5年に一度の「核不拡散条約(NPT)」再検討会議の開催(4月27日から5月22日)が迫っているので、核軍縮の動向について整理しておきましょう。以下に紹介するデータは、核兵器の数を追い続けている専門家として著名な「米国科学者連合(FAS)」のハンス・クリステンセンと「自然資源防護協議会(NRDC)」のロバート・ノリスのものです。2人のデータは、核問題専門誌『ブレティン・オブ・ジ・アトミック・サイエンティスツ』の連載記事「ニュークリア・ノートブック」、FASのサイト、「ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)」の年鑑に載っています。
参考
- 米国の核抑止政策と日本の核政策 ハンス・クリステンセン (2015年3月6日原水禁主催の会合での講演資料:2015年の新しい推測データを含む)
- オバマ大統領核軍縮の実績──残りの2年と日本の役割
- NPT特集(生物・化学・大量の通常兵器の攻撃を核で抑止して欲しい日本)
鈍化する核削減
国名 | 戦略核 | 戦術核 | 予備 / 非配備 | 保有核 | 総数 |
---|---|---|---|---|---|
ロシア | 1800 | 0 | 2500 | 4300 | 8000 |
米国 | 1920 | 184 | 2661 | 4765 | 7315 |
フランス | 290 | ─ | ? | 300 | 300 |
中国 | 0 | ─ | 250 | 250 | 250 |
英国 | 160 | ─ | 665 | 225 | 225 |
イスラエル | 0 | ─ | 80 | 80 | 80 |
パキスタン | 0 | ─ | 100 -120 | 100 -120 | 100 -120 |
インド | 0 | ─ | 90 -110 | 90 -110 | 90 -110 |
北朝鮮 | ─ | < 10 | < 10 | < 10 | |
合計(概数) | 4100 | 180 | 5800 | 10100 | 16300 |
上の表にあるように2人は、2014年12月現在の世界の核弾頭の総数を約1万6300発と推定しています(この他、米国は核弾頭のプルトニウムの芯<ピット>の部分を2万発近く保管)。そのうち予備なども含めた軍事用の「保有核」が約1万100(残りは解体待ちの退役核)、運用状態にある「配備核」は約4000発以上、数分で発射可能な「高い警戒態勢」(ハイアラート)状態に置かれているものが米ロ合わせて約1800発という状況です。
(警戒態勢については次を参照:核のない世界と一触即発の核ミサイル発射態勢解除)
下の図は、2人が2013年に作成した表に米政府が2014年4月29日に公表した数字と、2人の2014年と2015年(14年末)のデータを挿入して作ったものです(棒グラフの先端のシミのようなのが米ロ以外の国のものです)。世界の軍事用保有核数の減り方の鈍化が見えます。前回の再検討会議開催時の約1万1200発から約1万100発に減っただけです。米国政府が発表した09年から13年の各年の9月末現在の米国軍用保有核数はそれぞれ、5113、5066、4897、4881、4804。2人は14年末の数字を4765と推定します。09年からの米国の削減数はわずか350発程度ということです。
クリステンセンが2012年12月に発表した論文(pdf)(11ページ)に載っている図2は、米ロそれぞれの軍用保有核数と配備戦略核数の推移を示しています。予測範囲は、新戦略兵器削減条約(新START)が削減の期限(2018年)から3年後の2021年に(延長合意がなければ)失効すると定めていることから21年までとなっています。上述の米国のデータ発表などを反映させれば若干数字は異なってきますが、大体の傾向はこの通りです。両国が大幅削減するか一方的削減を実施しないとこの状況が続きます。退役核も含めると世界の核兵器の約94%を保有する両国の数字が大きく変わらなければ世界の総数も変わりません。

米国の核抑止政策と日本の核政策 ハンス・クリステンセン
(2015年3月6日原水禁主催の会合での講演資料:2015年の新しい推測データを含む)
2015年3月10日 共同通信インタビュー記事(中国新聞↓、四国新聞→)