核情報

2020. 6.11〜

六ヶ所再処理工場からのトリチウム年間放出量は福島全量の20倍?10倍?5倍? 規制委審査過程を振り返って

六ヶ所再処理工場のからのトリチウム年間推定海洋放出量は、経産省説明(5月15日衆議院経済産業委員会)の1京8000兆ベクレルを使うと、福島全量の約20倍となり、日本原燃の現在の液体放出「管理目標値」9700兆ベクレルを使うと約10倍となります。この二つの数字が出てきた理由は何か。一つ考えられるのは、日本原燃が新規制基準で導入された「重大事故」に対処するために冷却期間の長い(15年以上)の使用済み燃料を再処理すると想定しながら、通常放出と設計基準事故に関しては、以前の想定(4年以上)を使ったことです。以下、原子力規制委員会の関連文書を見ながら簡単にこの問題をまとめておきましょう。

「重大事故」に対処するために「冷却期間」を長く設定

日本原燃は、2018年4月16日、設計基準を超える「重大事故」等対策の有効性に関する評価において、工場でせん断するまでの使用済み燃料の冷却期間を、炉からの取り出し後「4年以上」という元の規定から「15年以上」に変更しました。そして、重大事故に関して「15年以上」を導入したのに合わせて、「放出管理目標値」も変更しました(「管理目標」と言っても、トリチウムの場合は、捕獲回収機器を使おうというわけではないので、使用済み燃料に含まれる全量が放出されると想定した値となります。トリチウムは、半減期が12.3年なので、冷却期間の11年の延長によって燃料中の含有量は元の値の約半分の9700兆ベクレルになりました)。

出典:

  1. 六ヶ所再処理施設及びMOX燃料加工施設における新規制基準に対する適合性─放出管理目標値の変更』(pdf) 日本原燃株式会社 2018年5月9日
    *4ページ(下記引用の上部)が新しい数字、5ページ(同下部)が古い数字
    【せん断処理までの期間15年以上の放出管理目標値】
    (気体)
    (液体)


    【旧申請書等の放出管理目標値】
    (気体)
    (液体)

  2. 2018年4月26 定例社長記者懇談会挨拶概要 日本原燃

     16日には再処理工場、MOX燃料工場、高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センターの事業変更許可申請書の一部補正を原子力規制委員会に提出いたしました。

     一部補正の主な内容は、再処理工場については、重大事故時等における放射性物質の放出量を更に低減させるための「凝縮器」の追加設置や重大事故等が発生した際の放射性物質等による影響を低減させるため、せん断処理を行う使用済燃料の冷却期間を15年以上に変更し、これに伴う建屋からの放射性物質の放出管理目標値を下げるなどの変更です。

一方、「設計基準対象施設については、保守性を確保する観点から、既許可申請書における使用済燃料の冷却期間に基づく安全設計及び安全評価を維持するとの方針」を採用しました。元の評価のままということで、ここから得られる年間推定海洋放出量は、1京8000兆ベクレルとなります。(次を参照:審査書(案)p.12 「2.審査過程における主な論点」。通常運転及び設計基準事故の「実効線量の評価」については、次を参照:添付書類七 「変更後における再処理施設の放射線の管理に関する説明書

放射性ルテニウム(Ru-106)の揮発問題

「重大事故」用の長期冷却「想定」は、高レベル放射性廃液中の放射性ルテニウム(Ru-106)の揮発等の問題に対処するために考案されたものです。

「重大事故」では、高レベル放射性廃液が高熱で蒸発して「乾固」し、難揮発性のRu-106が揮発して環境中にそのまま放出されてしまうことなった場合のことを考えなければならない。どうするか。六ヶ所再処理工場は、度重なる完成の遅延のため、貯蔵されている燃料が古くなっており、「当面は」原子炉から取り出されて間もない使用済み燃料を再処理することにはならない。つまり、元の想定を変えて、長期冷却後再処理するとしてもいいのではないか? 長い冷却期間を想定すれば、廃液全体の崩壊熱密度も下がるし、また、Ru-106は半減期が374日なので絶対量が大幅に減っていて、Ru-106がすべて環境中に放出された場合にも、事故の影響を小さくできる。というわけです。

この方針が日本原燃から示されたのは、2015年8月31日の会合においてです。しかし、実は、冷却期間を長く想定して、評価の対象となる重大事故の影響を小さくするというアイデアは、同年6月29日の会合で田中知委員から提案されていました。田中委員はその提案をする中で、「将来、より冷却期間の短いようなものが再処理するというふうになってくれば、それまでちょっと時間がありますから、その間に、例えばRuの挙動についての知見を得るとか、より効果的であるような除去方法を考え」ればよいと解説しています。

つまり、重大事故と管理目標値のための冷却期間想定(15年以上)は、「当面」用のものであり、通常放出及びと設計基準事故のための想定(4年以上)は、元々の申請時の計画に基づくもので、そういう運転方法になる可能性があるものということになります。

なお、長期冷却期間想定の利点について、上述の2015年6月29日会合で田中委員から助言を受けた日本原燃の瀬川智史(安全本部安全技術部安全技術グループ主任)が、2年半後のセミナーで次のように述べています。「放射性ルテニウムの場合…冷却年数を制限することによりその放射能量は約1/2000に減衰し、また、セシウムやストロンチウム等の放射能量も約2/3に減衰する。」「制限」するというのは、「15年以上」のものに限るという意味です。

まとめ

六ヶ所再処理工場のトリチウム放出量は、重大事故用の使用済み燃料の想定とそれとともに導入された海洋放出管理目標値に従うと、30年に亘っての放出が検討されている福島全量の約10倍、通常放出及びと設計基準事故のための想定に従うと、福島全量の約20倍となります。

下に、再処理工場からの年間トリチウム海洋放出量は福島全量の20倍と経産省──「フル稼働になるわけではない」ので管理目標値を下回ると規制委更田委員長の「トリチウム放出量まとめ」を再掲載(一部修正)しておきます。

トリチウム放出量まとめ(修正2020年5月15日)
福島第一原発タンク保管総量(30年かけて放出?)860兆ベクレル備考
六ヶ所再処理工場海洋放出
放出実績アクティブ試験 2006-08年(425トン)2150兆ベクレル福島総量の2.5倍
上記試験中2007年10月523兆ベクレル福島総量の60%
フル操業(800トン/年)海洋放出計画年間海洋放出管理目標9700兆ベクレル福島総量の約10倍
実際の海洋放出量 アクティブ試験から推定?福島総量の約5倍?
経産省による年間推定海洋放出量*1京8000兆ベクレル福島総量の20倍

  • この記事の作成に当たって、「美浜の会」及び原子力資料情報室から参照すべき資料や視点についてさまざまな教示を得たが、記述において誤りがあれば、すべて核情報の責任である。


  • 資料編

    日本原燃関連資料

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