核情報

2014. 8. 13 〜

被爆69周年の六ヶ所──米国、韓国などから見た日本のプルトニウム政策

原水禁、広島・長崎で六ヶ所再処理工場に焦点

8月5日に広島で開かれた原水禁(原水爆禁止日本国民会議)の国際会議は、10月に竣工・運転開始予定の六ヶ所再処理工場に焦点を当てました。再処理問題は核兵器問題だとの考え方を示すものです。日本の再処理政策が核拡散、核セキュリティ-、北東アジアの非核化などに与える影響について日米韓の専門家等が論じました。3人のパネリストは、また、プルトニウムを使った原爆によって破壊された長崎で開かれた分科会でも同様の問題について論じました。

  1. パネリスト略歴
  2. 国際会議開催にあたって
  3. 米国その他から見た日本のプルトニウム政策
  4. 韓国における使用済み燃料・再処理問題
  5. プルトニウムと核拡散問題:日本の核燃料政策は変われるか?
  6. 六ヶ所再処理工場と核拡散
  7. 参考・新聞記事紹介

以下、パネリストの略歴、藤本泰成原水禁事務局長による国際会議開催の趣旨説明、パネリスト等の発表資料、会議に先立って配布された核情報主宰による背景説明を掲載します。

パネリスト略歴

鈴木達治郎 長崎大学 核兵器廃絶研究センター(RECNA) 副センター長・教授
1951年生まれ。75年東京大学工学部原子力工学科卒。78年マサチューセッツ工科大学プログラム修士修了。工学博士(東京大学)。
マサチューセッツ工科大エネルギー環境政策研究センター、同国際問題研究センター、電力中央研究所研究参事、東京大学公共政策大学院客員教授などを経て、2010年1月より2014年3月まで内閣府原子力委員会委員長代理を務め、2014年4月より現職。またパグウォッシュ会議評議員を2007~09年に続き、2014年4月より再び務めている。
ジェイムズ・アクトン (James M. Acton)米国カーネギ-国際平和財団「核政策プログラム」シニア・アソーシエイト
2010-2011年、「米ロ軍備管理に関する次世代作業グループ」の共同議長
ケンブリッジ大学理論物理学博士(英国出身)
研究対象は、核政策の分野全般。
著書:
『銀の弾(シルバー・ブリット=特効薬)?「通常兵器型即時全地球攻撃(GPGS)」について正しい問いを発する』、『軍縮過程における抑止:大幅核削減と国際安全保障』、『核兵器の廃絶』(ジョージ・パーコヴィッチとの共著)、『なぜフクシマは防止可能だったか』原子力問題のジャーナリスト、マーク・ヒブズとの共著
朝日新聞、フォーリン・アフェアーズ、フォーリン・ポリシー、インターナショナル・ヘラルド・トリビューン、ワシントン・クウォータリーなどに記事多数
イ・ヨンヒ(李榮熙)カトリック大学社会学科教授
1961年生
1980.3 延世大学校社会学科入学
1994.2 延世大学校大学院社会学の博士号取得
2014年1月~現在  韓国批判社会学会副会長(次期会長)
2009年1月~現在 環境運動連合政策委員
2013年1月~2013年12月 第2次国家エネルギー基本計画「原発作業部会」委員
2007年3月~2008年4月 官民合同国家エネルギー委員会「使用済み核燃料公論化タスク・フォース」メンバー
2003年2月~2008年12月 大統領諮問持続可能発展委員会専門委員
2002年7月~2003年12月 参与連帯市民科学センター所長

国際会議開催にあたって

被曝69周年 原水爆禁止世界大会「国際会議」


2015年NPT再検討会議と日本の役割-日本のプルトニウム政策と核拡散

開催にあたって

 2014年4月11日、安倍政権は「新エネルギー基本計画」を決定しました。「2030年代原発ゼロ」とした民主党の「革新的エネルギー戦略」を白紙に戻し、原発を「重要なベースロード電源」と位置づけ、しかも破綻している「核燃料サイクル計画」も継続するとするものです。

 日本は、核兵器非保有国で唯一原子力発電による使用済み核燃料の再処理に固執しており、現在45トンもの分離済みプルトニウムを所有しています。「再処理技術は潜在的核抑止力」と主張する政治家もいて「日本は実質的核保有国」との見方もあり、「日本のプルトニウムは周辺諸国への脅威」との声も聞かれます。

 原水禁は、これまで、商業利用も含むすべての核に反対して運動を展開してきました。特に、六ヶ所再処理工場と高速増殖炉もんじゅを基本にしたプルトニウム利用計画には、①六ヶ所再処理工場の本格稼働が20回を超えて延期され、計画自体が破綻をしていること、②同様に高速増殖炉もんじゅが、ナトリウム漏れ事故以来運転中止を余儀なくされ、老朽化していること、③世界的にも商業用の高速増殖炉計画は、その困難性や安全性から撤退を余儀なくされていること、④プルトニウムが極めて毒性が高いこと、半減期が長期にわたること、⑤核兵器の原料であり核拡散の視点からも問題であることなどから、反対の立場で運動を展開してきました。

 しかし、日本政府は、原子力政策の根幹に「核燃料サイクル計画」を据えて、分離プルトニウムは純国産エネルギーと位置づけ、その計画推進に邁進してきました。2011年の3月11日の東京電力福島第一原発の大事故以降も、日本政府は原発政策の継続、核燃料サイクルシステムの継続を表明しています。

 六ヶ所再処理工場の運転をこの秋にも開始し、再処理で分離されたプルトニウムをウランと混ぜた混合酸化物(MOX)燃料として普通の原子力発電所で消費する計画ですが、MOX利用を予定している原発が計画どおり再稼働する保証はありません。日本社会は、政府の原発推進政策に反対し「脱原発」の大きな声を上げています。現在、原発は全て停止しており、事故後に設立された原子力規制委員会が定めた新しい規制基準に適合しなければ再稼働は認められません。各地で再稼働反対の声があがっています。もし原発の再稼働が認められることとなっても、これまでの水準を確保することが困難であることは明らかです。加えて、新規原発の建設などは、立地予定地域の住民の合意を得られるとは考えられず、極めて困難です。このような状況を背景に、米国からも「使用しないプルトニウムを分離すべきではない」との声があがっています。

 韓国と米国の間の「韓米原子力協定」は、2014年3月に期限切れを迎えましたが、日米原子力協力協定で米国が日本に認めているのと同じような再処理の「権利」を認めよとの韓国側の要求をめぐって紛糾し、改定の合意に至りませんでした。そのため、元の協定を2年間延長することで一応の決着を見ました。

 一方、朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)は、3度の核実験を行ない実質的な核保有国と見られています。ストックホルムの国際平和研究所の報告では6~8発の核兵器を保有しているとされています。

 このような情勢の中で、日本の再処理政策や韓国の再処理の「権利」要求は、単なる使用済み核燃料の処分問題としてではなく、核拡散、核セキュリティー、潜在的核抑止の視点からも議論されるべきものです。

 2010年4月、NPT再検討会議に先立って、米オバマ大統領は「核セキュリティーサミット」をワシントンで開催しました。9.11同時多発テロ以降の米国においては、核兵器テロの脅威が現実的なものと見なされており、プルトニウムなど核分裂性物質のセキュリティーが重要な課題となっています。今年3月ハーグで開催された「核セキュリティーサミット」では、高濃縮ウランに加えて分離プルトニウムの保有量の最小化の目標が謳われています。日本は、日米共同声明においてプルトニウムの最小化を各国に奨励し、総理ステートメントでは、プルトニウムの最小化に取り組むこと、「プルトニウムの回収と利用のバランスを十分に考慮」することを約束しました。

 原水禁は、東北アジアの平和のためには東北アジア非核地帯の構想が極めて重要との認識に立ってきました。この構想は、朝鮮半島および日本を非核化し、それを取り巻く核保有国である米国・中国・ロシアの3国がこの地域に核攻撃をかけないと約束することで、成立するものです。このためには核以外の攻撃に核で報復するオプションを米国が維持することを求める日本の政策を変えることが必要です。また、この構想においては「南と北は核再処理施設とウラン濃縮施設を保有しない」とした1992年の「朝鮮半島の非核化に関する共同宣言」が重要な意味を持ちます。しかし現在、北朝鮮が核開発を行なっていること、韓国が再処理の「権利」を要求していること、そして、その要求の正当化のための理由に日本の再処理政策の継続が使われていることを考えると、事態は私たちの構想から全く逆の方向に進展していると言わざるをえません。

 原水禁は、2015年NPT再検討会議を前にして、核兵器廃絶への重要な一歩を、具体的な日本の政策変更から始めることができないだろうかと考えて、日本のプルトニウム政策と核拡散を焦点にした国際会議を開くことにしました。国際的にも著名な3人の専門家にご参加頂いたこの国際会議において、その核兵器廃絶に向けた具体的な戦略の実現の可能性を探り、今後の運動の展開へと結びつけたいと考えます。活発な討論を期待しております。

2014年8月5日

原水爆禁止日本国民会議
事務局長 藤本泰成

米国その他から見た日本のプルトニウム政策

韓国における使用済み燃料・再処理問題

プルトニウムと核拡散問題:日本の核燃料政策は変われるか?

六ヶ所再処理工場と核拡散


参考・新聞記事紹介

    長崎新聞 8月6日
    長崎新聞 8月6日

    長崎新聞 8月6日

    「再処理は核兵器問題」長崎新聞 8月6日


    二つの原水爆禁止大会、閉幕 核軍縮へ取り組み強化:朝日新聞 田井中雅人 2014年8月9日18時57分 より

    朝日新聞 8月9日
    朝日新聞 8月9日

    朝日新聞 8月9日

    二つの原水爆禁止大会、閉幕 核軍縮へ取り組み強化

     原水爆禁止日本協議会(原水協、共産党系)と、原水爆禁止日本国民会議(原水禁、旧総評系)による二つの世界大会が9日、長崎市内で閉幕した。来年春に開かれる核不拡散条約(NPT)再検討会議に向け、共に核軍縮・不拡散の取り組み強化を確認した。

     …

     一方、原水禁系の大会では「日本のプルトニウム政策と核拡散」をテーマに国際会議があった。米カーネギー国際平和財団のジェームズ・アクトン研究員は「韓国は、米国が日本だけにプルトニウム再処理を認めるのは不公平と考えている」と指摘。新たにプルトニウムを抽出することになる青森県六ケ所村の再処理施設の稼働が「韓国の再処理推進など、北東アジアでの核拡散に波及しかねない」と警鐘を鳴らした。

     3月まで内閣府の原子力委員会委員だった鈴木達治郎・長崎大教授も「『再処理ありき』からの発想の転換が必要だ」と述べた。(田井中雅人)

    (核リポート)日本の「核武装」 韓国、消えない疑念:朝日新聞デジタル 核と人類取材センター・中野晃 2014年8月19日17時20分 より

     …

     被爆から69年の広島で開かれた原水爆禁止世界大会(旧総評系)。日米韓の専門家が招かれた今年の国際会議は「日本のプルトニウム政策と核拡散」がテーマになった。

     米カーネギー国際平和財団のジェームズ・アクトン上級研究員は「韓国は、米国が日本にだけ再処理を認めるのは不公平だと考え、その感情は日韓関係で悪化している」と報告した。

     韓国の李栄熙(イヨンヒ)・カトリック大教授は六ケ所村の再処理施設の運転開始が「不公平だという不快感を韓国人の間で高める」と指摘。韓国の再処理実現を求める「核主権」派の声を強めかねないと述べた。

     8月6日、同大会で採択された「ヒロシマ・アピール」は「日本のプルトニウムの大量保有は、アジアの周辺諸国に脅威を与え、北東アジア非核地帯化の実現に大きな障害となっている。核兵器廃絶と脱原発は結びついている。プルトニウムをさらに作り出す日本の核燃料サイクルの輪を断ち切ろう」と呼びかけた。

     核兵器廃絶の実現、そのためにも欠かせない東アジアの非核化を、日本のプルトニウムが「妨害」している。そう気づかなければ、周辺国との認識の差は深まるばかりだ。


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