核情報

2013. 2. 4 

「乾式貯蔵先進国」ドイツ──故高木仁三郎氏のメッセージ

ドイツは、2011年8月6日に原子力法を改正して2022年末までに原子力発電を完全に停止することを決定して注目を浴びています。しかし、原子力発電で発生する使用済み燃料の「乾式貯蔵」先進国ドイツについてはあまり知られていません。ドイツの使用済み燃料管理政策は、炉から取り出し後、5年以上プールで冷やした使用済み燃料をCASTOR V(写真)という鋳鉄製容器に入れ、原発敷地内の貯蔵建屋で保管して、直接処分場の完成を待つというものです。冷却は、空気の自然対流を利用します。CASTORは「放射性物質貯蔵・輸送兼用キャスク」という英語名の頭文字。Vは、取り出し後5年を意味します。




  1. 敷地内乾式貯蔵を義務付けた社民と「緑」の政策
  2. 発端となったゴアレーベン再処理工場の議論
  3. 敷地内乾式貯蔵の推進役となったメルケル環境大臣
  4. 再処理中止・脱原発政策と敷地内乾式貯蔵導入の流れの整理
  5. 各原発の敷地内乾式貯蔵導入状況
  6. 乾式貯蔵推進に重要な役割を果たしたエコ研究所
  7. 段階的廃止はしなくとも再処理停止は可能──エコ研究所ザイラー氏、福島県に
  8. 故高木仁三郎原子力資料情報室代表、ザイラー氏との共同論文で乾式貯蔵の重要性指摘
  9. 「国際MOX燃料評価プロジェクト」報告書の提言──乾式中間貯蔵の協議開始
  10. 待ったなし──稼働していなくてもプールは危険、早急に議論・決定を
  11. 参考



敷地内乾式貯蔵を義務付けた社民と「緑」の政策

原発敷地内での乾式貯蔵義務付けは、1998年の選挙で登場した社会民主党(SPD)と90年連合・緑の党の連立政権が、2000年6月14日に電力業界との間で達した合意(翌年6月11日最終署名)に基づくものです。合意には

  • 各原子炉の寿命を32年とする計算式による原子力の段階的廃止
  • 2005年7月1日以降の使用済み燃料の英仏再処理工場への輸送禁止
  • ゴアレーベンでの最終処分場用探査作業の一時停止

などとともに

  • 使用済み燃料の各原発の敷地内あるいはその近傍での乾式貯蔵施設の建設(遅くとも5年以内に実現)

が含まれていました。

中間貯蔵施設の建設が間に合わない5つの原発では、1〜2ヵ月で建設可能な暫定貯蔵施設(5年間貯蔵可)の建設が認められました。コンクリートの箱に容器を1基ずつ横置きするこのモジュール方式は、福島第一原子力発電所の4基の原子炉の使用済み燃料を冷却プールから降ろすための作業の一貫として採用されることになりました。(福島第一原子力発電所共用「プール内にある燃料の移動計画」

メルケル保守政権は、この合意に基づく2002年4月22日施行の原子力法改正を10年12月8日に再改正して原子炉の寿命延長を図った後、福島事故の後の11年8月6日に再々改正して、22年末までの原子力廃止を決め、脱原発を決定的なものにしたのです。

発端となったゴアレーベン再処理工場の議論

大量の使用済み燃料のプール保管は、テロなどで冷却材喪失事故が起きる可能性があり危険だという点が注目されたのは、ニーダーザクセン州ゴアレーベンの再処理工場建設計画を巡る議論の中でのことでした。同州のアルブレヒト首相(キリスト教民主同盟=CDU)は計画に関する国際的科学者の公開討論会を79年3月末から1週間にわたって開いた後、同年5月16日に出した建設許可拒否の声明で、工場の使用済み燃料受け入れプールの危険性を主要な理由の一つとして挙げました(プールの容量は六ヶ所と同じ3000トンの予定でした)。

アルブレヒト首相は、「ドイツ再処理会社(DWK)」の設計概念を現在の形では、許可できない」として、「使用済み燃料の受け入れ施設を本来的に安全なものとすること、すなわち、冷却が技術的装置の機能あるいはヒトの信頼性に依拠しないものとすること」を要求し、次のように述べました。

「使用済み燃料の数十年の長期的中間貯蔵を安全な形で行うことが技術的に可能であることが確認された」。ウランの有効利用という「再処理の真の利点は高速増殖炉との組み合わせでのみ実現可能」であり、カルカーでの高速増殖炉の試験の結論が出るまで、再処理の建設を急ぐことはない。(カルカー高速増殖炉は、1985年に「完成」しながら、発電しないまま放棄され、後に、ホテル付きテーマパークに姿を変えました。)

後にバイエルン州で計画されたヴァッカースドルフ再処理工場では、受け入れ施設に乾式が採用されましたが、1989年4月、電力業界がコスト高を理由に計画を放棄し、ドイツの再処理は英仏委託だけとなりました。

敷地内乾式貯蔵の推進役となったメルケル環境大臣

最終処分場、再処理工場、MOX燃料工場などを含むゴアレーベンの総合計画は変更され、再処理工場の受け入れプール施設は、乾式中間貯蔵施設へと姿を変えました。同じ70年代半ばに提案されたノルトライン・ヴエストファーレン州アーハウスのプール式中間貯蔵施設計画も乾式に変わりました。ゴアレーベンとアーハウスの両サイトを所有していた電力会社の共同設立会社がプール式では政府の要求する安全基準を満たせないと判断したためです。(この決定を行ったのは、再処理会社DWK社です。DWK社との契約の下に、世界初の輸送・貯蔵兼用キャスク技術を開発し、再処理政策をとっていない国々での乾式貯蔵普及の先頭に立ったのは、同じく電力会社が共同で設立したGNS社です。実は、DWK社での乾式移行の決定を行ったクラウス・ヤンバーグ氏は、1980年にGNS社に移り、同社で輸送・貯蔵兼用キャスクの開発を指揮しました。ゴアレーベンとアーハウスの両施設の所有は、国内再処理の放棄が確定した後、DWKが解体されたため、GNS社に移りました。)

上述の2施設は現在、主に英仏での再処理で発生した高レベル廃液のガラス固化体や特殊な炉の使用済み燃料などの中間貯蔵施設となっていますが、元々は大量の軽水炉の使用済み燃料の貯蔵もするはずでした。計画を変えさせたのは激しい輸送反対デモと輸送容器汚染発覚です。1998年5月、ドイツから英仏への使用済み燃料輸送用容器が両国への輸送時と、ドイツへの返還時に汚染されていたことが明らかになり、メルケル環境大臣(当時)が、英仏への輸送とこれら2施設への輸送を、改善策実施まで禁止すると発表しました。これが敷地内乾式貯蔵の発端となりました。例えば、3基のCASTOR Vをすでに敷地内に抱えていたネッカーヴェストハイム原発では、この時、いずれ輸送が再開されるとの前提の下に、暫定貯蔵施設の計画に着手しました。この後、9月選挙の結果、社民・「緑」の連立政権が成立し、脱原発、再処理用輸送中止とセットの形で敷地内乾式貯蔵義務付けが決まったのです。

再処理中止・脱原発政策と敷地内乾式貯蔵導入の流れの整理

この流れを整理すると次のようになります。

1976年11月
連邦政府、ニーダーザクセン州に対し、最終処分場を含む総合核燃料センター(管理センター)の同州での受け入れを要請
1977年2月22日
ニーダーザクセン州、受け入れの用意があると発表
1977年3月31日
再処理会社DWK、ゴアレーベンでの管理センター建設許可を申請
1979年3月28日
ゴアレーベン国際公聴会(4月3日まで)
1979年5月16日
ニーダーザクセン州アルブレヒト首相政策宣言(再処理工場拒否)
1989年4月
電力会社ヴァッカースドルフ放棄
1989年6月
西独政府ヴァッカースドルフ計画中止
1994年
直接処分を可能とする原子力法改正 
1998年5月
コール政権メルケル環境相、使用済み燃料輸送凍結
1998年9月27日
ドイツ連邦議会選挙
1998年10月17日
社会民主党(SPD)と90年連合・緑の党、脱原発合意
1998年10月20日
社民党・緑連立協定調印
2000年6月14日
政府・電力業界 非公式合意(pdfドイツ語)
2001年6月11日
政府・電力業界 公式合意署名
2001年12月14日
原子力法改正下院承認
2002年4月22日
原子力法改正施行

各原発の敷地内乾式貯蔵導入状況

各電力会社が、正式な義務付けを待たず、1998年の連立政権誕生を受けて、敷地内乾式中間貯蔵の申請をしていることが、下の表から分かります。申請から完成まで6-7年程度です。その期間にプールが満杯になってしまいそうな原子力発電所では、暫定貯蔵設備(仮起き場)を設けて橋渡しにしました。日本でもその気になれば短期間でこの方式が導入できることを示しています。なお、リンゲン・エムスランド原子力発電所での乾式貯蔵施設の使用開始が他の原子力発電所と比べて早いのは、同発電所が申請した1998年の時点では、環境影響評価が義務付けれられていなかったため、申請と同時に建設を開始できたからです。

ドイツ原子力発電所敷地内乾式中間貯蔵施設
(*は暫定貯蔵施設を申請した原子力発電所)
Site申請許可運用開始
Biblis*1999年12月23日2003年9月22日2006年5月18日
Brokdorf1999年12月20日2003年11月28日2007年3月5日
Brunsbüttel*1999年11月30日2003年11月28日2006年2月5日
Grafenrheinfeld2000年2月23日2003年2月3日2006年2月27日
Grohnde1999年12月20日2002年12月20日2006年4月27日
Gundremmingen2000年2月25日2003年12月19日2006年8月25日
Isar2000年2月23日2003年9月22日2007年3月12日
Krümmel*1999年11月30日2003年12月19日2006年11月14日
Lingen/Emsland1998年12月22日2002年11月6日2002年12月10日
Neckarwestheim*1999年12月20日2003年9月22日2006年12月6日
Philippsburg*1999年12月20日2003年12月19日2007年3月19日
Unterweser1999年12月20日2003年9月22日2007年6月18日

出典:独「施設・原子炉安全協会(GRS)」の核情報へのメール及び「使用済燃料管理及び放射性廃棄物管理の安全に関する条約」
第4回会合(2012年5月)ドイツ報告書(英語, pdf) 262-263ページ

ドイツ原子力発電所敷地内暫定貯蔵施設
原子力発電所申請許可使用期間
Biblis2000年11月30日2001年12月20日2002年3月7日-2006年9月12日
Brunsbüttel2000年8月15日計画キャンセル
Krümmel2000年8月15日2003年6月20日2004年8月5日-2006年11月23日
Neckarwestheim1999年12月20日2001年4月10日2001年4月10日-2006年12月19日
Philippsburg1999年12月20日2001年7月31日2001年7月31日-2007年3月30日

出典:独「連邦環境・自然保護・原子炉安全省(BMU)」の「放射線防護庁(BfS)」2008年報告書『分散型中間貯蔵』(ドイツ語, pdf) 31ページ及び独「施設・原子炉安全協会(GRS)」の核情報へのメール

乾式貯蔵推進に重要な役割を果たしたエコ研究所

この乾式貯蔵推進に反原発派のエコ研究所が重要な役割を果たしました。エコ研究所(英語)は、1970年代のヴィール原子力発電所計画反対運動の中で専門知識を持つ集団の必要性が認識されたことから1977年に生まれた研究所です。同研究所は、州及び地方自治体レベルで出現した「赤緑連立」政権と深く関わってきました。そして、1998年の連邦連立政権の登場においては、選挙前から、国の原子力政策の準備にも当たりました。現所長のミヒャエル・ザイラー氏は、乾式貯蔵キャスクを開発した上述のヤンバーグ氏と意見を交わし、ドイツの反原発派に対し乾式中間貯蔵を受け入れるよう説得しました。昨年末の核情報とのインタビューで、ザイラー所長は、乾式貯蔵は、安全性の観点からも必要だし、廃炉の作業を早めるためにも必要と述べています。廃炉の決定がされても、プール内の燃料の行き場がなければ廃炉が進められないからです。ザイラー所長は、ドイツ「原子力安全委員会(RSK)」の委員長を2002年から2006年の間務め(今も委員)、現在、ドイツ「核廃棄物管理委員会(ESK)」委員長を務めています。

段階的廃止はしなくとも再処理停止は可能──エコ研究所ザイラー氏、福島県に

エコ研究所のザイラー副所長(当時)は、2004年11月8日、福島県の第32回エネルギー政策検討会での講演で、段階的廃止をしなくても、再処理停止は可能と述べるとともに、乾式中間貯蔵の重要性を強調しています。

脱原発と再処理停止は別

ドイツのひとつの教訓として言えることは、段階的廃止をしないと、再処理の停止も出来ないということではないということです。つまり、発電所の廃止をしなくても再処理を止めるということは可能であるということです。これはアメリカもそうしていますし、カナダもスペインもスウェーデンも、フィンランドでも、今新しい発電所を建設中でありますが、再処理という政策は取っていません。ということで、原子力発電をしている国でも再処理をしないということは決して珍しいことではないということです。むしろ、再処理をする国のほうが国際的には少数派です。「ドイツは原子力発電所の段階的廃止をするから再処理を放棄する」という混乱した議論を見かけますが、これは間違っています。この2つ(原子力発電からの段階的撤退と再処理の放棄)は、それぞれ独立に決まったのです。

乾式中間貯蔵の重要性

ザイラー氏は中間貯蔵政策の現状について、県側に次のように説明しました。

中間貯蔵施設に関しての現状を次にお話いたします。12のサイトそれぞれが中間貯蔵施設を作る許可を取らなくてはならないということで、98年から2000年にかけてこれは既に行われています。そして、12のサイトいずれも許可手順というものを法的な状況にのっとってすべて完了しています。このなかで数万人が訴訟に参加者として関わるということになりました。これは、日本での状況と一部重なるものがあるかもしれません。そこでの反対意見の主たる議論は、中間貯蔵の後に、本当に使用済み核燃料が持ち出されるかどうかがはっきりしていないということでした。すなわち、高レベル放射性廃棄物の最終処分場がまだ決まっていないために、40年の中間貯蔵だけではなく、地元住民としてはそこがそのまま最終処分場になってしまうのではないかという危惧があったということです。もうひとつは、テロに対する危惧です。公聴会、この許可承認過程これは2001年、2002年にかけて行われたものです。ちょうど同時多発テロが起きた時期と重なったということで、もし同じようなテロ攻撃が中間貯蔵施設に対してあった場合、どうなるのかという不安があったわけです。

12のサイトはすべて許可が取得済みでありまして、今年既に操業を始めたものもあります。そして、残りは今年から来年にかけて操業し、2005年末までにはすべてが稼働を始めることになります。技術に関してですが、これは乾式貯蔵です。乾式貯蔵、つまりキヤスクに使用済み燃料を入れる。これは非常に大きな金属容器でして、厚さ30センチから40センチの肉厚金属容器です。これは自然対流による空冷式です。すなわち、空調施設などを使って空気の流れを強制するのではなく、自然対流型ですから、そこで何か故障が起きて、空冷が止まってしまうという心配はないということです。これは冷却を自然にまかせているからです。

故高木仁三郎原子力資料情報室代表、ザイラー氏との共同論文で乾式貯蔵の重要性指摘

「国際MOX燃料評価プロジェクト(INTERNATIONAL MOX ASSESSMENT)」(1995-1997)を盟友マイケル・シュナイダー氏らと組織した故高木仁三郎原子力資料情報室代表は、同プロジェクトの報告書に収められたザイラー氏と共同論文で、乾式貯蔵を提唱しています。ドイツに留学した経験を持つ高木代表は、ドイツの状況にも詳しく、ザイラー氏との親交も深かったため、ドイツでの議論を把握していました。

安全性の観点からすると、技術的条件に関する限り、キャスク貯蔵が直接処分のための貯蔵の最善のオプションといえよう。なぜなら、キャスク貯蔵は、主として、比較的単純でパッシブな安全対策に依存しているからである。この比較的単純だという点が、長期的にいってこのシステムを経済的に魅力あるものにしているのである。

これは、キャスク内の乾式貯蔵がまったくリスクを伴わないということではない。耐漏洩性能の長期的保障や安全制御の多様性に関しては、改善すべき余地が多い。また、中性子線に対する遮蔽の適切性の点で、既存のキャスクには不安が残る[Kuni 1996][注:今では不安はないとザイラー氏]。しかし、そもそも使用済み燃料の直接管理政策がとられるとするなら、現在あるなかではキャスク貯蔵は、最善のオプションであろう。・・・

日本語版 236-237ページ

住民たちは、中間貯蔵のアイデアを受け入れれば、それが無期限の蓄積に繋がるのでないかと、恐れている。これは、根拠のある懸念であり、誰も無視することはできない。

 現在の状況の下では、バックエンド政策について、特に中間貯蔵問題について、広範な層の地域住民と国民の参加を得て直ちに議論を始めることが望ましい。・・・サイト内の貯蔵施設・・・が短期的に満杯になることはないから、中間貯蔵の選択肢について徹底的に議論する時間は十分にある。

・・落ち着いた議論を開始させるということだけのためにも、段階的に解消のシナリオが必要だと考える。

同261ページ

「国際MOX燃料評価プロジェクト」報告書の提言──乾式中間貯蔵の協議開始

このような分析に基づき報告書は、乾式貯蔵についての協議を直ちに開始することを提言しています。(原子力資料情報室のサイトの要約から)

■乾式容器による貯蔵が現状では中間貯蔵のもっともよい選択肢である

技術的な条件に関する限り、そして湿式プール貯蔵とキャニスター型の貯蔵システムとの対比を見る限り、乾式容器(ドライ・キャスク)貯蔵は、直接貯蔵の選択肢として、安全上の理由から最も望ましいと考えられる。というのは、この方式は、比較的単純で安価な、パッシブな安全装置に依存しているからである。

■核燃料のバックエンド政策としては直接処分が望ましい

・・・

中間貯蔵:中間貯蔵能力の不足を理由に再処理を選択するのは賢明なことではない。中間貯蔵能力の増大に技術的困難はない。

■使用済み燃料の中間貯蔵について

日本政府と電力会社は、使用済み燃料の中間貯蔵について、中間貯蔵施設の立地点となる可能性のある自治体と住民に対して、ただちに協議を開始すべきである。その施設は原発サイトになるかも知れないが、サイトから離れた(AFR)施設となるかもしれない。この協議の最大の目的は、現在の再処理契約でカバーされている使用済み燃料を中間貯蔵に切り替えるために必要な貯蔵施設の受容条件を評価するためである。

さらに新たに中間貯蔵施設の容量を増大させる場合には、第二段階の協議が必要で、その時には、当該の原発の廃止も含めた新たなエネルギー政策のシナリオをまず検討する必要がある。

待ったなし──稼働していなくてもプールは危険、早急に議論・決定を

高木代表らの提言は、無視され、2005年の原子力政策大綱でも、原子力委員はプールの貯蔵容量不足を主たる理由に再処理政策推進を決めました。そして、福島事故後の原子力政策の見直しの議論でも、同じ主張がなされ、民主党政権は、「国際的責務を果たしつつ、引き続き従来の方針に従い再処理事業に取り組みながら、今後、政府として青森県をはじめとする関係自治体や国際社会とコミュニケーションを図りつつ、責任を持って議論する」ことを決めました。(革新的エネルギー・環境戦略(平成24年9月14日エネルギー・環境会議決定 pdf)要するに、「使用済み燃料の置き場がないから、六ヶ所再処理工場に運び込みたい。工場の受け入れプールも満杯だから、即時原発ゼロでないなら、このプールの使用済み燃料を再処理工場に回し、プールに空きを作るしかない」ということです。再処理の危険性、非経済性、すでに44トンも核兵器利用可能のプルトニウムを溜め込んでいるにも拘わらず、さらに不必要なプルトニウムを分離することの意味などは無視されています。新政権も再処理推進の立場です。

稼働していない原子炉でも、地震やテロでプールが破損すれば大事故になり得ることを福島の事故は示しました。地震発生時運転を停止していた4号炉のプールの危険性は現在も続いています。そして、各地の運転停止中の全国の原子炉でもこの危険は続いています。

高木代表は1997年に、十分な時間があると述べていますが、貯蔵能力不足を口実に六ヶ所再処理工場の本格運転がいよいよ始まろうとしている現在、時間は限られています。(日本原燃は2013年10月の完成を目指すとしていますが、原子力規制委員会の再処理関係の規則ができあがるのが12月ですから、実際の運転開始はすべて上手く行ったとしても来年始めでしょう。2013年1月田中委員長記者会見発言)また、各地の原発の周辺住民にとっては、安全性の観点からプールに置いたままが良いか、敷地内乾式貯蔵にした方がいいかという問題になってきます。プールの危険性と再処理政策の両面から、敷地内乾式貯蔵についての議論を早急に巻き起こさなければなりません。

参考

  • 最近の核情報から
  • ドイツ政府・電力会社の合意文書
  • 米国アリゾナ州トゥーソン開催のWM Symposia
    議事録(英語)より(ドイツ「放射線防護庁(BfS)」の報告)
  • 「使用済燃料管理及び放射性廃棄物管理の安全に関する条約(The Joint Convention on the Safety of Spent Fuel Management and on the Safety of Radioactive Waste Management)」会合報告書より
  • カルカー
  • 原子力規制委員会資料
    • 東京電力福島第一原子力発電所における既設乾式貯蔵キャスクの健全性確認等に係る評価について(2013年1月23日)【PDF:813KB】

      11月14日、東京電力から「既設使用済燃料乾式貯蔵キャスクの健全性確認」及び「当該キャスクのキャスク保管建屋からの搬出」について報告を受けたところ、既設使用済燃料乾式貯蔵キャスク及びキャスク保管建屋は津波の被害を受けており、当該キャスクをキャスク保管建屋から搬出し、共用プールにおいて健全性を確認することは緊急性があることから、「施設運営計画」に対する当委員会の評価を別紙のとおりとりまとめたい。

      2.変更概要

      キャスク保管建屋に保管されている既設9基の乾式貯蔵キャスクについて、キャスク保管建屋から共用プールに運搬し、共用プールにおいて健全性を確認する。

    • 東京電力福島第一原子力発電所使用済燃料乾式キャスク仮保管設備の変更に対する評価について(2013年1月23日)【PDF:1.6MB】

      1.使用済燃料乾式キャスク仮保管設備の設置概要

      使用済燃料乾式キャスク仮保管設備の設置概要

      使用済燃料乾式キャスク仮保管設備

      使用済燃料乾式キャスク仮保管設備


      コンクリートモジュール (単位:mm)


      クレーン



      2.コンクリートモジュールの構造強度及び耐震性評価における入力データの誤り


      項目発生値許容値
      訂正前訂正後
      接合ボルトせん断力 (kN)40.848.559.3
      コンクリート板(PC)曲げモーメント(kN・m)17.220.525.1
      接合プレート応 力 (N/mm2)17.922.7235

      3.コンクリート基礎の構造強度及び耐震性評価における入力データの誤り

      コンクリート基礎に作用するコンクリートモジュールの重量及び地震荷重等の誤りは下図のとおり(荷重1及び荷重2)。


      項目発生値許容値
      訂正前訂正後
      コンクリート
      基礎
      曲げモーメント(kN・m) 465046715306
      せん断力 (kN)257224502853
      改良地盤支持力 (kN/m2)313312548
    • 第4回特定原子力施設監視・評価検討会 配布資料
      福島第一原子力発電所 4号機使用済燃料プール等からの使用済燃料取り出しの安全性について [東京電力]【PDF:2.0MB】

    • 原子力規制委員会記者会見(2013年1月9日)速記録【PDF:321KB】

      ○記者 北海道新聞のスドウと申します。よろしくお願いいたします。
      昨年もこの会見の場でいろいろ質疑があった下北半島の断層評価について、ちょっと個別のサイトのことで恐縮なのですが、六ヶ所村の再処理工場の周辺の断層の評価なのですが、核燃料サイクル施設の敷地内に活動性のある断層があるということと、沖合の大陸棚外縁断層も活動性があると、こういう指摘は複数の専門家の方から出ている一方で、事業者はそれを否定していると、こういう経緯があると思うのですけれども、改めて現状で原子力規制委員会として、これらの断層の再評価の必要性についてどのような認識をお持ちでしょうか。

      ○田中委員長 実は、今、進めています六カ所に加えて、旧保安院の時代にも下北半島全体については、今、御指摘のようないろんな意見があるので、調べるべきであろうというような意見が出ています。
      それについては、今、私の方から島﨑委員の方にお願いして、どういうふうなことをやればいいのかということについて少し御検討いただいています。多分、何もしないというわけにはいかないではないかという気がしますので、どういうやり方ができるのかということについては、もう少し時間をいただいて検討させていただきたいと思います。

      ○記者 関連なのですが、六ヶ所の再処理工場については、完成の延期が続いていますけれども、今年の10月の完成を事業者は予定しているということですが、そうすると、逆算すると、かなり時間的には検証のスピード感というのも問われると思うのですが、その再評価の必要性についての判断のスケジュール感、それは今どのような御認識でしょうか。

      ○田中委員長 実は活断層だけの問題ではなくて、今、耐震とか津波の指針の見直しを行っています。それで、発電炉に関しては7月を目処に法制化するわけですが、引き続き再処理工場とか核燃料取扱施設とか、そういうことについては12月までにまとめなければいけないのです。
      そうすると、その中で耐震基準が変わった時には、それに基づいての再評価というのは当然サイトごとにやっていかなければいけないですね。ですから、再処理についても同じように発電炉とはもちろん中身は違うわけですが、指針の変わり具合、少なくとも耐震について、あそこは津波はないと思いますけれども、そういったことについての再評価ということになりますから、そう簡単にすぐに結論が出るような話ではなくなるということを、私は思っています。
      ですから、そんなに今、御指摘のように時間が非常にタイトでどうしようもないというような状況ではないのだろうと思っています。

      ○記者 この関連、最後でお願いしたいのですが、これまでの事業者さんの調査の流れを見ますと、外縁断層については追加調査が始まっているようですけれども、敷地内にあるのではないかとされている断層については、今のところ動きがないようです。
      それで、仮にこのまま事業者がそういう敷地内の断層について調査をせずに稼働に向けた動きをしていった場合に、規制委員会としては、ちょっと仮定の話になって恐縮ですが、どのような対応をとられるのか、あるいは規制委員会の方から、こういった課題認識を持って追加の調査を指示する場合もあり得るのか、そのあたり、可能な範囲で御回答をいただきたいと思います。

      ○田中委員長 今、御指摘のことも含めて下北半島全体として見ていかなければいけないと認識していまして、それを島﨑委員に検討をお願いしているということですね。

      ○司会 よろしいですか。では、次の方はいらっしゃいますか。では、どうぞ。

      ○記者 デーリー東北新聞社のタナカと申します。
      今の下北半島の断層の調査の関連なのですけれども、10月には六ヶ所村の再処理工場が一応稼働すると、そして6つの中間貯蔵施設も一応操業を始めるということになっているのですけれども、今おっしゃった話だと、12月までに新しい指針をまとめる予定だということなのですが、要するにこれに適合しなければ10月の稼働は認めないと、そういうことなのでしょうか。それとも、これはこれとして進めていって、10月は10月で稼働を認めるということなのでしょうか

      ○田中委員長 これは発電炉でも同じですけれども、新しい基準に適合しなければ稼働は認められないということになります。だから、そこの評価が進むということが前提です。

      ○記者 と申しますと、平たく申しますと、12月でないと指針ができないということは、10月の稼働はないということなのでしょうか。

      ○田中委員長 指針も今はまだ検討が始まっていないのです。それで、発電炉ほど難しいことはないと思いますけれども、幾つか検討しなければいけないこともありますので、その検討をして、できるだけ早く指針という形でまとめていきたいと思いますけれども、まだそこの見通しはありません。いつということは、ただ一番後ろは12月と決まっているということだけです。

      ○記者 では、少なくともその新しい指針にちゃんと適合していなければ、操業稼働は認められないということですね。

      ○田中委員長 そうですね。耐震の方は、耐震基準は同じようなものができてくると思いますので、ですから、それに基づいてサイトをスペシフィックな、いろんな外的な、要するに地震動の大きさとか何かというのを評価した上で、それに施設が対応しているかどうかという、もう一回耐震チェックというのが必要になると思います。

      ○記者 最後に1点だけ、事業者の方は、設置する時に国からいろいろ認可なり審査を得て作っているわけですけれども、企業として1日でも予定どおり稼働させるということが、安全ももちろん大事だと思うのですけれども、もう既に企業からすると、もう認可も受けているのに、また更に延ばされるという部分についてはいろいろ弊害もあると思うのですが、その辺については何かお考えはあるのでしょうか。

      ○田中委員長 それは、事業者に御理解をいただくことが大事だと思います。今、福島の第一原発事故が起こって以降の原子力施設、原子力事業に対する社会的ないろんな不安とか懸念を考えると、そこはやはり安全が大事というか、安全が優先されるべきことですので、そこは十分に御理解いただくよう努力したいと思いますし、私は、多分そこはきちんと話をしていけば理解できると思っていますけれども。

    • 日本原燃
      • 再処理施設の使用計画の届出について(2013年1月31日)の資料:「再処理施設の使用計画」(PDF)より作成
        再処理施設の使用計画
        工場又は事業所名  称再処理事業所再処理設備の系列名再処理設備
        所 在 地青森県上北郡六ヶ所村大字尾駮年間の最大再処理能力(トン)800t・UPr
        項 目使用済燃料受入れ量再処理量期末在庫量プルトニウム製品ウラン製品その他の有用物質期末在庫量
        年度別期別燃料体
        種 類
        燃料体数
        (体)※1
        ウランの量
        (トン)※2
        燃料体数
        (体)※1
        ウランの量
        (トン)※2
        燃料体数
        (体)※1
        ウランの量
        (トン)※2
        生産量
        (kg)※2
        払出量
        (kg)※2
        生産量
        (トン)※2
        払出量
        (トン)※2
        生産量
        (kg)
        払出量
        (kg)
        プルトニウム製品
        (kg)※2
        ウラン製品
        (kg)※2
        その他の有用物質
        (kg)
        2013年度上期BWR244008530147500006656364022
        PWR1460034581473
        下期BWR24428248827114311986011108642474594
        PWR146733233991447
        BWR47828248827114311986011108642474594
        PWR2712733233991447
        2014年度上期BWR106187531287624132122850117010927591692
        PWR27120034261459
        下期BWR10618376647353127534270176014354767340
        PWR271229112831621343
        BWR2123611291927353127557120293014354767340
        PWR552429112831621343
        2015年度上期BWR5659611291926788117934270176017781942988
        PWR145640033081407
        下期BWR565965659667881179514102630229221206460
        PWR1456443619230171279
        BWR1129192169428867881179856804390229221206460
        PWR29112843619230171279
        合 計BWR13882363106528678811791626608420229221206460
        PWR37316480035230171279

        [燃料体の種類の略号]
        BWRは発電用の軽水減速、軽水冷却、沸騰水型原子炉の使用済ウラン燃料を示す。PWRは発電用の軽水減速、軽水冷却、加圧水型原子炉の使用済ウラン燃料を示す。
        注記 :
        プルトニウム製品は、ウラン・プルトニウム混合酸化物製品の金属ウラン及び金属プルトニウムの合計質量換算とする。
        ウラン製品は、ウラン酸化物製品の金属ウランの質量換算とする。
        ウラン試験に用いた金属ウラン(51.7tU)は、ウラン製品には含めていない。
        使用済燃料による総合試験中の再処理量等を含む。
        ※1:
        燃料体数が確定していない場合、ウランの量より算出し、各欄毎に端数処理(四捨五入)を実施しているため、上期・下期の和と計が一致しない場合がある。
        ※2:
        各欄毎に端数処理(四捨五入)を実施しているため、上期・下期の和と計が一致しない場合がある。


      • 再処理工場のしゅん工時期の変更について 2012年9月19日

        当社は、本日開催の取締役会におきまして、再処理工場のしゅん工時期をこれまでの「2012年10月」から「2013年10月」へ変更することを決定しました。・・・

        年内を目途に、B系におけるガラス固化試験に着手したいと考えております。

         終了後は、年1回の法定点検(約3ヶ月程度)を行った後、A系におけるガラス固化試験を実施し、ガラス固化設備に関する国の使用前検査を受検いたします。ガラス固化試験B系・A系と国の使用前検査等は、約6ヶ月程度かかるのではないかと思っております。

         その後、最終的なアクティブ試験全体の試験結果を取りまとめた報告書を国へ提出し、審議をいただき、しゅん工ということになります。この国の審議につきましては、2ヶ月程度を織り込んでおりますが、ガラス固化設備に関する国の使用前検査の受検を社内的な工程管理上の大きな目標として、2013年8月までとしたいと考えております。

    • リサイクル燃料貯蔵株式会社
      • リサイクル燃料備蓄センターの貯蔵計画届出について
      • 2013年度から2015年度の貯蔵計画(pdf, 2013年1月31日)より
        (むつ市内のリサイクル燃料備蓄センター)
        事業所名   称リサイクル燃料備蓄センター最大貯蔵能力(トン)約3000
        所 在 地青森県むつ市 
        項 目燃料体の
        種 類
        (注)
        使 用 済 燃 料 受 入 量使 用 済 燃 料 払 出 量期 末 在 庫 量
        年度別期別封入した
        容器数
        (体)
        燃料体数
        (体)
        ウランの

        (トン)
        ウラン235の量
        (トン)
        プルトニウムの量
        (トン)
        封入した
        容器数
        (体)
        燃料体数
        (体)
        ウランの

        (トン)
        ウラン235の量
        (トン)
        プルトニウムの量
        (トン)
        封入した
        容器数
        (体)
        燃料体数
        (体)
        ウランの

        (トン)
        ウラン235の量
        (トン)
        プルトニウムの量
        (トン)
        平成25年度上期BWR000000000000000
        PWR000000000000000
        下期BWR1691200000001691200
        PWR000000000000000
        BWR169120000000 
        PWR0000000000
        平成26年度上期BWR213824000000032073610
        PWR000000000000000
        下期BWR000000000032073610
        PWR000000000000000
        BWR2138240000000 
        PWR0000000000
        平成27年度上期BWR427648100000074838520
        PWR000000000000000
        下期BWR32073610000001069012130
        PWR000000000000000
        BWR7483843000000 
        PWR0000000000
        合 計BWR106901213000000 
        PWR0000000000

        • 注 燃料体の種類別に記載すること。
        • 備考1 ウラン、ウラン235又はプルトニウムの量は、原子核分裂させる前のものを記載すること。
          • BWRは発電用の軽水減速、軽水冷却、沸騰水型原子炉の使用済ウラン燃料を示す。
            PWRは発電用の軽水減速、軽水冷却、加圧水型原子炉の使用済ウラン燃料を示す。
          • 各欄毎に端数処理(四捨五入)を実施しているため、上期・下期の和と計が一致しない場合がある。
    • 再処理施設の使用計画

      再処理施設の使用計画 原子力研究開発機構

      日本原子力研究開発機構
      再処理施設の使用計画(平成25年度~27年度)に係る届出を受理 原子力規制委員会:
      「再処理施設の使用計画」(独立行政法人日本原子力研究開発機構)【PDF:402KB】より


  • 注:共著者ザイラー氏からの核情報へのメール(2013年2月14日):
    CASTOR V/52 構造

    CASTOR V/52 構造

    IMA報告書作成当時、[CASTORの]中性子遮蔽能力に関して疑問があった。後に実際のキャスクに関する計測プログラムが実施され、その結果が、十分な中性子遮蔽があることを示した。

    技術的説明

    [CASTORの]中性子遮蔽は、固体炭化水素[樹脂]によって提供される(炭化水素中の水素原子は、使用済み燃料中にあるアクチニド元素の自発核分裂によって発生して放出される高速中性子の速度を落とす)。

    [CASTORでは]容器に構造的安定性の観点から、連続した層を形成する固体炭化水素を持つキャスクを作ることはできない。そのため、キャスクの壁に沿って[縦に]孔を開けて、そこにこの[棒状]炭化水素材を入れる(右図の 6 )。技術的な問題として、孔と孔の間の金属だけの部分の振る舞いはどうかという疑問があった。この疑問は、計算では解けないものだった。計算用のモデルがこの疑問に答えるほど詳細ではなかったからだ。しかし、上述の実際の計測によって、特に問題がないことが分かった。IMA報告書が現在書かれるとすると、現在の知見から言って、私は、この問題に言及することはしないだろう。

    下図左 CASTOR Ⅴ/52 (沸騰水型原子炉使用済み燃料集合体52体収容用)外観
    下図右 CASTOR Ⅴ/19 (加圧水型原子炉使用済み燃料集合体19体収容用)内部

    CASTOR V/52

    CASTOR Ⅴ/52 (沸騰水型原子炉使用済み燃料集合体52体収容用)外観

    CASTOR V/19内部

    CASTOR Ⅴ/19 (加圧水型原子炉使用済み燃料集合体19体収容用)内部



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