核情報

2012. 4. 5

核燃料サイクル政策シナリオの大前提は核セキュリティー

原子力委員会の「原子力発電・核燃料サイクル技術等検討小委員会」で核燃料サイクル政策についてのシナリオの議論が始まりました。全量再処理、全量直接処分、再処理・直接処分並存、留保(waite and see)についてあり得るシナリオを整理しようということです。発電しながら使った以上のプルトニウムを作り、無尽蔵のエネルギー源となるという「夢の原子炉」高速増殖炉の初期装荷燃料として必要なプルトニウムを提供するために推進された再処理を、夢が遠ざかり続ける現状を前にどうすべきか。核兵器利用可能物質のセキュリティーを念頭に、シナリオ検討の基礎とすべき論理的整理を試みました。

再処理によるプルトニウムの分離は、ソウルのサミットで話し合われた核セキュリティーの根幹に関わる問題ですが、日本ではこの点についての意識が希薄です。核セキュリティー・サミットに出席するためにソウルを訪れたオバマ大統領が韓国外国語大学で「我々がテロリストの手に渡らぬようにしようと試みているまさにその物質──分離済みプルトニウム──を大量に増やし続けることは、絶対にしてはならない」と述べたこともあまり注目されていないようです。核セキュリティーが「核安全保障」、「核安保」などと訳されていることも関係があるのかもしれません。安保というと国家や世界の安全保障が思い浮かびます。核兵器は常に安全保障と関連して論じられて来ました。核安保議論の何が新しいのか分かりません。実際は、今議論されている「核キュリティー」のセキュリティーは、保障は保障でも警備保障などに関わるものです。如何にして核兵器や核兵器利用可能物質、放射性物質などがテロリストの手に渡らないようにするかというのが、核セキュリティーの主要テーマです。

このことを念頭に以下、日本の核燃料政策についての考え方を図表の形にしてみました。その後に、簡単な説明を載せておきます。




  1. 再処理政策の歴史的経緯
  2. 選択肢双六的整理



いつまで経っても実現しない「夢」を追って、核兵器利用可能物質の分離・蓄積を続ける日本の政策。「夢」が実現されれば、核兵器利用可能物質がそこら中に溢れる「悪夢」が正夢となる。分離済みプルトニウムを増やしてはならないと訴えるオバマ大統領。再処理は時代遅れで危険と言う米国国家安全保障会議 WMDテロ・脅威削減担当上級部長。「唯一の被爆国」の国民、反核運動はこの問題をどう捉えるか。世界が注目しています。

参考


再処理政策の歴史的経緯

再処理政策の歴史的経緯
 元々の再処理の目的再処理・高速増殖炉計画の結果応急措置現計画正当化の論理根本解決の道
プルトニウム利用プルトニウムをとり出して、高速増殖炉初期装荷用の燃料に使うこと 
プルトニウム処分問題 高速増殖炉計画が遅れ、プルトニウムが蓄積蓄積したプルトニウムをMOX燃料として軽水炉で燃やすプルサーマル計画(注1)
(背景にもんじゅ事故と核兵器利用可能なプルトニウムの蓄積に対する国際的批判)
プルサーマル実施
六ヶ所再処理工場運転のため。利用計画がないと工場が運転できない (注2)
↓
再処理中止。現存のプルトニウムの警備強化。新たな処分方法の検討。(兵器用のものと同様)
使用済み燃料管理
・処分
 使用済み燃料を再処理工場に送る計画だったため、貯蔵スペースの確保に失敗プールでの使用済み燃料貯蔵の稠密化。
英米との再処理委託契約終了後、六ヶ所再処理工場の受け入れプールが使用済み燃料の送り先に
六ヶ所再処理工場運転
満杯となっている六ヶ所のプールに空きを作るために、使用済み燃料を再処理工場に送り出すことが必要。
政策の失敗を認め、各地の原発のプール貯蔵の使用済み燃料の古いものから、空気冷却の乾式貯蔵に移す(敷地内・敷地外)。
後付けの再処理正当化  必要のない再処理の継続正当化の議論:MOX燃料使用によるウラン資源の有効利用・再処理による廃棄物の少量化など。左にある後付けで出て来た議論の強調 
      *MOXの1回利用だと処分場の必要面積に差はなく、資源の有効利用も1−2割程度(しかも日本だけ)他の方法もある。高速増殖炉の将来は不明。 

注1

1982年原子力長期計画

再処理によって得られるプルトニウムについては,消費した以上のプルトニウムを生成することができ将来の原子力発電の主流となると考えられる高速増殖炉で利用することを基本的な方針とし,2010年頃の実用化を目標に高速増殖炉の開発を進める。

しかしながら,高速増殖炉の実用化までの間及びそれ以降においてもその導入量によっては,相当量のプルトニウムの蓄積が予想される。このため,資源の有効利用,プルトニウム貯蔵に係る経済的負担の軽減,核不拡散上の配慮等の観点から,プルトニウムを熱中性子炉の燃料として利用する。・・・1990年代中頃までには,その実証を終了し実用化を目指す。

宅間正夫元日本原子力産業協会副会長・東京電力柏崎刈羽原発所長

プルサーマル計画を中心にした核燃料サイクルを政府が推進しようと決めたのは1997年のことです。1月に原子力委員会が核燃料サイクルについて具体的施策を決定したのに続いて、政府は「プルサーマル計画を中心とする核燃料サイクルを推進する」と閣議了解を行いました。

 それ以前はどちらかといえば、再処理で推進されたプルトニウムは高速増殖炉など新型炉を「主」、軽水炉でのプルサーマルを「従」としてその用途を宣伝していたように思います。

 電力会社としてはプルサーマルを技術の面でも広報の面でも実用化準備はしていましたが、政府としては高速増殖炉計画が遅れいてること、新型転換炉(ATR)からの撤退を決めたことなどにより、プルトニウム利用は当面は軽水炉でのMOX燃料利用が中心になるとの判断をしたのだと思います。

 この政府の方針を受けて電気事業者(電気事業連合会)も1997年2月に全電力会社のプルサーマル計画を公表しました。

「徹底Q&A知ってナットク原子力─100億人のエネルギーサイクルの理由」 (宅間 正夫・藤森 礼一郎 電気新聞ブックス2005年)

注2

正当化の論理構造:

国際公約から言って、プルトニウムを消化しないと、再処理工場が運転できず、そうすると、再処理工場の受け入れ貯蔵プールが使えず、各地の原発の燃料貯蔵施設が満杯となって、原発からでてくる使用済み燃料の行き場がなくなり、原発が止まるから、プルサーマルが必要

例えば

新潟県刈羽村でプルサーマル実施に関する住民投票が行われた際に国が村内全戸に配布した平沼赳夫経済産業相の署名入りビラ

プルサーマルは、原子力発電を末永く続けていくために必要です。

 我が国は、燃料として使う以外にはプルトニウムを保有しないことを国際的に明らかにしています。我が国のプルトニウム利用は、当面原子力発電所における燃料としての利用がほとんどとなるため、プルサーマル計画が進まず、原子力発電所における利用が進まないとなると、使い終わった使用済燃料のリサイクルが困難になります。

 リサイクルをしないなら、使用済燃料を原子力発電所からリサイクル施設(青森県六ヶ所村)に運び出すわけにはいきません。原子力発電所の中に使用済燃料が溜まり続ける場合、使用済燃料の貯蔵施設が満杯になって、新しい燃料と取替えることができなくなるため、やがては運転を停止しなければならなくなります。柏崎刈羽原子力発電所もリサイクルの一環を担っているのです。

 我が国の電力の3分の1以上を発電する原子力発電所が停止するようなことになれば、電力不足のような問題が発生します。

以下を参照。

高速増殖炉と再処理計画 「核情報」による政府関係者用説明メモ

選択肢双六的整理


当初選択肢

  1. 再処理を全くしない (*これはなくなってしまっている)
  2. 再処理をひとまずやってみて高速増殖炉の実用化を目指す

*「高速増殖炉の実用化」ではなく、「高速増殖炉の実用化を目指す」というのが選択肢であったことに留意。目指したけれども、実用化時期のゴールが遠ざかり続けてきたというのが現実。目標は最終的に達成されないかもしれない。現在も推進派は、必ず高速増殖炉の商業化が実現されるようなことを言うが、現在の再処理・高速増殖炉推進派の中に、1960年-70年代の時点で、あるいはその後でも、2005年 -2010年頃には、実用化のゴールが2050年頃となっているだろうと予測した人がいるか。推進派の予測が当たるとの保証は?

将来、高速増殖炉の「夢」が実現すると「悪夢」となることは冒頭で指摘した通り。無限のエネルギー源と引き替えに危険な物質の流通を認めるか否かという究極の選択肢的状況になるかもしれない。しかしそう言う状況に現在ないことは確実である。現在あるのは、単なる将来の「夢」と引き替えに、危険な核兵器利用可能な物質の蓄積・流通を実現してしまっている日本の政策。「唯一の被爆国」の国民、反核運動はこれにどう対処するのか?

将来他のエネルギー源を選択する「夢」と高速増殖炉の「夢」とどちらが現実的か。

高速増殖炉開発が遅れ、再処理で分離したプルトニウムが溜まったきた段階での選択肢

  1. プルトニウムは高速増殖炉での使用のみを目指す (*これはなくなってしまっている)
  2. プルトニウムの蓄積分はプルサーマル。

*溜まってしまったプルトニウムの処分方法としてプルサーマルの本格導入を目指すことになった。プルトニウムを劣化ウランと混ぜて、プルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)として軽水炉の燃料として使うというもの。この時、再処理政策は放棄して、プルトニウムはプルサーマル以外の処分方法を検討するという可能性があったがこれは本格的に検討されなかった。

プルサーマルを決定した後の選択肢

  • (1)使用済みMOX燃料は直接処分
  • (2)再処理追求
    (使用済みMOX燃料も再処理して高速増殖炉で利用することを目指す)

*この時点で、使用済みMOX燃料について、直接処分を選ぶか、再処理して高速増殖炉で利用することを目指すか、と言う選択肢があった。公式には、(2)が選ばれた状態。

これが2012年の「現状」。

使用済みMOX燃料を再処理して、分離したプルトニウムをまた軽水炉でMOX理由するという無限あるいは多数回サイクルは、当初目指していたものから言っても、技術的問題点から言っても、虚構、言い訳に過ぎない。フランスは、使用済みMOX燃料は再処理しない計画。

現在の選択肢:(2)の現状に続くもの

<1>高速増殖炉・再処理を追求し
  • ① 六ヶ所の早期運転開始を目指す
  • ② 六ヶ所の早期運転開始は目指さない
    1. 運転開始は高速増殖炉の利用のめどが立ってから目指す
      1. 六ヶ所再処理工場の現状での凍結
      2. 六ヶ所再処理工場のモスボーリング 配管などのクリーンアップを伴う。
    2. 六ヶ所再処理工場は完全中止。高速増殖炉の利用のめどが立ってから第二再処理工場を建設
<2>再処理政策の放棄・直接処分政策採用
  • *出来てしまった高レベル廃液のガラス固化(あるいは他の安定化方法)の作業を進めることは、上記選択肢とは関係なく目指さなければならない。
  • *① が現状維持の政策。国際的にはあり得ない。
    ヨーロッパと日本に大量の分離済みプルトニウムを溜め込んだ状態でさらにプルトニウムの分離をすることは、国際的に許されないことは、2012年3月1日 原子力発電・核燃料サイクル技術等検討小委員会(第9回)で秋山信将一橋大学教授(国際問題)が指摘したとおり。秋山教授の指摘の意味するところは、これまでのように、ヨーロッパにある分離済みプルトニウムを無視したまま、単に六ヶ所でJMOXが完成したらそこでMOX燃料を作って軽水炉で利用したいと考えているとの希望表明がされれば、これによって利用計画が存在すると判断し六ヶ所での再処理を認めるという原子力委員会のごまかしはもう許されないということである。このとき鈴木座長も余剰プルトニウムを持たない方針を確認したと言うことは、① の選択肢はあり得ないということである。

参考

つまり、現在の選択肢は

  • (1)現時点での六ヶ所再処理中止決定
  • (2)再処理を追求するがA六ヶ所の運転開始は高速増殖炉の利用のめどが立ってから目指す。
    (高速炉利用のめどが遅れ続ければ、六ヶ所を中止した上で、再処理完全放棄とするか、高速増殖炉利用の可能性をみながら第二再処理工場について検討するとの選択肢が出てくる。)
  • (3)留保(wait and see):(1)か(2)かについて決定を延期するもの。
    (六ヶ所の運転開始は当分しないことを意味する。現在、あるいは、5年後もしくは10年後に(2)を選択しても、六ヶ所運転開始とはならない。)
  • *いずれにしても、六ヶ所の運転は開始しないということ。この点でひとまず合意することが重要。

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