日本原燃は、5月27日、六ヶ所再処理工場のガラス固化試験が前日深夜終了したと発表しました。2006年3月末に使用済み燃料を使った試験を始めたものの、2007年11月からの高レベル廃液ガラス固化試験で様々な技術的問題に直面し、本格運転に入れないでいましたが、これでいよいよ来年に運転開始となる可能性が出てきました。そうすると、現在約44トンという日本のプルトニウムを保有量は、数年で米国が冷戦時代に製造した核兵器用プルトニウムの量を超えてしまうかもしれません。
日本原燃は、7月にも試験終了報告書を原子力規制委員会に提出したいとしていますが、規制委側は、再処理工場関係の新しい規制基準ができあがる12月までは審査はしない方針です。従って、日本原燃側が唱えている今年10月の竣工はありえないことになりますが、来年には運転が始まるかもしれません。
年間800トンの処理能力まで少しずつ上げていく計画で、フル稼働となると年間約8トン(核兵器1000~2000発分)のプルトニウムが分離されることになります。
もともと、再処理は、プルトニウムを燃やしながらプルトニウムを作るという「夢の高速増殖炉」に最初の燃料を提供するためのものでした。ところが、この高速増殖炉計画は進んでおらず、分離したプルトニウムを無理矢理軽水炉で消費する計画も遅れて来た結果、プルトニウムがどんどん増えて行きました。この話を5月2日の原子力委員会の会議でしたところ、近藤駿介委員長は、会議の最後につぎのような趣旨のまとめを述べています。核情報の提供したグラフを見ても分かるとおり、日本のプルトニウム保有量のピークはもう超えており、減りつつあるというのが、3・11まえの状況だった、というのです。実際は、このプルトニウム保有量の減少は、わずかの「プルサーマル」が始まったこともありますが、ガラス固化試験の問題で六ヶ所再処理工場の運転開始が遅れていたために起きたことです。上のグラフが示すように、現状で運転が始まれば、プルトニウムの量は一気に増えていきます。
- 出典:「プルトニウム分離の停止:日本の使用済み燃料管理への別のアプローチ」(レビュー・ドラフト 2013年5月) 田窪雅文 フランク・フォンヒッペル
六ヶ所で分離したプルトニウムをウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料にする工場について、日本原燃は、2016年3月完成という3・11前からの予定を掲げていますが、地震の後工事が1年ほど中断しており、今年4月現在の工事進捗(しんちょく)率は3.5%。この種の工事の遅延の歴史を見れば、本格稼働の遅れは必死です。たとえこの工場が現在の予定の1年遅れで完成したとしても、そこでできたMOX燃料を使う原子力発電所の再稼働がいつになるか、電気事業連合会でさえ分からないと言っています。このような状況で、再処理工場運転開始となれば、核拡散・核セキュリティーの面で、日本は諸外国から批判されることになるでしょう。
5月2日の原子力委員会定例会議でこの問題について発表した際に使ったパワーポイント形式の原稿(及びノート)を下に掲載します。
参考:
- 日本原燃 ガラス固化体関連公表文 2013年5月
- 高レベル廃液ガラス固化建屋ガラス溶融炉A系列におけるガラス固化試験の結果について(PDF) 2013年5月31日
- ガラス溶融炉B系列におけるガラス固化試験の結果について(PDF) 2013年1月16日
- 六ヶ所再処理工場等の現状について(日本原燃株式会社資料)(PDF) 2013年3月26日 原子力委員会
- 六ヶ所再処理工場で回収されるプルトニウムの利用について(電気事業連合会資料)(PDF) 2013年3月26日 原子力委員会
- 高レベル廃液ガラス固化施設におけるアクティブ試験の現状について(pdf) 日本原燃 2009年7月1日
- サイクル事業の概要 報告書等 日本原燃
- 再処理工場でガラス固化体製造試験終了 デーリー東北 (2013/05/28)
- 使用前検査が焦点/原燃、譲歩引き出せるか デーリー東北 (2013/05/28)
- 規制委、現段階で試験終了報告書精査せず デーリー東北 (2013/05/28)
- MOX工場建設再開 本体工事本格化へ デーリー東北 (2013/04/04)
- 第16回原子力委員会臨時会議議事録 (pdf) 2013年5月2日
(議題) (1)国際関係に関する有識者との意見交換(朝日新聞 論説副主幹 吉田文彦氏、ウェブサイト「核情報」主宰 田窪雅文氏)議事録から:エネルギーセキュリティーについて
(秋庭委員)ありがとうございました。
それから、田窪さんにお伺いさせていただきます。余剰プルトニウムの利用がきちんとしない限りは六ヶ所の再処理工場を動かさないほうがいいということでしたが、そうすると今後の日本のエネルギーセキュリティの中でプルトニウム利用というのは、FBRが実現するかどうかがポイントですが、プルトニウム利用ということを将来の日本のエネルギーセキュリティの中で考える必要はないとお考えになっていると私は受け取ったのですが、それでよろしいですか。
(田窪氏)高速増殖炉の実現可能性ということになりますけれども、これまでのところ商業用の導入の予定というのがどんどん後ろに遠ざかっていくと。今2005年の段階で50年ごろということになっていたわけですけれども、今回の状況からすればさらに遠ざかることは間違いないわけですね。その高速増殖炉が導入されるかもしれないという前提に立って今どんどんプルトニウムをつくっていてもしょうがないだろうと思うんですね。そのつくっていったプルトニウムは原子力委員会の方針に従えばプルサーマルで消費してしまうわけですから、高速増殖炉によって確保されることになっているエネルギーセキュリティには全く結びつかないわけですね。ですから、今六ヶ所を動かすことがエネルギーセキュリティにつながるという話は、この間の鈴木委員長代理が仕切っておられた小委員会でもそういう結論にはなっていないと思うんですね。ですから、そこはちょっと分けて考えて。もし高速増殖炉にかけるということであれば、すぐに使用済燃料を今すぐ地下処分するのではなくて置いておくと。将来どうするかを考えてみればいいということになると思うんですけれども。これは今特にそういう決定をしなくても、地下処分の見通しは今ほとんどないという状態ですから、そこはエネルギーセキュリティについて心配される必要は今はないんじゃないかと思います。
(秋庭委員)ありがとうございました。