核情報

2013. 4. 5 

「利用の見通し」に基づかないプルトニウムは生産しないで「在庫量の削減」を、と原子力委員会鈴木委員長代理──六ヶ所再処理工場運転開始とMOX燃料輸送

3月26日の原子力委員会定例会議で、鈴木達治朗原子力委員会委員長代理は、電気事業者等に対し、プルトニウムの「供給ありきという考え方からの転換」を促し、「利用目的のないプルトニウムを持たないという原則はたぶん十分ではなくて、利用の見通しを明確にし、その見通しの上で再処理をするという方向で検討していただきたい」と述べるとともに、在庫量の削減の重要性を強調しました。この考えに従えば、英仏及び日本国内に44トンものプルトニウムを抱える状況で、六ヶ所再処理工場の稼働はあり得ないことになります。

利用計画というのは、「再処理の計画がまず出されて、そこから供給されるプルトニウムを何処で使うかと、そういう順序で作られていると思われます。これで行きますと、どうしても、供給量が先になってですね、それに需要が追いつかない、ということが多く起こる」というのが鈴木委員長代理の現状分析です。そして、同委員長代理は、利用の見通しが先に来なければならないとの方針を「厳守することによって再処理量というのが必要な量のみに限定されることになる」と説明しています。そして、同じ考え方を、原子力委員会メールマガジン(3月29日号)でも表明しています。以下、この問題の背景をまとめました。



  1. 2013年度後半に再処理開始と発表の日本原燃、利用計画出せず
  2. 言葉だけの「原則」で増え続けたプルトニウム
  3. 利用見通しのないMOX燃料輸送計画
  4. 実現には、乾式貯蔵と英国への所有権移動も含む「柔軟な利用計画」を


参考

2013年度後半に再処理開始と発表の日本原燃、利用計画出せず

原子力委員会は、2003年8月の決定において、核拡散防止面での懸念に応えるためとして、六ヶ所再処理工場でのプルトニウムの分離について次のように定めています。「電気事業者は、プルトニウムの所有者、所有量及び利用目的(利用量、利用場所、利用開始時期、利用に要する期間のめど)を記載した利用計画を毎年度プルトニウムを分離する前に公表」し、「原子力委員会は、その利用目的の妥当性について確認」する。

2013年10月の六ヶ所再処理工場竣工をめざしている日本原燃は、1月31日、2013年度下半期に工場の運転を始めるとの計画を原子力規制委員会に届け出ました。しかし、電気事業連合会は、福島事故後、プルトニウムの利用計画を更新していません。そして、3月26日の原子力委員会定例会議において、「運転中及び停止中の発電所の新安全基準の適合性確認方法、及びその手続きは未定であるため、再稼働の見通しが立たない状況にある。また、建設中の発電所も今後の工程の見通しが立たない等、同様である」として、利用計画をいまは提出できないと説明しました。

原子力規制委員会が核燃料サイクル関連施設の新安全基準を発表するのは12月になると見られていますし、地元自治体との安全協定の手続きもありますから、届け通り再処理が始まることにはならないでしょうが、原子力発電所の再稼働のめども立たない現状で、プルトニウムをさらに分離する計画を出すことは、国際的な懸念を招きます。

そもそも、電気事業者がこれまで発表した利用計画は、六ヶ所村で建設中のMOX工場が完成したらそこでMOX燃料を製造し、原子炉で利用するつもりだとの意思表明に過ぎません。1991年の原子力委員会核燃料専門部会報告書「我が国における核燃料リサイクルについて」にある「必要な量以上のプルトニウムを持たないようにする」との「原則」に従うなら、英仏にある35トンのプルトニウムの消費の見通しが立たない状態で、これ以上のプルトニウムの分離を認めるべきではありません。原子力委員会は、「利用目的の妥当性について確認」する際には英仏にあるプルトニウムを考慮すると明記した明確な基準を定めるべきです。

言葉だけの「原則」で増え続けたプルトニウム

日本政府は、1994年から日本が保有するプルトニウムの量を『我が国のプルトニウム管理状況』という文書によって公表してきています(1994年に発表されたのは1993年末の数値)。下のグラフは、この数値をまとめたものです。これを見ると必要な量以上のプルトニウムを持たないという原則が、まったく実効性を伴わない「原則」であることが分かります。


 出典:日本のプルトニウム保有量

日本は、2011年末現在、英仏に約35トン、国内に約9トン、合計約44トンのプルトニウムを保有しています。8kgで長崎型原爆一発分との国際原子力機関(IAEA)の基準を使えば、5500発分に達します。

鈴木委員長代理は、この状況を次のようにみています。

今の利用の考え方は・・・透明性向上という意味では大変国際的にも評価されていると私も思いますが、実際に在庫量がこれだけ増えてきますと、核セキュリティーや核拡散問題が深刻化している今ではですね、今後は在庫量の削減に繋がるような考え方に代えていく必要があると考えています。

ここで、米国のオバマ大統領が2012年3月に核セキュリティ・サミットでソウルを訪れた際に、韓国外国語大学校で行った演説にある次の言葉を忘れてはなりません。

プルトニウムのようなわれわれがテロリストの手に渡らぬようにしようと努力しているまさにその物質を大量に増やし続けることは、絶対にしてはならない

利用見通しのないMOX燃料輸送計画

 50基の発電用原子炉のうち、大飯原子力発電所の2基を除く48基は、7月に発表される原子力規制委員会の新安全基準を満足させられるまで再稼働はあり得ません。そして再稼働となったとしても、MOX燃料の使用が自治体によって認められるか否かは不明です。それにも拘わらず、六ヶ所再処理工場の操業開始に加えて、フランスからのMOX燃料の輸送が計画されています。

グリーンピース・フランスは、2月26日、2011年春に予定されながら福島第一原子力発電所事故を受けて延期されていたMOX燃料の輸送が、4月に計画されていると発表しました。その後の報道によると、フランスの原子力産業複合企業アレバ社はMOX燃料の輸送準備について日本の関係当局と協議していると認めたとのことですが、輸送時期は明らかにしていません。グリーンピースの最新の連絡では、シェルブール港出港時期は4月中旬と予測されるとのことです。

一昨年の輸送計画は、中部電力浜岡4号機及び関西電力高浜3号機用のものでした。関西電力が7月に高浜3及び4号機の再稼働することを想定しているため、輸送先は高浜3号機との見方が有力でした。計画について言葉を濁していた関西電力は3月21日になってやっと高浜3号機用のMOX燃料集合体20体の輸送を計画していると発表しましたが、輸送の時期・ルートは明らかにしていません。

現在、約960kgのプルトニウムを含むMOX燃料が5つの原子力発電所で保管されたままになっています。柏崎刈羽原子力発電所の場合は、この状態が2001年3月以来、12年間も続いています。高浜3号機用の20体には約900kgのプルトニウムが入っています。利用のめどの立たないMOX燃料輸送は、不必要に輸送中や原子力発電所での核セキュリティ上の問題を増大させます。核セキュリティに責任を持つ原子力規制委員会は、輸送停止を命じるべきです。

実現には、乾式貯蔵と英国への所有権移動も含む「柔軟な利用計画」を

鈴木委員長代理は、「利用の見通し」に基づかないプルトニウムは生産しないという方針の実現のためには、「安全とされる乾式貯蔵を含む使用済み燃料の貯蔵の確保、これが最大の課題であると考えています。これが無いと、今のような事が出来ないのでは無いかと考えております」と述べています。再処理推進派が、再処理をしないと各地の原子力発電所のプールが満杯になってしまうから、これを避けるには再処理するしかないと主張しているからです。(以下を参照:再処理政策継続の理由と実質的モラトリアム 核情報)

そして、「16基から18基の既存の軽水炉でプルサーマルとして利用する」との電事連の方針は「福島事故以降の現在の状況を考えますと、これが実現するかどうかは非常に不透明である」とし、英国への所有権移動も含む「柔軟な利用計画」をと同委員長代理は訴えています。英国は、現在のところMOX工場を新設し、同じく、新設される予定の軽水炉で同国のプルトニウム約100トンを処分することを検討しています。英国は、同国にある日本のプルトニウム約17トンについても、金銭的に折り合いがつけば、同様の処分をしても良いと言っています。この申し出に沿い、お金を払ってMOXでの「消費」を英国にお願いすることを検討すべきだというのが委員長代理の提案です。英国が、この計画は高くつきすぎると判断して、何ら中の形での地下処分を実施することにした場合には、同様の処分をイギリスにお願いするという可能性もあります。


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