核情報

2018. 8.27

米MOX燃料工場建設、2019年度小規模続行が確定
ゾンビのごとく──軍事余剰プルトニウムを原発で燃やす計画

軍事用余剰プルトニウムを原発用の燃料にして燃やす計画を続行するのか否かという議論が米国で続いていますが、トランプ大統領が8月13日に署名した2019年度国防権限法により一応の継続が確定しました。しかし、10月に始まる19年度の建設続行用予算はわずかに2億2000万ドル(約240億円)。とても完成に到達できるような規模の予算ではありません。

34トンのプルトニウムをウランと混ぜてプルトニウム・ウラン「混合酸化物(MOX)」燃料にするための工場の建設がサウス・カロライナ州の「サバンナリバー施設(SRS)」で始まったのは2007年のことです。建設費の高騰と計画の遅れのため、オバマ政権もトランプ政権も建設中止を提案したにもかかわらず、サウス・カロライナ州選出議員らの抵抗で細々と建設が続けられてきました。米エネルギー省のリック・ペリー長官は、この問題に決着をつけようと、5月10日、議会に対し、建設継続を30日後に打ち切ると通告しました。ところがこれに州政府が裁判で抵抗したため、長官の通告後も建設は続けられていました。そして今回の名目だけの継続予算。48トンものプルトニウムを抱えながら六ヶ所村再処理工場の運転を始めようとする日本。同工場に隣接して建設中のMOX燃料製造工場。これらの計画について考えるうえでも重要な米MOX製造工場の行方。事態の背景について簡単にまとめてみました。


  1. 2000年米ロ協定──MOX工場から代替案へ
  2. 同時に提案されたピット工場への転換
  3. エネルギー省の報告書、コストは35~40%と
  4. それでも続く建設──裁判、議会
  5. 究極の選択── MOX工場かピット工場か

2000年米ロ協定──MOX工場から代替案へ

冷戦終焉に伴う核削減によっていらなくなった軍事用プルトニウムについて、米ロは2000年にそれぞれ34トンを余剰として処分することで合意しました(「プルトニウム管理・処分協定(PMDA)」)。02年、米国はこの34トンすべてをMOX燃料にして原子力発電所で使用済み燃料にすることを決定します。使用済み燃料に含まれる放射能によってプルトニウムを核兵器用に再度使うことを難しくするという構想です。この時点では設計・建設に要する費用は10億ドル、完成は2007年という予定でした。実際に建設が始まった07年のエネルギー省の見積もりでは、建設費48億ドル、2016年9月に完成となります。建設費の見積り額はその後も高騰を続け、計画は大幅に遅れてしまいます。16年8月の見積もりでは、建設費は172億ドル、工場完成は2048年となっていました(会計検査院の2017年11月15日の報告書)(pdf)

このような状況のため、エネルギー省は2013年4月に、建設のスローダウンと代替案の検討を提案します。翌年4月に同省が提示した代案は、プルトニウムを特殊な化学物質と混ぜ、分離が難しい状態にしたうえで、ニューメキシコ州の岩塩層に設けられた地下処分場「廃棄物隔離パイロット・プラント(WIPP)」に入れて処分するというものです。これは「希釈・処分(D&D)」方式と呼ばれています。昨年12月に議会を通過した2018会計年度(17年10月~18年9月)「国防権限法(NNDA)」は、MOX工場を完成させ、処理を終えるまでにこれからかかる総コストの半分未満でD&Dが達成できるなら、MOX工場の建設を中止してよいと定めています。5月10日、ペリー長官は、D&Dがこの条件を満たすことを示す報告書を議会に送るとともに、これに従ってMOX工場建設中止の措置を講じると通告したのです (エネルギー省のリック・ペリー長官から議会に宛てられた書簡(英文pdf))。

同時に提案されたピット工場への転換

同じ5月10日、エネルギー省の「国家核安全保障局(NNSA)」は、同工場を核兵器のピット(プルトニウムからなる芯の部分)製造工場に改造することを提案しました(NNSAの提案文(英文))。これは、年間80個のピット製造能力を2030年までに確保するようにとの国防省の要求に応えるためものもので、SRSで最低年間50個、そして、ニューメキシコ州のロスアラモス国立研究所(LANL)で最低年間30個を製造するという案です。日本では、この計画だけに焦点を当て、軍事用余剰プルトニウムを燃やして軍事用に使えなくするはずの工場をピット生産工場にするのは、軍縮に逆行するものと論じるなかで、米ロ協定にある34トンの一部がピット生産用に使われるようだとの見方を示すものもありました。後述のように余剰プルトニウムとピット製造は別の話です。

エネルギー省の報告書、コストは35~40%と

米NGO「憂慮する科学者同盟(UCS)」が入手して5月14日に公開したエネルギー省の報告書(2018年4月)(pdf)は、MOX工場のコストを次のように説明しています。

要約:

MOX工場の建設・操業コストに関する2016年の見積もりは、560億ドル。このうち76億ドルが2017年会計年度末までに使われてしまう「埋没費用(サンクコスト)」。したがって、FY2018以後の必要額は484億ドルとなる。この推定の計算に入っていない廃止措置費用などを入れると、今後必要な総コストは494億ドル。これに対し、D&Dの総コストは182億ドル。つまりD&DはMOXの35~40%。

MOX工場の完成が、年間3億5000万ドル程度の工事費だとが2048年とされているのに対し、D&Dは2027年。処分完了は2040年代末です。5月10日のエネルギー省長官の通告はこの報告書に基づくものでした。

それでも続く建設──裁判、議会

ところがこれで終わりとはなりません。5月25日、州側は建設停止を阻止するために差し止めを請求。6月7日、サウスカロライナ州の州都コロンビア市の連邦裁判所判事が建設停止措置の仮差し止めの判断を下しました。建設続行を義務付ける内容です。これに対し、エネルギー省は、判事に6月15日差し止めの猶予を求めるとともに、第4巡回控訴裁判所に控訴。控訴裁判所の口頭弁論は9月27日に予定。一方、仮差し止めの命令を出したコロンビア市の連邦裁判所判事は、6月26日、猶予要請を却下。

一方、連邦上院は、6月26日、MOX工場建設打ち切り用に2億2000万ドルを充てる19年度国防権限法案を通過させます。建設継続費はゼロ(D&D追求用は5900万ドル)。エネルギー省の要求通りの内容です。下院は、これより先に建設続行のための資金を入れた法案を通過させていました。最終的には、8月1日、建設続行用に2億2000万ドル(D&D追求用は5900万ドル)を充てる上下両院協議会案が下院を7月26日、上院を8月1日に通過して確定しました(トランプ大統領署名は13日)。ただし2018年度国防権限法と同じ条件が満たされれば建設中止を認める内容です。といっても、上述の建設停止措置の仮差し止めが覆されなければ建設は止められません。

こうして建設は続いています。工場の進捗率についてはいろいろな数字が出ています。今年、3月20日、NNSAのリサ・ゴードン=ハガティー長官は、進捗率は50%に遠く及ばないと述べています。建設会社や推進派の方は70%という数字を使っています。2016年9月16日のエネルギー省報告書は、建設費172億ドル、進捗率28%、完成2048年という数字を発表していました。

究極の選択── MOX工場かピット工場か

今回のNNSAの提案は、MOX計画の終焉が一歩近づいたことを意味するものと見られています。しかし、SRS監視団体のトム・クレメンツ代表は昨年末、ピット工場計画の浮上をスマホで伝えてきた際、次のように嘆いていました。「ロスアラモスとSRSは残念ながらこの仕事を狙って競っている。それで私はどの毒にするかを選べるってわけだ── MOXかピットか」。

元々、LANLの実験レベルのピット製造能力を拡大するという計画がありましたが、そこへSRSのMOX工場をピット製造工場に転換するという案が浮上していました。建設費の高騰で中止されそうなMOX工場の他の用途を提示するとともに、LANLの施設の能力も拡大する形で、雇用の維持・拡大を求める両州の要望にも応えようというもののようです。

現在米国が保有する核兵器のピットは1978~89年にコロラド州ロッキーフラッツ工場で製造されたものです。冷戦時代に年間1000個レベルでピットを製造していた同工場は環境汚染・労働者被曝問題のために89年に運転中止に追いやられ、92年に閉鎖となりました。冷戦の終焉の時期だったのでこの後新しくピットを製造する必要も特にありませんでしたが、この時に中断された最後の核弾頭の製造が実施されたのがLANLのプルトニウム施設です。2003年から11年にかけて戦略原子力潜水艦用の核弾頭W88が29個製造されました。同施設は13年から16年まで安全性問題で閉鎖となります。現在試験用ピットを年間3~4個製造している状態です。

エネルギー省と国防省は2008年にピットは最低85~100年は使用できると述べています。つまり、1978年から85年後の2063年までは交換用のピット製造は必要ないということになります。米科学者連合(FAS)の核問題専門家ハンス・クリステンセンによると、現在米国の保有核は3800発、解体待ちが2650発、総数6450発です。このほか、テキサス州パンテックス工場で保管中のピットが2万個以上あります。LANL地元の監視団体ロスアラモス・スタディ・グループのグレッグ・メロー事務局長らはなぜ2030年までに年間80個のピット製造が必要になるのか、雇用効果はどれほどあるのかなどについて議論すべきだと述べています。

参考


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