核情報

2022. 9.28

不思議なNPT再検討会議関連報道─「唯一の被爆国による橋渡し」の幻想が招く思考停止?

米国ニューヨークの国連本部で8月1日から26日まで、開催された第10回核不拡散条約(NPT)再検討会議は、合意文書を採択できないまま幕を閉じました。一つの焦点は、核攻撃を受けていないのに核兵器を先に使うことはしないとする「先制不使用」宣言を巡るものでした。「先制不使用」宣言を核保有国に求めるとの文言が草案に入ったものの、米国などの反対でこれが削除されたと各紙で報じられました。米国が先制不使用宣言をすると──核以外の攻撃に対するものも含め──抑止力が弱まると日本など同盟国が憂慮しているということが背景にあり、米国がこれに配慮したという内容です。

ところが、NPT再検討会議に関する総論的な記事では、どういうわけか、米国による「先制不使用」宣言に日本が反対してきたという事実が抜け落ちる傾向があるようです。総論の記事となると、「唯一の被爆国」の政府は核廃絶を真に願っており、その早期実現を目指しているはずだとの想定が存在していて、実際の政策の検証を行うことなく、最初からその想定にしたがって記事が書かれることになっているのでしょうか。広島選出の首相と首相補佐官が登場すると特にそうなるのでしょうか。政府広報かと錯覚させるような内容のものが散見されます。

以下ランダムにいくつかの関連記事を発表順に並べてみましょう。◆は総論的なもの、★は米国による先制不使用宣言に反対する日本の政策に言及している記事類です。

参考:

何から何に橋を架ける?

記事の例を挙げる前に、「米国による先制不使用に反対する日本が橋を架けられる」というのが幻想であることを、関係国の位置関係を示した下の図で確認しておきましょう。


*出典:原子力資料情報室Webinar「核兵器禁止条約第一回締約国会議 日本が今すぐできる2つのことー再処理モラトリアムと先制不使用支持宣言-」(2022/06/21), 核兵器禁止条約と日本の課題(核情報, pdf) p.22

日本が米国の先制不使用宣言を支持すると表明し、そのうえで、さらなる核軍縮提案をして、初めて橋渡し役になり得るということです。これは、★各論の例として挙げた藤田直央朝日新聞編集委員の「コメントプラス」にある「従来の延長線上でなく身を切るような提案がなければ、核保有国が国益をかけしのぎを削る核軍縮交渉には何ら響かない」に通ずるものがあるでしょう。


NPT再検討会議関連記事――乖離する◆総論と★各論?


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