核情報

2013. 10. 3

ノーベル平和賞受賞医師団体、安倍首相に六ヶ所再処理中止要請

1985年にノーベル平和を受賞した「核戦争防止国際医師会議(IPPNW)」が9月23日、安倍首相に六ヶ所再処理工場の運転をしないよう求める書簡を送りました。62ヶ国の支部を代表して4人の共同議長全員が署名した書簡は、核兵器に使えるプルトニウムを使用済み燃料から分離する再処理計画は、「不必要かつ危険」で「核兵器のない世界を達成することを支持するとの日本の立場と矛盾するもの」だと述べています。

これで、7月12日の原水爆禁止日本国民会議(原水禁)の呼びかけに応えて、世界各国の平和・反核兵器団体から日本大使館に送られた六ヶ所再処理工場運転中止要請の書簡の数は、確認されただけで、26通となりました。

IPPNW関係では、8月9日までに、ドイツとオーストラリアの支部が両国の日本大使館に再処理中止要請書簡を送っていましたが、今回、IPPNWは、日本を含む「62ヶ国の医師を代表して」、4人の共同議長全員--ティルマン・ラフ(オーストラリア)、アイラ・ヘルファンド(米国)、ロバート・ムトンガ(ザンビア)、ウラジミール・ガルカベンコ(ロシア)--が署名した書簡を安倍首相に送り、六ヶ所再処理工場の運転計画の放棄を要請しました。

書簡送付の連絡を受けた原水禁は、10月2日、内閣府に書簡(原文)とその翻訳を送り、「日本政府が、ノーベル平和賞受賞団体のこのような声に耳を傾け、核兵器利用可能物質プルトニウムのこれ以上の蓄積を防ぐため、六ヶ所再処理工場運転計画を中止するよう要請」しました。(原水禁の藤本泰成事務局長は、9月12日、内閣府を訪れ、それまでに確認できた書簡と訳文を担当者に手渡していました。)

  1. IPPNW書簡訳文
  2. 背景

参考

長崎新聞記事切り抜き (2013年9月13日)

長崎新聞記事切り抜き (2013年9月13日)


IPPNW書簡訳文

核戦争防止国際医師会議(IPPNW)

66-70 Union Square, #204 Somerville, MA 02143 U.S.A.
PHONE: +1.617.440.1733 FAX: +1.617.440.1734 WWW.IPPNW.ORG

2013年9月23日

安倍晋三総理大臣様

拝啓

62ヶ国の医師を代表して、来年六ヶ所使用済み燃料再処理工場の商業運転を開始しようという日本の計画について懸念を表明するとともに、貴政府に対し、六ヶ所工場の運転計画を実施しないよう要請致します。

私たち国際組織「核戦争防止国際医師会議(IPPNW)」の目標は、「世界保健機関(WHO)」が「人類の健康と福祉に対する差し迫った最大の脅威」と位置づけた核による壊滅の脅威から世界の人々の健康を守ることにあります。IPPNWは、1985年に「核戦争のもたらす壊滅的結果について権威のある情報を広め、意識を高める上で重要な貢献」したとして、ノーベル平和賞を受賞しました。

核兵器は、核分裂性物質――高濃縮ウランとプルトニウム――なしでは存在し得ません。人類が健康的で持続可能な将来を享受するには、核兵器がまた使われてしまう前に、核兵器のない世界を達成しなければなりません。これを確実にするために、私たちは時間との競争をしている状態にあります。核兵器の持つ極度の人道的脅威のない世界を達成するには、核軍備を撤廃するだけでなく、核分裂性物質の生産を最小化し、可能な限り生産しないこと、そして、可能な限り現存のストックを無くしてしまうことが必要です。権威のある「国際核分裂性物質パネル(IPPNW)」は、2013年1月現在の世界の核分裂性物質の現存量を次のように推定しています。高濃縮ウランが1390トン(1kg以上を持つ国31ヶ国)、分離済みプルトニウムが490トンです。米国の核兵器には、1発当たり平均してわずか4kgのプルトニウムしか入っていないことが知られています。

日本はすでに44トンのプルトニウムを保有しています。一発当たり8kgという高めの量で計算しても、5000発分以上です。日本は、非核兵器で唯一、使用済み燃料からプルトニウムを分離している国です。核兵器利用可能物質のこれ以上の蓄積について、国際社会、とりわけ、北東アジアの隣国が懸念しています。このような懸念は、この膨大で増大を続ける量のプルトニウムの使用の道が、予見できる将来、ないために高まります。実際、日本の政治家の中には、過去において、このようなプルトニウムのストックからわずか数ヶ月で作ることのできる潜在的核兵器について言及して注目を集めた人々がいます。日本政府が現在表明している意図がどうであれ――これについては私たちが疑問を持つ理由はありませんが――政治的意図はプルトニウムの半減期に比べると非常に短期に変わり得ます。さらに、このような現存プルトニウムの存在自体が転用や盗取のリスクをもたらすものであり、他の国々おける核分裂性物質製造計画や核拡散の原動力となってしまいます。

原子炉の使用済み燃料からプルトニウムを分離するという日本の政策は、同じような計画を進めようとする他の国々とって危険な先例となってしまいます。再処理工場に対して適切な保障措置を講じる上での本質的な技術上の困難と、分離されたプルトニウムの転用のリスクが、これらのリスクに加わります。

六ヶ所再処理工場は、とりわけ、核兵器の拡散がすでに深刻な問題となっている北東アジア地域の文脈において懸念をもたらします。

日本の原子力委員会は1997年1月31日に、日本は余剰プルトニウムを持たないと約束しており、そして、この決定は1997年2月4日に内閣によって承認されたと私たちは理解しております。さらに、2003年8月5日、日本原子力委員会は、電力会社に対し、使用済み燃料からプルトニウムを分離する前にそのプルトニウムの使用計画を発表することを義務付けました。六ヶ所再処理工場における商業運転の開始は、これらの決定に反するものであり、日本の一貫性及び信頼性について疑義を生じさせるものであります。

日本の人々や政府がよくご存知の通り、核兵器が将来使われるようなことがあれば、それは、壊滅的な人道的結果をもたらします。このため、IPPNWは、他のパートナーとともに、核兵器の全面的禁止条約制定のための「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」に取り組んでいます。まさに無差別殺傷兵器の最悪のものが、明確な法的禁止の対象となっていないものであるという異常な事態を正すためです。クラスター爆弾や対人地雷を禁止する条約の締結国として、日本が核兵器を禁止するための活動も支持することを私たちは願っております。

日本すでに持つ核兵器量可能物質の多さから言って、六ヶ所再処理工場の運転は不必要かつ危険なものです。すでに大量にある現存のプルトニウムの量をさらに増やすことは、核兵器のない世界を達成することを支持するとの日本の立場と矛盾するものです。

貴政府が六ヶ所再処理工場の商業運転を開始すると日本の決定を再検討し、このような運転を開始しないと発表することをお勧めします。このような決定は、世界中で広く歓迎され、世界の人々の健康を脅かすのではなくこれを支えることになるでしょう。

敬具

ティルマン・ラフ 共同議長
アイラ・ヘルファンド 共同議長
ロバート・ムトンガ 共同議長
ウラジミール・ガルカベンコ 共同議長

cc:天野万利大使様

背景

世界各地の平和・反核兵器団体が広島・長崎被爆68周年行動の一環として、六ヶ所再処理工場を運転しないようにと求める書簡を日本大使館に送りました。7月12日の原水禁の呼びかけに応えたもので、長崎原爆の材料プルトニウムを使用済み燃料から取り出す六ヶ所再処理工場は核兵器問題だとの認識を示しています。

原水禁では、9月12日までに少なくとも13ヶ国で送られた25通を確認しました(この他、オーストラリアの複数の団体が共同で同国外務大臣に宛てて送った書簡では、日豪原子力協力協定の下での規定を使い、日本に働きかけるよう求めています)。同日、藤本泰成事務局長が、内閣府を訪れ、上記26通の書簡のコピーと、その大半の粗訳とを原水禁自身の中止要請書とともに、政府代表に手渡しました。書簡のコピーの大半は、8月9日、原水禁が被爆地長崎から日本政府に郵送したものですが、欧州議会緑グループ代表や韓国の団体の書簡を合わせて提出し、要請内容を説明しました。

原水禁が世界各地の団体に共同行動の呼びかけメールを出したのは、7月12日です。北半球では夏休みの始まる時期でしたが、8月9日までに、「国際平和ビューロー(IPB)」、米国「憂慮する科学者同盟(UCS)」が組織した専門家グループ、「米国軍備管理協会(ACA)」、全米組織ピース・アクション、仏・独・豪などの団体・政党、「核戦争防止国際医師会(IPPNW)」や「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」などの関係組織、印パの全国組織など数々の組織・個人から日本大使館に書簡が送られました。それぞれの言葉で、核兵器問題としての六ヶ所再処理工場について語っています。

2005年に世界で上がった試運転中止要請の声

2005年には、「核不拡散条約(NPT)」再検討会議に合わせ、六ヶ所再処理工場の試運転開始中止を求める声が世界各地の反核・平和運動から上がりました。5月5日には、4人のノーベル賞受賞者やウイリアム・ペリー元国防長官を含む米国の専門家ら27人が署名した「六ヶ所使用済み燃料再処理工場の運転を無期限に延期することによってNPTを強化するようにとの日本への要請」が発表されました(発表後故マクナマラ元国防長官が加わり、署名者数は28人に)。文書を用意したのは、ミサイル防衛批判などで知られる「憂慮する科学者同盟(UCS)」でした。また、同24日には、ノーベル平和賞を受賞した故ロートブラット・パグウォッシュ名誉会長ら世界各国の平和団体の代表者・専門家など18カ国の約180人が署名した「核不拡散体制強化のための日本のリーダーシップを求める要請──六ヶ所再処理工場運転の無期限延期の呼びかけ」が発表されました。日本は、このような声を無視し、2006年3月31日に試運転を始めてしまいました。425トンの使用済み燃料を再処理し、3.6トンプルトニウムを取り出した日本は、来年には商業運転を開始しようとしています。

本格運転計画の中止を求めるさまざまな声

このような状況を前に、「国際平和ビューロー(IPB)」は「300の加盟団体及び支持者を代表して」日本大使館に書簡を送り、次のように述べました。「すでに核兵器5000発分以上の分離済みプルトニウムを抱えていながら、さらに年間1000発分のプルトニウムを分離するというのは、ゆゆしきことです。これが他の国々にとって危険な先例となることは明らかでしょう。このことが持つ潜在的なセキュリティー上及び核拡散上のリスクは、受け入れがたいと私たちは考えます。」

また2005年にノーベル賞受賞者らの文書を発表したUCSは、ピーター・ブラッドフォード元米国原子力委員会委員ら8人の専門家が署名した文書を8月6日に日本大使館に送り、次のように述べて運転開始計画の中止を訴えました。日本の計画は「韓国を始めとする他の国々が再処理するのを防ごうとする取り組みにとって、大きな痛手となります。・・・大量の余剰プルトニウムを抱えた状況での六ヶ所の運転は、東アジアで、そして、世界中で、日本の核不拡散及び核テロ防止へのコミットメントについて重大な疑念を起こします。」


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