原子力委員会の「原子力発電・核燃料サイクル技術等検討小委員会」で使用済み燃料の全量再処理、再処理・直接処分並存、全量直接処分の三つのシナリオについて、それぞれに留保(wait and see)案があるとして検討が始まりました。「seeは何を見るのか、例えば5年間六ヶ所再処理工場の運転開始をしないとすると開始の条件は何か、プルトニウム利用計画ができると運転開始を認めると言うことか、では、5年間待つ必要はなく、利用計画ができ次第運転開始を認めるので良いのでは」こんな議論になっていますが、これは、条件付き運転開始です。必要なのは、原子力の将来も見えない中、ひとまず再処理工場を一定期間凍結し、これまでの政策決定の歴史についても原子力村の外で議論して決めるという政策決定留保案です。そもそも、国産の高速増殖炉の夢が実現すれば、回収したプルトニウムを使用するとの極めて実現性の怪しい夢を確実に実現できるかのように扱ってシナリオに入れること自体も問題です。
小委で提示された「20年間待って、高速増殖炉が実用化される見込みが出てくれば再処理を認める」と言う案も、条件付き再処理開始の一つのシナリオです。これらとは、別にそもそも、今回はそのような政策決定をせず、時間をかけてこれまでの政策決定の問題点の洗い直しもしながら、政策について議論するという選択肢が出されるべきです。
以下、現在提示されているシナリオを整理し、その問題点を見てましょう。そこから出てくる結論は、「六ヶ所再処理工場運転及びプルサーマルを凍結して、政策検討」という選択肢を出すべきだというものです。
参考
- 選択肢と呼びがたい選択肢
- 1と2は独立したシナリオか?違いは退路を断って夢に向かうインパール作戦
- 説明が容易なら絵空事でも良い?
- 増やすのと燃やして減らすのをFBR/FRとひとくくり?夢は何処へ?
- 再処理・直接処分並存?
- 直接処分選択でもプルサーマルは実施?
- 一定期間六ヶ所再処理とプルサーマルを凍結して原子力村の外で政策検討という第3案の提示が妥当
選択肢と呼びがたい選択肢
現在、議論されているのは、下の三つ。
- 全量再処理の代表シナリオ
- 使用済ウラン燃料を現有施設で再処理し、回収したプルトニウムを当面プルサーマルで使用する。
- 使用済MOX燃料と現有施設の能力を超える使用済燃料を中期的に貯蔵する。
- 長期的に全ての使用済燃料を再処理し、国産のFBR/FRの実用化まではプルサーマルで、実用化後はFBR/FRで回収したプルトニウムを使用する。
- 再処理・直接処分並存の代表シナリオ
- 使用済ウラン燃料を現有施設で再処理し、回収したプルトニウムを当面プルサーマルで使用する。
- 使用済MOX燃料と現有施設の能力を超える使用済燃料を中期的に貯蔵する。
- 国産のFBR/FRの実用化を判断するために必要な研究開発を実施するとともに、直接処分の実用化に向けた研究開発に着手。長期の進め方はその成果等を踏まえて短期〜中期に判断する。
- 全量直接処分の代表シナリオ
- 再処理は中止する。現在所有しているプルトニウムはプルサーマルで使用する。
- 最終処分ができるまで使用済燃料や使用済MOX燃料は貯蔵する。
- 国産のFBR/FR実用化に向けた研究開発は中止し、直接処分の実用化に向けた研究開発を実施する。
出典
1.と2. は独立したシナリオか?違いは退路を断って夢に向かうインパール作戦
1.と2. は、最初は同じで、違うのは次の部分だけである。
- 長期的に全ての使用済燃料を再処理し、国産のFBR/FRの実用化まではプルサーマルで、実用化後はFBR/FRで回収したプルトニウムを使用する。
- 国産のFBR/FRの実用化を判断するために必要な研究開発を実施するとともに、直接処分の実用化に向けた研究開発に着手。長期の進め方はその成果等を踏まえて短期〜中期に判断する。
「実用化後は、FBR/FRで回収したプルトニウムを使用する」と作文しても、現実に実用化が実現しなければ、「国産のFBR/FRの実用化を判断するために必要な研究開発を実施」して、できないと判断する場合と同じである。違うのは、「直接処分の実用化に向けた研究開発に着手」しないかどうかだけである。原子力委員会事務局は、夢を信じて突き進むことを、その問題点を明確に指摘することなく、政策の選択肢として掲げていいと考えているのだろうか。電事連などと一緒に「不退転の決意」などと第二次世界大戦に突入していった軍人達のようなことを唱えようと言うのだろうか。
高速増殖炉実用化時期の予測は、1961年には1970代後半とされていたものが、2005年には2050年頃となり、すでに80年ほど遅れている。もんじゅの状況から言って、この2050年頃実用炉導入を本気で信じている人がどれほどいるのか。
そもそも、直接処分の研究をすることは、2005年大綱で定められているのであるから、すでに着手したことを放棄するのがシナリオ1なのか。それに2で、今更「着手」とはどういうことか。本気で着手していなかったとすれば、その責任が誰にあるのか検討することから始めなければならない。
1を選択肢から消すのが尋常なものの考え方だろう。
参考
説明が容易なら絵空事でも良い?
1.の利点として「使用済燃料の扱いの将来象が明確であるため、国民、立地自治体への説明が容易」と事務局は説明する。明確な将来象が「絵空事」では意味がないだろう。実現性を問わず、「国民、立地自治体への説明が容易」という判断基準を出してくるのはどういうことだろうか。説明は単純であれば良いと言うものではない。戦争には勝つ、欲しがりません勝つまではと言うのも、将来象の明確な説明だった。
増やすのと燃やして減らすのをFBR/FRとひとくくり?夢は何処へ?
発電しながら使った以上のプルトニウムを作り、無尽蔵のエネルギー源となるという「夢の原子炉」高速増殖炉(FBR)の初期装荷燃料として必要なプルトニウムを提供するために推進されてきたのが再処理だった。FRは、高速増殖炉から「増殖」を取った高速炉。要するに高速中性子を使ったプルトニウム燃焼炉である。出てきたプルトニウムが溜まりすぎて困るから導入されたのが軽水炉でのプルトニウム燃焼計画、プルサーマル計画である。高速炉で燃焼するのがFR計画。FBRとFRという概念の全く異なるものを一緒にして議論するのはなぜか。FRに進むと言うことは、FBRの夢が破れたこと、ウラン燃料が近々枯渇するから早く夢の増速炉が必要だとのFBR・再処理政策の正当化の議論が成立しなくなったことを意味する。
これを一つのシナリオで括ってしまう態度は、「日本の核セキュリティーの態度は、ガラパゴス化──遠藤哲也(元原子力委員会 委員長代理在ウィーン国際機関政府代表部初代大使)」や「言い訳に終始する日本──班目春樹原子力安全委員会委員長」と言う言葉を思い起こさせる。
再処理・直接処分並存?
結局高速増殖炉がダメになって、使用済みMOX燃料などを直接処分することになる夢破れての選択肢なのか、そうでなくても、並存することに意味があるのか。高速増殖炉が実現してもすべての炉を廃炉にする時期が来れば、そのときのものは直接処分となる?現在、各電力会社が、自由に再処理と直接処分を選べるようにする?この辺の考え方が不明である。
これについては、3月1日の会合で松村委員が次のように述べている。
2番目、再処理・直接処分並存に関してです。これは意図的に選ぶものなのか、結果的にそうなるものなのかというのは区別すべきだと思います。出口がないから、全部再処理しようがない。だから本当は政策のオプションとしては再処理と言っているのだけれど、これ以上はできませんという、こういう類のものなのか。積極的に両方やりますと言っているのか。この2つを区別すべきだと思います。前者のほうは一応説明を受けました。もし後者のほうがあり得るとするなら、それは別立てで説明する必要があると思いました。
直接処分選択でもプルサーマルは実施?
3.で「現在所有しているプルトニウムはプルサーマルで使用する」とあるがこれは一つの選択肢ではあるが、他の選択肢の検討も必要である。米ロの余剰兵器用プルトニウムの処分に関して検討されてきたようなものである。仕様の厳しくない太いMOX燃料棒状にして使用済み燃料やガラス固化体ともに処分するなど。英国にあるものは、英国に任せる手もある。英国が自国の分離済みプルトニウムの処分のために、最終的にプルサーマルを選択するか、別の処分方法を選択するかは不明。
一定期間六ヶ所再処理とプルサーマルを凍結して原子力村の外で政策検討という第3案の提示が妥当
2.、3. を修正したものを1.、2. とし、第3案として「一定期間六ヶ所再処理とプルサーマルを凍結して原子力村の外で政策検討」という選択肢を提示すべきである。近藤委員長も、政策決定を留保するという選択肢があっても良いと述べている。鈴木座長は、それだと「現状維持のままと言うことになりかねない」と心配する。「現状維持」で六ヶ所の早期運転開始を狙うというのであれば、それは、2005年大綱の踏襲を意識的に行うものであり、実質的には、2.を選択するということだろう。「政策決定の留保」という選択肢においては、再処理政策の既成事実化を意味する六ヶ所再処理工場運転を認めないと明記する必要がある。六ヶ所再処理工場の凍結である。プルサーマルは、六ヶ所運転開始のために必要だと説明してきたことからすると、「留保案」では、これも凍結することを前提条件とすべきである。