核情報

2017.10. 3

大丈夫か原子力委員会
自らの歴史も知らないで「日本のプルトニウム利用」解説作成?

原子力委員会は9月26日の定例会議で、「日本のプルトニウム利用について」という文書を10月初旬に取りまとめ公表すると発表しました。同日配布された資料の冒頭に「1997年には国際原子力機関(IAEA)が『プルトニウム国際管理指針』を策定」とあります。実際は、「日本を含む9ヶ国がプルトニウム管理に関する指針を策定し、各参加国のプルトニウム保有量を毎年IAEAに共通の書式で報告することを1997年に決めた」というのが正解です。

  1. 関連資料・リンク
  2. 科学技術庁文書採録

IAEAは米、露、英、仏、中、日、独、ベルギー、スイスの9ヵ国の策定過程にEUとともにオブザーバーとして参加しました。9ヶ国は管理指針を策定したということを1997年12月にIAEAに報告、IAEAが1998年3月にこのことを INFCIRC/549という文書で加盟国に公式に知らせました。その後のIAEAの役割は、毎年各国の保有量の報告書についてINFCIRC/549で加盟国にそのまま伝えるというものです。

原子力委員会は10月中旬には「英語版作成、IAEA報告等」とのことですが、冒頭からIAEAの役割に間する違いのある「解説」を送られてはIAEA(天野之弥事務局長)も当惑するだろう考える一方、さすがに10月初旬の「とりまとめ」の段階では誰かが気づくのでは思っていたら、10月3日の定例会会議で発表された「案」(pdf 右に画像)には次のような文言が残ってしまいました。

 プルトニウム利用の透明性向上のため、国内外の理解を得るという観点から、国内外において使用及び保管している分離プルトニウムの管理状況について、1994年以降毎年公表するとともに、1997年より IAEAの「プルトニウム国際管理指針」に則り、IAEAに対して報告を行っている。

 p. 3 日本のプルトニウム利用について【解説】(案)第34回 原子力委員会 資料第2号

なお、日本、プルトニウム保有量を640kg過小報告 玄海3号装荷後使用せず取り出したMOX燃料 核情報 2014. 5.28~、政府、意図的な過小報告でないと共同通信に 報告から消えた640kgのプルトニウム 核情報 2014. 6. 9 で問題にしたIAEAへの報告は、まさに、この9ヵ国策定の指針に基づくものでした。

以下、簡単に関連資料をまとめました。

関連資料・リンク

  • 第33回原子力委員会定例会議平成29年9月26日
    配布資料(2)「日本のプルトニウム利用について【解説】」の作成・公表に向けて(PDF形式:139KB)

    Ⅰ.背景 

    我が国は、そもそも原子力の研究、開発及び利用をするにあたっては、1955年当初から、原子力の平和利用を大前提としており、プルトニウムの管理は厳格に行っているところである。加えて、1994年から毎年、自主的に「プルトニウム管理状況」を公表し(1997年には国際原子力機関(IAEA)が「プルトニウム国際管理指針」を策定)、国際的にも国内的にも、継続して透明性を確保しながらプルトニウムに関する政策を実施している。

    ・・・

    スケジュール
    9月26日 原子力委員会定例会議において議論
    10月初旬 「日本のプルトニウム利用について【解説】」の取りまとめ・公表
    10月中旬 英語版作成、IAEA報告等

  • 国際プルトニウム管理指針と公表データ 核情報

    1997年、米、露、英、仏、中、日、独、ベルギー、スイスの9ヶ国が、民生用分離済みプルトニウムの量を「国際原子力機関(IAEA)」に共通の書式で報告することを決めた。1998年3月16日、国際原子力機関(IAEA)がこの「プルトニウム管理指針」をINFCIRC/549(英文pdf)2009年修正英文pdf)(JAEA仮訳)として発表。以後、これらの国々のプルトニウム保有量は、INFCIRC/549文書として毎年IAEAに報告されている。下のIAEA文書集に収められている

    Communication Received from Certain Member States Concerning Their Policies Regarding the Management of Plutonium INFCIRC/549

  • 余剰プルトニウムを持たない国際公約とは? 核情報

    日本政府は、1997年に合意された「国際プルトニウム指針(説明)」(仮訳)(英文pdf)に従って、同年12月5日、「国際原子力機関(IAEA)」に保有プルトニウム量を報告した際、同時に「我が国のプルトニウム利用計画について」(INFCIRC/549/Add.1(pdf))を提出

  • 余剰プルトニウムを持たない国際公約とは? 核情報

    「国際プルトニウム指針」は次のように定めている。

    プルトニウム管理に関する政策

    13.〔……〕国政府は、核燃料サイクルに関する国家決定に合致し、平和的使用又は安全かつ永久的処分を保証する方法でプルトニウムを管理することをコミットする。その方策の策定に当たっては、核拡散、特にプルトニウムが燃料として照射される前あるいは永続的に処分される前の貯蔵期間中の核拡散の危険を回避する必要性、環境、作業者、公衆を保護する必要性、核物質の資源価値、費用・利益、所用予算、合理的作業在庫の需要を含み、可能な限り早期に受給をバランスさせることの重要性を考慮する

  • 国際プルトニウム指針の公表について1997年12月 科学技術庁」

    目的等

     プルトニウム利用に係る基本的な原則を示すとともに、その透明性の向上のため、参加国が保有するプルトニウム(平和利用のプルトニウム及び軍事目的にとって不要となったプルトニウム)の量を毎年公表すること等を定めた国際的な指針を策定する。

    経緯

    (1)1994年2月以来、本年9月まで13回の会合が開催され、指針について合意に達した。(2)検討に参加した国は、米、露、英、仏、中、日、独、ベルギー、スイスの9ヶ国。他にIAEA、EUがオブザーバーとして参加。

  • 我が国のプルトニウム利用計画について 1997年12月 科学技術庁[IAEAへの提出文書訳]

    (1)平和利用の堅持と透明性向上のための取組

     我が国は、原子力基本法に基づき、厳に平和目的に限り原子力開発利用を推進してきており、核燃料サイクルを推進するに当たっては、核拡散に係る国際的な疑念を生じないよう核物質管理に厳重を期すことはもとより、我が国において計画遂行に必要な量以上のプルトニウム、すなわち、余剰プルトニウムを持たないとの原則を堅持しつつ、プルトニウム利用計画の透明性の確保に努めている。・・・

    (3)プルトニウム需給見通しの作成

     余剰のプルトニウムを持たないとの原則の下で、我が国の核燃料サイクル計画が、これに沿ったものとなっていることを内外に明らかにするため、長期的な2010年頃までのプルトニウム需給見通しを、関連する計画の進捗状況を踏まえつつ、適時に作成し公表してきている。

    • *注 「我が国において計画遂行に必要な量以上のプルトニウム、すなわち、余剰プルトニウムを持たないとの原則」という部分、原文(英文 pdf)には「我が国において」がない。「国内においては持たない」ととれる訳文は不適切。もし入れるなら「我が国における」だろう。
      Adherence to peaceful use and actions for enhancing transparency Japan has promoted the development and utilization of nuclear energy, which is strictly limited to peaceful purposes, in accordance with the Atomic Energy Basic Law. The nuclear fuel cycle is promoted based on the principle that plutonium beyond the amount required to implement the program is not to be held, i.e. the principle of no surplus plutonium.

  • 歴代原子力委員 原子力委員会(pdf)
    ※省庁再編(2001年1月1日)以前は、科学技術庁長官が原子力委員会委員長を兼務

科学技術庁文書採録

(上に紹介した科学技術庁の文書は重要な文書だが、現在、同庁の後身に当たる文科省のサイトでは見つかっていない。インターネット・アーカイブ保存版を以下に示す)


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