六ヶ所再処理工場のからのトリチウム年間推定海洋放出量は、経産省説明(5月15日衆議院経済産業委員会)の1京8000兆ベクレルを使うと、福島全量の約20倍となり、日本原燃の現在の液体放出「管理目標値」9700兆ベクレルを使うと約10倍となります。この二つの数字が出てきた理由は何か。一つ考えられるのは、日本原燃が新規制基準で導入された「重大事故」に対処するために冷却期間の長い(15年以上)の使用済み燃料を再処理すると想定しながら、通常放出と設計基準事故に関しては、以前の想定(4年以上)を使ったことです。以下、原子力規制委員会の関連文書を見ながら簡単にこの問題をまとめておきましょう。
「重大事故」に対処するために「冷却期間」を長く設定
日本原燃は、2018年4月16日、設計基準を超える「重大事故」等対策の有効性に関する評価において、工場でせん断するまでの使用済み燃料の冷却期間を、炉からの取り出し後「4年以上」という元の規定から「15年以上」に変更しました。そして、重大事故に関して「15年以上」を導入したのに合わせて、「放出管理目標値」も変更しました(「管理目標」と言っても、トリチウムの場合は、捕獲回収機器を使おうというわけではないので、使用済み燃料に含まれる全量が放出されると想定した値となります。トリチウムは、半減期が12.3年なので、冷却期間の11年の延長によって燃料中の含有量は元の値の約半分の9700兆ベクレルになりました)。
出典:
- 『六ヶ所再処理施設及びMOX燃料加工施設における新規制基準に対する適合性─放出管理目標値の変更』(pdf) 日本原燃株式会社 2018年5月9日
*4ページ(下記引用の上部)が新しい数字、5ページ(同下部)が古い数字
【せん断処理までの期間15年以上の放出管理目標値】
(気体)
(液体)
【旧申請書等の放出管理目標値】
(気体)
(液体)
- 2018年4月26 定例社長記者懇談会挨拶概要 日本原燃
16日には再処理工場、MOX燃料工場、高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センターの事業変更許可申請書の一部補正を原子力規制委員会に提出いたしました。
一部補正の主な内容は、再処理工場については、重大事故時等における放射性物質の放出量を更に低減させるための「凝縮器」の追加設置や重大事故等が発生した際の放射性物質等による影響を低減させるため、せん断処理を行う使用済燃料の冷却期間を15年以上に変更し、これに伴う建屋からの放射性物質の放出管理目標値を下げるなどの変更です。
一方、「設計基準対象施設については、保守性を確保する観点から、既許可申請書における使用済燃料の冷却期間に基づく安全設計及び安全評価を維持するとの方針」を採用しました。元の評価のままということで、ここから得られる年間推定海洋放出量は、1京8000兆ベクレルとなります。(次を参照:審査書(案)p.12 「2.審査過程における主な論点」。通常運転及び設計基準事故の「実効線量の評価」については、次を参照:添付書類七 「変更後における再処理施設の放射線の管理に関する説明書」
放射性ルテニウム(Ru-106)の揮発問題
「重大事故」用の長期冷却「想定」は、高レベル放射性廃液中の放射性ルテニウム(Ru-106)の揮発等の問題に対処するために考案されたものです。
「重大事故」では、高レベル放射性廃液が高熱で蒸発して「乾固」し、難揮発性のRu-106が揮発して環境中にそのまま放出されてしまうことなった場合のことを考えなければならない。どうするか。六ヶ所再処理工場は、度重なる完成の遅延のため、貯蔵されている燃料が古くなっており、「当面は」原子炉から取り出されて間もない使用済み燃料を再処理することにはならない。つまり、元の想定を変えて、長期冷却後再処理するとしてもいいのではないか? 長い冷却期間を想定すれば、廃液全体の崩壊熱密度も下がるし、また、Ru-106は半減期が374日なので絶対量が大幅に減っていて、Ru-106がすべて環境中に放出された場合にも、事故の影響を小さくできる。というわけです。
この方針が日本原燃から示されたのは、2015年8月31日の会合においてです。しかし、実は、冷却期間を長く想定して、評価の対象となる重大事故の影響を小さくするというアイデアは、同年6月29日の会合で田中知委員から提案されていました。田中委員はその提案をする中で、「将来、より冷却期間の短いようなものが再処理するというふうになってくれば、それまでちょっと時間がありますから、その間に、例えばRuの挙動についての知見を得るとか、より効果的であるような除去方法を考え」ればよいと解説しています。
つまり、重大事故と管理目標値のための冷却期間想定(15年以上)は、「当面」用のものであり、通常放出及びと設計基準事故のための想定(4年以上)は、元々の申請時の計画に基づくもので、そういう運転方法になる可能性があるものということになります。
なお、長期冷却期間想定の利点について、上述の2015年6月29日会合で田中委員から助言を受けた日本原燃の瀬川智史(安全本部安全技術部安全技術グループ主任)が、2年半後のセミナーで次のように述べています。「放射性ルテニウムの場合…冷却年数を制限することによりその放射能量は約1/2000に減衰し、また、セシウムやストロンチウム等の放射能量も約2/3に減衰する。」「制限」するというのは、「15年以上」のものに限るという意味です。
まとめ
六ヶ所再処理工場のトリチウム放出量は、重大事故用の使用済み燃料の想定とそれとともに導入された海洋放出管理目標値に従うと、30年に亘っての放出が検討されている福島全量の約10倍、通常放出及びと設計基準事故のための想定に従うと、福島全量の約20倍となります。
下に、再処理工場からの年間トリチウム海洋放出量は福島全量の20倍と経産省──「フル稼働になるわけではない」ので管理目標値を下回ると規制委更田委員長の「トリチウム放出量まとめ」を再掲載(一部修正)しておきます。
福島第一原発タンク保管総量(30年かけて放出?) | 860兆ベクレル | 備考 | |
六ヶ所再処理工場海洋放出 | |||
放出実績 | アクティブ試験 2006-08年(425トン) | 2150兆ベクレル | 福島総量の2.5倍 |
上記試験中2007年10月 | 523兆ベクレル | 福島総量の60% | |
フル操業(800トン/年)海洋放出計画 | 年間海洋放出管理目標 | 9700兆ベクレル | 福島総量の約10倍 |
実際の海洋放出量 アクティブ試験から推定? | 福島総量の約5倍? | ||
経産省による年間推定海洋放出量* | 1京8000兆ベクレル | 福島総量の20倍 |
- *注:2020年5月15日 衆議院経済産業委員会における経産省資源エネルギー庁 村瀬佳史 電力・ガス事業部長の説明
出典:国会中継 2020年5月15日 宮川伸(立国社)経済産業委員会 六ケ所再処理工場の審査書案了承について(動画)
議事録:第201回国会 衆議院 経済産業委員会 第10号 令和2年5月15日 より、経産省資源エネルギー庁 村瀬佳史 電力・ガス事業部長 発言部分○村瀬政府参考人 お答え申し上げます。 ─(略)─ 今後政府として方針を決定していくものであり、具体的な数字を前提とした比較をすることは困難でありますけれども、先ほど答弁にあったように、貯蔵されているALPS処理水に含まれるトリチウムの量は八百六十兆ベクレルでございますので、六ケ所再処理工場において年間の最大処理量である八百トンの使用済み燃料を再処理した場合におけるトリチウムの推定海洋放出量が約一京八千兆ベクレルであることを考えますと、この比較でいえば、機械的に計算しますと、福島第一原発における貯蔵量の約二十倍となるわけでございます。
資料編
日本原燃関連資料
- 日本原燃株式会社再処理事業所における再処理の事業の変更許可申請書に関する審査書(案)
p.11~12 - 日本原燃(株)から再処理事業所再処理施設に関する事業変更許可申請の一部補正を受理(原子力規制委員会 2020年4月28日)収録 添付書類七「変更後における再処理施設の放射線の管理に関する説明書」(pdf)
7-5-120 - 平成27年度 核燃料施設等の新規制基準適合性に係る審査会合
第73回資料2 六ヶ所再処理施設における新規制基準に対する適合性 【重大事故等対処施設】重大事故に係る燃料条件(pdf) 日本原燃 2015年8月31日
p.3 - 第65回核燃料施設等の新規制基準適合性に係る審査会合 資料2 六ヶ所再処理施設における新規制基準に対する適合性【重大事故等対処施設】重大事故等への対処の基本方針及び想定する条件(蒸発乾固)(pdf) 日本原燃 2015年6月29日
- 第65回核燃料施設等の新規制基準適合性に係る審査会合(2015年6月29日)議事録(pdf)
- 2017年12月7日 第13回再処理・リサイクル部会セミナー
テーマⅡ:重大事故等に対する再処理施設の安全性向上について(その2)
重大事故等:冷却機能喪失による蒸発乾固に係る安全対策(pdf) 日本原燃再処理事業部 エンジニアリングセンタープロジェクト部 安全グループ 瀬川智史
p.8ー9
Ⅲ-1 再処理を行う使用済燃料の種類(冷却期間)の見直し1.再処理を行う使用済燃料の種類(冷却期間)の見直しに係る基準への適合
申請者は、既許可申請書において、使用済燃料の種類に関し、使用済燃料最終取出し前の原子炉停止時からの期間(以下「冷却期間」という。)について、再処理施設に受け入れるまでの冷却期間を1年以上及びせん断処理するまでの冷却期間を4年以上としていた。これに対し、本申請においては、燃料貯蔵プールの容量3,000t・U(照射前金属ウラン重量換算。以下同じ。)のうち、600t・U未満の使用済燃料は、再処理施設に受け入れるまでの冷却期間が4年以上のもの、それ以外は再処理施設に受け入れるまでの冷却期間が12年以上のものとするとしている。また、せん断処理する使用済燃料については、せん断処理するまでの冷却期間を15年以上のものとするとしている。
本変更により、設計基準対象施設の設計に当たっては、放射性物質の崩壊熱密度及び放射能量が低減されることとなるが、既許可申請書における使用済燃料の冷却期間に基づく安全設計及び安全評価を維持するとしている。ただし、事業指定基準規則解釈第21条の規定に対して、放射性気体廃棄物及び放射性液体廃棄物の環境への放出に係る放出管理目標値については、変更後の使用済燃料の冷却期間に基づき、既許可申請書よりも低い値で設定するとしている。
規制委員会は、変更後の放出管理目標値は、「発電用軽水型原子炉施設周辺の線量目標値に関する指針」(昭和50年5月13日原子力委員会決定。以下「線量目標値指針」という。)に示されている年間50μSvを下回るものであり、かつ、一般公衆の線量を合理的に達成できる限り低減できるよう、既許可申請書における放出管理目標値を引き下げるものであることを確認したことから、第21条に適合するものと判断した。また、設計基準対象施設に関し安全設計及び安全評価を維持することについては、受入れ及びせん断処理に係る使用済燃料の冷却期間の見直しに伴う放射性物質の崩壊熱密度及び放射能量の低減を考慮しない保守側のものとなり、再処理施設の安全性を低下させるものではないことから、差し支えないと判断した。2.審査過程における主な論点
本申請時点において既に長期間保管されている使用済燃料を、今後必要な規制上の手続等を経た後に再処理することを考えれば、実際にせん断処理される使用済燃料の冷却期間は、設計条件としている使用済燃料の冷却期間よりも長くなることは明らかである。一方、申請者は、当初、既許可申請書から変更はなく使用済燃料の受入れまでの冷却期間を1年以上及びせん断処理するまでの冷却期間を4年以上とし、重大事故等対策の有効性評価を行うとしていた。 これに対して、規制委員会は、重大事故等への対処については、機器が内包する放射能量等に基づき、実態に即した対策の優先順位、手順等の検討が重要であるとの認識の下、現実的な使用済燃料の冷却期間の設定を求めた。申請者は、現在貯蔵されている使用済燃料の冷却期間及び事業計画を踏まえ、現実的な冷却期間の設定に基づき、実態に即した重大事故等対策の手順の整備等を行うため、受入れ及びせん断処理に係る使用済燃料の冷却期間を見直すとの方針を示した。加えて、放出管理目標値を変更し、一般公衆の線量を合理的に達成できる限り低減する方針を示した。また、設計基準対象施設については、保守性を確保する観点から、既許可申請書における使用済燃料の冷却期間に基づく安全設計及び安全評価を維持するとの方針を示した。
これにより、規制委員会は、申請者の受入れ及びせん断処理に係る使用済燃料の冷却期間の見直しに係る方針が妥当であることを確認した。
第5.1-33表 実効線量の評価に用いる海洋放出口からの放射性物質の放出量(56)
核種 放出量 (Bq/y) H-3 1.8×1016 I-129 4.3×1010 I-131 1.7×1011 その他(α) 3.8×109 その他(β,γ) 2.1×1011
p.6
p.8
p.14
p.14-p.15
田中知委員
再処理施設の重大事故は臨界事故、蒸発乾固、水素爆発、有機溶媒火災、使用済燃料プールにおける燃料の損傷等がありますが、本日は蒸発乾固に関するものとして、重大事故等への対処の基本方針及び想定する条件、蒸発乾固の例等につきまして、日本原燃から説明をしてもらいたいと思います。
・・・・日本原燃(瀬川主任)
・・・15ページに移りますけれども、こういった蒸発乾固の特徴を踏まえまして、こちらに記載しているとおりの制限を設けた上で、重大事故対策を整備していきたいと考えてございます。Ruの揮発リスクがありまして、蒸発乾固時の影響が大きくなりますという、この以下の貯槽、これらの貯槽に内蔵される高レベル濃縮廃液の崩壊熱密度を、運転管理により6.0kW/m3以下に制限いたします。これによって発生防止対策、拡大防止対策、異常な水準の放出防止対策を確実に実施してまいります。また、不溶解残渣廃液につきましても、その下に記載しておりますとおり3.1kW/m3、ないしは、貯槽によっては1.4kW/m3以下に制限することといたします。続いて、二つ目の矢羽根になりますけれども、運転管理によって、この高レベル濃縮廃液中のRu106の総量を20,000TBq以下に制限することによりまして、高レベル濃縮廃液の蒸発乾固に伴い、放射性Ruが揮発し、環境へ放出されるような事態に陥った場合においても、その環境への放出量がCs137換算値が100TBqを下回るようにしていこうというふうに考えてございます。
・・・
田中知委員 関連して、後でまた、ちょっとコメントしようかなと思ったんですけど、今のこの時点で関連して。運転制限をかけることは、現実的な対応としていいかなとも思うんですが、また先ほど、日本原燃の方がおっしゃったように、RU106の放射性物質の移行シナリオをどう考えるのか、そのときの挙動をどう考えるのかについて、まだまだはっきりしないところもあったりすると、結構保守側というか、安全側の仮定を置かざるを得ないかなと思うんです。そういうような状況を考えると、一方で、ここの6kW/m3、20,000TBqというのが、どういうふうにしてこれが出てきたか知りませんけども、実際にこれから再処理していこうとする燃料の特性、冷却期間等々を考えると、この6kW/m3、あるいは20,000TBqという数字よりもかなり、もっと低いんじゃないかなと思うんですね。そういうふうな、より現実的な値を初期値として考えたほうが適切じゃないかなとも思うんです。もちろん、現在どういうふうなバーンナップ何ぼ、冷却期間何ぼということはよくわかりませんけれども、恐らくはそうじゃないかなと思うんです。というのは、そういうふうに、これでやっていく中で、将来、より冷却期間の短いようなものが再処理するというふうになってくれば、それまでちょっと時間がありますから、その間に、例えばRuの挙動についての知見を得るとか、より効果的であるような除去方法を考えて、それをその運転条件の、将来の変更のときにそれを使うというふうなことが考えられないかと思うんですね。この6kW、20,000Tというのはわかりませんけれども、もっと本当に、これから当分、再処理していくようなものに合わせたほうが、より現実的じゃないかなと思うんですけれども、いかがでしょうか。」
核情報の関連記事
- 再処理工場からの年間トリチウム海洋放出量は福島全量の20倍と経産省──「フル稼働になるわけではない」ので管理目標値を下回ると規制委更田委員長 2020. 6. 2
- 六ヶ所再処理工場の試験で海に放出されたトリチウムは、福島総量の2.5倍?5倍?─本格運転で毎年海洋放出するのは? 2020. 5. 6
- 再処理工場はトリチウム問題を拡大すると日韓の専門家──英文原子力業界誌で 2020. 3.19
- 日本は、福島トリチウム・ストロンチウム汚染水の放出と六ヶ所再処理工場運転計画中止を!と韓国専門家 2020. 3. 6
- 日本のプルトニウム削減宣言の実態ーー原子力規制委での珍問答と関連機関の説明責任 2019. 6.27
- プルトニウム削減の第一歩は再処理工場運転放棄 2018. 6.22
- 六ヶ所・再処理・高速炉 (記事リスト:核拡散問題含む)