核情報

2017. 6.26

商業用プルトニウムは核兵器材料
──米国核兵器問題専門家3人、ジャパン・タイムズに投稿

米国の署名な核兵器問題専門家3人が、ジャパン・タイムズ(2017年5月31日)に「商業用プルトニウムは核兵器材料」(英文)という論説文を投稿し「原子炉級プルトニウム──再処理により使用済み原子炉燃料から抽出されたもの──が効果的で強力な核兵器に使えるというのは否定のしようのないことだ」と述べています。著者らの承諾を得て、全文を訳出しました

著者らは、11/6シンポ「原発と核-4人の米識者と考える」:発表資料掲載(2015年11月)で紹介した米識者のうちの3人です。そのうちの一人、米国の核兵器研究機関「ローレンス・リバモア国立研究所(LLNL)」ブルース・グッドウィン副所長は、2015年11月に東京で開かれたこの会合でも日本の原子炉から出てくるプルトニウムで核兵器ができないというのは間違いだと指摘していました。この時彼が使ったパワポ資料の元になったのは、1976年11月に、「ローレンス・リバモア研究所(LLL)」(LLNLの元の名称)のロバート・セルデンが数カ国の原子力関係者及び「国際原子力機関(IAEA)」の代表等を対象としたワシントンDCでの説明会で使ったものです。

セルデンは、数年後、ロスアラモス科学研究所に移り、応用理論物理部門のリーダーを務めることになります(同研究所は後に「ロスアラモス国立研究所(LANL)」と改名)。グッドウィンは、1981年から85年までXディビジョンの名で知られるこの応用理論物理部門で、プルトニウムを使った核兵器の芯の部分(プライマリー)を担当するX4に在籍した後、ローレンス・リバモア国立研究所に移動します。

なお、このような説明会の必要性をヘンリー・キッシンジャー国務長官の科学補佐官に提案したのは、投稿の著者の一人、ヴィクター・ギリンスキー元米国原子力規制委員会(NRC)委員でした。スウェーデン出身のシグヴァード・エクルンドIAEA事務局長(当時)を始めとする関係者の誤解を解く必要性を感じたためです。「エルクンドは文字通り口をあんぐりと開けて驚いていた」とギリンスキーは言います(核情報への私信)。

セルデンやグッドウィンは、軽水炉の遅い中性子ではほとんど核分裂しない「プルトニウム240は、高速中性子に関しては、良質の核分裂性物質」であり、「核爆発の原動力は高速中性子である」ことを強調し、原子力関係者の一部の間ではこの点が誤解されていると述べています。

セルデンは2009年に、1976年のスライドの改訂版(英文及び訳文)を使って同じ内容の説明をしています。ジャパン・タイムズ投稿のもう一人の著者ヘンリー・ソコルスキー元米国防省高官が所長を務める「不拡散政策教育センター(NPEC)」と「米国科学振興協会(AAAS)」が共催した会合(英文)でのことです。

1976年のセルデンの説明会は複数回行われました。「原子炉級プルトニウムでは核兵器はできない」との神話の発信源の役割を果たした故今井隆吉元軍縮会議日本代表部大使も説明を受けています。今井元大使は、ジャパン・タイムズの投稿で触れられている「原子燃料政策研究会(CNFC)」の中心人物の一人でした。今井元大使の執筆した同研究会の報告書『原子炉級プルトニウムと兵器級プルトニウム調査報告書(2001年5月)』には次のようにあります。(英語版では、セルデンから説明を受けたのは1977年のこととなっています)。

「著者は1976年にワシントンで、当時の軍備管理軍縮局(ACDA)にただ一人招かれ、Lawrence Livermore研究所のRobert W. SeldenからReactor Plutonium and Nuclear Explosivesという文書を手渡され、原子炉級プルトニウムで爆発装置を作って核爆発を行った件について説明を受けたことがある。」

セルデン、今井、ギリンスキー、それに米国の著名な核兵器設計者リチャード・ガーウィンなどの諸氏の主張・やり取りなどについては、原子炉級プルトニウムで核兵器ができる:論文リスト(抜粋付き)MOX燃料輸送と核拡散─原子炉級プルトニウムでできる核兵器(1999年)にまとめてあります。

*なおガーウィン・今井両氏の往復書簡の日本語訳が、「原子燃料政策研究会(CNFC)」の機関誌『プルトニウム』(Summer 1998 No.22)(pdf)にあります。




翻訳:核情報

商業用プルトニウムは核兵器材料──再処理した核燃料は、効果的で強力な核兵器の製造に使える(英文)

ヴィクター・ギリンスキーブルース・グッドウィンヘンリー・ソコルスキー

2017年5月31日

日本が保有するプルトニウムの将来に関して話し合うに際して、次の事実はもう議論の余地がなくなっていると思われるかもしれない。すなわち、商業用のプルトニウム──しばしば「原子炉級プルトニウム」と呼ばれる──は、効果的な核爆発物質として核兵器に使えるということだ。単純なあるいは初歩的な核兵器の話をしているのではない。洗練度や性能において主要核兵器国の核兵器に匹敵する近代的な核兵器の話だ。

しかし、公開された情報や知識の豊富な当局者による度重なる表明が手に入れられる状態にあるにも関わらず、商業用プルトニウムを燃料として使用することを提唱する人々は、未だに、この点を認めようとしない。著名な「原子燃料政策研究会(CNFC)」は、発電用原子炉の燃料から分離され蓄積されている日本のプルトニウムについて核問題の専門家らが表明した懸念を一蹴する記事をそのウエブサイトに目立つ形で載せている。東京に本拠を置くCNFCは、とりわけ、2015年に日本で開かれた会合での専門家の発言を批判している。私たちは、それらの会合で懸念を表明した専門家の一部なので、なぜCNFCが間違っているかについて説明することが重要だと考える。CNFCがプルトニウムの商業利用を守ろうとするのは理解できる。CNFCは原子力に長期的に依存するにはプルトニウムの利用が欠かせないと考えている。何年にもわたって、CNFC自身の表現を使うなら、「プルトニウムの平和利用の推進」に取り組んできている。CNFCは、日本の発電用原子炉──いわゆる「軽水炉(LWR)」という型の炉──から得られるプルトニウムは核兵器に使えないとの想定に依存してきた。今ではこのようなプルトニウムが核兵器にとって有用だということが明らかだという事実は、CNFCの考えの基礎を脅かす。

1トンのプルトニウムで100発以上の核弾頭が作れるとなると、原子力発電所の燃料としてこの核爆発物を何トンも使う計画が完全に平和的なものだと一般の人々を説得するのは難しい。だから、原子炉級のプルトニウムが核兵器に使えるということは、CNFCの核燃料サイクルの概念全体を脅かす。再処理でプルトニウムを抽出し軽水炉で「リサイクル」することだけではない。軽水炉から得たプルトニウムを将来世代の高速増殖炉の燃料にする計画──プルトニウム推進派の最終目的──も含まれる。

CNFCは、当然、プルトニウムが核兵器に使えるという否定しようのない事実を前にして、プルトニウム燃料を利用することが必要だとする従来からの立場を守る方法を探している。CNFCは、原子炉級プルトニウムで核爆発「装置」を作ることは確かにできるという事実までは認めることを余儀なくされた。しかし、兵器級プルトニウムと原子炉級プルトニウムの違いに飛びつく。後者は、軍事用生産炉で生産される兵器級プルトニウムの場合と比べ、ずっと長時間炉内で照射された使用済み燃料から取り出されたものだ。

原子炉級プルトニウムには、望ましくないプルトニウム同位体(他の形のプルトニウム)の混合物が入っている。CNFCは、このプルトニウムを核爆発装置に使うのは困難な技術的問題を伴うと主張する。CNFCによれば、このような装置は、実用的な兵器にするには重さも体積も大きすぎ、危険だという。このような兵器を作って貯め込んだ国はない。そこから、CNFCは、将来そのようなことをする国が出ると考えるのは「馬鹿げている」と結論付ける。さらに、こう断定的に予言する。「軽水炉燃料から抽出されたプルトニウムで核兵器が作られることは決してない」。

問題は、核兵器の技術的特性に関するCNFCの考え方は、70年ほど時代遅れで、その結果、単純なものになっているということだ。原子炉級プルトニウムに含まれる余分な同位体は放射能を増加させ、そのため、発熱量も大きくなる。しかし、核兵器設計者らは、重量をそれほど増やさず装置の過熱を防ぐ方法をすでに見出している。そして、製造者らは簡単に余分な放射能に対処することができる。

余分な同位体の中には中性子を放出するものがある。初期の核兵器設計においては、この中性子バックグラウンドは、連鎖反応の開始を予定より早め、爆発の威力を下げる傾向があり、威力が予測し難いという問題があった。だが、これは、先進工業国がこの物質を核兵器に使う上では関係のないことだ。

米国エネルギー省の文書「核兵器利用可能物質の貯蔵と余剰プルトニウム処分選択肢に関する核不拡散・軍備管理評価(Nonproliferation and Arms Control Assessment of Weapons-Usable Fissile Material Storage and Excess Plutonium Disposition Alternatives)」(1997年1月)から引用してみよう。「米国やロシアのような先進核兵器国は、近代的な設計を使えば、兵器級プルトニウムから製造された核兵器と大体同等の信頼性のある爆発威力、重さ、その他の特性をもった核兵器を原子炉級プルトニウムから製造することができる。」

今日まで、どうやらCNFCはこのことに気づいていないようだ。これを見れば、CNFCは、原子炉級プルトニウムと兵器級プルトニウムが近代的核兵器用の使用において基本的に同等であるとの認識に達するはずだ。私たちの一人は、核兵器設計の豊富な経験を持っており、この米国政府のステートメントが正しいと証言することができる。

CNFCや他の同じような見解を持っている人々には、この点について考え、原子炉級プルトニウムの核兵器利用可能性についての立場を再検討していただきたい。その立場は、何年も前なら擁護できるものであったかもしれないが、もはやそうではない。日本のエネルギー政策を動かす人々がこの事実を、それが政治的な目的で提示されているとの懐疑心から無視するのであれば残念だ。原子炉級プルトニウム──再処理により使用済み原子炉燃料から抽出されたもの──が効果的で強力な核兵器に使えるというのは否定のしようのないことだ。

著者紹介:

ヴィクター・ギリンスキー:ジェラルド・フォード、ジミー・カーター、ロナルド・レーガン大統領の下における「原子力規制委員会(NRC)」委員。

ブルース・グッドウィン:「ローレンス・リバモア国立研究所(LLNL)」副所長、第一級の核兵器設計者。

ヘンリー・ソコルスキー:「不拡散政策教育センター(NPEC)」所長、元米国国防省高官。


ヴィクター・ギリンスキー(右)"

ヴィクター・ギリンスキー(右)2015年11月6日 日比谷図書文化館

参考

ヴィクター・ギリンスキー(右)"

ブルース・グッドウィン(左)ヘンリー・ソコルスキー(右)2015年11月6日 日比谷図書文化館


核情報ホーム | 連絡先 | ©2017 Kakujoho