核情報

2006.3.29

年間核兵器33個分が行方不明にならないと分からない?

 大型再処理工場の計量誤差

六ヶ所再処理工場では、年間800トンの使用済み燃料が処理され、約8トンのプルトニウムが生産される計画である。国際原子力機関(IAEA)では、プルトニウムが8kg無くなればロスを計算に入れても1個原爆が作られている可能性があると思えという基準を定めている。フル稼働すれば原爆1000個分以上が毎年作られるということである。マサチューセッツ工科大学(MIT)のマービン・ミラー教授らが指摘している通り、このような大規模な工場では、約1%程度、つまり年間80kg(10個分)程度の計量管理の不確実性が避けられないとIAEAが述べている。さらに、統計学的に言うと、その3.3倍の量が無くならないと、確信を持って実際に無くなっていると主張できないとIAEAの保障措置用語集(1987年版)が説明している。264kg(33個分)ぐらいにならないと本当に無くなっているのかどうか確認できないのである。

転用が起きていないのに転用が起きていると間違って指摘してしまう確率を5%以下にするとともに、実際に転用が起きた際に95%の確率(95%の信頼度)で探知できるようにしようとすると、その条件を満たすのは、実際になくなった量が誤差の3.3倍に達した場合となる。つまり誤差の3.3倍ぐらいの行方不明物質が実際に出てこないと、その測定値から確信を持って転用の可能性を指摘することができないということである。

264kgという数字を小さくするには、検査の頻度を上げるしかない。例えば、一週間に一度検査する。しかし、一週間に一度工場を止めて調べていたのでは、仕事にならない。そこで運転状態のまま調べることになる。運転状態での測定に使われる計器は、精度がさらに低くなるため、一週間に約40kg(核兵器5個分)がなくならないと、実際になくなっているかどうか言えないと、先日来日した「憂慮する科学者同盟(UCS)」エド・ライマン博士が、「六ヶ所再処理工場の保障措置:機能するのだろうか」で説明している。

博士は次のように言う。

六ヶ所再処理工場のような大きさの工場に置いてプルトニウムの行方を追い続けることがなぜそれほど困難なのかという理由は単純である。工場のさまざまな部分にあるプルトニウムの在庫量を計測する技術が8キログラム程度の不足──不明量(MUF=Material unaccounted for)として知られる──が実際の転用のせいなのか、単なるランダムな測定誤差のせいなのかを確認できるほど正確ではないからである。六ヶ所再処理工場のような工場──年間、8000キログラムのプルトニウムを処理しうる──では、8キログラム、つまりは年間取扱量の0.1%の転用を探知するというのは、虫眼鏡を使って干し草の山の中の針を探すようなものである。

六ヶ所再処理工場の場合、保障措置には、年に1度の物理的な在庫検認に加えて、毎月、1度の中間在庫検認と、2度か3度の短い間隔の中間検認が含まれる。しかし、工場を7日に1度の割合で運転中止にするわけにはいかないから、これらの追加的検認は、工場が運転している状態で行われる。工場のプロセス区域内に置かれた機器を使って、それぞれの区域にある核物質を計測するのである。問題は、これらの計測システムが、比較的高い不確実性を抱えているという点にある。たとえば、工場の中のプルトニウムとウランの溶液が粉末に転換される部分においてプルトニウムを計測するのに使われるシステムは、6%の計測誤差を有している(1)。7日に1度の在庫検認があるとすると、この期間のプルトニウム取扱量は、工場がその期間の約75%操業するとして、約200キログラムとなる。しかし、統計分析によると、95%の信頼度(及び5%の誤警報率)で転用が実際に起きたと言えるようになるには、最低約40キログラムが転用されなければならない。従って、1ヶ月の間には、160キログラム──20「有意量(SQ)」のプルトニウム──が転用されなければ、IAEAは、転用が起きたと合理的に結論づけることはできないのである。従って、1ヶ月に1「有意量(SQ)」だけでも転用が起きれば探知するという保障措置のゴールは満たすことができない。

「7日に1度の在庫検認があるとすると、この期間のプルトニウム取扱量は、工場がその期間の約75%操業するとして、約200キログラムとなる。」というのは、工場は365日運転を続けるわけではないから、実際に運転している期間のうちの1週間で扱われるプルトニウムの量は、約200kgになるという意味だ。

運転状態での測定に使われる計器は、6%の誤差を持つから、一週間の誤差は、200kg X 0.06=12kgとなる。5%の誤警報率及び95%の信頼度で転用を指摘するのに十分な不明量は、12kg X 3.3 =39.6kg=約40kg (核兵器5個分)ということである。

IAEAは、この計量管理の不十分さを補うために、封じ込め・監視・モニタリングなどに頼り、また、日本はIAEAの規則を守る優等生であるという点に頼るということだろうか。計量管理が十分であるというのなら、日本政府は具体的にそれを示して見せなければならない。ライマン博士は、青森県知事に要請書を提出して、「日本政府に対し、保障措置のアプローチが機能し、一ヶ月以内に8キログラムのプルトニウムの転用を高度の信頼性をもって探知できるとの確証を提供するよう求めるべきです」と述べている。計量管理が不十分であるにもかかわらず、十分であるかのように装っているとするなら、六ヶ所と同様の工場が他国で運転されるようになり、そこで転用が起きてしまった場合、日本はそれに責任を負うことになる。

「誤差」がもたらす問題例──東海村でのプルトニウム行方不明事態2件 206kgと70kg

参考:

○測定の誤差が約1%という説明。下の表のプルトニウム再処理工場での数字0.010がそれを示している。

表3 物質収支を閉じるとき付随する測定の不確かさの期待値δE(相対標準偏差)

バルク取り扱い施設タイプδE
ウラン濃縮0.002
ウラン加工0.003
プルトニウム加工0.005
ウラン再処理0.008
プルトニウム再処理0.010
独立のスクラップ貯蔵0.04
独立の廃棄物貯蔵0.25

6.35 計量に関する国際基準

物質収支を閉じるときに期待される測定の不確かさδEの値。各種のバルク取り扱い施設での操業経験に基づいているこれらの値は、通常の操業条件の下で達成可能と見なされている。物質収支の不確かさに関する国際基準を計算するには、表3の基準値(相対標準偏差で示されている)をその処理量に乗じる。このδE値は、国際目標値(6.36参照)と合わせて、施設の測定システムが国際基準に達しているか否かの判断に用いることができる。

出典 IAEA保障措置用語集(2001年版)

○「ある期間の誤差の量の値」に3.3をかけたものが無くなって初めて探知できるとの説明

119. 技術的能力

保障措置手段システムの期待される性能。達成しうる技術的水準には、それ自信固有の限界、例えば、必要不可欠な測定中の避けられない不確かさや、監視手段による探知の達成の度合いなどがあるであろう。また、例えば、保障措置協定により設定される限界や、査察のための適切な資源をかくなどのより現実的な考慮からも、技術的能力には限界があるであろう。IAEAの探知ゴール(106項参照)から査察ゴール(121項参照)を導き出すためには、技術的能力を考慮に入れなければならない。物質収支を閉じる際に予想される測定の不確かさを考慮に入れれば、計量能力はある程度数量化できる。「期待される計量能力」、すなわち物質計算量により検出されると期待される核物質の損失の最小の量としてEを定義すると都合がよい。このEは、E=3.29δEAとして定義できる。この式において、Aは物質趣旨における核物質の在庫と移転量のうちで大きい方の量に相当し、δEは当該の物質収支期間において期待される測定の不確かさ(相対標準偏差、120項)参照。すなわちMUFの期待される正確さであり、3.29という数値は探知確率が0.95、誤警報率0.05の場合に相当する(111項及び112項参照。)

出典 IAEA保障措置用語集(1987年版)

2001年版では、この項目は消えているが、誤警報確率0.05という数字は、2001年版の3.17 誤警報確率でも使われている。

3.17 誤警報確率

計量検認データの統計解析が、実際には転用が生じていなかったのに、ある核物質が行方不明であると示すことになる確率、α(10.27参照)。核物質計量目的の場合は、α(又は関連する棄却域(10.32参照)は、サンプリング計画の設計及び統計検定の実施のための入力パラメータの一つとしてあらかじめ選ばれる。調査しなければならない不一致(3.25)又は誤った異常(3.26参照)の数をできるだけ小さくするため、この値は通常0.05以下に設定される。

出典 IAEA保障措置用語集(2001年版)


核情報ホーム | 連絡先 | ©2006 Kakujoho