核情報

2019. 5.31

世界の流れに逆行する日本
英米の再処理・MOX計画停止

昨年末から今年初めにかけて、日本の再処理・プルトニウム利用計画が世界の流れに逆行していることを示す大きな出来事がありました。世界の二つの商業用再処理工場のうちの一つ、英国のTHORP(ソープ:酸化物燃料再処理工場)の運転が終了したこと、そして、米国の軍事用余剰プルトニウムをウランと混ぜて混合酸化物(MOX)燃料にするためにサウス・カロライナ州サバンナリバー核施設で建設中だった工場(写真・提供HighFlyer©2018、撮影12月16日)の工事完全中止が確定したことです。

建設中止したサバンナリバー核施設のMOX工場
(Photo Courtesy of High Flyer © 2018)

英国の商業用再処理工場の運転終了

英国は2018年11月14日、セラフィ―ルド施設のTHORPが運転を終了したと発表しました。同工場は主として日本及びヨーロッパの国々の軽水炉の使用済み燃料の再処理用として建設され、1994年に運転を開始しました。再処理は、元々、ウランが近い将来枯渇するとの想定に基づき、プルトニウムを燃やしながら使った以上のプルトニウムを生み出す夢の「高速増殖炉」に初期装荷燃料を提供するために構想されました。THORPでは英国の改良型ガス冷却炉の使用済み燃料も再処理し、取り出されたプルトニウムは同国の高速増殖炉で使うはずでした。しかし英国はこの工場運転開始と同じ年に高速増殖炉計画を放棄しました。

他の国々も再処理計画を放棄して行きます。ドイツは契約の一部をキャンセルします。英国は、2012年、追加の再処理契約が得られないことを理由に、既存契約分の再処理終了とともに工場を閉鎖するとの決定をします。18年末で既存契約分の再処理が終わり、操業終了となったのです。改良型ガス冷却炉の未再処理燃料は施設で2070年代まで保管する計画です。

英国には、B205というもう一つの再処理工場があります。これは東海第一原発と同じ第一世代の黒鉛減速ガス冷却炉の燃料用です。この型の最後の原発の運転が終わったのが2015年。残っている使用済み燃料の再処理が終わるのが20年の予定です。

二つの工場の再処理で分離され、英国に保管されているプルトニウムの量は外国籍のものも含め約140トンに達する予定です。政府は、施設の監視団体COREの情報公開請求に対し、両工場のプルトニウムの割合を40%と60%と答えています。同団体はこれを基にTHORP分を約56トン、B205分を約84トンとしています。

2016年末現在の外国分が23トン。日本の原子力委員会によると17年末の英国保管の日本の量は21.2トンですが、0.6トンが日本割り当てとして追加されることになっているので、実際には約22トンです。THORPでの日本分の再処理は04年9月に終わっているのにこの追加が発生するのは、物理的再処理のタイミングとは別の割り当てシステムが採用されているためです。

英国は2011年12月に自国分のプルトニウムと合わせ、外国分の処分も引き受けてもいいと申し出ています。ただし、プルトニウムは「価値ゼロの資産」とされていますが、要するにゴミなので、処分をお願いするには、金を払う必要があります。英国分約120トンには、17年1月現在で外国から移譲された8.5トンも含まれています。

英国は自国のプルトニウムに関し、2014年にはMOX燃料にして軽水炉で燃やす方向で考えたいとしていたのですが、これを引き受ける電力会社もなく、16年には25年頃までは決められないとしています。プルトニウムが溶け出しにくい母材内に固定して地下処分する方法も検討されています。

『原子力長期計画』で示された高速増殖炉計画

発表年位置付け実用化予測達成期間
1956年わが国の国情に最も適合  
1961年自立体制を取った場合不可欠1970年代後半以降19年
1967年将来の原子力発電の主力1985-90年23年
1972年将来、原子力発電の主流1985-94年22年
1978年将来の発電用原子炉の本命1995-2004年24年
1982年将来の原子力発電の主流2010年頃28年
1987年将来の原子力発電の主流2020年代-2030年頃43年
*1994年六ヶ所再処理工場着工。1997年完成予定
1994年将来の原子力発電の主流2030年頃まで36年
2000年将来のエネルギーの有力な選択肢柔軟かつ着実に検討 
2005年将来における核燃料政策の有力な選択肢2050年頃から45年
2018年*関係閣僚会議決定。対象は高速増殖炉ではなく高速(燃焼)炉2050年代後半81年?
*現在の六ヶ所再処理工場予定: 竣工2021年9月末まで、プルトニウム分離開始2022年1月

米国余剰プルトニウム用MOX工場工事停止確定

米ロ両国は2000年にそれぞれ34トンの兵器級プルトニウムを余剰として処分することで合意しました。米国は02年に米国分をMOX燃料にして軽水炉で処分すると決定。核分裂生成物と混ざった使用済み燃料の形にして兵器用の利用を難しくしようというわけです。ところが、サウスカロライナ州サバンナリバー核兵器施設で建設が始まった工場は工事の遅れと建設費高騰が続き、オバマ政権もトランプ政権も計画中止を提案していました。地元州が抵抗し裁判闘争にまで至っていたのですが、2019年1月8日、バージニア連邦控訴裁判所が政府の工事完全中止の決定を支持する判決を下し、計画中止が確定しました。

今後は、プルトニウムを特殊な化学物質と混ぜ、分離が難しい状態にしたうえで、ニューメキシコ州の岩塩層に設けられた地下処分場「廃棄物隔離パイロット・プラント(WIPP)」に入れて処分するという「希釈・処分(D&D)」方式が進められることになります。米国が余剰と宣言したプルトニウムは合計約50トンです。

一方、米国の余剰量とほぼ同量の48トンのプルトニウムを抱える日本は、六ヶ所再処理工場を2021年度上半期(~21年9月)に完成させ、プルトニウムの分離を22年1月にも始めようとしています。夢の高速増殖炉の実用化予測時期はドントンと遠ざかり、挙句の果てに、同じ技術を増殖ではなくプルトニウム他の燃焼に使うという新たな夢物語に変えてのことです。

初出 平和フォーラム/原水禁・ News Paper 2019. 2

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