核情報

2025.04.02

プルトニウムはゴミ──「再処理大国」英国の結論

初出 原子力資料情報室通信 2025年3月号
*一部加筆修正し、本文中に出典のリンクを付けるとともに、注と参考文献を追加。

1月24日、英国政府は、セラフィールド原子力施設にある民生用プルトニウム約120トンの処分方法として、溶解度の低い母材の中に閉じ込めて「固定化」し、これを深地下に埋めるという方針を発表した(英文) 。2005年に「英国核廃止措置機関(NDA)」が、破産した「英国核燃料公社(BNFL)」にとって代って以来、続けられてきた処分方法の検討にいよいよ決着がついた格好だ。検討されてきた選択肢は、基本的に、1)無期限貯蔵、2)廃棄物としての処分、3)原子炉の燃料としての使用だ。プルトニウムをウランと混ぜた「混合物酸化燃料(MOX燃料)」を炉で無理やり燃やすのは経済性がなく、実は3)も「焼却」というゴミ処分の一つの形態だ。

英国エネルギー・気候変動省(DECC)は2011年に発表した報告書『英国のプルトニウムの管理』(英文,pdf) において、MOX利用を追求するとの暫定的方針を決定した。だが、プルトニウム管理に関する「いかなる代替案に対してもオープンであり続ける」としていた。英エネルギー安全保障・ネットゼロ省(DESNZ)は今回、「無期限の長期貯蔵を続けることは、安全保障上のリスクと核拡散上の問題を将来の世代に負わせることになる。この物質を手の届かないところに置き、保管中の長期的な安全性及びセキュリティ上の負担を軽減し、地層処分施設での処分に適した形態にすることが政府の目指すところだ」とした。

プルトニウムの処分に関する議論は、実は、1990年代末には始まっていた。1998年の時点での方針は、将来の原子炉での燃料としての使用のために貯蔵しておくというものだったが、王立協会が固定化・埋設も合わせて検討するように求めたのだ(英文)。

一緒に処分してもいいとの英国のオファー

英国に保管されている外国のプルトニウム約24トン(うち日本分約22トン)は、今回の方針の対象外となっている。だが、上述のDECC の2011年の報告書には、「商業的条件が英国政府にとって受け入れられるものであれば」との前提で、他国のプルトニウムの所有を英国に移し、英国所有のものと一緒に処分してもいいとのオファーがある。[1] ドイツなど、実際にこのオファーに従って自国のプルトニウムを英国籍に移した例もある。[2]

2018年に日本原子力委員会が約束した「プルトニウム保有量を減少させる。プルトニウム保有量は…現在の水準を超えることはない」 という政策を実施するには、この申し出を受け入れるのが確実だ。だが、国内の電力会社に対し、英国保管のプルトニウムを英国で処分するための費用を支払うように強制する一方で、六ヶ所での再処理を押し付け、その費用の支払いをも電力会社に強制するというのは、正当化が難しい。このため、官僚は嫌がるのだが、この際、日本の再処理政策自体も含めて議論すべきだ。

無策のまま継続された英国再処理政策の教訓

そもそも、英国はなぜ世界最大規模の120トンもの民生用プルトニウム[3]をため込んでしまったのか。

英国の再処理政策の基礎となったのは、他の原子力先進国同様、在来型の原子炉の使用済み燃料を再処理してプルトニウムを取り出し、これを燃やしながら増やす「高速(中性子)増殖炉」の夢だった。だが、1994年、英国はドーンレイ高速原型炉を停止し、その増殖炉開発プログラムを終わらせた。それにもかかわらず英国は、民生用プルトニウムをその後約30年に亘って分離・蓄積し続けた。皮肉なことに、高速炉の夢が破れたこの年にセラフィールドの新しい再処理工場の運転が始まった。

最近まで稼働していた二つの再処理工場のうち、古い方の工場B205は、英国の第一世代のガス冷却発電炉から出てくる金属ウラン燃料を再処理するために1964年に運転が開始された。これらのガス冷却炉は、元々は、兵器用プルトニウムと電力の両方を生み出すために開発されたものだ。再処理の際に溶けやすいマグネシウム合金が金属ウラン燃料の被覆管に使われていたためマグノックス炉と呼ばれた。被覆管が水中で腐食しやすく、使用済み燃料はプールに入れたら短期間のうちに再処理するとの想定だ。1971年に国営「英国核燃料公社(BNFL)」が設立され、「商用」再処理を提供するようになると、軍民両用のB205はBNFLの管轄となった。

1995年頃には、英国の兵器用プルトニウムの需要が満たされていた。この時、燃料を貯蔵のしやすいセラミック型に移行することもできたはずだが、そうはならなかった。マグノックス炉の最後の一基は2015年に閉鎖され、使用済みマグノックス燃料の再処理のうち受注残となっていた分の再処理も2022年7月に終了し、B205は「廃止」となった(英文)。

日本が支えた英国の無意味な再処理政策

1970年代半ばに計画が開始された再処理施設THORP(ソープ:酸化物燃料再処理工場)の目的は、増殖炉の初期装荷燃料用のプルトニウムを必要とする日欧の電力会社に、軽水炉の使用済み燃料用の再処理サービスを提供することだった。契約は2段階に分かれていた。最初の10年間の「基礎契約」7000トンの3分の2が海外顧客、残りが英国の顧客のものだった。日本分が全体の40%近くを占めた(契約年1971~1978年。なお、マグノックス炉である東海ガス炉用の契約年は1968~1975年。詳細は、1995年の今村修議員の質問に対する政府答弁の別表第3及び第2を参照)。契約は、建設期間中に建設費を払うというBNFLにとって有利な仕組みだった。しかも、基本的に原価加算契約で、予算オーバーでも顧客に払わせるものだ。「ポスト基礎契約」は約3300トンの4分の3以上が英国のものだ。[4](1985年に六ヶ所再処理工場について地元との協定を締結した日本は「ポスト基礎契約」には不参加。)

英国政府は、THORPの採算性を確保するために、国内の電力会社に対し、第二世代の「改良型ガス冷却炉(AGR)」の使用済み燃料の再処理を義務付けた。これらの炉の酸化ウラン燃料はステンレス鋼の被覆管内に入れられており、マグノックス炉の使用済み燃料と異なり、長期貯蔵が可能だったにもかかわらずだ。しかも、取り出されたプルトニウムを使用することは予定されていなかった。

2009年、英国の16基のAGRと、英国に1基だけある軽水炉を運転していた電力会社ブリティッシュ・エナジー(BE)が「フランス電力(EDF)」に買収された。フランスでは、EDFはフランス政府所有の再処理工場とMOX燃料工場を支えることを義務付けられているが、英国の子会社の再処理契約の更新は拒否した。このため、2018年にTHORPは閉鎖されることとなった 。EDFは、同社が保有する英国の炉でのMOX燃料受け入れも拒否してきた。もう一つの再処理大国フランスのEDFが英国の再処理とMOX燃料計画に終焉をもたらしたのは再処理政策の矛盾を象徴している。実はBEも2001年に再処理に反対の立場を表明していた。経済性がないからだ。

英国に置き去りの日本のプルトニウム

フランスで取り出された酸化プルトニウムの粉末を「あかつき丸」で日本に輸送(1992年11月~1993年1月)した際、核物質防護の観点から世界的な問題となった。それ以来、日本へのプルトニウム輸送はMOX燃料の形でのみ行われるようになった。

だが現在、英国にはMOX燃料工場がない。1999年に英国から日本に送られた最初で最後のMOX燃料(後にデータ捏造品として返送)を製造した実証工場は2001年に閉鎖。同年に運転が開始された商業用工場は、正常運転に至らないまま、最大顧客の日本で福島原発事故が起きた2011年に継続が断念された。この間に製造されたMOX燃科は設計能カの1%ほどだ。こうして約22トンの日本のプルトニウムが英国に置き去りになっている。六ヶ所再処理工場は2026年度中に運転開始予定だが、隣接して建設中のMOX工場が英国の工場と同じ運命をたどれば、取り出されたプルトニムは、たまる一方となる。

経済産業省幹部は「今回の英政府の発表で日本の核燃料サイクルの政策に影響が出るわけではない」(日経2025年2月4日) と述べているという。実際は、日本の再処理政策にとって大事件だ。国会内外での議論が待たれる。

  1. 英国のごみ処分サービス提供オファー
    エネルギー・気候変動省(DECC)「英国のプルトニウムの管理:英国所有の分離済み民生用プルトニウムの長期的管理に関して寄せられた意見への回答2011(英文 pdf)」 にあるオファーは以下の通り。

    1.8 The consultation document also addressed foreign-owned plutonium stored in the UK. Having considered all the responses, the UK government has concluded that overseas owners of plutonium stored in the UK could, subject to commercial terms that are acceptable to UK Government, have their plutonium managed in line with this policy. In addition, subject to compliance with intergovernmentalagreements and commercial arrangements that are acceptable to UK Government, the UK is prepared to take ownership of overseas plutonium stored in the UK after which it would be treated in line with this policy.
    粗訳: 「協議[意見募集]」報告書は、英国に貯蔵されている外国所有のプルトニウムについても論じている。寄せられたすべての意見を考慮した結果として英国政府が到達した結論は、英国に貯蔵されているプルトニウムの海外所有者は、英国政府が受け入れられる商業的取り決めに従うことを条件に、この政策に沿った形でそのプルトニウムの管理を[英国に]任せることができるというものである。さらに、政府間の合意及び英国政府が受け入れられる商業的取り決めに従うことを条件に、英国は英国で貯蔵されている海外のプルトニウムの所有を英国に移し、この政策に沿った形でこれを扱う用意がある。

    出典:なおざりなプルトニウム管理――再処理委託先の英国で核兵器約3000発分が「放置」(参考文献) 核情報 2018. 5.25 ↩︎

  2. 英国オファーに従って英国籍となったプルトニウムの例
    実際の移譲状況 2017年1月現在8.53トン

    海外プルトニウムの 英国所有への移譲 単位:kg
    国名
    移譲日
    ドイツスウェーデンオランダスイス日本スペイン英国へ
    12年7月13日4,0004,000
    13年4月23日1,6753509252,950
     650 ────────→ 650
    14年7月3日140835975
    17年1月19日5600605
    2017年1月19日現在 英国所有への移譲合計  8,530 kg

    英国の再処理施設監視団体「放射能の環境に反対するカンブリア人(CORE)」のマーティン・フォーウッド(キャンペーン・コーディネーター)から核情報に提供(2018年7月27日)
    出典:プルトニウム削減の第一歩は再処理工場運転放棄 核情報 2018. 6.22 ↩︎

  3. 2023年末現在の英国のプルトニウム 140.9トン うち英国籍116.8トン
    2024年9月11日発表
    image1
    出典:2023 annual figures for holdings of civil unirradiated plutonium

  4. THORPの基礎契約(ベースロード)とポスト基礎契約の顧客
    image1
    出典:The Legacy of Reprocessing in the United Kingdom
    Martin Forwood, July 2008
    ↩︎

参考文献


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