米国から研究用として日本に提供されたプルトニウムの返還を3月24−25日にオランダで開かれる「核セキュリティー・サミット」で日米両国が発表することになりそうだと報道されています。日本原子力研究開発機構(JAEA)の東海研究開発センターにある「高速臨界実験装置(FCA)」で保管されている返還対象のプルトニウム約300kgの多くは、とりわけ核兵器の製造に適した兵器級で、厳重な警備体制のない研究所にこのような物質が置かれていることについて以前から懸念されていました。同研究施設には兵器級高濃縮ウラン約200kgもあります。
これらの核物質を返還するようにとの米核管理研究所の故ポール・レベンサール所長や米プリンストン大学のフランク・フォンヒッペル名誉教授を初めとする核不拡散専門家等の呼びかけがやっと実現しそうです。公式発表を前に、関連情報を見ておきましょう。ここで忘れてならないのは、日本は、返還対照となるプルトニウムの他に日本の使用済み燃料の再処理で分離された核兵器利用可能プルトニウム約44トンを持ちながら、年間8トンものプルトニウム分離能力を持つ六ヶ所再処理工場の運転を開始しようとしていることです。返還プルトニウムと主な違いは、兵器級かどうかよりも、米国が返還要求をできるものであるかどうかにあると言っていいかもしれません。
参考
- 第3回ハーグ核セキュリティ・サミット 外務省
- 安倍総理大臣のハーグ核セキュリティ・サミット出席等(平成26年3月23日〜26日) 外務省
- 日本原燃、再処理工場2014年10月完工予定発表 大臣、それでプルトニウム・バランスどうなるんですか? 核情報
- 【米、プルトニウム返還を要求】オバマ政権が日本に 300キロ、核兵器50発分/背景に核テロ阻止戦略 共同 2014年1月26日
- 政府、米にプルトニウム返還へ 不拡散アピール 共同 2014年2月26日
- 米にプルトニウム返還 政府調整、核不拡散に配慮 日経新聞 2014/2/26 21:23
- プルトニウム:米国に返還へ 研究用の高濃度330キロ 毎日新聞 2014年02月26日
- プルトニウム返還で米と協議中=菅官房長官 ロイター 2014年 02月26日
- 中国、日本に高濃縮ウランの説明要求─中国メディア Record China 3月1日(土)18時49分配信
- 問題になっている核物質は?
- Fast Critical Assembly(FCA:高速炉臨界試験装置、高速炉臨界集合体)とは?
- FCAが完成したのは?
- FCAでは最初からプルトニウムを使っていたか?
- 「我が国のプルトニウム管理状況」表1にある他の研究施設は?
- 高速炉臨界実験装置(FCA)のプルトニウムの提供国は?
- 米国の資料が示す米提供量は?
- 米英提供プルトニウムの形状及び量は?
- 米国からの輸入プルトニウム量は?
- 英仏からの輸入データ量は
- FCAで問題はプルトニウムだけか?
- なぜ提供されたプルトニウムは減っていないのか
- 東海村に置かれたプルトニウムについて懸念表明の例は?
問題になっている核物質は?
日本原子力研究開発機構(JAEA)東海村研究開発センター原子力科学研究所高速炉臨界実験装置(FCA)のプルトニウム331kg(核分裂性293kg)
長崎型40発分以上。
下の表の研究開発施設の部分の一番上にある高速炉臨界実験装置。
原子炉施設等における保管プルトニウム・装荷プルトニウムの内訳 原子炉名等 保管プルトニウム(注1) 装荷プルトニウム(注2) (参考)炉内挿入済みの分離プルトニウム-炉
外取出済みの照射済みプルトニウム(注3)分離プルトニウム量 分離プルトニウム量 (kgPu) うち、核分裂性
プルトニウム量
(kgPu)(kgPu) うち、核分裂性
プルトニウム量
(kgPu)(kgPu) うち、核分裂性
プルトニウム量
(kgPu)日本原子力研究開発機構 常陽 134 98 - - 261 184 もんじゅ 31 21 - - 1,533 1,069 東京電力(株) 福島第一原子力発電所3号機 - - - - 210 143 柏崎刈羽原子力発電所3号機 205 138 - - - - 中部電力(株) 浜岡原子力発電所 4号炉 213 145 - - - - 関西電力(株) 高浜発電所3号炉 - - - - 368 221 高浜発電所4号炉 184 110 - - - - 四国電力(株) 伊方発電所3号機 198 136 - - 633 436 九州電力(株) 玄海原子力発電所3号機 160 103 - - 1,317 880 研究開発施設 日本原子力研究開発機構
東海研究開発センター原子力科学研究所
高速炉臨界実験装置331 293 日本原子力研究開発機構
大洗研究開発センター 重水臨界実験装置87 72 日本原子力研究開発機構
東海研究開発センター原子力科学研究所
定常臨界実験装置及び過渡臨界実験装置15 11 その他の研究開発施設 11 9 (注1)平成24年末の量。
(注2)平成24年1月~12月に新たに装荷された量。
(注3)MOX燃料について、平成24年末までに炉内に挿入した分離プルトニウムの総量から炉外へ取出した照射済みプルトニウムの総量を差し引いたもの。平成24年末時点で、炉内に挿入中のMOX燃料の新燃料時点でのプルトニウム重量に相当。定期検査のため、炉外に一時移動し保管されている場合もある。参考データ(平成24年末) 原子炉施設等に貯蔵されている使用済燃料等に含まれるプルトニウム 133,352gPu
再処理施設に貯蔵されている使用済燃料に含まれるプルトニウム 26,464kgPu
放射性廃棄物に微量含まれるプルトニウム等、当面回収できないと認められているプルトニウム 147kgPu
我が国のプルトニウム管理状況 2012年末現在(PDF形式:506KB)2013年9月11日 原子力委員会資料 4ページ
Fast Critical Assembly(FCA:高速炉臨界試験装置、高速炉臨界集合体)とは?
もんじゅのような高速炉の模擬実験を行うところ。
高速炉臨界集合体 (FCA)
FCAは金属プルトニウム燃料を使用しており、金属燃料高速炉模擬炉心はもとより、酸素化合物(酸化アルミニウム)、窒素化合物(窒化アルミニウム)および炭素を素材とする模擬物質と組み合わせることにより、MOX燃料、窒化物燃料及び炭化物燃料高速炉の模擬実験を行うことが出来る。
出典:核データニュース,ナンバー57(1997) FCA 実験の現状と展望(pdf)
原研・原子炉工学部・炉物理研究室 飯島進
FCAは高速炉の核特性の研究を目的とする施設です。実験は高速炉の炉心を模擬した体系で行われ、得られた実験結果は炉心設計での重要なデータとして利用されます。
集合体は水平2分割型であり、燃料装荷作業の時は分離され、原子炉運転時は密着状態になります。実験体系は原子炉燃料・模擬物質版(ウラン、プルトニウム、ナトリウム、ステンレスなど)を装填した燃料引出しを、正方形の格子管を組んだ蜂の巣状の集合体に装荷し組み立てられます。この装置は、燃料組成や炉心形状の自由度が大きく、高速炉体系のみならず、多種多様な炉心を模擬した体系の実験が可能です。
- FCA外観
- 燃料引き出し
出典:JAEA 炉物理標準コード研究グループ ― 高速臨界集合体 FCA
- 引き出し状の炉心要素を入れ替えている写真
FCAが完成したのは?
1967年初臨界。
FCAについて
経緯
1967.4 初臨界 1970〜 高速実験炉「常陽」の模擬実験 1974〜 炉心拡大工事 1975〜 高速増殖原型炉「もんじゅ」の模擬実験 1983〜 大型高速増殖炉の炉心核特性実験等 諸元表
名称 高速炉臨界実験装置(Fast Critical Assembly) 形式 水平2分割型 初臨界日 1967年4月29日 運転回数 5,000回以上 1/2格子管集合体寸法 断面 約2.8m×約2.8m,長さ約1.3m 燃料 濃縮ウラン・プルトニウム燃料 最大熱出力 2kW
出典 JAEA 臨界実験装置
2009年3月末現在
臨界回数 6,185回
通算運転時間:28,419時間20分
通算出力:171,210WH
出典 核データニュース No.93(2009) 原子力歴史構築賞 (4) 高速炉臨界実験装置(FCA) (pdf) 日本原子力研究開発機構原子力基礎工学研究部門 岡嶋成晃
*アトミカ 臨界実験装置 (08-01-03-06)によると
1998年度 高速炉用実験終了
1999年度 加速駆動システム(ADS)核変換用基礎実験開始
FCAでは最初からプルトニウムを使っていたか?
最初はウランだけを使っていた。
燃料は20%濃縮ウランの金属薄片(昭和44年より不銹鋼被覆のプルトニウム薄片)を使用し、濃縮度及び形状調整用として天然ウラン薄板、ブランケット用として天然ウラン及び劣化ウランブロックを使用する。・・・固定側と移動側の各1/2集合体は、不銹鋼製の中空角管(外形55.2x55.2x1324mm)を35行・35列積み上げたもので、この中空角管に燃料や炉心模擬物質を装てんした不銹鋼製の引き出しを装荷する。
出典 『原子炉物理実験』日本原子力学会臨界実験専門委員会 コロナ社 1964年1月20日初版、1968年8月20日再版
1974〜1975年には我が国で初めてプルトニウム燃料の使用が可能な臨界実験装置に改造された(表1)。
出典 第1回原子力歴史構築賞 (2008年度)(日本原子力学会)
高速炉臨界実験装置(FCA) 日本原子力研究開発機構(pdf)
*表1は、「1970−1974年Pu燃料入手」としている。
「我が国のプルトニウム管理状況」表1にある他の研究施設は?
これらの施設は、今回のプルトニウム返還問題には絡んでない。これらの研究施設については以下を参照
- 重水臨界実験装置 DCA(Deuterium Critical Assembly)(pdf)
2002年廃止措置開始 - 定常臨界実験装置 STACY(Static Experiment Critical Facility)
- 過渡臨界実験装置 TRACY(Transient Experiment Critical Facility)
- * 軽水臨界実験装置(Tank-type Critical Assembly)
参考:
- 臨界実験装置 JAEA
- 臨界実験装置 (アトミカ)
表1 わが国の臨界実験装置
高速炉臨界実験装置(FCA)のプルトニウムの提供国は?
英米329kg(英236kg, 米 93kg)+ 仏 2kg=合計 331kg (核分裂性293kg)
出典:池野正治氏、JAEA電話取材
*仏分がどうなるのかなど、返還計画の詳細は、オランダで発表か?
米国の資料が示す米提供量は?
米エネルギー省の資料によると、FCAに米英が提供した核分裂性プルトニウム(Pu-239及びPu241)の量は合計291.4 kg
日本原子力研究所(JAERI)の高速臨界集合体(FCA)
核分裂性物質の量 (*全量ではなく、核分裂性の同位元素のみの量)
プルトニウム
Pu-92% 231.0kg (Pu-239 + Pu-241)
Pu-81% 25.0kg (Pu-239 + Pu-241)
Pu-75% 35.4kg (Pu-239 + Pu-241)
合計 291.4kg (Pu-239 + Pu-241)
出典:米エネルギー省資料 米核管理研究所(NCI)故ポール・レベンサール所長入手
*日本原子力研究所 (JAERI)は、核燃料サイクル開発機構(JNC:旧動力炉・核燃料開発事業団=PNC:動燃)と統合再編され、2005年10月に日本原子力研究開発機構(JAEA)が設立された。
米英提供プルトニウムの形状及び量は?
主として、「引き出し」に入れる薄板状
プルトニウム板
核分裂性含有量 | 提供国 | 寸法(インチ) | 数 |
---|---|---|---|
Pu-92% | 米 | 2x4x1/16 | 1003 |
Pu-92% | 英 | 2x4x1/1 | 874 |
Pu-92% | 米 | 2x2x1/16 | 600 |
Pu-92% | 英 | 2x2x1/16 | 2875 |
Pu-92% | 米 | 2x2x1/32 | 99 |
Pu-81% | 英 | 2x2x1/16 | |
Pu-75% | 英 | 2x2x1/16 | |
Pu-75% | 米 | PuO2ーUO2ピン | 288 |
Pu-75% | 英 | PuO2ーUO2ピン |
出典:米エネルギー省資料 米核管理研究所(NCI)故ポール・レベンサール所長入手
(*インチ=25.4ミリメートル)
米国からの輸入プルトニウム量は?
1962ー1991年で113.5kg
1991年までの米国からの輸入量
kg Pu | 形態 | 年 |
---|---|---|
113.5kg | 燃料要素、酸化物、線源 | 1962−1991 |
出典 米国エネルギー省 プルトニウム:最初の50年間 (DOE/DP-0137, February 1996) (pdf) 表13(p.71)
(Federation of American Scientistsのサイトのhtml版 表13)
1962年から1991年にかけて、約114kgのプルトニウムが日本に輸出された。最大の輸送は、1969年と1970年に起きた。このとき、原子炉の燃料要素及び酸化物の形態で104kgのプルトニウムが日本に──主として、東海村の高速臨界集合体に──送られた。
同上 p.69
参考:
米国エネルギー省資料 日本原子力研究所(JAERI)の高速臨界集合体(FCA)
(核管理研究所 故ポール・レベンサール所長より入手)
英仏からの輸入データ量は
1992年末までプルトニウム購入量は、英国からが320kg、フランスからが5kg。
1993年までの英仏からの輸入量
*政府が示した下のプルトニウムの量はすべて核分裂性プルトニウムの数字
英 | 〜1992年12月31日 | 980kg (うち320kgは購入分) |
---|---|---|
仏 | 〜1992年12月31日 | 190kg (うち5kgは購入分) |
1993年1月5日あかつき丸 | 1060kg | |
仏合計 | 1250kg | |
英仏合計 | 2230kg |
出典 衆議院議員秋葉忠利君提出プルトニウムの需要と供給に関する質問に対する答弁書 1993年10月1日
FCAで問題はプルトニウムだけか?
米英は、FCAに高濃縮ウランも提供している。
90%以上の濃縮度の兵器級高濃縮ウランが約200kgある。高濃縮ウランは、これを使った広島型原爆は製造が簡単なため、核拡散の面でプルトニウムより懸念されている。今回の合意でこの高濃縮ウランも返還との情報がある。(広島型だと約4発分、長崎型の爆縮設計を使うと約8発分)
高濃縮ウラン
EU-93% 199.5kg (U-235)
EU-20% 349.9kg (U-235)
合計 549.9kg (U-235)
出典:米エネルギー省資料 米核管理研究所(NCI)故ポール・レベンサール所長入手(寸法・枚数等は元資料参照。)
参考
なぜ提供されたプルトニウムは減っていないのか
最大熱出力が2kWと低く、燃焼が無視できる程度であるため。冷却装置もない。
臨界実験装置の場合には・・・燃料の燃焼が無いに等しいので燃料の組成変化も考えなくてよい。・・・高速炉臨界実験装置(FCA)のようにプルトニウムや高濃縮ウランの保有量の多い施設では、通常査察業務量が大きい。
・・・臨界実験装置の1つのタイプでは、核燃料物質を金属被覆内に密閉した燃料小板又は燃料ピンをドロワー(引出状)に組立てたものを計量の単位体としている。・・・臨界実験装置では、燃料の燃焼は無視できる程度であるので、燃料組成は実際上不変とされ、また、一般に、安全に取り扱える。・・・高濃縮ウランやプルトニウムを金属又は酸化物の形で多量に保有している施設、例えば日本原子力研究開発機構の高速炉臨界実験装置(FCA)は、国内で最も注意を要する施設となる。
出典 研究炉と臨界実験装置を対象とする保障措置 (13-05-02-11)
参考 表2 IAEA保障措置の対象となっている日本の臨界実験装置
東海村に置かれたプルトニウムについて懸念表明の例は?
プルトニウムの主要貯蔵施設のひとつである東海村施設に武装警備員が配置されていない点についての質問に対する文部科学省の答えは、現地の必要性とリソースに関して検討したところ、このサイトでの武装警官の配置を正当化するのに十分な脅威は存在しないとの結果が得られたというものだった
出典 2007年2月26日 米大使館公電(wikileaks)