核情報

2010. 8.30

「インドとの原子力協力、1995年NPT再検討会議決定に違反」──国連軍縮会議で来日の米国人専門家ウィリアム・ポッター氏、日本軍縮学会で

「第22回国連軍縮会議inさいたま」に出席するために来日中のウィリアム・ポッター氏(ジェームス・マーティン不拡散研究所所長)は、8月28日、一橋大学で開かれた日本軍縮学会研究大会で、他の面はともかく、核不拡散の面から言って、インドとの原子力協力協定によって得られるものはないと述べました。氏は、インドと原子力関連貿易をすることは、1995年の核不拡散条約(NPT)再検討・延長会議が採択した『核不拡散と核軍縮のための原則と目標』に違反すると強調します。

『核不拡散と核軍縮のための原則と目標』は、NPTの認める5つの「核兵器国」(米英ロ中仏)以外への 核関連輸出に関しては「IAEAの包括的保障措置を受諾し、かつ、核兵器その他の核爆発装置を取得しないという国際的に法的な拘束力のある約束を受諾することを要求すべきである」としています。包括的保障措置というのは、その国の原子力関連施設をすべてIAEAの監視下において、核兵器用の転用が行われていないことを保障する措置ですから、NPTに入らず核兵器の製造を続けているインドがこの条件に当てはまらないことは言うまでもありません。ポッター氏は、日本などの非核保有国が、インドと原子力協力協定を結ぶことになれば、核保有国がNPTのなかの都合の良い部分だけを取り出して焦点を当て、都合の悪い部分を無視することについて文句を言う資格がなくなると警鐘を鳴らしました。同じく軍縮会議に招かれた米国カーネギー国際平和財団の英国人専門家ジェイムズ・アクトン氏も、8月24日に開かれたNGO関係者との会合で、米印原子力協定は核不拡散面で役に立つものではないと述べています。

また、日印原子力協力協定を結べば温暖化防止に役立つとする日本政府のとってつけたような説明については、米国プリンストン大学のインド人専門家M・V・ラマナ氏が反論のメールを核情報に送って来ています。以下これらの点について簡単に整理しておきます。



  1. 保障措置
  2. 国産ウランを兵器用プルトニウムに(原子炉で天然ウランを使ってプルトニウムを生産)
  3. 阿部信泰氏(日本国際問題研究所軍縮・不拡散促進センター所長)も同意
  4. 現実的対応?
  5. 温暖化防止?

参考




保障措置

インドは、運転・建設中の発電用原子炉22基のうち14基を2014年までにIAEAの保障措置下に置き、輸入した燃料は保障措置下の原子炉でのみ使用するとしている。このうち、6基は外国製でそもそも自動的に保障措置下に置かれるものである(NPTの前に提供された原子炉やNSGの規則設定の前に結ばれた協定に基づくものとして建設中の原子炉)。つまり、NSGでの特別扱いを受けるのと引き換えにインドが保障措置下に置くべく提供しようというのは、国産発電用原子炉16基のうち8基だけである。(8+6=14)インドは、残りの国産発電用原子炉8基、すべての研究炉、高速増殖炉などは、軍事用プログラムの一部だとし、保障措置に入れることを拒否している。インドはまた、将来作る原子炉を民生用と分類するか軍事用と分類するかはインドに決める権利があると宣言している。

国産ウランを兵器用プルトニウムに(原子炉で天然ウランを使ってプルトニウムを生産)

軍事用核物質生産をまったく規制せず、一部の原子炉だけを保障措置下におくという方式は、そもそも保障措置の名に値しない。ウラン不足に悩むインドは、民生用には外国からウランを輸入して使い、そこで浮いた国内産ウランを軍事用に回すことで核分裂性物質の年間生産量を現在の核兵器約7発分から40〜50発分にまで増やすことができると国際的な専門家グループが推定している。これは、南アジアにおける更なる軍拡競争をもたらす恐れがある。

阿部信泰氏(日本国際問題研究所軍縮・不拡散促進センター所長)も同意

軍縮学会副会長を務める阿部所長(元国連事務次長)は、一橋大学での会議でポッター氏に続いて発言し、米印原子力協定を結ぶことによって、米国は核拡散防止の態度を崩し、ロシアと同じレベルに成り下がってしまったと指摘し、日本が日印原子力協力協定を結ぶと、日本が米国のレベルに成り下がってしまうと述べている。阿部所長は、共同通信のインタビュー(7月26日)でポッター氏と同様の問題を指摘していた。

実はNPT未加盟国への核関連物資・技術の提供は、同会議[2010年5月のNPT再検討会議]の最終文書に違反する。同文書には「(原子力関連の)新規供給合意は、すべての核施設を報告・査察対象とするIAEAの包括的保障措置を結び、核兵器を取得しないとの法的約束をすることを条件とする」と明記されている。

インド、パキスタン、イスラエルはこの要件を満たさない。原子力供給国グループ(NSG)でインドを例外扱いすることにしたからいいではないかとの意見もあるが、NSGはあくまで任意の国際組織だ。NPT体制下の義務違反が免責されるわけではない。

また、毎日新聞のインタビューで、「原発の輸出先として問題のない国は欧米などいくらでもある。インド進出の必然性は本当にあったのか」「被爆国・日本の『国となり』をどう考え行動するかが、より大事だ」と述べている。

現実的対応?

しかし、そもそもコンセンサス方式で物事が決まるNSGにおいてインドとの原子力協力を例外措置として認めることに日本が反対しなかったことを考えると、日印原子力協力協定が何らかの形で結ばれるだろうから、問題はどれだけインドの譲歩を勝ち取るかだとアクトン氏は言う。インドや米仏は、日本の製造技術を必要としており、日本は他にもビジネスの道があることから、強気の交渉に出るべきだとの考えだ。日本政府は、インドが核実験をすれば日本は協力を停止するというが、その程度では当たり前過ぎて話にならない。阿部所長は、インドとの交渉で核兵器用核物質の生産中止を要求して良いのではないかという。

印パの平和団体が2007年2月1日に日本政府に提出した書簡にある条件は次のようなものだ。

NSGは、米印核合意を国連安全保障理事会決議1172号(1998年6月6日)に照らして検討するべきだと私たちは考えます。全会一致で承認されたこの決議は、インド及びパキスタンに対し、「ただちにその核兵器開発計画を中止し、核兵器化[実際の核兵器の製造]や核兵器の配備を行わず、核弾頭搭載可能な弾道ミサイルの開発及び核兵器用の核分裂性物質のすべての生産を中止する」よう求めています。決議はまた、「すべての国に対し、インド及びパキスタンの核兵器計画に何らかの形で資する可能性のある設備、物質及び関連技術の輸出を防止するよう奨励」しています。

私たちは、日本、そしてNSGのすべての国々に対し、インド及びパキスタンとのいかなる原子力協力も国連安全保障理事会決議1172号に書かれている条件を満たすものでなければならないと主張するよう要請します。最低でも、インド及びパキスタンは、核分裂性物質禁止条約(FMCT)が締結され発効するまでの間の措置として、核兵器用の核分裂性物質の生産を中断するよう義務づけられるべきです。

温暖化防止?

日本政府は、インドの原発建設計画に協力するとCO2の削減に繋がるとして、次のような計算を示している。原発1基を石炭火力で置き換えると、600万トンのCO2を排出する。インドは、60基の原発を建設する計画だから、日本が協力することは、600万トン/基 X 60基= 3億6000万トンの削減に繋がる。

これに対して、米国プリンストン大学のインド人専門家M・V・ラマナ氏は、核情報に宛てたメール(8月27日付け)で次のように述べている。

お話にならない。まず、インドは、原子炉導入によって石炭火力発電所の建設を放棄すると言う訳ではない。40基から60基とかの原子炉の建設について述べている政府の計画書類は、同時に、同じ時期に何百もの石炭火力発電所が建てられると述べている。例えば、2052年までに原子力を2億7500万キロワットまで増やすというインド原子力省自身の計画が、石炭火力は6億1500万キロワットになると予測している(現在は8600万キロワット)。第2に、原子力のコストは、とりわけ、輸入原子炉のコストは、石炭や天然ガスよりずっと高い。従って、CO2排出削減効果は、トン当たりでいうと非常に高いものになる。同じコストをかけるなら、利用効率の向上などからの方がずっと多くの削減が達成できる。排出削減機会について削減コストの面での効率順に並べたリストでは、原子力はたいがいの場合相当低いところに位置している。

M・V・ラマナ氏は、以前に核情報に宛てたメール(2008年8月24日付け)で次のように述べていた(当時はインド、バンガロールの環境・開発学際研究センター上級研究員)。

「インド核ドクトリンに関する報告書(ドラフト)」(1999年8月17日)は、陸上発射ミサイル、海洋発射ミサイル、航空機という三つの運搬手段(トライアド=3本柱)を含む上限のない野心的な核兵器保有計画を提示している。これらの計画を短期間で達成するには、核兵器用の核分裂性物資の生産を大幅に拡大する必要がある。インドのウラン資源の限界のために、核兵器用の核分裂性物質を増やすことは、原子力発電量を減らさなければならなくなることを意味していた。そもそも、原子力発電は、発電量の3%以下しか発電していないのである。

このような逼迫状況の中にあるインドは、ウランの輸入が認められれば、核兵器用の核分裂性物質の生産を増やすことができる。

インドの発電計画は、さらに野心的なものだが、それは主として、現在と同じく石炭火力を基礎とするものである。例えば、インド政府計画委員会は、石炭火力発電を2030年までに3倍に増やすことを計画している。委員会の報告書「統合的エネルギー政策(2006年8月)」(英文pdf)の分析は、原子力が10倍に伸びても、それは石炭の消費を2%しか減らさないことを示しているが、需要側の対策を強力に推進すれば、石炭の消費量を14%減らすことができる(報告書の表3-7から算出)。再生可能エネルギー技術を大規模に拡大すれば、同じような石炭消費量の削減をもたらすことができる。

このように、原子力は、非常に楽観的なシナリオにおいても、インドにおける温室効果ガス排出量の削減にわずかしか寄与しない。


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