静岡県の川勝平太知事は、共同通信に対し、浜岡原発のプルサーマル計画は「白紙」と述べ、日本が抱える分離済みプルトニウムについて、「一番大きな問題だ。44トン、原爆5千発分。どう処理するか、今まで大きな形で表立って議論はされてこなかった」と指摘し、処分のための技術開発の重要性を力説すると共に、プールに置かれた使用済み燃料は安全性の観点から空冷式の乾式キャスク貯蔵に移すよう中部電力に引き続き促していくと述べました。さらに、六ヶ所再処理工場の受け入れプールに保管中の使用済み燃料が全国の原発に返還される事態になれば引き取って乾式貯蔵するのが「立地県としての)義務だ」と強調しています。
静岡知事、プルサーマル「白紙」 核燃サイクルの先行き懸念 (デーリー東北 2014年4月3日 共同通信記事全文掲載)は多くの地方紙で採用され、関連社説が掲載されるなど、注目されています。
参考
- 計画破綻認め脱原発を プルサーマル白紙 琉球新報社説 2014年4月4日
- プルサーマル 推進には無理がある 信濃毎日新聞社説 04月04日(金)
- 県「計画白紙化必要」浜岡原発4号機プルサーマル - YouTube
- 浜岡4号機プルサーマル 知事「計画白紙化必要」静岡新聞 2014年4月3日
- 1、2号機の閉鎖に合わせて元々乾式貯蔵計画があった浜岡原発
- プルサーマル推進の二者択一「論理」の破綻
- 本来あるべき選択肢
- 川勝知事の慧眼
- 東海村の村上達也元村長も、返還するというなら引き受けると
- 全国的な議論へ
- 背景資料集
1、2号機の閉鎖に合わせて元々乾式貯蔵計画があった浜岡原発
中部電力は2008年12月、浜岡原発1、2号機の耐震工事をしても経済的に見合わないと判断し、この2基を廃炉とする代わりに6号機を新設する計画を発表した際に、廃炉となる2基の原子炉の使用済み燃料を運び出すために全号機共用の乾式貯蔵施設を2016年度の使用開始を目指して建設するとしていました。このため、静岡県では、プール貯蔵と比べた場合の乾式貯蔵の安全性についての理解が深いという事情が背景にありました。
福島第一原発事故で、4号機のプールの危険性が注目されたことがもう一つの背景です。4号機では地震発生当時運転停止となっていたにも関わらず、プールの冷却機能の喪失による火災が危惧されたということは、浜岡原発が再稼働されない場合も危険性は存在するということです。もちろん、4号機の場合は、定期検査のために取り出されたばかりの発熱量の大きな燃料が入っていたということが心配を大きくしましたが、冷却機能の喪失が火災事故に繋がる可能性あるという点は同じです。このため、浜岡原発周辺自治体や反原発運動でも乾式貯蔵施設の早期建設を求める声が上がっています。川勝知事は、2013年11月31日、中部電力水野明久社長との会談後にも、再稼働の条件として「敷地内に乾式貯蔵施設が出来ていなければならない」と記者団に述べていました。このとき水野社長は、「現在、設計している段階」と述べています(静岡新聞 2013年11月1日)。
プルサーマル推進の二者択一「論理」の破綻
今回の川勝知事の発言は、プルサーマル推進の奇妙な「論理」のまやかしを明らかにするものとなっています。
2001年5月に新潟県刈羽村でプルサーマル実施に関する住民投票が行われた際に国が村内全戸に配布した平沼赳夫経済産業相の署名入りビラは、プルサーマルの必要性を次のように説明しています。
プルサーマルは、原子力発電を末永く続けていくために必要です。
我が国は、燃料として使う以外にはプルトニウムを保有しないことを国際的に明らかにしています。我が国のプルトニウム利用は、当面原子力発電所における燃料としての利用がほとんどとなるため、プルサーマル計画が進まず、原子力発電所における利用が進まないとなると、使い終わった使用済燃料のリサイクルが困難になります。
リサイクルをしないなら、使用済燃料を原子力発電所からリサイクル施設(青森県六ヶ所村)に運び出すわけにはいきません。原子力発電所の中に使用済燃料が溜まり続ける場合、使用済燃料の貯蔵施設が満杯になって、新しい燃料と取替えることができなくなるため、やがては運転を停止しなければならなくなります。柏崎刈羽原子力発電所もリサイクルの一環を担っているのです。
我が国の電力の3分の1以上を発電する原子力発電所が停止するようなことになれば、電力不足のような問題が発生します。
原発立地自治体に対し、
- 再処理継続+プルサーマル受け入れ
- 原発運転停止=日本経済の崩壊+原発が地元にもたらす恩恵の停止
の二者択一を迫るものです。
本来あるべき選択肢
実際には、原発運転を前提とするなら、
- 再処理停止+プルサーマル計画中止+既存の分離済みプルトニウムのゴミとしての処分方法検討
- 原発敷地内乾式貯蔵の受け入れ
も選択肢として提示されるべきでした。(いずれにしても、刈羽村の住民は、プルサーマルに反対の結論を出しました。)
元々は、再処理は、希少だと考えられたウラン燃料を有効利用するために、プルトニウムを燃やしながらプルトニウムを増やす高速増殖炉の初期装荷燃料を提供するためのものでした。ところが、高速増殖炉の開発が上手く行かず、再処理で分離したプルトニウムが溜まってしまいました。これを無理矢理燃やすために考えられたのがプルサーマルです。このプルサーマルも計画通り進まず、プルトニウムを蓄積し続ける日本の意図やテロリスト・第三国による奪取の可能性などについて国際的懸念が巻き起こっています。そこへ起きた福島第一原発事故の結果、プルサーマル計画の実施はさらに難しくなってます。にも関わらず、政府は、六ヶ所再処理工場での本格運転を開始しようとしています。再処理工場を運転しないとなると、各地の原発のプールにある使用済み燃料の送り先が確保できない、しかも、青森県が工場の受け入れプールにある使用済み燃料を各地の原発に送り返せと主張して、原発の運転停止が早まる、と主張されています。
川勝知事の慧眼
川勝県知事は、これに対し大体次のように述べました。
プルサーマルは「白紙」。「今すぐプルサーマルができるかというと、やらせてくれるところはどこもない。非常に厳しい」。蓄積している核兵器利用可能なプルトニウムは「一番大きな問題だ。44トン、原爆5千発分。どう処理するか、今まで大きな形で表立って議論はされてこなかった」。プルトニウムの処分を実現する技術開発が重要。使用済み燃料は、安全性の観点から、早く乾式貯蔵にすべき。すでに六ヶ所再処理工場に送られている使用済み燃料が送り返されるなった場合は、引き取って乾式貯蔵する。「出たごみは自分のところで(一時)貯蔵するのが筋」。
知事がプルトニウム処分のための技術開発の重要性にまで言及したことは注目されます。プルトニウムをゴミとして処分する方法については、フランク・フォンヒッペル「国際核分裂性物質パネル(IPFM)」共同議長(プリンストン大学名誉教授)が2013年5月に訪日した際に国会議員に対するブリーフィングで使ったパワポ資料「プルトニウム(使用済み燃料再処理)の軛からの脱出」をご覧下さい。
東海村の村上達也元村長も、返還するというなら引き受けると
東海村の村上達也元村長は在任時に、六ヶ所村にすでに送られている東海第二原発の使用済み燃料を受け取って乾式貯蔵する用意があると述べていました。同原発には、福島第一と並んで、日本で2つだけしかない原発敷地内乾式貯蔵施設があり、乾式貯蔵についての理解が東海村では深かったという共通点があるのでしょう。
青森のほうで、再処理をやめるなら使用済み燃料を全部持っていけ、返還すると言うならば、私はもともとそのゴミを出したところで引き受ければいいと思うのです。・・・引き受ける覚悟はあるから、問題意識はもはや、具体的な保管方法に移っていますね。・・・福島第一の4号機を見てもわかりますが、プールに保管するのは危なくてしょうがないでしょう。水に浸けるのではなく、乾式貯蔵という形にしてもらいたいと思います。
この問題がきな臭いのは、言い方は大変悪いのですが、構図として結局、原発施設を受け入れている青森県内の市町村が使用済み燃料を人質にしてカネをもらうような形になってしまっているからでしょう。・・・当事者としたら原子力でカネがもらえなくなったら、万策尽きてしまうというような気持ちがあるのだと思うのです。だから、いざ我々が、「戻してください」と言ったら、むしろ困ることになるんじゃないかな。
- 東海村・村長の「脱原発」論 集英社新書 p.132-136
*空冷に電気が必要との発言があるが、実際は、自然対流による「パッシブ」な空冷。従って、村上村長の主張はより説得力のあるものとなる。
全国的な議論へ
東海村のある茨城県の茨城新聞も共同の記事を全文掲載しました。元村長の主張が、静岡県知事の主張と重なり、茨城県全体でも議論が深まることに繋がるかどうか。また、冒頭で紹介したように青森県のデーリー東北も全文掲載しています。今回の記事が、再処理、プルサーマル、乾式貯蔵、プルトニウム処分を巡る議論が全国的に展開されるきっかけとなるかどうか。反核運動にとって、重要な局面を迎えたと言えるでしょう。
背景資料集
1、2号機閉鎖と乾式貯蔵
・・・中電は1、2号機の廃炉と6号機の新設という「リプレース(置き換え)計画」を発表した2008年12月、使用済み燃料の貯蔵施設を敷地内に建てる計画も立てた。再処理を超える燃料と、1、2号機にある燃料の置き場を確保するため。原発の外に用地を求めると時間がかかるとの判断もあった。
貯蔵容量は700トン。建設には3年程度かかり、16年度に使用を始める計画。経済産業省総合資源エネルギー調査会の作業部会会議録によると、中電は10年度の許可申請を目指していた。・・・
当社は、このたび、1,2号機について工事を実施し運転を再開することは経済性に乏しいと判断されることから、その運転を終了することとし、替わりに、発電所用地の東側に6号機を平成30年代前半の運転開始を目標に建設することを計画いたしました。
また、1,2号機の運転終了にともない、今回新たに発電所敷地内に現在の発電所施設の一部として全号機共用の使用済燃料乾式貯蔵施設を平成28年度の使用開始を目標に建設することを計画いたしました。
・・・
第1図 6号機および使用済燃料乾式貯蔵施設の配置図
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第2表 使用済燃料乾式貯蔵施設計画概要
項目 内容 貯蔵方式 ・乾式貯蔵方式 施設の建設 ・ 貯蔵建屋:約700トン・ウラン規模、1棟
・ 建設工事期間:3年程度
・ 使用開始時期:平成28年度建屋規模 ・約60m×約50m×(高さ)約25m 主要な設備・機器 ・金属キャスク
・貯蔵建屋
・金属キャスク取扱設備
・その他付帯設備(放射線監視設備等)(※1)トン・ウラン:使用済燃料に含まれる金属ウラン量(トン)
第2図 使用済燃料乾式貯蔵施設イメージ図
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乾式貯蔵を巡る静岡県知事の発言
川勝平太知事は5日の県議会2月定例会一般質問で、中部電力が浜岡原発(御前崎市)へ建設を計画している使用済み核燃料乾式貯蔵施設について、「再稼働の是非に関わりなく、安全性を高める意味で必要な施設」との考えを示した。知事が乾式貯蔵施設の必要性に踏み込んだのは初めて。・・・知事は使用済み核燃料の冷却に電力や水を必要としない乾式貯蔵施設の特性を挙げ、「貯蔵プールに比べて災害に強いと認識している」と述べた。
選挙戦で川勝氏は再稼働の前提として(1)徹底的な安全性の検証(2)使用済み核燃料の処理方法確立(3)県民投票の実施を挙げた。・・・川勝氏は県民投票の実施時期を明らかにしていないが、実現すれば米軍基地の整理・縮小と日米地位協定見直しの賛否を問う沖縄県民投票(1996年)以来で、原発再稼働の是非を問うのは全国初。
川勝平太知事は31日、中部電力浜岡原発(御前崎市佐倉)の再稼働条件の一つとして「敷地内に(使用済み核燃料の)乾式貯蔵施設ができなければいけない」と述べ、施設の完成が必要との認識を示した。都内で中電の水野明久社長と面会後、記者団に語った。・・・
水野社長は浜岡原発が立地する御前崎市の石原茂雄市長とも市役所で面会した。石原市長は面会後、「とにかく浜岡原発の対策を第一にやってほしい。再稼働の話は工事が終わってから」と話した。
川勝平太知事は8日に静岡市葵区で開かれた民主党県連定期大会の来賓あいさつで、中部電力浜岡原発(御前崎市佐倉)の再稼働の是非を問う県民投票が来春の県議選の争点になるとの見通しを示した。・・・ 知事はこれまでも、再稼働の判断に当たっては県民投票が必要だとする一方、実施のための条例は、県議会からの発議で制定されるのが望ましいとの意向を示している。
浜岡原発周辺自治体地図

周辺市町村の態度
・・・10月末に川勝平太知事が再稼働条件の一つとして「乾式貯蔵施設の設置」を挙げ、御前崎市議会も安全性向上の観点から早期完成を中電に促す。・・・
10月上旬の御前崎市役所。西島昌和市議会議長が水谷良亮浜岡原子力総合事務所長に、市議会として「遅延している乾式貯蔵施設設置計画を早急に進めること」などを求める要請書を提出した。
浜岡の原発だけでも現在6,625本あるから、これをどう処理していくかが大きな課題になってくる。それで、最終的には乾式貯蔵の施設を造っていかなければいけないだろうと思っている。
政府の要請で全ての原子炉を停止している浜岡原子力発電所について、静岡・牧之原市議会は26日、「永久停止」を求める決議案を可決した。・・・浜岡原発に関し、「中部電力」と安全協定を結ぶ周辺4市の中で、こうした決議をしたのは牧之原市が初めて。
この決議について、牧之原市・西原市長は賛同する意思を表明している
浜岡原発から10キロ圏の掛川市の松井三郎市長は「安全対策が急務。かさ上げの早期完成と(燃料プールに代わる)乾式貯蔵施設の建設を」。
反原発グループの態度
♥使用済核燃料の乾式貯蔵施設の重要性
浜岡原発のある静岡県では、県知事、県会議員、原発周辺市の首長の皆さんが、使用済核燃料の乾式貯蔵施設の重要性を認識して下さっています。政治家、行政、そして市民が一緒になって中部電力に一刻も早く乾式貯蔵施設の建設するよう働きかけることが大切です。乾式貯蔵施設は、水ではなく空気で冷却するため、万が一電源喪失状態になっても、核燃料を冷やし続けることができます。津波の影響のない高台に使用済核燃料の乾式貯蔵施設を建設することは、浜岡原発にとっては急務です。*使用済核燃料の乾式貯蔵施設ついては、2012年4月に行われたシンポジウム「東海地震と浜岡原発」(録画)でも触れられ、その重要性と必要性について提言書としてまとめ静岡県に提出しました。
乾式貯蔵・プルトニウム問題関連核情報記事
- 福島燃料プール危機の教訓 全国の原発でプールから乾式に
- 「乾式貯蔵先進国」ドイツ──故高木仁三郎氏のメッセージ
- 「プルトニウム・バランスどうなるんですか」と茂木経産相 当面は乾式貯蔵設備の拡大との考えも示す