核情報

2012. 3.12

今プルトニウムが大量に流れる川と未来の深地下プルトニウム鉱山
細野大臣は川がお好き? 味の決め手は「東大案」?

2011年11月20日の提言型政策仕分けでの発言によると、細野原発担当大臣は、使用済み燃料を再処理することによって核兵器利用可能なプルトニウムを分離し、大量に出回るようにして「プルトニウムの川」を作ることが核拡散防止にとって重要と考えているようです。この不思議な考えの元になったかと思わせるのが、3月1日、原子力委員会小委員会に提示された核燃料サイクル多国間管理「東大案」(2011年9月中間報告)です。同案では、使用済み燃料を直接深地下に処分する方式は、「核不拡散上問題を残すため」検討の対象外としたというのです。原子炉からの取り出し後100年以上経つと、地層処分された使用済み燃料は、放射能の減衰のためアクセスが容易になり、「プルトニウム地下鉱山」と化するからとの説明です。「東大案」も細野大臣も、再処理で分離したプルトニウムの方は、容器に入れたものをそのまま持ち去ることも出来ることは無視しています。




  1. 概観:使用済み燃料の「自己防衛性」の低下?
  2. プルトニウム・マイン(鉱山)とプルトニウム・リバー
  3. 細野大臣発言
  4. 「東大案」の背景
  5. 六ヶ所再処理工場を国際化出来る?
  6. 六ヶ所を国際管理で運転すると米韓問題も、日本の余剰プルトニウム問題も解決?
  7. 六ヶ所のキャパシティーで韓国の使用済み燃料などを処理?
  8. 原子力委員会が確認した「余剰プルトニウムを持たない」との方針──細野大臣はご存じ?
  9. 計画ではない「六ヶ所再処理工場で回収されるプルトニウムの利用計画」
  10. 細野発言に見られる時系列の誤解:高速増殖炉計画とプルサーマル計画を混同か?
  11. 軍事用のプルトニウム処分と六ヶ所でわざわざ分離してから処分を考えることの違い
  12. 直接処分を有望と見なしたIAEA報告書と、直接処分を検討しないとした「東大案」
  13. 使えるのはいつ?
  14. 分離したプルトニウムは核兵器に利用されない?
  15. 「バックエンド問題が重要」と認識から異なる結論に達した馬淵議員等
  16. 「東大案」の論理の欠陥を認めた久野教授
  17. 細野大臣、それでもプルトニウムの川がお好きですか?枝野大臣は?野田総理大臣は?



以下、11月20日の実際の細野大臣の発言と3月1日の原子力委員会「原子力発電・核燃料サイクル技術等検討小委員会」で説明された「東大案」と比較し、問題点をまとめておきます。(米国の核問題専門家フランク・フォンヒッペルによる論文や核情報に提供されたデータ類を参照しました。同氏はプリンストン大学公共・国際問題教授で、1993〜94年にホワイトハウス「科学・技術政策局」国家安全保障担当次官を務めた経歴の持ち主です。)なお、「東大案」「東大モデル」は、東京大学大学院工学系研究科(及び日本原子力研究開発機構)の研究者等11人からなる「核燃料サイクル多国間管理研究グループ」のものです。3月1日の小委員会会合で、小委員会委員の松村敏弘東京大学社会科学研究所教授が、このグループの「研究結果」を見た人が「東大モデル」「東大案」と呼ぶのは分かるが、自分たちで「東大モデル」と呼ぶには抵抗があると強く抗議したので、この表現は、今後同グループの報告書類から姿を消すかもしれません。



概観:使用済み燃料の「自己防衛性」の低下?

国際原子力機関は(IAEA)は、1メートルの距離で毎時1シーベルトの線量を出すものを「自己防衛的」としています。4時間これを浴びると4シーベルトとなります。半数の人々が死亡する被曝線量です。

再処理はなぜ核拡散を容易にするか

使用済み燃料再処理 vs. 乾式中間貯蔵(pdf, 1.7MB、上に10ページ目を表示)は、取り出し後50年の加圧水型使用済み燃料集合体だと、30分で4シーベルトになることを示しています。このため、この集合体からプルトニウムを分離するには厚い壁の後ろでの処理(つまり再処理)が必要となるわけです。図にあるように加圧水型の使用済み燃料集合体は、約450キログラム。この中にあるプルトニウムが約5キログラム。一方、再処理で出てきた容器入りプルトニウムは、素手で簡単に持ち運べます。右の写真は、米国の核問題専門家フォンヒッペル教授が1994年にロシアのマヤック再処理工場で撮ったものです。


軽水炉の使用済み燃料集合体の放射線は、燃焼度(燃やす程度)にもよりますが、炉から取り出してから100年ほどは、毎時1シーベルトという「自己防衛的」レベルを保っています。しかし、この時点を過ぎると、「自己防衛的」レベルより下がり始めます (カナダが開発したCANDU炉は、天然ウランを使い、燃焼度が低いため、炉から取り出して、わずか数年で「自己防衛的レベル」より低くなることを図は示しています)。 [Managing Spent Fuel from Nuclear Power Reactors(pdf, 5.1MB) より figure 1.4(下図参照)]

「東大案」では、地下300メートル以上の処分場に入れられたこの集合体が地上に運び出されて、中のプルトニウムが分離されるのが心配なので、多国間管理案の検討対象から外したというわけです。




プルトニウム・マイン(鉱山)とプルトニウム・リバー

日本はすでに分離済みプルトニウムを約45トン保有しています。核兵器が5000発以上出来る量です。それにも拘わらず、「東大案」は、再処理を大急ぎで進めることを提案しています。プルトニウムのストックをさらに増やし、一部を除いて、軽水炉や高速増殖炉での利用が経済性を持つようになるまで貯めておくことを提案しています。いま大量にプルトニウムを分離して貯蔵し、将来大量に流通させることが、核拡散防止に役立つというのです。

フォンヒッペル教授は、これは、オバマ政権の大統領補佐官(科学技術担当)のジョン・ホルドレンが昔言っていたプルトニウム・マイン(鉱山)かプルトニウム・リバーかという問題だと言います。「東大案」や「細野案」はプルトニウムが滔々と流れる現在の川よりも未来の深地下鉱山の方が心配だというわけです。

細野大臣発言

11月20日の細野大臣の発言は以下の通りです。政策仕分けでは、もんじゅが一つの焦点になりました。発言は、もんじゅは、古い技術だから今後どうするか検討しなければならないと認めた後、しかし、と続けて出てきたものです。発言の事実誤認、矛盾点は後で見ます。

考えなきゃいけないことが二つあって

この二つの問題を解決しない限りもんじゅについて簡単に結論だけ出せないと言うことがあるんですね。

一つは、もんじゅがどうなろうが、原発がなくなろうがなくなろまいが使用済み燃料はあるちゅうことですね。大量にある使用済み核燃料をどう処分するのかと言うことを考えて先人がいろいろと迷った中で高速増殖炉と言うのが出てきたわけですね。ですからこのことについてのやはり一定の答えを出さないと簡単に結論が出ないと言うことが一つ。

もう一つは、余り語られていないんですけども、やはり、核拡散との関係なんですよ。これは原発の不拡散ではなくて、核兵器の不拡散。原発をやると言うことは、濃縮ウランが出、プルトニウムが一定の割合で出ます。それを出来るだけ核拡散につなげないようにいろいろ知恵を絞って、日本は、核武装をしていない国ですから、この国はやはりきちんとバックエンドもやらなければ行けないと言うことで高速増殖炉が出てきたわけですね。この問題は、その当時よりも、今の方がはるかに深刻になっています。なぜなら、世界中アジアも含めて、原発を作っているところがたくさん出てきているわけだし、日本は、輸出をしようとまでいっているとそういう言うときに、バックエンドについて、じゃあどうなのかというと、答えがない状態というのは、私は、不拡散の観点から言うと無責任のそしりを免れないと思うんですよ。この二つの問題を考えた時に、もんじゅはどうなのか、高速増殖炉はどうなのか。

出典

提言型政策仕分け2011年11月20日(8:49.00ぐらいから)

「東大案」の背景

「東大案」は、冒頭で触れたとおり、「核燃料サイクル多国間管理研究グループ」による研究から来ています。研究結果は、『国際核燃料サイクルシステムの構築と持続的運営に関する研究中間報告 2011年12月』として発表されています。(リンク切れのためこちらのキャッシュを参考に)

「東大案」は、2005年のIAEAの報告書『核燃料サイクルへのマルチラテラル・アプローチ』(INFCIRC640)を下敷きにしたものです。中間報告の7ページに、「手法として、IAEAにおける検討INFCIRC640で示されるMNA検討方法を拡張的に取り入れた」とあります。MNAはIAEA 報告書で使われている「多国間原子力アプローチ(Multilateral Nuclear Approaches)」という言葉から取ったものです。

ところが、このIAEAの報告書が「相当の核不拡散上の利点を提供する」としている使用済み燃料直接処分(ワンススルー)を、「東大案」では、「核不拡散上問題を残すため」検討の対象外にしたと主張しています。

3月1日の原子力委員会「原子力発電・核燃料サイクル技術等検討小委員会」での「東大案」の説明は、グループのメンバーの久野祐介教授が行いました。メンバーの内、3人について背景を見ておきましょう。

  • 久野祐輔
    東京大学大学院工学系研究科教授。
    旧動燃事業団・サイクル機構で再処理に関わる。
    現在、日本原子力研究開発機構の核不拡散科学技術センター次長兼研究主席
  • 尾本彰委員
    原子力委員会。
    元原子力技術開発本部副本部長・技術部長
    現東京電力株式会社顧問
    東京大学特任教授
  • 田中知
    東京大学大学院工学系研究科システム量子工学専攻教授
    日本原子力学会会長
    原子力発電・核燃料サイクル技術等検討小委員会」委員
    (高速増殖炉の推進派として知られる)

IAEA報告書の背景に、エルバラダイIAEA事務局長(当時)が、ウラン濃縮及び再処理施設が拡散することについて懸念してこれらの施設の建設モラトリアムを提唱したことがあることを考えると、ワンススルーを対象外とするなど、普通では考えられないことです。しかし、再処理に固執してきたメンバーの経歴からすると当然のこととも言えます。

参考

六ヶ所再処理工場を国際化出来る?

「東大案」は、ウラン濃縮や再処理の施設、使用済み燃料貯蔵所を国際管理下に置くことを検討しています。同案の説明をした久野教授は、小委員会での質問に答えて、必ずしもホスト国を日本にすることを主張するものではないと述べましたが、後で見るように、中間報告にも、3月1日のプレゼンテーション資料にも、六ヶ所再処理工場を多国間管理とし、そこで、韓国などの使用済み燃料を再処理するとすべてが上手くいくと提案しているかのように思わせる表現がいくつも入っています。

韓国は、2014年に期限切れを迎える米韓原子力協力協定の改定交渉において、日本の一括事前承認と同じような形で韓国にも再処理を認めるよう要求していますが、米国は抵抗しています。この問題を解決するために韓国の使用済み燃料を六ヶ所で再処理すれば良いではないかという議論がまことしやかに展開されています。細野大臣がこれに類似した六ヶ所国際化の主張をあちこちでしているとの話が聞こえてきます。

六ヶ所を国際管理で運転すると米韓問題も、日本の余剰プルトニウム問題も解決?

「東大案」は、日本のこれまでの再処理政策を維持するのに国際管理が役立つとの論理を提示しています。日本をホスト国にすることを主張しているのかと聞かれれば、参加者等は、可能性をいろいろ提示しているだけと答えるかもしれませんが、六ヶ所再処理工場を国際管理下に置くことで、再処理に固執する日本に対する批判を避け、米韓の使用済み燃料再処理論争を解決し、余剰プルトニウムを持たないとの日本政府の原則に拘わらず、プルトニウムの分離を続けることが簡単に出来ると言いたいかのような内容です。

◇赤信号、みんなで渡れば怖くない?

日本にとってのベネフィットか、現実を無視して再処理路線を走り続けることを主張しきた人々にとってのベネフィットか?

我が国が期待できるベネフィット

  1. 非核兵器国で唯一の核燃料サイクル保有-プルトニウム利用国という、いわゆる特権的みなされ方からの回避(燃料サイクル保有の一般化)
  2. 燃料サイクル(特に再処理)の有効利用(余剰な分離プルトニウムを保有しないという我が国の政策に制約されずに、MNA管理による再処理及び分離プルトニウムの所有が可能)
  3. 我が国を取り巻く国際社会の安定
  4. 近隣国の核拡散リスク低減(近隣国間の透明性確保)
  5. その他(ウラン供給保証、核不拡散コスト削減)

出典 3月1日資料11ページ

◇候補は挙げるが、結局ホスト国に今なれるのは日本だけとの結論?

本研究では、ホスト国として、日本、韓国、カザフスタン、ロシア、中国、モンゴルを選択した。濃縮、中間貯蔵、再処理について、現在及び将来ホスト国として燃料供給サービスの可能性を調査した。結果を下表7.1に示す。タイプB及びタイプCに基づく活動に対して、表7.1にホスト国・立地国候補とその協力活動を示す。モンゴルは原子力に対する国情を考慮して、候補から当面除外することとする。


(○):現状の法規制等の下、およびキャパシティ的に実現が容易ではないが、将来的に潜在的可能性があると思われるもの

出典 中間報告38ページ

六ヶ所のキャパシティーで韓国の使用済み燃料などを処理?

そんなことができるわけがありません。

細野大臣は、「東大案」のような話を六ヶ所再処理工場の推進派から聞かされているのかもしれません。しかし、久野教授と同時に3月1日の小委員会に招かれた秋山信将一橋大学教授(国際問題)が述べたとおり、六ヶ所再処理工場は、日本の使用済み燃料をすべて処理する能力もないことからすれば、韓国の使用済み燃料など再処理出来ないことは明らかです。

2011年9月現在、各地の原発には、合計約1万4200トンの使用済み燃料が貯まっています。六ヶ所再処理工場の受け入れプール(容量3000トン)には、3月12日現在約2893トンが入っています

六ヶ所再処理工場は、例えフル稼働に成功しても、その年間処理能力は年間800トンとされています。これに対して使用済み燃料は、年間1000トンほど発生するので、処理出来ない部分は中間貯蔵しておくというのが、フクシマ以前の想定でした。

また、韓国の要求の背景にあるのは、北朝鮮の核実験後強くなっている「核主権」の主張です。国の権利として、日本と同じ再処理の権利を持つべきだとの主張です。ですから、例え六ヶ所再処理工場が十分な処理能力を持っていたとしても、これを韓国に提供することで韓国側が自国での再処理の要求を引き下げるとはとても考えられません。

原子力委員会が確認した「余剰プルトニウムを持たない」との方針──細野大臣はご存じ?

米国政府の情報に詳しい秋山教授はまた、ヨーロッパにある日本のプルトニウム約35トンをどのように処分するかという具体的な計画を示さないままで六ヶ所の運転を開始することは、妥当とは見られないだろうという趣旨の発言も小委員会でしています。

この日の小委員会では、「余剰プルトニウムは持たない」との方針が再確認されました。

この方針に従うなら、45トンもプルトニウムを溜め込んだ状態で、六ヶ所を動かしてさらにプルトニウムを分離するなどとても出来ないことは、常識的に考えれば明らかでしょう。

計画ではない「六ヶ所再処理工場で回収されるプルトニウムの利用計画」

原子力委員会は、2003年8月決定において、核拡散防止面での懸念に応えるため、

「電気事業者はプルトニウム利用計画を毎年度プルトニウムの分離前に公表」し「原子力委員会は、その利用目的の妥当性について確認」し「電気事業者は、プルトニウムの所有者、所有量及び利用目的(利用量、利用場所、利用開始時期、利用に要する期間のめど)を記載した利用計画を毎年度プルトニウムを分離する前に公表する」

と定めています。

原子力委員会は、1991年原子力委員会核燃料専門部会報告書「我が国における核燃料リサイクルについて」において「必要な量以上のプルトニウムを持たないようにすることを原則とする」と発表し、1997年には、「余剰プルトニウムを持たないとの原則を堅持している」ことをIAEAに通知する形で国際的に宣言しています。

原子力委員会や日本政府に、必要量以上のプルトニウムを持たないとの1991年以来の方針を守ろうとうする意志があるなら、現存の約45トンのプルトニウムの存在を無視したまま六ヶ所再処理工場の運転開始など考えられないはずです。「利用計画」の発表をそのまま認めてきたのは、フィクションの維持でしかありません。

2010年9月17日に電気事業連合会が発表した2010年度の利用計画の表(pdf)における東京電力の計画は次の通りです。

◎利用場所

立地地域の皆さまからの信頼回復に努めることを基本に、福島第一原子力発電所3号機を含む東京電力の原子力発電所の3〜4基

◎年間利用目安量(トン Puf/年)

0.9〜1.6

◎利用開始時期及び利用に要する期間の目途

平成27年度以降約0.5〜0.8年相当

要するに、六ヶ所再処理工場に隣接して建設されるMOX燃料加工工場の完成予定が2016年3月とされているので、六ヶ所再処理工場で分離したプルトニウムを2015年度末までにMOX燃料にして使うということは絶対ないと宣言しているだけの「計画」です。英仏にある日本のプルトニウムの処分計画を明示できない状態で、このような「計画」を発表してごまかす手法は、もう通用しないだろうということを秋山教授は指摘しているのです。

参考

細野発言に見られる時系列の誤解:高速増殖炉計画とプルサーマル計画を混同か?

大臣は、溜まってしまった使用済み燃料問題を解決するために高速増殖炉のアイデアが出てきたという説明をしています。実際は、発電しながら使った以上のプルトニウムを作り、無尽蔵のエネルギー源となるという「夢の原子炉」高速増殖炉の計画が最初からありました。 

原子力委員会が1956年に初めて出した『原子力長期計画』は、「わが国における将来の原子力の研究,開発および利用については,主として原子燃料資源の有効利用の面から見て増殖型動力炉がわが国の国情に最も適合すると考えられるので,その国産に目標を置くものとする」としています。この時点で、すでに高速増殖炉の開発が決められており、その初期装荷燃料を供給するために使用済み燃料の再処理が、英仏の再処理工場、東海再処理工場、六ヶ所再処理工場で進められてきたのです。

ところが、高速増殖炉の開発計画が予定通り進まないためにプルトニウムが貯まってしまい、これを普通の原発「軽水炉」で無理矢理消費するために出てきたのがプルサーマル計画です。細野発言は、高速増殖炉計画とプルサーマル計画を混同しているかのような説明になっています。

参考

軍事用のプルトニウム処分と六ヶ所でわざわざ分離してから処分を考えることの違い

細野大臣は、2007年フランス視察の際聞いた「平和のためのMOX」と言う言葉に感動したとのことです。

フランスはアメリカの核兵器の再処理をして、MOX燃料をつくっている。この仕組みは世界の核軍縮に貢献する意味から、「MOX for Peace」だというのです。

日本では核燃料というと、それだけで恐ろしいものだと思われていますから、意外な印象を受けましたが、そのとき核武装していない日本こそ、この道で行くべきだと思いました。

出典 田原総一郎 『日本人は原発とどうつきあうべきか』PHP 2012年1月 215-216ページ

これは、軍事用に作ったプルトニウムの一部を米国が「軍事目的上余剰」と宣言し、それを処分するためにMOXとして軽水炉で消費することを考えたという話です。幾つかの案の中で、この方式を選択することが妥当かどうかという議論はおくとして、これは、軍事用プルトニウム処分の話です。使用済み燃料からすでに分離してしまったプルトニウムについても、同様の考え方はあり得るでしょう。しかし、それと、すでに分離してしまったプルトニウムの処分計画も立てられないのに、軽水炉で消費するためにこれからさらに再処理をして核兵器利用可能なプルトニウムを分離するというのとは、全く異なる話です。

直接処分を有望と見なしたIAEA報告書と、直接処分を検討しないとした「東大案」

◇IAEA報告書

使用済み燃料の処分

20 現在、使用済み燃料の最終処分サービスの国際市場は存在しない。すべての事業が完全に国別に行われているからである。使用済み燃料最終処分は、したがって、多国間アプローチの候補である。多くの国々において、法的・政治的・公衆の受け入れと言う点で、問題を抱えているが、使用済み燃料最終処分多国間アプローチは、大きな経済的利点、それに、相当の核不拡散上の利点を提供する。IAEAは、基礎をなすすべての要因について取り組み、このような事業を奨励する上で政治的リーダーシップを発揮することによって、この方向での努力を続けるべきである。

236・・・IAEA保障措置部によると、使用済み燃料最終処分場に関する保障措置アプローチは、将来のMNA処分場の設計に組み入れるの十分間に合うように開発されるだろう。

出典

IAEA報告書 Information Circular INFCIRC/640 22 February 2005 Multilateral Approaches to the Nuclear Fuel Cycle: Expert Group Report submittedto the Director General of the International Atomic Energy Agency(pdf)

◇「東大案」

ワンスルーは、核不拡散上問題を残すため、本MNAでは対象外とした

出典 3月1日プレゼンテーション資料

SFの取り扱については、1)核不拡散(将来、直接処分によるいわゆる「Pu鉱山」が多国にわたって発生することを避ける)、2)処分スペースの確保、3)環境負荷低減、の観点から、直接処分(永久処分)という考え方は、本多国間枠組み検討ではスコープ外とし、SFを1)国際貯蔵、2)再処理、という2つのアプローチを併行して実施していくものとする。(なお、核兵器国による他国のSF引き取り、再処理または直接処分という考え方も、核不拡散上有効な方策の1つではあるが、現実的に世界中のSFをすべて核兵器国が引き取るという考え方は成立性が乏しいため、本研究ではオプションに加えない)

出典 国際核燃料サイクルシステムの構築と持続的運営に関する研究中間報告 5ページ

使えるのはいつ?

分からない。

再処理にて回収されるプルトニウム(Pu)は、MOXの形態で、一部、可能な範囲で軽水炉MOX燃料として使用するが、主として将来の資源として備蓄する*)(*基本的にMOX燃料がU燃料と競合できることが期待される時期まで)。

出典 国際核燃料サイクルシステムの構築と持続的運営に関する研究中間報告 5ページ

現在は経済的に競合できないことは「東大グループ」も否定できません。将来どうなるかは全く保証の限りではないのだから、プルトニウム利用推進の立場に立つとしても、見通しが明らかになるまで、再処理をしないで使用済み燃料のまま保管しておくというのが、普通の考え方でしょう。

参考

分離したプルトニウムは核兵器に利用されない?

再処理の実施によるいわゆる「Puの蓄積」は、これまで核不拡散上好ましくないとされてきたが、Puを単離しないMOX形態での貯蔵、アメリシウムの生成などによる核拡散抵抗性の向上、多国間管理による国際貯蔵(地域保障措置による核不拡散性の向上)、そして、頑強な核セキュリティ対策を講じることにより、もはやMOXの製造は、単独国家による「蓄積」とは考えず、むしろ、将来の、「地域のエネルギーセキュリティのための備蓄」として捉えるべきもの考える。

国際核燃料サイクルシステムの構築と持続的運営に関する研究中間報告 5ページ

次の要素が核不拡散問題の解決になるとの主張のようです。

  • 1)プルトニウムの単体ではなく、プルトニウムとウランを1:1の割合の混合酸化物(MOX)として取り出す六ヶ所方式
  • 2)アメリシウムの生成
  • 3)国際貯蔵
  • 4)核セキュリティー対策

これらについて次のことが言えます。

  • 1)MOX製品からプルトニウムを取り出すのは、強い放射能の核分裂生成物とウラン・プルトニウムとを分離するのは、簡単で、MOX製品方式が核拡散防止にならないことは明らか。このことは、日米交渉でこの方式の採用を日本に求めたことになっているカーター政権の内部文書(1977年)でも確認されている。
  • 2)プルトニウム241の崩壊により生じるアメリシウムによりMOXの線量率は上がる。だが、それは、限られている。以下に、幾つかの数字を挙げておく。
    1キログラムのアメリシウムの塊でも、その線量率は、1メートルの距離で毎時0.001シーベルト。これに対し、自己防衛基準は毎時1シーベルト。
    プルサーマルで使うMOX燃料に含まれるプルトニウムは、約40キログラム。その中のプルトニウム241は、約2.6kg。この崩壊によって、アメリシウム241は、年間約0.13キログラムの割合で増える。
    加圧水型の使用済み燃料集合体約450キログラムのに含まれるプルトニウムは約5キログラム。取り出し後100年の線量率は、毎時約1シーベルト。
    同じ5キログラムのプルトニウムを含む再処理工場のMOX製品が、アメリシウムによって10〜20年後に持つようになる線量率のレベルの上昇はわずか。このレベルまで、加圧水型の使用済み燃料の燃料集合体の方のレベルが下がるには、400年ほどかかる。
    また、アメリシウムの発生は、このMOXを使ってMOX燃料を作る際にも問題となる。MOX燃料の製造の論理から言えば、燃料の使用の見通しが立つまで再処理は待った方がいい。
  • 3)及び4)これらの対策の効果を全面的に信頼しながら、使用済み燃料の直接処分についての対策を信頼しないのはなぜか。

参考

「バックエンド問題が重要」と認識から異なる結論に達した馬淵議員等

仕分けにおいても、田原総一郎のインタビューにおいても、細野大臣は、バックエンド問題の重要性を強調しています。細野大臣と同じ民主党の馬淵澄夫元国土交通相も、この問題が重要だと言っています。

原発事故の収束にあたってきた者として、脱・原発依存の話はいたるところでしてきたが、原子力政策を語るうえでもう一つ重要なことは「バックエンド問題」である。

出典 まぶちすみおの「不易塾」日記 バックエンド問題 2011年8月5日

この馬淵議員は、東京新聞のインタビューで、核燃料サイクルは「フィクション(絵空事)」だと述べています。

使用済み核燃料の再処理[による核燃料リサイクル]は何十年もやってきていまだ完成していない。関係者はいろいろ言い訳するが、これはもうフィクション(絵空事)だったと言わざるを得ない。・・・積み上げてきたものをスパッと変えるのは、政治しかできない。

馬淵議員が中心になって進められて来た「原子力バックエンド問題勉強会」(70人以上の民主党議員からなる)は、核燃サイクル路線は実質的に破綻しているとし、六ヶ所再処理工場を凍結して、使用済み燃料を乾式貯蔵する方針をとるよう政府に要請する第一次提言をまとめ、2月7日から23日にかけ、藤村修官房長官、平野文部科学大臣、細野環境・原発担当大臣、古川内閣府特命担当大臣、枝野経済産業大臣、前原政調会長に提出しました。

参考

民主党「原子力バックエンド問題勉強会」六ヶ所凍結を提言 核情報

「東大案」の論理の欠陥を認めた久野教授

「ワンスルーは、核不拡散上問題を残すため、本MNAでは対象外とした」と書くと、あたかも他の方式は問題が全くないように聞こえるではないかと3月1日の小委員会で指摘されると、久野教授は、言い過ぎだったと認めました。言い過ぎと言うよりも、これまでの政策を形を変えて維持するための「言い訳」だったのではないでしょうか。ここで思い起こされるのが、日本は、安全性問題において、日本式の甘い対策のままでも良いことを正当化する「言い訳」「説明」ばかりに時間をかけていたとする班目春樹原子力安全委員会委員長の反省の弁です。

細野大臣、それでもプルトニウムの川がお好きですか?枝野大臣は?野田総理大臣は?

細野大臣は、破綻した再処理政策を推進してきた人々の話ばかりを聞かされているのではないでしょうか。日本政府関係者は、ホルドレン氏ら、日本内外の他の専門家等の声に真摯に耳を傾け、政策を再考すべきでしょう。

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