核情報

2007.11.27

インド、IAEAと米印原子力協力関係の交渉開始──各地自治体12月議会、核拡散阻止の最後のチャンス

インドと国際原子力機関(IAEA)は、11月21日、米印原子力協力協定の実施に必要な保障措置(査察)協定についての交渉を開始することで合意しました。この結果、先週始まった交渉が一気に米印協定実施への道を切り開く可能性が出てきました。全国各地の12月議会は、このような動きを阻止するための意見書を提出する最後のチャンスになるかもしれません。

インド側が要求している「インド限定の保障措置」の中身にもよりますが、交渉は数週間で終わって、来年1月にはIAEAの緊急理事会が招集されて保障措置協定が承認され、続いて、原子力供給国グループ(NSG)の協議グループ会合、NSG緊急総会などが招集され、米印原子力協力協定の実施が認められる可能性も出てきました。

もちろん、たとえ、保障措置協定の交渉が終わっても、さらに手続きが必要ですから、自動的に米印協力協定が実施されるわけではありませんが、事態が急速に展開してしまう可能性があり、12月議会で各地の米印原子力協力協定批判の声を政府に届けることが極めて重要です。

米印協定が実施されるには、

  1. インドとIAEAが保障措置協定を結ぶこと、
  2. この協定と米印協定の内容を日本を含む45ヶ国からなる原子力供給国グループが承認すること、
  3. これら手続きを経た協定を米国議会が承認すること

が必要です。

インドでは、シン政権の閣外協力左翼4政党が対米追従批判の立場から協定を批判してきています。11月16日の話し合いで左翼側はシン政権がIAEAと交渉をすることを認めましたが、できあがった保障措置協定については再度話し合うことになっています。

NSGで各国がどのような立場をとるかは予断を許さない状況です。

中国の温家宝首相首相は、11月21日、シンガポールで開催された東アジア・サミットのためにシンガポールを訪問した機会を利用してインドの新首相と会談した際、NSGで米印原子力協力協定に反対しないことを表明しました。インド政府が発表した文書(英文)には次のようにあります。

「両首相は、気候変動やエネルギー安全保障などの世界的問題に関する地域的及び多国間の場において存在するさらなる協力の可能性について話し合った。温首相は、インドとの間の国際的民生用原子力協力について前向きで、これを支持する立場を示した。」

一方、朗報は11月24日のオーストラリアの選挙で労働党が勝利したことです。敗れたハワード政権は8月16日に、米印原子力協力協定が実施されることになれば、オーストラリアも、そのウランをインドに輸出する用意があると発表し、協定支持の立場を明らかにしましたが、労働党は、政府のこのような姿勢を批判してきました。しかし、NSGの場で一国だけで米印協定反対の立場をとるのは簡単ではありません。

日本政府がNSGでオーストラリア政府などと協力して米印原子力協力協定批判の声をあげるように各地の協定批判の声を政府に届けてください。

9月議会用の意見書陳情書案を少し短くするとともにCTBTについての言及を追加した意見書陳情書案と「意見書背景説明」とを下に載せてありますので、ご活用ください。

これまで確認できているだけで、以下の20の議会が意見書を採択しています。鹿児島県の突出した数字は、力を入れれば各地で採択される可能性が高いことを示しています。

参考:



南アジアの核軍拡競争を防ぐため原子力供給国グループ(NSG)での慎重な議論を求める意見書(案)

米印両国が7月20日に合意した「米印原子力協力協定」は、核不拡散条約(NPT)に加盟せず、核実験を行い核兵器計画を進めているインドに対し米国が原子力関連輸出を行うことを宣言しています。しかも、発表された協定文は、インドが核実験を行った際には協力を停止するとの条項を協定に入れることを定めた米国の法律をも無視したものとなっています。

この協定が実施されると、インドの核兵器用材料の生産能力が上がり、印パの核軍拡競争に拍車がかかる可能性があるだけでなく、NPT体制そのものの崩壊をももたらしかねないと懸念されています。米印の協力が実施されるには、日本も加盟している原子力供給国グループ(45ヶ国)による規則の変更が必要ですから、国際的にも被爆国日本の立場が注目されています。

国連安全保障理事会は、1998年に印パ両国が核実験を行った際、決議1172号(1998年6月6日)を全会一致で採択し、インド及びパキスタンに対し、「ただちにその核兵器開発計画を中止」するよう要求すると同時に「核兵器用の核分裂性物質のすべての生産を中止する」よう求めています。決議はまた、「すべての国に対し、インド及びパキスタンの核兵器計画に何らかの形で資する可能性のある設備、物質及び関連技術の輸出を防止するよう奨励」しています。

日本はこれまで被爆国として核兵器の不拡散と廃絶を率先して求めてきました。そのような意味からも、NSGにおいて、決議1172号などを考慮して、慎重な議論を主導することが日本の国際的な使命と言えます。

よって、○○議会は核廃絶をこれ以上困難なものにしないためにも、南アジアの核軍拡競争を防ぐべく、日本が原子力供給国グループ(NSG)での慎重な議論を主導するとともに、これまでの包括的核実験禁止条約(CTBT)発効促進に向けた努力を続け、未署名の印パ両国に署名・批准を強く働きかけるよう求めます。

○○市(町・村・区)は「非核都市の宣言」を行っており、その意味から、日本の原子力関連産業も関わる可能性のある対インド原子力関連輸出について慎重を期すよう要請するのは当然の義務と考えます。

 以上、地方自治法第99条の規定に基づき意見書を提出する。

○○議会議長

 提出先 内閣総理大臣、外務大臣 あて



南アジアの核軍拡競争を防ぐため原子力供給国グループ(NSG)での慎重な議論を求める陳情

○○議会議長 様

2007年○月○日

 住所

 氏名

主旨

核不拡散条約(NPT)に加盟せず、核実験を行い核兵器計画を進めているインドに対する原子力関連輸出を認めるための議論が原子力供給国グループ(NSG)で予定されている件について、南アジアの核軍拡競争を防ぐためにグループ内での慎重な議論を求める意見書を国に提出してください。

理由

米印両国が7月20日に合意した「米印原子力協力協定」は、核不拡散条約(NPT)に加盟せず、核実験を行い核兵器計画を進めているインドに対し米国が原子力関連輸出を行うことを宣言しています。しかも、発表された協定文は、インドが核実験を行った際には協力を停止するとの条項を協定に入れることを定めた米国の法律をも無視したものとなっています。

この協定が実施されると、インドの核兵器用材料の生産能力が上がり、印パの核軍拡競争に拍車がかかる可能性があるだけでなく、NPT体制そのものの崩壊をももたらしかねないと懸念されています。米印の協力が実施されるには、日本も加盟している原子力供給国グループ(45ヶ国)による規則の変更が必要ですから、国際的にも被爆国日本の立場が注目されています。

国連安全保障理事会は、1998年に印パ両国が核実験を行った際、決議1172号(1998年6月6日)を全会一致で採択し、インド及びパキスタンに対し、「ただちにその核兵器開発計画を中止」するよう要求すると同時に「核兵器用の核分裂性物質のすべての生産を中止する」よう求めています。決議はまた、「すべての国に対し、インド及びパキスタンの核兵器計画に何らかの形で資する可能性のある設備、物質及び関連技術の輸出を防止するよう奨励」しています。

日本はこれまで被爆国として核兵器の不拡散と廃絶を率先して求めてきました。そのような意味からも、NSGにおいて、決議1172号などを考慮して、慎重な議論を主導することが日本の国際的な使命と言えます。

よって、核廃絶をこれ以上困難なものにしないためにも、南アジアの核軍拡競争を防ぐべく、日本が原子力供給国グループ(NSG)での慎重な議論を主導するとともに、これまでの包括的核実験禁止条約(CTBT)発効促進に向けた努力を続け、未署名の印パ両国に署名・批准を強く働きかけるよう求める意見書を内閣総理大臣及び外務大臣あてに提出されるよう陳情いたします。



意見書背景説明

米印両政府は、8月3日、米印原子力協力協定の全文を発表しました。予想通り、インド側の主張に大幅に譲歩したもので、核実験・核爆発という言葉は登場しませんが、協定は、インドが核実験を行うことを認めるととれる内容となっています。これは昨年12月に議会が定めた米印原子力協力法の規定を無視するものです。

米国原子力法(AEA)」は、核不拡散条約(NPT)の規定する核保有国以外の国(=非核保有国)が、原子力活動全てを国際原子力機関(IAEA)の保障措置下に置いていない場合には、その国との原子力協力を許さないと定めています。2006年米印原子力協力法は、この輸出規制において、インドだけを例外扱いにしようというものです。その法律が、インドが次に核実験を行った場合には協力は終了するとしています。5月14日に米国の14人の専門家が米国の上下両院の議員に対し出した書簡は「いかなる誤解も残らないようにするために、米印原子力協力協定は、インドによる核実験の再開は、米国の原子力援助の終焉をもたらすと明確に述べなければならない。」と訴えていました。

ところが、発表された協定文では、核実験・核爆発という言葉を避けながら、協定を終了させるには1年前の通告が必要であり、終了を求める原因となる行為(核実験)が安全保障状況や他国(パキスタン・中国?)の行為(実験)に対する反応であるかどうかを考慮すべきであるとし、さらに、協力を終了させる行為は両国の関係に重要な影響を与えることを考慮すべきである強調する内容となっています。

協定文には、その上、核実験を行った結果として米国が核燃料供給を中止する措置をとった際には、米国は他の国に働きかけて燃料を供給するようにすると解釈できる文言も入っています。そして、核実験に対する制裁措置として燃料供給が途絶える場合に備えて、核燃料の戦略的備蓄措置をとることを米国が支持すると解釈できる文言もあります。

燃料供給などの面での米国の協力と引き替えにインドが3月2日に約束したのは、基本的に、22基の運転中及び建設中の原発のうち14基を国際原子力機関(IAEA)の保障措置下に置くということだけです。しかも、6基は外国製であるため元々保障措置が義務づけられているものです。つまり、国産原子炉16基のうち、半分の8基だけを2014年までに保障措置下に置くというのが、インドの「譲歩」の中身です。軍事用プルトニウム生産炉に加えて、国産の残りの8基は、保障措置の対象とせず、軍事用のプルトニウム生産に使う可能性を残し、新たに建設される原発については、保障措置下に置くかどうかインドが好きなように決める、高速増殖炉は、保障措置下に置かないということになっています。発電用のウランの供給について心配がなくなれば、インドは限界のある自国のウラン資源を核兵器用だけに使うことができるようになり、それが核兵器の増強を促すことになる恐れがあります。

協定は、インド限定の保障措置協定を結ぶとしていますが、その内容は不明です。インドが核実験をした結果、核燃料の供給が途絶えた際には、民生用原子炉を保障措置から外すことを認める内容の保障措置協定をインドは望んでいると伝えられています。そもそも、NPTに加盟せず、包括的核実験禁止条約(CTBT)に署名もせず、核兵器用の核分裂性物資の生産を続けている国の一部の原発だけ保障措置下に置くということ自体がほとんど意味が無く、IAEAの労力・資金の無駄遣いとさえいえますが、インドの要求をそのまま認める保障措置となれば、保障措置という言葉にまったく値しないものとなるでしょう。CTBTの批准を拒否している米国としてはあまり大きなことは言えないでしょうが、自らもCTBTを批准すると共にインドにもCTBTの署名・批准、核兵器用核分裂性物質の生産中止を迫ることが先決でしょう。

協定が発効するには、インドと国際原子力機関(IAEA)の間の保障措置協定の締結、日本も含めた「原子力供給国グループ(NSG)」の規則の変更、米国上下両院での支持決議などが必要です。インドの側では、インドの核開発に反対する立場、米国との戦略的パートナーシップに反対し外交の独立性を求める立場から協定反対の声も上がっていますが、インドと国際原子力機関(IAEA)が、11月21日に保障措置(査察)協定についての交渉を開始することで合意した結果、状況が一気に進む可能性がでてきました。インド側が要求している「インド限定の保障措置」の中身にもよりますが、交渉は数週間で終わって、来年1月にはIAEAの緊急理事会が招集されて保障措置協定が承認され、続いて、原子力供給国グループ(NSG)の協議グループ会合、NSG緊急総会などが招集され、米印原子力協力協定の実施が認められる可能性もあります。各地の12月議会での行動などを通じて、日本政府が正しい判断をするよう働きかけていくことが極めて重要です。


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