核情報

2016. 8.18

オーストラリア、先制不使用でもかまわないと2010年に
──米独日NGOの1998年の提案から18年、変わらぬ日本

オバマ政権が2010年4月6日に発表した「核態勢の見直し(NPR)」において「米国あるいはその同盟国・パートナーに対する核攻撃の抑止を米国の核兵器の唯一の目的とすることを目標」にすると述べたことを受けてオーストラリア政府は、翌7日、その目標が達成されてもオーストラリア政府は不安を感じることはないとの声明を発表しました。これは米・独・日のNGO関係者が1998年のNPT再検討会議準備委員会の際に提示した提案で核の傘の下にある国々に求めたものと付合するものでした。

参考

オーストラリアのスティーブン・スミス外務大臣とジョン・フォークナー国防大臣が2010年4月7日に発表したプレスリリースは、次のように述べています。

米国がその核兵器の唯一の役割[目的](sole purpose)を核攻撃の抑止に限るという目標を達成しても──安全を保ちながらそうする条件を確立するには相当の努力が必要であることをNPRは指摘しているが──オーストラリアは不安に感じることはないことを米国は知っている。

(The United States knows that Australia would be comfortable if the United States were to reach its objective of making deterrence of nuclear attack the sole purpose of its nuclear weapons, although the NPR notes that significant work is required to establish the conditions to do so safely.)

出典

1998年4月にジュネーブで開かれたNPT再検討会議準備委員会の際に、米・独・日のNGO関係者が起草した提案「NPT第6条の軍縮の目標を達成するためのいくつかの短期的措置」は、次のように述べています。

1998年準備委員会は、以下の具体的措置を締約国がとるよう勧告すべきである。

1.締約国である各非核兵器国(以下「非核兵器国」)は、締約国である核兵器国(以下「核兵器国」)が先制不使用政策を採用しても、それは自国の安全保障に反するものではなく、それによって自国の安全保障が脅かされることはないと、一方的宣言を行うべきである。とくに、私たちは、核兵器国と同盟関係にある日本、ドイツその他の非核兵器国がこのような宣言を1999年準備委員会までに行うよう求める

出典

この提案は、1968年にNPTを締結する際に米国代表団で中心的な役割を果たしたジョージ・バンを含め、世界各国から約30名のNGO関係者が署名し、1998年5月5日にジュネーブで発表したものです。

提案の背景について、先制不使用問題背景説明 核情報 1999から抜粋しておきます。

1998年4月末から5月にかけてジュネーブでNPTの再検討会議が開かれた際、米国の「環境・エネルギー研究所(IEER)」のアージュン・マキジャニ(インド人)および[「ベルリン大西洋安全保障情報センター(BITS)」の]オリバー・マイヤーと原水禁の代表[現核情報主宰]は、『NPT第六条の軍縮の目標を達成するためのいくつかの短期的措置』という文書を起草し、各国の大使らに配布した。その第一項は次のようになっている。「締約国である各非核兵器国(以下非核兵器国)は、締約国である核兵器国(以下核兵器国)が先制不使用政策を採用しても、それは自国の安全保障に反するものではなく、それによって自国の安全保障が脅かされることはないと、一方的宣言を行うべきである。とくに、私たちは、核兵器国と同盟関係にある日本、ドイツその他の非核兵器国がこのような宣言を一九九九年準備委員会までに行うよう求める。」米国が先制不使用宣言をするよう迫ることを日本政府に要求するのではなく、米国の宣言に反対せず、また、米国の宣言によって不安を感じることはないと宣言するようにとの内容だ。

 ジュネーブの日本代表部を訪れて、この文書についての見解を聞くと、このような宣言はとてもできないの返答だった。核戦略は核兵器国が考えることであって、非核保有国がイニシアチブをとるような問題ではないとの主張だった。

この提案から20年近く経ち、世界状況は大きく変わりましたが、日本政府は相変わらず、核のない世界に向けた米国の足を引っ張っています。1994年のクリントン政権の核態勢の見直し、2010年のオバマ政権の核態勢の見直しにおいて先制不使用宣言の障害になった日本。オバマ大統領が置き土産に先制不使用宣言を検討していると伝えられる中、日本はまたしても、そんなことをしては核抑止力が弱まると不安を表明しています。


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