核情報

2015. 7.28〜

2014年末の日本のプルトニウム0.7トン増え、47.8トンに
7月21日の原子力委定例会議で発表──深まる謎

原子力委員会事務局は、7月21日の同委員会定例会議において、2014年末時点での日本の分離済みプルトニウムが前年の47.1トンから0.7トン増え、47.8トンになったと発表しました。0.7トンの増加は、「平成26年中に分離され、在庫として計上された」分であり、英国ではこれを含む「約20.7トンの分離プルトニウムが保管中であり、英国に再処理を委託した使用済燃料に含まれる、残り約1トンのプルトニウムについては、英・再処理工場が操業を終了する2018年頃までに分離・計上される予定である」とのことです。

参考:

2014年11月の事務局説明との矛盾

 原子力委事務局は、2014年11月13日の阿部知子議員事務所に対する回答において、「事業者によると英国に送られた使用済み燃料から日本に割り当てられるプルトニウムは、2013年時点で約1トン残っている」と述べています。今回の発表だと、この1トンのほかに0.7トンあったということ、つまり、合計1.7トン残っていたことになります。事務局は回答の際になぜ、この0.7トンについて触れなかったのでしょうか。

0.7トンのプルトニウムを含む使用済み燃料の量は含有量1%として70トン、0.5%とすると140トンとなります。これだけの量の日本の使用済み燃料が実際に2014年に再処理されたということでしょうか。

事実関係の整理

いくつかの事実を整理してきましょう(暦年と会計年度が絡むので解釈は複雑になります)。

  • 英国における日本の軽水炉の「スタンダードな」使用済み燃料の再処理は2004年9月に終了。
  • 東海1号炉のガス冷却炉の特殊な燃料の再処理はB205施設で2006年1月に終了。
  • 2013年に新たに2.3トン割り当てられたのは、各年における再処理工程によって実際に日本の使用済み燃料から分離されたプルトニウムが日本に割り当てられるのではなく、日本から送られた使用済み燃料に入っていたプルトニウム総量が再処理契約の終了までに割り当てられれば良いという考え方に立っているため。
  • スタンダードでない(試験対象となった)日本の軽水炉使用済み燃料が2015年1月段階では1.69トン残っている。
  • 英国政府は、スタンダードでない使用済み燃料については、実際の再処理をせず、そこに含まれているのと同量の英国のプルトニウムと廃棄物を顧客国に割り当てる「バーチャル」再処理を採用してもよいとの判断を2014年10月に下した。
  • 関西電力の2015年6月25日の株主総会での回答によると:
    英国における同社の使用済み燃料の再処理は2013年度の1トンで終了、支払いも終了。
    同社に対するプルトニウムの割り当ては2013年度に0.6トン、2014年度に0.2トン増加し、割当ては、2018年度まで継続。

以下、第28回原子力委員会定例会議(2015年7月21日)の配布資料「(3)我が国のプルトニウム管理状況(PDF形式:308KB)」より抜粋(なお議事録が掲載されるまで配信の音声はこちら

(2)分離プルトニウムの管理状況概要

平成26年末時点で国内外において管理されている我が国の分離プルトニウム総量は約47.8トンであった。うち、約10.8トンが国内保管分で、約37.0トンが海外保管分である。

海外保管分は、我が国の電気事業者が、国内の原子力発電所から発生した使用済燃料を、英国及び仏国の再処理施設において再処理を行ったことによるものである。①仏国に委託した使用済燃料の再処理は既に完了し、平成26年末時点で約16.3トンの分離プルトニウムを保管中である。②英国においては、平成26年中に分離され、在庫として計上された約0.7トンを含む約20.7トンの分離プルトニウムが保管中であり、英国に再処理を委託した使用済燃料に含まれる、残り約1トンのプルトニウムについては、英・再処理工場が操業を終了する2018年頃までに分離・計上される予定である。

分離プルトニウム管理状況2014

日本の分離済みプルトニウム増加の謎

原子力委員会事務局は、7月21日の同委定例会議において、2014年末の日本の分離済みプルトニウムが前年の47.1トンから0.7トン増え、47.8トンになったとする文書「我が国のプルトニウム管理状況(PDF形式:308KB)」を発表した(英仏に約37トン、国内に10.8トン)。文書は、0.7トンの増加は「平成26年中に分離され、在庫として計上された」分であり、英国ではこれを含む「約20.7トンの分離プルトニウムが保管中であり、英国に再処理を委託した使用済燃料に含まれる、残り約1トンのプルトニウムについては、英・再処理工場が操業を終了する2018年頃までに分離・計上される予定である」と説明している。

日本の保有量は実質的に約49トンに達しているということだ。これは、米国が核兵器プログラムで分離したプルトニウムのうち、軍事用に余剰と宣言し、処分方法を模索している量とほぼ同じ量だ。六ヶ所再処理工場の運転も始まらず、ヨーロッパでの日本の使用済み燃料の物理的再処理が終わっているにもかかわらず、日本のプルトニウムの量が増え続けている理由を検討する。

昨年9月16日に2013年末の日本の保有プルトニウムが2012年末の約44トンから約47トンへと約3トン増えたと報告した際、原子力委事務局は純増分2.3トンについて次のように説明した。「英国の再処理施設のほうで処理が進んだことによりまして、25年内に新たに約2.3トン、日本に返還予定のプルトニウムというものの割り当てと申しましょうか、保有量の追加が行われたというふうに聞いております」。「ということは、イギリスの再処理工場はまだ動いているということですかね」との阿部信泰委員長代理の質問に対する答えは「イギリスの再処理工場はまだ稼働しております」というものだった。2013年に実際に日本の使用済み燃料が再処理されて2.3トンのプルトニウムが分離されたとの説明に聞こえる。(なお約3トンの増加分の残りの640キログラムは、玄海原発3号炉の混合酸化物(MOX)燃料に入っているものだ。2011年に炉に装荷されたというだけでデータから消されていたものが2013年3月に未使用のまま炉から取り出されたのを受けて再登場しただけで実質的に増えたわけではない。)
(以下を参照:日本、プルトニウム保有量を640kg過小報告

この時、委員長代理は事務局の説明で納得したようだが、実際は英国側の記録から日本の軽水炉の使用済み燃料のTHORP工場(酸化物燃料再処理工場)での再処理は2004年9月で終了したことが分かっている(東海第一原子力発電所の特殊な使用済み燃料のB205施設での再処理の終了は2006年1月)。契約により、顧客へのプルトニウムの「割当て」は物理的再処理の時期とは関係なく行われるため、2013年になって日本に対する割当て量が2.3トン追加されたということだ。

阿部知子議員事務所からこの問題について問い合わせを受けた事務局は、2014年11月13日の回答において、2.3トンは2013年に実際に日本の使用済み燃料を再処理して分離されたものではないとの説明を電気事業連合会から受けたと認め、さらに次のように述べている。「事業者によると英国に送られた使用済み燃料から日本に割り当てられるプルトニウムは、2013年時点で約1トン残っている」。フランスについては今後追加割当ての予定はないと事業者から聞いたと12月1日になってやっと回答した。上記の顛末は、2.3トン+1トン、合計3.3トンが六ヶ所再処理工場の運転開始の是非を巡る政府側のプルトニウムの供給・消費計画で触れられていなかっただけでなく、原子力委事務局が状況を理解していなかったということをも意味する。

今年の説明をもう一度見てみよう。「英国においては、平成26年中に分離され、在庫として計上された約0.7トンを含む約20.7トンの分離プルトニウムが保管中であり、英国に再処理を委託した使用済燃料に含まれる、残り約1トンのプルトニウムについては、英・再処理工場が操業を終了する2018年頃までに分離・計上される予定である。」これだと、実際に日本の使用済み燃料が2014年に再処理して分離されたものが0.7トン、その他まだ再処理すべき日本の使用済み燃料が残っていてそこから分離されるものが約1トンということになる。2013年末の時点で後1.7トンの割当てが残っていたということだ。実際の再処理の時期についての説明も含め、昨年の事務局の回答と明らかに矛盾する。

英国原子力廃止措置機関(NDA)は、2014年11月20日、英国再処理工場地元団体に対し、「標準的な」日本の軽水炉燃料の再処理は2004年に終了したが、英国で「照射後試験」した日本の燃料がごく少量あり、その形態が「難しい」ため、THORPでの再処理工程を通さず、バーチャル再処理される予定と述べていた。バーチャル再処理は、実際には再処理をせず、顧客に当該使用済み燃料に含まれるのと等価量の放射能を含む廃棄物と、等価量のプルトニウムを割り当てるというものだ。英国政府がこの方式を正式承認したのは2014年10月16日だ。2015年1月9日に英国エネルギー・気候変動省がNGOに対して提示したデータによると、未処理の日本の使用済み燃料は、1.69トン。プルトニウムはその1%未満。上述の謎にバーチャル再処理がどれほど関係しているかは不明だ。

日本がその保有プルトニウムの増量の理由についての明確な説明もせず、「国際原子力機関(IAEA)」の計算方法で核兵器1000発分に当たる8トンものプルトニウムを毎年分離する能力を持つ六ヶ所再処理工場の運転を来年開始しようとしていることについての国内の関心は残念ながら余り高いとは言えない。

2000年にロシアとの協定で余剰兵器級プルトニウム34トンの処分を約束した米国は、これをMOX燃料にして軽水炉で照射することを目指し、2007年にサウスカロライナ州サバンナリバー核施設でMOX燃料製造工場の建設を開始した。建設の遅延と費用の高騰問題を抱えるこの工場について、9月8日、14人の元米政府エネルギー・国家安全保障関係高官・専門家らが、米エネルギー省長官に対し、計画を中止して別の処分方法を導入するよう要請した2)。それによって、核不拡散の観点から六ヶ所再処理工場の運転開始計画を延期するよう日本を説得する上で有利な立場に立てると強調するこの書簡には、対日政策に大きな影響力を持ち、駐日大使候補にもなったジョセフ・ナイ元国防次官補も署名した。日本政府及び日本の反核運動はこれをどう受け止めるのだろう。
(以下を参照:米元政府高官ら原子炉での軍事用余剰プルトニウム処分計画中止要請──日本の再処理計画中止の働きかけにも役立つと


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