核情報

2013. 12. 10

「プルトニウム・バランスどうなるんですか」と茂木経産相
当面は乾式貯蔵設備の拡大との考えも示す

茂木敏充経済産業相は12月6日の記者会見で、原発ゼロと再処理計画続行という矛盾した政策を発表した民主党政権を批判し、「じゃあプルトニウムバランスどうなるんですか?」と問いかけました。核拡散・核セキュリティーの観点から、再処理をするなら発生するプルトニウムを消費するために原発を積極的に動かすべきだとの主張には一理あります。しかし、バランスを重視する大臣の指摘は同時に、再稼働が実現し、日本が現在保有する約44トン(核兵器5000発分以上)のプルトニウムが大幅に削減されて必要最小限の運転在庫のレベルになるまで、六ヶ所再処理工場を動かすべきではないとの論理にも繋がります。

大臣はまた、乾式貯蔵施設の整備で使用済み燃料の貯蔵能力の拡大を図るべきとの見解を示しています。乾式貯蔵導入による敷地内貯蔵容量の拡大の方向が明確になれば、使用済み燃料プールが満杯になって原発が運転できなくなるのを避けるために、使用済み燃料を六ヶ所再処理工場に送って再処理する他はないとの議論は成り立たなくなります。

大臣の発言をきっかけにしてこのような議論が広がるかどうかはマスコミや反核運動の対応にもかかっています。

平和フォーラム・原水禁ニュース用記事

以下、茂木大臣の発言の抜粋です。

茂木経済産業大臣記者会見2013年12月6日(金)録画より(数字は再生時の 分:秒)

(12:35)

現行のエネルギー基本計画では、50%以上なんです。それが、ゼロ、と。それで、新増設はしない、しかし、その一方でサイクルは進める、と。こういう事になるとじゃあ、プルトニウムバランスどうなるんですか?色んな意味でやっぱり破綻をしていたんだと思います。あの基本的に申し上げますと。それで、新増設、リプレースにつきましてどこまでどこまで記述するか、まさにご議論いただいているところでありますけれど、分科会におきまして。今回は原子力全体の位置づけをどうするかということが、議論の中心になってくる、こんなふうに考えております。そして基本的な方向につきましては、先程申し上げたとおりであります。更に申し上げると、前回の基本計画、それからエネ環において、全くこの最終処分について、現状維持であったと、そこにつきまして、新たに国が前面に出て、加速化のプロセス、今までのプロセスを見直す、我々としては相当踏み込んだ表現にこの部分はなってくる。このように考えております。

・・・

(14:22)

全体を申し上げると、これは現行の基本計画、そこからエネ環について、50%がゼロになるということですね。ゼロとしてやっていけるのかという根拠が無い。新増設はしません、一方でサイクルは回すということになると、プルトニウムバランスが崩れてくるわけです。当然。そういったことも含めて非現実的だ、とこういう表現を使わせていただきました。

・・・

(17:55)

Q: ・・通信の斉藤です。原子力をベース電源にするというお話ですけれど、自民党の公約でもある将来の原発依存度を、徐々に引き下げる、これについては基本的には変わらないという認識でよろしいでしょうか?

それで結構です。原発依存度は、可能な限り、低減をしていく、その公約は変わりません。

(18:20)

Q: TBSの佐藤です。エネルギー基本計画について伺いますが、原発を巡る議論の中で、基本政策分科会の委員からですね、高レベル放射性廃棄物の処分地が先にないと、原発の再稼働というのもすべきではないのではないかという意見もあります、処分地の制定に向けて、国が前面に出てくる、という方針転換をするという姿勢を示すことで、先行する形で再稼働があったとしても、問題がないというのが政府の方針でしょうか?

(18:55)

必ずしも、この再稼働の問題と、最終処分の問題、完全にリンクして考える問題ではない、どちらかがないからどちらが進まないという問題ではない、と思っております。例えば、すでにですね、17000トンの使用済み燃料があるわけでありまして、再稼働する、しないにかかわらず、これをどう処理するかという問題は、考えていかなければいけない、こんなふうに思っております。

当面どうするか、いうことで考えると、おそらくですね、乾式の貯蔵施設の整備、まあこういった形でですね、使用済み燃料の貯蔵能力の拡大、いうことも当面の問題としては、考えていかなければならない、ただ、最終処分の問題をきちんとやる。しかしこれまで10年間進んでこなかった。こういう現状を見たらば、民主党政権時代は2回にわたります戦略の中で、全く触れてきませんでしたけれど、我々としては、国がですね、この問題について、全面に出て解決すべく、新しいスキームを作っていくつもりであります。


日本原燃、再処理工場2014年10月完工予定発表
 大臣、それでプルトニウム・バランスどうなるんですか?

茂木敏充経済産業相は12月6日の記者会見で、原発ゼロと再処理計画続行という矛盾した政策を発表した民主党政権を批判し、「じゃあプルトニウム・バランスどうなるんですか?」と問いかけました。再処理で分離されるプルトニウムは元々はもんじゅのような高速増殖炉の初期装荷燃料にして、燃やしながらさらにプルトニウムを生み出す「夢のサイクル」を実現するためのものでした。しかし、この計画が挫折したため、日本は国内に約10トン、英仏に34トン、合計44トンものプルトニウムを抱えています。「国際原子力機関(IAEA)」の計算方法を使うと、核兵器5000発分以上になります。これを減らすために考案されたのが、普通の原子力発電所で「プルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)」として消費するプルサーマル計画です。ところが原発をゼロにするとプルトニウムが消費されない。その一方で再処理は続ける。「じゃあプルトニウム・バランスどうなるんですか?」というのは、もっともな問いです。

米国も心配する日本のプルトニウム

米国も日本のプルトニウムの蓄積について心配しています。鈴木達治朗原子力委員会委員長代理が4月22日の同委員会会合で同月中旬に米国で会った二人の高官の発言を次のように紹介しています。

トーマス・カントリーマン国務省次官補「核燃料サイクルをめぐって現在日本で行われている議論について、核不拡散や原子力技術の観点から、非常に高い関心を持っている。特に、MOX燃料を使用する原発が存在せず、その見通しもない中で、六カ所再処理施設を稼働することは、米国にとって大きな懸念となりうる。特にイランの核問題や米韓原子力協力の問題に影響を及ぼすことで、米国にとっても困難な事情につながる可能性がある。日本が、経済面・環境面での理由がないままに再処理活動を行うとすれば、これまで日本が不拡散分野で果たしてきた役割、国際社会の評価に大きな傷が付く可能性もあり、状況を注視している」

ダニエル・ポネマン米エネルギー省副長官「MOX燃料を装荷して、プルトニウムを消費できる原子力発電所がどれくらい速やかに立ち上がるかを大きな関心をもって注視している。今後、消費する予定がないまま、再処理により新たな分離プルトニウムのストックが増えることにならないか大いに懸念を有している」

また、オバマ大統領は、昨年3月、核セキュリティー・サミットで韓国を訪れた際、外国語大学校での演説で次のように述べています。各種の措置により「国際社会は、テロリスト達が核物質を入手するのをますます難しくした。これは各国を安全にした。しかし、我々は幻想を抱いてはいない。我々は、核物質──何発もの核兵器に十分な量──が未だに適切な防護のないまま貯蔵されていることを知っている。我々は、テロリストや犯罪集団が、今も、核物質を、そして、ダーティーボム用に放射性物質を、手に入れようとしていることを知っている。我々は、ごく少量のプルトニウム──リンゴほどの大きさ──が何十万人もを殺傷し、世界的危機をもたらしうることを知っている。核テロリズムの危険性は、世界の安全保障にとって最大の脅威の一つであり続けている。・・・新しい世代の科学者や技術者が直面する最大のチャレンジの一つは、燃料サイクルそのものである。我々は、みんな、問題を理解している。原子力エネルギーを我々に与えてくれるプロセスそのものが、各国やテロリストによる核兵器入手を可能にしうるということだ。しかし、分離済みプルトニウムのような我々がテロリストの手に渡らぬようにしようと試みているまさにその物質を大量に増やし続けることは、絶対にしてはならない」

大臣、それでプルトニウム・バランスどうなるんですか?

原子力発電ゼロを想定せず、早期再稼働を目指す方針にすれば再処理工場運転計画維持政策との間に矛盾はなくなると大臣は言いたいのでしょう。1999年以来ヨーロッパから送られてきたMOX燃料は合計約4.4トン。このうち、実際に原子炉に装荷されたのは約2.5トン。残りの約2トンは原子炉のプールに保管されたままです。ヨーロッパにはまだ34トン残っています。日本原燃は来年10月の工場完成を目指す方針と各紙が報じました。MOX装荷計画のある原子炉の再稼働・MOX装荷が遅れる中、年間使用済み燃料処理能力800トンの六ヶ所再処理工場が動き出せば、毎年約8トンの割合でプルトニウムが増えることになります。大臣、それでプルトニウム・バランスどうなるんですか?

日本の未照射プルトニウム(2012年末)単位:トン
英国保管17.1
フランス保管17.9
ヨーロッパ保管小計35.0
– 六ヶ所硝酸プルトニウム等
または酸化プルトニウム
3.6
– 東海再処理施設硝酸プルトニウム等
または酸化プルトニウム
0.8
– 東海燃料加工施設の酸化プルトニウム、
加工中、または製品のプルトニウム、
または、常陽、もんじゅ、高速臨界実験
施設等に貯蔵中の未照射燃料
4.0
– フランスからの未照射MOX燃料内1.0
国内保管小計9.3
合計44.2
日本の未照射のプルトニウム(2012年末現在)四捨五入の関係で合計は正確には一致しない。
2012年末にフランスにあったプルトニウムの内、0.9トンが2013年にMOXのかたちで日本に送られた。
また、0.65トンがドイツのものとして名義が変更され、代わりに、
英国にあったドイツのプルトニウム0.65トンが日本のものに名義変更された。

参考


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