった)
  2. インタビューでは
    「経済的にも割に合わないし、周辺国の懸念も強めるので、核不拡散という観点からはど この国もやるべきではない 」としたが、日本の政策については、「アメリカとして容認したり反対したりする立場にはない 」
  3. 結論
    事実上、発言を修正した形で事態の収拾。

しかし、先に見たとおり、公聴会の発言は「すべての国がプルトニウム再処理の事業から撤退してくれれば、非常に幸せだ(=喜ばしい)」というもので、今回の「不拡散の観点から言えば、どの国も再処理をしなければ、その方が幸せだ(=喜ばしい)」と変わりありません。つまり、波紋を拡げたとNHKが説明した発言自体は変わっていないのです。オンライン記者会見で質問を送り、単独インタビューも実現させたNHKの情報収集姿勢は評価されるものですが、強調部分がちょっと残念です。

ポイントは、核セキュリティー・サミットに合わせて、米国の国務次官補(国際安全保障・不拡散担当)公聴会、オンライン記者会見、単独インタビューと3度にわたり、再処理には経済性が無く、核セキュリティーと核拡散の両方の問題を起こすもので、日本を含むすべての国が再処理を止めることが望ましいと発言したということでしょう。

米国側は、外務省には何度となくこのようなメッセージを伝えてきていたのですが、問題は日本の政治家や国民にこの声が届いていないことです。その意味で、マスコミが米国側の懸念について丹念に追いかけ、報道していくことが重要です。

カントリーマン国務次官補発言集

以下、次官補の発言を抜粋しておきます(上院外交委員会公聴会でのコーカー委員長やマーキー上院議員とのやり取りをお見逃しなく)。

2013年4月 (鈴木達治朗原子力委員会委員長代理の4月22日同委員会会合での報告)

 核燃料サイクルをめぐって現在日本で行われている議論について、核不拡散や原子力技術の観点から、非常に高い関心を持っている。特に、MOX燃料を使用する原発が存在せず、その見通しもない中で、六カ所再処理施設を稼働することは、米国にとって大きな懸念となりうる。特にイランの核問題や米韓原子力協力の問題に影響を及ぼすことで、米国にとっても困難な事情につながる可能性がある。日本が、経済面・環境面での理由がないままに再処理活動を行うとすれば、これまで日本が不拡散分野で果たしてきた役割、国際社会の評価に大きな傷が付く可能性もあり、状況を注視している

2016年3月17日上院外交委員会公聴会での発言

[冒頭のステートメント]

……

使用済み燃料からプルトニウムを取り出す再処理が、核不拡散、安全性、セキュリティーの問題を引き起こすという事実についてのあなたの懸念を共有する。アジアの友人達との話し合いについてはさらに詳しく説明することもできる。……

(コーカー委員長:私はまた、[オバマ]政権が日本に対し六ヶ所の再処理施設の運転再開の更なる延期を要請する一方で、韓国及び中国による米国起源の物質の再処理を禁止することによってアジアにおけるプルトニウムのタイムアウト(一時停止)を提唱する機会を失っていることについて心配している。……[イラン合意に言及]……我々は、プルトニウムのタイムアウトを提唱することができたのに、そうしていない。とりわけ、東京が六ヶ所の稼働再開を延期する用意があるというのに。[核情報注:日本政府の態度についてどうしてこのような理解になっているのかは不明]だから、なぜ政権がプルトニウムの再処理を奨励する政策を確立しつつあるのか分からない。この部分でこそ核拡散が拡散が起きつつあるのに。)

率直に言って、我々がプルトニウムの生産を奨励する政策を持っているというのは、同意でない。米国は──これはエネルギー省の方がずっと良く説明できるが──プルトニウムを混合酸化物(MOX)燃料にする再処理の高い経済性コストについて十分に認識している。そして、この経済性は何処の国でも同じことだ。再処理には、経済的正当性が、まったくでなければ、ほとんどない。そして、先に言った通り、核セキュリティーと核不拡散の懸念を惹起する。

米国は、再処理を支援も、奨励もしない。中国あるいは韓国との123協定(原子力協力協定)においてもそうしていない。すべての国がプルトニウム再処理の事業から撤退してくれれば、非常に嬉しい(happy=喜ばしい)。

[マーキー議員の質問に答えて]

 東アジアの主要国の間には競争があって、それは私の考えでは非合理的レベルにまで至っている。連中が[再処理]技術を持っているんだから、我々も持たなきゃいけないという感じだ──この技術が経済的にまったく意味をなさなくて、世界における地位の向上にも役立たないなんてことはお構いなく。

 (マーキー上院議員:日米原子力協力協定は数年後に更新が必要だ。現行の1982年協定では日本が再処理のためにヨーロッパに使用済み燃料を送ることなどについて事前同意を与えている。次の協定を検討するに当たって、次期政権は、日本の再処理依存を減らし、使用済み燃料処分の別の手段を採用するようよう奨励するのにどのような措置を講じるべきか。中国と日本の再処理の危険の一つは、韓国にその再処理計画を追求するようにとの圧力をもたらし、それにより、朝鮮半島を非核化して北朝鮮の核の野望が更なる拡散の圧力をもたらすのを防ごうとの我が国の取り組みを台無しにするということだ。この点について日本との話し合いはどうなっているか。日本は核拡散問題を、そして、その方向 に向かえば危険が増すことを理解しているか。)

……本質的な経済性という問題があり、米国とアジアのパートナー諸国が問題になっている経済面および核不拡散面の問題について共通の理解を持つことが重要だ──日本との原子力協力協定の更新について決定をする前に

2016年3月28日の国務省オンライン記者会見での発言

(司会:次の質問は、カントリーマン次官補に対するもので、日本のNHKからです。「米国政府は、最近、日本その他の国がやろうとしているプルトニウム再処理についての懸念を再度、表明した。あなたは、日本の再処理に反対し、この計画を放棄するように日本に要請するか。イエスとすればなぜか。でなければ、なぜそうしないのか。」)

日本は、原子力の民生用利用のパイオニアになっている。そして、この分野――民生用原子力――において、米国にとって日本より重要で親密なパートナーはない。核燃料サイクル政策を追求するに当たって、日本は、その使用を明確に想定できないプルトニウムを蓄積しないとの約束をした。日本は、世界全体に見えるような透明なかたちでやってきた。だから、我々は、日本がこの方針に違反するとか、不拡散問題に関する極めて完全な経歴に反することをするとの懸念は持っていない。

従って、プルトニウムの蓄積ということで言えば、これは、日本がその国家核燃料サイクル政策の下で決めたことだ。これは、日本の選択だ。この政策選択について承認するとか反対するとかというのは米国の役割ではない。しかし、最も緊密な同盟国として、我々両国には透明性についての責任がある。両国が、核燃料政策サイクル政策の選択肢と関連する核不拡散面での懸念事項、核セキュリティー面での懸念事項、経済面で懸念事項について、非常に明確にしておく責任がある。それで、我々は、これらの選択について、両国同士で、また、日本の人々に対してできるだけ透明であるように務めていく。



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