核情報

2016. 3.24

核セキュリティー・サミットを前に日本の再処理政策にいらだつ米国

 3月17日の上院外交委員会の公聴会でトーマス・カントリーマン米国務次官補(国際安全保障・不拡散担当)が日本の原子力発電所の使用済み燃料再処理計画について、経済性も合理性もなく、核拡散防止の観点から「全ての国が再処理事業から撤退すれば非常に喜ばしい」と述べたことを読売・朝日両紙が報じました。朝日新聞は、この発言について、 菅義偉官房長官は18日の会見で、米政府から日本政府に懸念を伝えられたことは「全くない」と述べたと報じています。また、外務省幹部は「日本以上に厳格で透明性をもって管理をしている国はない」と反発したとのことです。

  1. 無視される米国の声
  2. 懸念表明はカントリーマンだけではない
  3. カントリーマンの前任者らの考え
  4. 日米同盟関係を重視する人々に伝わるか

参考

 公聴会は、3月31日~4月1日にワシントンDCで開かれる核セキュリティー・サミットとの関連で開かれたものです。核セキュリティー・サミットの発端は、2009年4月5日にオバマ大統領がプラハで行った演説にあります。大統領は世界の核物資の量の最小化と保安措置強化を重要課題と宣言し、「核セキュリティー(核物質保安)に関する国際サミットを1年以内に開催」すると約束しました。2010年から1年おきにワシントン、ソウル、ハーグとオバマ大統領の肝いりで開かれてきたサミットは、今回で最後となります。

無視される米国の声

 米政府関係者によると、これ以上日本のプルトニウムを増やして欲しくないとの米側の考えを日本側に伝えてあるが、それがどれほど理解されているかについて米側には不安があるとのことです。米側からの懸念を伝えられたことはないとの菅官房長官の発言は、この米側の不安が的中していることを示しています。いくつか公になっている懸念表明の例を見てみましょう。

 カントリーマンは、例えば、2013年4月にも日本側に日本のプルトニウムの蓄積についての懸念を伝えていました。(鈴木達治朗原子力委員会委員長代理の4月22日同委員会会合での報告)

 核燃料サイクルをめぐって現在日本で行われている議論について、核不拡散や原子力技術の観点から、非常に高い関心を持っている。特に、MOX燃料を使用する原発が存在せず、その見通しもない中で、六カ所再処理施設を稼働することは、米国にとって大きな懸念となりうる。特にイランの核問題や米韓原子力協力の問題に影響を及ぼすことで、米国にとっても困難な事情につながる可能性がある。日本が、経済面・環境面での理由がないままに再処理活動を行うとすれば、これまで日本が不拡散分野で果たしてきた役割、国際社会の評価に大きな傷が付く可能性もあり、状況を注視している

 今回の公聴会ではエドワード・マーキー上院議員質問に次のように答えました。

 東アジアの主要国の間には競争があって、それは私の考えでは非合理的レベルにまで至っている。連中が[再処理]技術を持っているんだから、我々も持たなきゃいけないという感じだ──この技術が経済的にまったく意味をなさなくて、世界における地位の向上にも役立たないなんてことはお構いなく。

 (マーキー上院議員:日米原子力協力協定は数年後に更新が必要だ。現行の1982年協定では日本が再処理のためにヨーロッパに使用済み燃料を送ることなどについて事前同意を与えている。次の協定を検討するに当たって、次期政権は、日本の再処理依存を減らし、使用済み燃料処分の別の手段を採用するようよう奨励するのにどのような措置を講じるべきか。中国と日本の再処理の危険の一つは、韓国にその再処理計画を追求するようにとの圧力をもたらし、それにより、朝鮮半島を非核化して北朝鮮の核の野望が更なる拡散の圧力をもたらすのを防ごうとの我が国の取り組みを台無しにするということだ。この点について日本との話し合いはどうなっているか。日本は核拡散問題を、そして、その方向に向かえば危険が増すことを理解しているか。)

 日本その他のアジアのパートナーとの対話ということでいうと、我々は、より技術的なレベルではエネルギー省を通じて、セキュリティーや核拡散面の関心事項のレベルでは国務省を通じて、両方をやっている。我々は、本質的な経済性という問題があると考えており、米国とアジアのパートナー諸国が、経済面および核不拡散面の重要な問題について共通の理解を持つことが重要だ──例えば日本との1-2-3協定[原子力協力協定]の更新について決定をする前に。

懸念表明はカントリーマンだけではない

 2015年年に日米科学技術協力協定関連会議出席のため来日したジョン・ホルドレン米大統領補佐官(科学技術担当)は、六ヶ所再処理工場の運転開始計画に関し、「日本にはすでに相当量のプルトニウムの備蓄があり、これ以上増えないことが望ましい」と述べました。そして、「分離済みプルトニウムは核兵器に使うことができ、我々の基本的考え方は世界における再処理は多いよりは少ない方が良いというものだ」との考えを強調しました(10月12日朝日新聞、英文は13日)。

 2012年3月の核セキュリティー・サミット韓国を訪れたオバマ大統領自身が、3月26日、韓国外国語大学校での演説で次のように述べています。

[各種の措置により]国際社会は、テロリスト達が核物質を入手するのをますます難しくした。これは各国を安全にした。しかし、我々は幻想を抱いてはいない。我々は、核物質──何発もの核兵器に十分な量──が未だに適切な防護のないまま貯蔵されていることを知っている。我々は、テロリストや犯罪集団が、今も、核物質を、そして、ダーティーボム用に放射性物質を、手に入れようとしていることを知っている。我々は、ごく少量のプルトニウム──リンゴほどの大きさ──が何十万人もを殺傷し、世界的危機をもたらしうることを知っている。核テロリズムの危険性は、世界の安全保障にとって最大の脅威の一つであり続けている。……新しい世代の科学者や技術者が直面する最大のチャレンジの一つは、燃料サイクルそのものである。我々は、みんな、問題を理解している。原子力エネルギーを我々に与えてくれるプロセスそのものが、各国やテロリストによる核兵器入手を可能にしうるということだ。しかし、分離済みプルトニウムのような我々がテロリストの手に渡らぬようにしようと試みているまさにその物質を大量に増やし続けることは、絶対にしてはならない

 また、この演説について報じたワシントン・ポスト紙(2012年3月27日)は、核セキュリティーサミット米国サブシェルパ、ローラ・ホルゲイト米国国家安全保障会議 WMDテロ・脅威削減担当上級部長のつぎのような発言を紹介しています。

[ウラン資源の枯渇に備えて再処理によるウランの有効利用をするという]これら見方が意味をなしたのは3、40年前のことだ。当時は、世界にはあまりウランがないと我々は考えていた。だが、今では、我々は、ウラン不足という概念が時代遅れのものであることを知っている。また、我々は、分離済みプルトニウムがテロリストに狙われやすいということを知っている

カントリーマンの前任者らの考え

 今年2月25日13人の元エネルギー・国家安全保障関係米政府高官・専門家らが、米エネルギー省長官に対し、軍事用余剰プルトニウムを「プルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)」燃料として処分する計画を中止するよう要請する書簡を送りました。彼らは昨年9月にも同様の書簡を出していました。今回の書簡は、オバマ大統領が2017年予算案でMOX燃料製造工場建設計画中止を発表した後、議会の計画擁護派が予算復活を目指して圧力を掛けているのを受けてのことです。六ヶ所再処理工場の運転開始計画や中国・韓国の再処理計画を止めるためには米国のMOX計画も止めるべきと主張です。これには、カントリーマンの前任者ロバート・アインホーン元国務次官補(核不拡散担当)も署名しています。一部を抜粋してみましょう。

 さらに重要なのは、軍備管理・核不拡散・核セキュリティーなどの面から考えてこのプロジェクトを中止すべき重要な理由があるということです。前回の書簡で述べたとおり、経済的に不利であるにも拘わらず、日本及び中国ではプルトニウムの分離を続けることを、また、韓国では再処理について米国の同意を得ることを求める政治的圧力が強くなっています。これらの計画では発電用原子炉のためにプルトニウムを生産することになっていますが、同じプルトニウムは何千発もの核弾頭を製造するのにも使えます。……

 一方、日本政府は大型の再処理工場の運転開始を望んでいますが、その結果生じる日本のプルトニウム量の大幅な増大に対する米国の反応について心配しています。日本政府関係者等は、米日原子力協力協定を米国が2018年に自動延長させることを望んでいます。日本のプルトニウム政策の核拡散面での意味合いについて米国政府と話し合う必要を避けるためです。日本は今日、非核兵器国で再処理をしている唯一の国です。

 中国もまたプルトニウムのリサイクルに関心を持っています。中国は六ヶ所規模の再処理工場の購入についてフランスと交渉しています。中国はもちろん、核兵器国です。しかし、将来の増殖炉用として蓄積されるプルトニウムも、短期間で核兵器保有量の桁を上げることを可能にします。

 これら三カ国の政府関係者の中には、高くつく上、危険であるプルトニウム・リサイクルに反対している人々もいます。しかし、もし私たちが自国のMOX計画を中止することに失敗すれば、東アジアにおけるこのような活動を抑制する取り組みに彼らを巻き込む上での私たちの信用が大きく損なわれることになります。

日米同盟関係を重視する人々に伝わるか

 菅官房長官を始めとする政権中枢の人々にこのような声が伝わっていないということでしょうか。カントリーマンの公聴会での発言を伝えたAP通信の記事はその意味を次のように評価しています。「米政権は、発電のためにプルトニウムを生み出す日中両国の計画について公の形での懸念表明のレベルを上げているようだ。」上述のアインホーンの署名したモニーツ長官宛て書簡には、対日政策に大きな影響力を持ち、駐日大使候補にもなったジョセフ・ナイ元国防次官補も署名しています。

 2014年3月にハーグで開かれた核セキュリティー・サミットの際に出された日米共同声明は、茨城県東海村の「高速炉臨界装置(FCA)」に警備体制の不十分な形で置かれている331kgのプルトニウムと高濃縮ウランを厳重な保管と処分のために米国に送ることを発表しました。共同声明は、世界全体の高濃縮ウランと分離済みプルトニウムの量を減らすことは、核兵器の材料になる「核物質を権限のない者や犯罪者,テロリストらが入手することを防ぐために」重要であると述べ、「高濃縮ウランとプルトニウムの最小化のために何ができるかを各国に検討するよう奨励」しています。このプルトニウムを積んだ船が3月22日午後東海港を出港しました。オバマ大統領は、今回のサミットでこれを大きな成果として取り上げるのでしょう。日本は、2014年末現在、国際原子力機関(IAEA)の計算方法で核兵器約6000発分に相当する48トンものプルトニウムを持ちながら年間8トンものプルトニウム分離能力を持つ六ヶ所再処理工場の運転開始政策に固執してオバマ大統領の顔に泥を塗るのでしょうか。



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