核情報

2021. 5. 3

原発はやめられる? 「ごみの行先を決めないとやめるとは言えない」と枝野立憲民主代表─再処理と原子力発電を混同?

枝野立憲民主党代表が、西日本新聞のインタビューで、使用済み燃料の「行先を決めないと」原発を「やめるとは言えない」と主張し、波紋を呼んでいます。その「論理」展開は、再処理がやめられない理由として挙げられてきたものを想起させます。枝野代表は、再処理継続が必要との「論理」と原発継続が必要との「論理」を混同してしまったのでしょうか。ここでは、即時原発停止の主張の妥当性や国民民主党との合併が立憲民主党の原発政策に与えた影響などの話は置いておいて、この「混同」の可能性に焦点を当てて検討してみましょう。これは、再処理・核燃料サイクル政策について、原発容認・推進派と反対派の双方を巻き込んだ国民的議論を進める上でも重要な作業です。

青森県六ケ所村の再処理工場では、2023年度に使用済み燃料のせん断を伴う再処理過程を始める計画になっています。残された時間はあまりありません(→六ヶ所再処理工場の予定)。

  1. インタビューの問題部分抜粋
  2. これまで生み出されたごみの行先が決まらないと、さらにごみを生み出し続けるしかない?
  3. 再処理がやめられない「理由」との混同か
  4. インタビューに「再処理」を挿入すると
  5. 使用済み燃料の行先の整理:再処理問題について議論を
  • 資料編
    1. 六ヶ所再処理工場の予定
    2. インタビュー記事を見た原子力問題の専門家の反応
    3. 原発ゼロを目指しながら再処理政策の継続を決めた民主党のエネルギー政策
    4. 再処理継続の正当化論の例
    5. 追補 民主党のエネルギー政策

    参考

    インタビューの問題部分抜粋

    まず、インタビューの問題の部分を見ておきましょう。

    -今後、原子力政策をどう進めるべきだとお考えですか。
     「原発の使用済み核燃料の行き先を決めないことには、少なくとも原子力発電をやめると宣言することはできません。 使用済み核燃料は、ごみではない約束で預かってもらっているものです。再利用する資源として預かってもらっているから、やめたとなったらその瞬間にごみになってしまう。この約束を破ってしまったら、政府が信用されなくなります。ごみの行き先を決めないと、やめるとは言えない。 でも、どこも引き受けてくれないからすぐには決められない。原発をやめるということは簡単なことじゃない」
    -立憲民主党は綱領に一日も早い「原子力エネルギーに依存しない原発ゼロ社会」の実現を掲げています。
     「使用済み核燃料の話は、政権を取ったとしてもたぶん5年、10年、水面下でいろんな努力をしない限り無理です。だから政権の座に就いたら急に(原発ゼロを実現)できるとか、そんなのはありえない」

    出典:「原発をやめるのは簡単じゃない」枝野氏に聞く 西日本新聞 2021/2/14

    これまで生み出されたごみの行先が決まらないと、さらにごみを生み出し続けるしかない?

    要約すると、ごみの行先を決めないと、ごみを生み出し続ける原発がやめられないという話です。論理的に言えば、ごみの行先がないのなら、ごみの発生を止めなければということなりそうなものです。ごみに「資源」という貼り紙をしておけばなんとなるということでしょうか。(→インタビュー記事を見た原子力問題の専門家の反応

    枝野代表の話が、こんな展開になっている理由として一つ考えられるのは、西日本新聞の引用間違いというものです。しかし、枝野代表自身が2月14日のツイートでインタビューは「上手く整理されている」と述べているので、その可能性は消えます。

    再処理がやめられない「理由」との混同か

    インタビューを読みながらダブって見えてくるのは、再処理政策継続を正当化するのに使われてきた「論理」です。(→再処理継続の正当化論の例) そのような「論理」の典型の一つとして、2005年原子力政策大綱の策定過程で発表された2004年「中間とりまとめ」にあるものを見てみましょう。

    シナリオ3[= 使用済燃料は、直接処分する]については、政策変更を伴うため…②これまで[使用済み燃料を資源として利用する]再処理を前提に進められてきた[原発]立地地域との信頼関係を再構築することが不可欠であるが、これには時間を要し、その間、原子力発電所からの使用済み燃料の搬出や中間貯蔵施設の立地が滞り、現在運転中の原子力発電所が順次停止せざるを得なくなる状況が続く可能性が高い、といった『立地困難性』や『政策変更に伴う課題』がある。

    出典 核燃料サイクル政策についての中間取りまとめ 平成16年11月12日 原子力委員会新計画策定会議(pdf)

    要するに、こういう「論理」です。

    再処理を止めると、再処理施設に送る資源という前提で、原発立地地点での一時的保管をお願いしてきた使用済み燃料がごみということになり、これら立地地域との信頼関係が崩れる。これを再構築するには時間がかかる。使用済み燃料の送り先のはずだった六ヶ所再処理工場には送れないし、むつのような原発敷地外での中間貯蔵施設の立地が進まないだろうから、原発敷地内の使用済み燃料プールが満杯になる。そうすると原子炉で発生した使用済み燃料の行き場がなくなり、原発の運転を中止せざるを得ない。その結果、代替電力火力発電が必要となる。「再処理継続」と「再処理中止・使用済み燃料直接処分」の費用を比較すると、前者が高いが、この代替火力発電費用のため、「再処理中止」は高くつく。

    この部分で使用済み燃料の行先として問題となっているのは、敷地外中間貯蔵の話です。再処理をやめた場合には、この中間貯蔵の後、最終処分場に送ることになります。

    実は、この②の前にある①では、最終処分場の話があります。

    ①現時点においては我が国の自然条件に対応した技術的知見の蓄積が欠如していることもあり、プルトニウムを含んだ使用済み燃料の最終処分場を受け入れる地域を見出すことはガラス固化体の最終処分場の場合よりも一層困難であると予想される。

    言い換えるとこういうことです。

    また、最終処分場には、再処理で生じる高レベル廃棄物ガラス固化体を送ることになっている。その前提で最終処分場の研究を行っている。使用済み燃料をそのまま「直接処分」するには、さらに技術的検討が必要となる。それに、使用済み燃料をそのまま送る最終処分場を受入れてもらえる自治体はなかなか見つからないだろう。

    実際は、ガラス固化体の処分と直接処分にそれほどの差があるわけでもなく、また、ガラス固化体の処分場ならOKだが使用済み燃料の直接処分は嫌だと言っている自治体などありません。

    枝野代表インタビューでは、この再処理継続必要論のなかにある敷地外中間貯蔵立地の困難性と、最終処分場の立地の困難性が合体したような形となっているようです。

    インタビューに「再処理」を挿入すると

    では、これらのことを頭に入れた上で、冒頭で見たインタビューの問題部分の「原子力は発電」の代わりに「再処理」を挿入して、話の流れがどうなるか見てみましょう。

    原発の使用済み核燃料の行き先を決めないことには、少なくとも「再処理」をやめると宣言することはできません。使用済み核燃料は、ごみではない約束で預かってもらっているものです。再利用する資源として預かってもらっているから、「再処理」をやめたとなったらその瞬間にごみになってしまう。この約束を破ってしまったら、政府が信用されなくなります。ごみの行き先を決めないと、「再処理」をやめるとは言えない。でも、どこも引き受けてくれないからすぐには決められない。「再処理」をやめるということは簡単なことじゃない。

    こうやってみると、これまであった再処理継続が必要との「論理」とぴったり合うものとなります。枝野代表の発言がこのような混同の結果によるものかどうかは分かりませんが、ここまでやってきた検討は、再処理問題に関する頭の体操としては意味のあるものと言えるでしょう。

    実際には、「原発やめたとなったら」、原発自体、再処理工場、MOX工場、ウラン濃縮工場など、原発に関連したすべての施設は、不要となります。これらは、電力源として必要だからと建設の受け入れをお願いしたものです。枝野代表の論法で行くと、これらすべてが「ごみになってしまい」、話が違うということで、「政府が信用されなくなる」ということになってしまいます。

    政策を変えれば、痛みをもたらす結果を伴うのは避けられません。痛みを減らすための必要な措置をいろいろ講じなければならないのは当然です。こんな論理では、どんな政策も変えられないことになってしまいます。

    それに、使用済み燃料は、現在、原発を導入している多くの国々でごみとして保管され、最後は、最終処分場に持っていくことになっています。今のところ最終処分場が出来ていないというのは、ガラス固化体も、使用済み燃料も同じです。(再処理・MOX工場の廃止措置でも地下の最終処分場に送るしかないゴミが出てきます。超ウラン(TRU)核種に汚染されたTRU廃棄物です。)

    使用済み燃料の行先の整理:再処理問題について議論を

    最後に、議論の整理のために、使用済み燃料と中間貯蔵、再処理、最終処分の関係を図で見ておきましょう。

    ごみ(使用済み燃料)の行先:再処理+最終処分vs中間貯蔵+最終(直接)処分


  • 六ヶ所再処理工場の役割:ごみ分別工場
     ごみ(使用済み燃料)を工場の受け入れプール(容量3000トン)で一時貯蔵後、せん断して中身を溶かし、分別。
     発生するのは、不必要なプルトニウム、回収ウラン、高レベル廃棄物、低レベル廃棄物など。
     高レベル廃棄物はガラス固化体にし、再処理工場のある「原子燃料サイクル施設」敷地内で中間貯蔵後、最終処分場へという計画。
  • 出典 なぜ再処理工場運転開始か?

    冒頭で述べたように、1993年に建設の始まった六ヶ所再処理工場の「商業運転」が予定(97年)から4半世紀遅れでいよいよ始まる計画になっています。元々、再処理計画は、普通の原発でウランを燃やしていたのではウラン資源がすぐに枯渇してしまうとの想定の元、プルトニウムを燃やしながら生み出す「夢の高速増殖炉」に初期装荷燃料を提供するために構想されたものです。高速増殖炉計画はとん挫し、不必要となってしまったプルトニウムを普通の原発で燃やす非経済的なプルサーマル計画も全く進んでいません。その結果、日本は国際原子力機関(IAEA)の計算方法で核兵器6000発近くのプルトニウムをため込んでしまっています。経済的に全く意味をなさない上、世界の安全を脅かす再処理計画を惰性で継続させていいのかどうか。今回のインタビュー問題を好機ととらえ、早急に国会内外での議論を深めることが必要です。

    資料編

    六ヶ所再処理工場の予定

    インタビュー記事を見た原子力問題の専門家の反応

    • 飯田哲也環境エネルギー政策研究所所長 2021年2月15日
      https://twitter.com/iidatetsunari/status/1361119298182283265
    • 大島堅一龍谷大学政策学部教授(原子力市民委員会座長)2月17日
      https://twitter.com/kenichioshima/status/1361849114325966848

    原発ゼロを目指しながら再処理政策の継続を決めた民主党のエネルギー政策

    再処理継続の正当化論の例

    六ヵ所再処理工場の運転が中止あるいは一時停止された場合は、我が国のエネルギー政策の基本線を大変更することになるので、その影響は計り知れない。日本原燃は青森県との間に「再処理事業の確実な実施が著しく困難となった場合には・・・使用済み燃料の施設外への搬出を含め、適切な措置を講じるものとする」との覚書を結んでいる。同工場の運転が行われなくなった場合下記のような大きな混乱を招く事になる。

    1. もし六ヵ所への使用済み燃料の搬出が不可となり、さらに既に貯蔵されている使用済み燃料が発電所に返還されてきた場合、原子炉サイトでの使用済み燃料プールの能力が不足し、2015年には全ての発電所の運転が出来なくなる見通しである。
    2. 政策変更によって地元との信頼関係が崩れれば、海外から返還される高レベル放射性廃棄物固化体の六ケ所施設への受け入れが拒否される可能性がある。海外からの返還固化体受入れは、国際取引上の明文化された契約事項である。
    3. 同様に低レベル放射性廃棄物の受け入れが拒否され埋設処分が実施できなくなる。
    4. 再処理工場への建設投資額の回収ならびに廃止措置費用を要するのは言うまでも無い。
    5. さらに、青森県において長年にわたって構築してきた地元との信頼関係が崩れれば、他の原子力施設においても、政府ならびに民間に対する信頼は大きく影響されるであろう。

    追補 民主党のエネルギー政策

  • 革新的エネルギー・環境戦略(平成24年9月14日エネルギー・環境会議決定 pdf)

    1)核燃料サイクル政策

    核燃料サイクルについては、特に青森県に国策に協力するとの観点から、ウラン濃縮施設、再処理工場、低レベル放射性廃棄物埋設を三点セットで受け入れていただいたこと、海外再処理廃棄物を一時貯蔵・管理のため受け入れていただいてきたこと等の負担をお願いしてきた。これらの協力については、重く受け止めなければならない。また、これまで使用済核燃料等の受け入れに当たっては、核燃料サイクルは中長期的にぶれずに着実に推進すること、青森県を地層処分相当の放射性廃棄物の最終処分地にしないこと、再処理事業の確実な実施が著しく困難となった場合には、日本原燃は使用済核燃料の施設外への搬出を含め、速やかに必要かつ適切な措置を講ずることといった約束をしてきた。この約束は尊重する必要がある。青森県を最終処分地にしないとの約束は厳守する。他方、国際社会との関係では核不拡散と原子力の平和的利用という責務を果たしていかなければならない。こうした国際的責務を果たしつつ、引き続き従来の方針に従い再処理事業に取り組みながら、今後、政府として青森県をはじめとする関係自治体や国際社会とコミュニケーションを図りつつ、責任を持って議論する。

  • 民主党エネルギー・環境調査会(前原誠司会長)【提言】「原発ゼロ社会」を目ざして2012年9月6日 民主党

    ・・・これまで電力の安定供給に多大な協力を頂いてきた原発立地地域、そして最終的な「原発ゼロ社会」を目ざす中で核燃料サイクル施設の多くを受け入れてもらった青森県の理解と協力を得るためには一定の時間を要する。・・・

    (9)核燃料サイクル、最終処分

    核燃料サイクル、使用済み核燃料の最終処分の問題は1966年日本で初めて原発の商業運転が開始されて以来、50年近くにわたって放置されてきた極めて難しい問題であるが、原発をゼロにするかどうかにかかわらず、最早先送りすることのできない問題である。

    まずは核燃料サイクル事業に対する国の責任を明らかにし、本質的な必要性、技術成立性、社会的受容性等を一から見直すべきである。全量再処理方式を全面的に見直し、最終処分のあり方を明確にするため、専門機関として原子力バックエンド機構(仮称)を設立し、国が主体的に使用済み核燃料の管理を行うことを明確にすべきであり、最終処分着手までの対応として日本全体の使用済み核燃料を中間貯蔵する施設の設置を進めなければならない。同時に、直接処分の研究を国が率先して進め、また減容化・無害化、超長期保管の研究も進めなければならない。使用済み核燃料の取り扱いに関する国際協力体制も検討すべきである。

    最終処分の問題のみならず、原発ゼロによる経済、雇用、財政への影響を含めて国が責任を持って提示し、青森県の理解を高めていかなければならない。

    再生可能エネルギー基地への転換や地元の理解を前提とする最新鋭火力の設置など、これまでの電源地域の特性を生かした形で青森県への影響を最小化する必要がある。

    福井県についても同様の配慮が必要である。高速増殖炉の実用化は前提とせず、「もんじゅ」は、成果のとりまとめに向け、年限を区切った研究収束計画を策定し、実行することとし、これによる福井県への影響に対応することが重要である。

  • 出典: 用途のないプルトニウム製造を続ける「エネルギー戦略」──問われる日本の反核運動の役割 核情報 2012. 9.23


    核情報ホーム | 連絡先 | ©2021 Kakujoho