ブッシュ大統領は、10月20日、1)米印原子力協力は、NPTの下での義務に違反しないこと、2)「原子力供給国グループ(NSG)」の他の参加国とウラン濃縮及び再処理技術の移転を制限に向かって努力するのが米国の政策であること、を保証する文書を国務長官への覚書の形で発表しました。これは、米印原子力協力協定の正式な発効に必要な手続きの一つです。
9月6日に「原子力供給国グループ(NSG)」がNPT非加盟国への原子力協力を禁止したそのガイドラインでインドを例外扱いすることに合意し、10月1日、「米印原子力協力承認及び核不拡散強化法」が米議会を通過、そして、10月10日、米印原子力協力協定が両国間で署名されました。ただし、米議会は、二種類の保証を大統領が議会に対して提供することを最終的協定発効の条件としています。一つは今回のもの、もう一つは、インドと「国際原子力機関(IAEA)」との間の保障措置協定が米印間の合意通りに機能し始めたことを確認するものです。米印間で外交文書が交換され、後者の保証がされて、初めて実質的発効となります。
一方、仏ロとインドの原子力協力の話も進行する一方、中パ間の原子力協力合意の話も出て、ますます、NPTの形骸化が心配される事態が進行しています。
以下、米国議会で規定する保証、NSGの合意以後の動き、NSG合意についての日本政府の説明について簡単にまとめました。
- NPT及びウラン濃縮・再処理に関する保証
- 保障措置協定に関する保証
- NSGガイドライン例外措置合意以後の動き
- 日印戦略的グローバル・パートナーシップの前進に関する共同声明
- NSGでインドを例外扱いにすることを認めたことについての日本政府の説明
NPT及びウラン濃縮・再処理に関する保証
件名:米印原子力協力及び核不拡散強化法(公法110-369)
2008年10月20日
大統領決定 No.2009-6
「米印原子力協力承認及び核不拡散強化法」のセクション102(c)及びセクション204(a)に従い、私は、次の通り保証する。
- 米印原子力平和利用協力協定の発効及びその規定に従った実施は、インドの核兵器あるいは他の核爆発装置の製造または他の形の取得をいかなる形においても援助、奨励、誘導しないとの「核不拡散条約(NPT)」のもとでの米国の義務に従ったものである。
- 「原子力供給国グループ(NSG)」の他の参加国と、個別及び全体的に、協力して、ウラン濃縮及び使用済み燃料の再処理に関連した機器及び技術の移転をさらに制限することに合意するようにするのが米国の政策である。
あなたは、この決定を『連邦官報』で公表するよう許可・指示される。
ジョージ・W・ブッシュ
保障措置協定に関する保証
「米印原子力協力及び核不拡散強化法」(英文pdf)セクション104が次のように定めている。
「原子力規制委員会(NRC)」は、大統領が次のような決定を行い、それを議会に保証して初めて、核物質及び機器の移転の許可を出すことができる。
- 2008年8月1日に「国際原子力機関(IAEA)」理事会が承認した民生用核施設の保障措置の適用に関するインド政府と「国際原子力機関(IAEA)」の間の協定が発効した。
- インド政府が保障措置協定のパラグラフ13に従い施設の申告を行い、それが、2006年5月11日にインド議会に提出された分離計画にある施設及びスケジュールと──分離計画で予測されていたよりも保障措置開始が遅れたことを考慮し──重大な矛盾がない。
NSGガイドライン例外措置合意以後の動き
- 8月1日
- IAEA理事会、インド・IAEA保障措置協定を承認
- 9月6日
- 「原子力供給国グループ(NSG)」、インドを例外扱いすることで合意
- 9月30日
- シン首相、パリで仏印原子力協力協定に署名
- 10月1日
- 「米印原子力協力承認及び核不拡散強化法」、米議会通過
- 10月10日
- ライス米国務長官とインドのムカジー外相、米印民生用原子力協力協定に署名
- 10月18日
- パキスタン、チャシュマの2基の新規原発建設に中国が協力と発表
- 10月20日
- 印露外相、12月(3-4日)メドベージェフ大統領訪問時に原子力協力協定に署名と発表*
- 10月22日
- 日印首脳会談、日印原子力協力先送り
*2007年1月、ロシアは、インド南部タミール・ナド州のクダンクラムに原発4基を増設することで基本合意、2008年2月、ズブコフ首相訪印の際に協力協定に仮署名している。クダンクラムには、2基のロシア製原発が建設中(2009年に運転開始予定)。最初の2基については、1992年のNSGガイドライン設定以前の契約に基づくものとしてロシアは、建設を決めた。追加4基の計画については2008年10月1日にインドを特別扱いすることでNSGが合意したのを受けて、実現に向かいつつある。
参考
- 記者の目:国際社会の核保有インド「容認」=中尾卓司 毎日新聞 2008年10月23日
- 米印原子力協定が発効 核燃料などの輸出可能に 共同通信 2008年10月10日
- 仏印が原子力協定署名 原子炉輸出、研究協力に道 共同通信 2008年10月1日
- インドへの原子力協力先送り 日印首脳会談 産経新聞 2008.10.22
- インド・クダンクラム原発増設計画に激しい反対運動 教育と研究のための南アジアコミュニティセンター(SACCER) (ノーニュークス・アジアフォーラム通信No.84)
- 「米印原子力協力及び核不拡散強化法」概略説明(英文pdf)
- Nuclear Power in India (World Nuclear Association)
- India, Russia to sign n-deal in December (IANS) 2008/10/20
日印戦略的グローバル・パートナーシップの前進に関する共同声明 外務省 2008年10月22日
19.両首脳は、原子力エネルギーが地球規模で増大するエネルギー需要に対応するための安全かつ持続可能な、汚染のないエネルギー源として重要な役割を果たしうるという認識を共有した。両首脳は、国際的な核軍縮・不拡散の取組が強化されるべきであるとの認識を共有した。また、両首脳は、核兵器のない世界の実現という共通の目標に向けた両国の取組を強化する重要性をあらためて強調した。
NSGでインドを例外扱いにすることを認めたことについての日本政府の説明
- 原子力供給国グループ(NSG)第2回臨時総会(概要及び我が国の対応) 外務省 2008年9月9日
- 事務次官会見記録 外務省 2008年9月8日
- 米印原子力協定へのわが国の対応に関する質問主意書 藤末健三議員 2008年10月7日回答