2005年03月15日
IAEAエルバラダイ事務局長の再処理凍結案
─ 「フィナンシャル・タイムズ」投稿記事から
2003年の国際原子力機関(IAEA)総会以来、ウラン濃縮と再処理の規制の必要性を訴えてきたエルバラダイ事務局長は、「フィナンシャル・タイムズ」(2005年2月2日)への投稿記事において、これらの施設の建設の凍結を含む核拡散防止のための7つの措置を提唱し、5月にニューヨークで開かれる核不拡散条約(NPT)再検討会議がこれらの措置を講じるよう呼びかけている。
このような措置が必要となるのは、近年安全保障状況が次の三つの点で変わったためだと事務局長は説明する。
- 1)核の闇市場が登場していること。
- 2)核兵器に利用することのできる核分裂性物質を作るための技術をなんとしても手に入れようとする国が増えていること。
- 3)大量破壊兵器を手に入れようとする明らかな意図がテロリストにあること。
再検討会議は、次の7つの措置を講じれば、NPT条約を改正することなく、世界の安全保障を強化する上で、歴史的な一歩を踏み出すことになるだろうと事務局長は述べている。
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1) ウラン濃縮及びプルトニウム分離用施設の新設を5年間凍結する。
燃料の経済的供給は保証。
凍結期間中にこれらの技術の長期的管理方法を検討(多国間管理の下に置かれた地域センターなど。
(これらの施設をこれ以上作るやむにやまれぬ理由はない。原子力産業は、発電所や研究センターの燃料を供給する十分な能力を持っている) - 2)高濃縮ウランを使った世界各地の研究炉を低濃縮ウラン燃料型に転換する。
米国の「世界的脅威削減イニシアチブ(GTRI)」に沿ったもの
特に核兵器にすぐ使える金属ウラン燃料使用の研究炉を転換
あらゆる平和利用用途における高濃縮ウランの使用を不必要にするための研究を促進 - 3)IAEAの査察権限を強化する「追加議定書」受け入れをNPT遵守の検証基準とする。
- 4)国連安全保障理事会に対し、NPTを脱退する国が出た場合は、迅速で決然とした措置を講じるよう要請する。 脱退が与える国際的平和と安全保障に対する脅威に鑑みて
- 5)全ての国が国連安全保障理事会の最近の決議1540−−核物質・技術の非合法な貿易を追求し、訴追する−−を行動に移すよう要請する。
決議日本語概要 - 6)NPT加盟の5つの核保有国に対し、[2000年の再検討会議で行った]核軍縮の「明確な約束」の実施を促進するよう要請する。
2002年の米ロ間モスクワ条約のような取り組みを基礎として。
核兵器用核分裂性物質生産禁止条約の交渉が始まればその第一歩として歓迎。 - 7)核拡散をもたらす長年の緊張関係−−中東や朝鮮半島で見られるような−−不安定性を認識し、安全保障問題の解決のための措置を講じ、必要な場合には、安全保障を提供する。
中東の場合には、関係各国に対し、平和プロセスの一環として地域的安全保障に関する対話を追求するよう要請する。この対話の一つの目標は、中東を非核地帯にすることだろう。
六ヶ所再処理工場は1)の凍結案には含まれないようだが、提案の趣旨を考えれば、まだ商業運転に入っていない同工場の試運転を凍結するとの自主的判断を日本は考えるべきだろう。
事務局長は、「われわれは、不拡散体制の浸食が逆転不能なものとなり、拡散が波状に進行してしまうポイントに近づきつつある。」とする国連ハイレベル委員会の報告書の言葉(第111パラグラフ)を引用した後、次のように結んでいる。
「現在われわれが知っているような世界がそのような人工の津波に耐えて生き延びることはないだろう。」投稿者 kano : 2005年03月15日 11:25