─ 「フィナンシャル・タイムズ」投稿記事から
2003年の国際原子力機関(IAEA)総会以来、ウラン濃縮と再処理の規制の必要性を訴えてきたエルバラダイ事務局長は、「フィナンシャル・タイムズ」(2005年2月2日)への投稿記事において、これらの施設の建設の凍結を含む核拡散防止のための7つの措置を提唱し、5月にニューヨークで開かれる核不拡散条約(NPT)再検討会議がこれらの措置を講じるよう呼びかけている。
このような措置が必要となるのは、近年安全保障状況が次の三つの点で変わったためだと事務局長は説明する。
再検討会議は、次の7つの措置を講じれば、NPT条約を改正することなく、世界の安全保障を強化する上で、歴史的な一歩を踏み出すことになるだろうと事務局長は述べている。
六ヶ所再処理工場は1)の凍結案には含まれないようだが、提案の趣旨を考えれば、まだ商業運転に入っていない同工場の試運転を凍結するとの自主的判断を日本は考えるべきだろう。
事務局長は、「われわれは、不拡散体制の浸食が逆転不能なものとなり、拡散が波状に進行してしまうポイントに近づきつつある。」とする国連ハイレベル委員会の報告書の言葉(第111パラグラフ)を引用した後、次のように結んでいる。
「現在われわれが知っているような世界がそのような人工の津波に耐えて生き延びることはないだろう。」
米国のカーネギー平和財団の核拡散問題の専門家らは、3月3日発表した報告書で、すでに大量に存在する余剰の高濃縮ウランやプルトニウムが核兵器開発のために盗まれたり国家によって転用されたりしないようにすることが「核拡散防止にとって最優先課題」とし、高濃縮ウランとプルトニウムの製造停止を呼びかけた。
核兵器利用可能物質の製造停止案の内容は次の通りである。
『普遍的遵守Universal Compliance』と題された報告書は、米国政府のとるべき核不拡散政策を示したものである。米国は全ての国が守るべき規範を提示し、それを米国自体も守ることによって、初めて、核拡散防止の取り組みへの協力を各国から得ることができると報告書は主張している。普遍的という言葉には、「核拡散防止条約(NPT)」に加盟していない国(イスラエル・インド・パキスタン)も守るべき基準という意味が込められている。核兵器の拡散を防ぐには、核兵器の「価値」を下げることが必要であり、そのためには、米国は、新型核兵器は開発しないとの政策を示し、「包括的核実験禁止条約(CTBT)」を批准しなければならないと述べる。報告書はさらに、米ロその他の核保有国に対して、核廃絶の道程を提示すること、核発射の決定に必要な時間を長くすること、核削減を逆転不能かつ検証可能なものにすることなどを呼びかけている。
昨年6月に発表されたドラフト では、既存の施設での運転も含め、いっさいのウラン濃縮と再処理のモラトリアムを提案していた。濃縮工場は3−5年運転しなくても、原発用の低濃縮ウランの提供には困らない、また、原発でプルトニウムを利用するとしても、数十年は再処理しなくても十分な量のプルトニウムがあるからとの分析だった。今回の報告書では、原子力産業の抵抗にあったためか、ウランについては、新しい国が濃縮施設や再処理施設の建設・運転をするのは認めないとの立場は維持しながら、既存の施設による原発用の低濃縮ウランの生産は認め、高濃縮ウランの製造だけを禁止することを呼びかけている。また、すでにウラン濃縮施設を持つ国でのウラン濃縮施設の新設は認める格好になっている。
しかし、プルトニウムについては、ドラフトと同様に、一時停止(ポーズ)を呼びかけている。そして、
「この一時停止(ポーズ)は、いくつかの国々−−英国、フランス、ロシア、日本を含む−−が大規模な工業的再処理施設の運転をやめることを必要とし、相当の財政的・技術的・政治的ハードルを意味する。・・・これらの困難にもかかわらず、プルトニウムの蓄積は、今日の状況において非常に大きな世界的脅威をなすものであり、安全保障上の命題が他の面の考慮全てに優先すべきであり、追求されるべきである」と述べている。
ちなみにドラフトには次のようにあった。
「我々の例に従うように他国を説得するべきである。日本は、毎年何トンもの核兵器利用可能プルトニウムを作ることになる六ヶ所村の再処理工場−−論争の的となっている非経済的な施設−−の運転を開始するという計画を再検討するかもしれない。」
(ドラフト発表の後、昨年10月7−10日、報告書の執筆者のうちの二人が、日本を訪れ六ヶ所村におけるプルトニウム生産というレポートを書いている。)
報告書は、また、
「プルトニウム製造の一時停止は、[軍事用]「核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)」−−国際的[平和利用]保障措置に置かれていない濃縮・再処理の検証可能な禁止−−の交渉をしやすくする。一時停止は、燃料サイクル施設の国内取得に反対する広範な世界的規範の確立を容易にする。」
と述べている。
以下、ウラン濃縮及び再処理に関係する部分をいくつか拾って訳出しておく。
「組織力と資金力のあるテロリスト・グループなら、基礎的な核兵器を作ることができる。ただし、原爆を作るのに十分な量の高濃縮ウランまたは分離済みプルトニウムをまず入手できたとしてである。テロリストの脅威は、それでなくても世界各地で不十分な保安体制の下に置かれているこれらの物質がもたらす緊急のリスク−−盗難や国家による転用のリスク−−をさらに悪化させる。従って、兵器に利用可能な核分裂性物質の保安確保は、核拡散防止にとって最優先課題である。ジョージ・W・ブッシュが述べているとおり、『核物質の保安確保を図り、これを消滅させるために世界各国は、できる限りのことをしなければならない。』」p.83
「原子力産業の運命がかかっていることを理解することが重要である。盗まれた核分裂性物質が暴力的な形で使われたり、核不拡散体制が崩壊したりするようなことになれば、世界の原子力発電にとって大きな痛手となるだろう。」p.83
「核兵器の製造のもっとも難しい部分は、核物質の取得であるから、核兵器利用可能物質は全て、これらが核兵器であるかのように扱うべきである。そして、核兵器に適用される最高の基準が、これの物質全てにとって−−その利用方法や場所に関わらず−−国際的規範となるべきである。」p.84
「核兵器利用可の物質を製造できる施設の存在がこの[NPTの]『平和利用』条項や第2条の下での核兵器を追求しないという非核兵器国の義務と整合性を持つものと見なされうるかという点について、議論が巻き起こって来ている。国連ハイレベル委員会は、その2004年の報告書において、この問題を認めたが、次のように述べて、明確な立場をとるのを避けている。「より効果的な核不拡散体制を構築する目標と、すべての核不拡散条約締約国が持っている民生用原子力産業を発展させる権利との間の緊張の激化に目を向けるべき」である。大半の締約国は、第4条を核物質の製造を認めるものと解釈している。しかし、平和的な原子力技術の恩恵に浴する権利には、ウラン濃縮・再処理施設の所有を明示的に保証・要求するものは内在的には何も存在しない。」p.93
「プルトニウムは、民生目的及び軍事目的両面ともに、世界的に大量の供給過多状態にある。プルトニウムを必要とする原子炉を何十年にもわたってまかなえる分離済みプルトニウムが存在する。製造の凍結は、これらの危険なストックの確実な減少を許すことになる。
この一時停止(ポーズ)はいくつかの国々−−英国、フランス、ロシア、日本を含む−−が大規模な工業的再処理施設の運転をやめることを必要とし、相当の財政的・技術的・政治的ハードルを意味する。・・・これらの困難にもかかわらず、プルトニウムの蓄積は、今日の状況において非常に大きな世界的脅威をなすものであり、安全保障上の命題が他の面の考慮に優先すべきであり、追求されるべきである。」p.98
「高濃縮ウラン及びプルトニウムの民生用利用は、これらの物質の製造と輸送をもたらし、テロリストによる転用のリスクを増やし、国家による秘密核兵器計画の隠れ蓑を提供する。これらのリスクは不必要なものである。なぜなら、いかなる平和利用においても高濃縮ウランあるいは分離プルトニウムを使用する技術的な理由も、経済的理由も本質的に存在しないからである。これらの物質を使うという選択は、まさに、選択でしかない。これらの物質の使用は、国家の主権の行使であるが、多の国家の安全に直接影響を与えるものであり、従って、もっと国際的吟味の対象とされるべきである。
高濃縮ウラン及び分離プルトニウムの主要な非兵器利用は、研究炉、発電用原子炉、軍用船の推進用である。技術の進歩は、これらの利用を不必要なものにするところにまで来ている。」p.101
「きわめて長期的に見た場合、コストや廃棄物管理、保安面などで、どのシステム(閉じたサイクルvs開いたサイクル)が有意に立つことになるのかは定かではない。だが、予見できる将来において、民生用燃料サイクルのための分離プルトニウムの利用及び輸送が、核兵器製造手段のテロリスト及び国家による取得のリスクを大きく高めることになるというのは、疑いようがない。」p.102
昨年末に劣化ウランを使った試験を始めた六ヶ所再処理工場では、いま来年の運転開始に向けた準備が進められている。核兵器の材料になるプルトニムを生産する再処理工場については、国際原子力機関(IAEA)のエルバラダイや国連の委員会など、核拡散を心配する人々がモラトリアムを呼びかけている。日本は、六ヶ所はいずれにしてもほぼ完成しており、モラトリアムの対象にはならぬとして、運転開始に向けて突っ走ろうとしている。プルトニウムの利用計画が頓挫し、再処理は経済的ではないと分かっていても、ここまで来て今更引き返すわけには行かないというのである。
高成田氏は、2004年11月15日のコラム において、「どうする?核燃サイクル」と題された参議院会館での「勉強会」で司会をした経験について語りながら、経済性のない再処理を進めるのは
「沈没するのはわかりながら沖縄戦に向けて出撃、撃沈された戦艦大和と同じようだ」
と述べた研究者の言葉を紹介している。
そして、
「勉強会に1度出席しただけで、結論を出すつもりはないが、コストに見合わない計画だと多くの人が気付きながら、もう間に合わないといった消極的な理由で、計画を進めるのは、将来にさらに大きな負担を残すだけだと思う。『引き返す勇気』が求められているのではないだろうか。」
と結んでいる。
桜井よし子と猪瀬直樹の両氏は、奇しくも2004年9月16日号の「週刊新潮」と「週刊文春」の連載コラムでそろって再処理凍結・中止を提唱した。
桜井氏は「再処理工場の稼働は見合わせよ」で
「日本の電力の3割以上を供給している原子力発電はこれからも必要との立場で見ても、青森県に完成した六ヶ所村再処理工場は稼働させるべきではない。経済的に見合わないばかりか、当初考えられていた仕組みが崩れ、再処理工場を必要とする状況がなくなっているからだ」
と主張している。
地中貫通核型兵器というと、地中深くまで潜っていって爆発を起こして地下施設を破壊し、地表には放射能が漏れ出てこない「便利な」核兵器という印象がありますが、米国の核兵器の開発の責任を負うエネルギー省国家核安全保障局のトップは3月3日、放射能を帯びた大量の破片を生み出さないような核兵器はないと答え次のように述べました。
「われわれ政権内にいるものが、全ての放射性降下物を閉じこめられるほど深く潜ることのできる核爆弾を持つことが可能だと思われていたとしたら、私の方で正確さが欠けていたことについて本当にお詫びしなければなりません。」
3月1日、国際原子力機関(IAEA)のピエール・ゴールドシュミット副事務局長(保障措置部担当)は、IAEA理事会への報告 において、「イランの政府関係者は、重水研究炉(IR−40)プロジェクトが進行しているのと発言をしている」と述べました。米国の「科学・国際安全保障研究所(ISIS)」がそれを裏付ける衛星写真を同研究所のサイトに載せています。同一の場所の2004年2月29日、2005年2月17日、2月27日の写真を並べており、建設中の重水炉の隣には、ほぼ完成した重水製造工場が写っています。