核情報

2022.12.22

岸田政権の下で続く核燃料サイクルの虚構
遅々としたプルトニム消費──六ヶ所再処理工場完工予定、26回目の延期

原子力委員会は、2018年7月31日、「我が国におけるプルトニウム利用の基本的な考え方」(pdf)(以下、「基本的な考え方」)において、「上記の考え方に基づき、プルトニウム保有量を減少させる。プルトニウム保有量は、以下の措置の実現に基づき、現在の水準を超えることはない」と宣言した。原子力委員会のこの「予言」は、これまでのところ当たってるかに見える。しかし、それは、六ヶ所再処理工場の完成予定が遅れていることだけによるもので、プルトニウムを利用する計画は遅々として進んでいない。


六ヶ所再処理工場 (2019年、日本原燃のサイトより)

2018年の「基本的な考え方」発表の後、六ヶ所再処理工場の完工予定が2度延期されている。まず、2020年8月21日に「2021年度上半期」から「2022年度上半期」への延期が発表された。それに続いた2022年9月7日の延期発表(26回目)においては、日本原燃(原発所有電力会社を主要株主とする六ヶ所再処理工場運営会社)は、新しい完工目標を示すこともできなかった。新たな目標は2022年末までに発表する予定だという。報道によると、「2024年度上期の早い時期」完工という目標を年末までに発表予定で調整がなされているとのことだ。当初計画から27年遅れとなる。

以下、プルトニウム利用計画の実態について簡単にまとめておこう。

  1. 遅々としたプルトニウム消費ペース
  2. 元々のMOX燃料利用導入計画(1997年発表)──六ヶ所再処理工場運転正当化の試み
  3. 進捗率9.4%の六ヶ所MOX燃料製造工場
  4. 日本が手本とするフランスのMOX燃料工場の不都合な事実
  5. 現在の電事連の「プルトニウム利用計画」の夢と現実
  6. 欧州でのプルトニウムのスワップは解決策になるか?
  7. 岸田首相の迷言──核燃料サイクルを止めるとプルトニウムが積み上がる
  8. プルサーマルについて 原子力技術史研究会(2022年11月30日)発表資料改訂版

参考:

遅々としたプルトニウム消費ペース

原子力委員会は、「基本的な考え方」において、プルトニウム保有量の増加を防ぐための措置として、六ヶ所再処理工場でのプルトニウム分離の量を調整し、需給バランスを確保することなどを挙げていた。需要というのは、プルトニウムを「プルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)」燃料にして普通の原発で使うことを意味する。

「基本的な考え方」の発表時点(2018年7月)で、日本は46.6トンの分離済みプルトニウムを保有していた。2021年末現在、分離済みプルトニウム保有量は45.8トンとなっている──国際原子力機関(IAEA)の計算方法(1発8kg)で、核兵器約5700発分だ。内訳は、国内9.3トン、海外36.5トン(英国21.8トン、フランス14.3トン)だ。

この間のMOX燃料導入炉による利用は約1.2トンだ。(単純に二つの数値の差を計算すると0.8トンとなる。MOX使用炉による利用分の計算をややこしくしているのが、2020年に英保管分が625㎏増えていることだ。英国に送られた使用済み燃料の再処理は2006年にすべて終了していたのだが、この年、帳簿上、残っていた最後の625㎏が日本分として追加されたため、この増加が生じた。これを計算に入れると、0.8トンと合わせて、約1.4トンがこの間に「利用」されたことになる。実際は、プルトニウム241がアメリシウム241に壊変(崩壊)する形でプルトニウムの量が減るという核的損耗分が0.2トンあるので、それを引くと、実際のMOX利用分は1.2トンということだ。)
 1.2トンのMOX利用の内訳は次の通りだ。2018年の関西電力高浜原発の4号機(703kg)及び3号機(181kg)、2019年の九州電力玄海原発3号機(160kg)、そして、2021年の四国電力伊方原発3号機(198kg)だ。

一方、年間800トンの使用済み燃料を処理できる六ヶ所村再処理工場が本格稼働すると、毎年6.6トンのプルトニウムを分離できるようになると政府はいう(年間800トンの使用済み燃料を再処理して得られるプルトニウムの量は、燃料がどれだけ炉内で燃やされたかという「燃焼度」と、使用済み燃料が炉から取り出されて実際に再処理されるまでの期間に生じる核的損耗の計算によって異なる。大雑把に処理量の1%として扱われることが多い。これだと8トンとなる)。日本の使用済み燃料を再処理したフランスおよび英国から軽水炉用MOX燃料が日本に初めて送られた1999年以降、軽水炉で利用されたプルトニウムは4.7トンに過ぎない。どの期間を使って計算しても、年間利用量は0.5トンに達しない(1999年から2022年までの平均利用量は約200kg/年。実際にMOX燃料の使用が開始された2009年から2022年までの平均は360kg/年。2011年の福島第一原発事故による停止期間を経て、現在稼働中のMOX燃料使用原子炉4基すべてが再稼働した2018年から2022年までの平均は470kg/年だ)。電気事業連合会は、上記の再稼働した4基のMOX燃料使用炉のプルトニウム利用量は合計で約2トン/年になると想定している(次を参照:電事連2022年利用計画(pdf))。

元々のMOX燃料利用導入計画(1997年発表)──六ヶ所再処理工場運転正当化の試み

これに対し、1997年に電事連が発表した計画では、2010年までに16~18基の原子炉にMOX利用を導入し、7~11トン/年のプルトニウム(全プルトニウム換算)を利用することが想定されていた。1995年に高速増殖原型炉もんじゅでナトリウム火災事故が起きた後に発表されたこの「計画」のメッセージは、当時、運転開始間近とされていた六ヶ所再処理工場で毎年分離するプルトニウムは、高速増殖炉計画の遅れに拘わらず、すべて利用できるというものだった。だから、分離されたプルトニウムが蓄積される心配はないというわけだ。2009年、電事連は導入計画の延期を発表し、2015年までに16~18基の原子炉でMOX利用を導入するという新たな目標を掲げた。

六ヶ所再処理工場が、1993年の着工時の計画通り1997年に運転開始とならなかったのは幸運だった。もしそうなっていたら、日本のプルトニウムは今頃、200トンレベルに達していた可能性がある。この "幸運 "はしばらく続くかもしれない(もちろん、手をこまねいていて良いというものではないが)。報道されているように、2024年上期に完成という計画となり、その通り実現となったとしても、これまでの計画と同じ手順なら実際の再処理が始まるのは翌年の2025年度となる(同年度中に0.6トン抽出)。

進捗率9.4%の六ヶ所MOX燃料製造工場

2010年10月から六ヶ所再処理工場に隣接して建設されているMOX製造工場の進捗率は、2022年10月26日現在、9.4%に過ぎない。(2016年以降、ずっと11.8%となっていたが、9月にMOX工場の設工認の4分割のうちの第一回分認可を原子力規制委員会が出したので、その分、進捗率が低下する結果となった。必要な工事が増えたのだ)。

現在の計画では、2024年9月末までにMOX工場の運転を開始することになっているが、これは延期となる可能性が高い。近年の日本原燃の計画で示されている二つの工場の関係は、再処理工場の完成から2年遅れてMOX工場の完成するというものだからだ。2年前に分離されたプルトニウムが、都合よくMOX燃料加工施設でMOX燃料にされるという想定になっている。このMOX工場が計画通りに稼働しなければ、再処理工場で分離されたプルトニウムは蓄積されることになる。

ここで、2001年に運転を開始した英国のMOX工場が、設計上の能力の1%でしか運転できないまま、2011年に永久に停止となったことを忘れてはならない。永久停止の決定がなされたのは、福島第一原発事故の後、主要顧客である日本の電力会社からの将来の需要の見通しが暗いと見られたからだ。この英国のMOX工場の閉鎖により、日本のプルトニウム約22トンが英国に取り残されることになった。

日本が手本とするフランスのMOX燃料工場の不都合な事実

日本の原子力委員会の2018年の「基本的な考え」の策定過程で出された文書が、フランスを手本にすべきとの見解を示している。手本というのは、「取り出したプルトニウムの用途が現れた時点で燃料を再処理する」との政策だ。この「イコールフロー」原則(2003年策定)を取っているフランスにおけるMOX生産の経験でさえ、日本のMOX工場の運転にとって明るい未来を示してはいない。

フランス南部にあるメロックスMOX燃料工場の年間生産量は、2015-16年の125トン/年から2021年には50トン/年程度に減少している。同プラントの運営会社であるオラノは、2022年2月15日、以下のような発表を行った。「日本への核物質の輸送を、製造が完了次第行う所存だ。しかし、具体的なタイミングは、製造の進展を考慮に入れ、関係者間の調整を経て決めなければならない。」

この謎めいた発表の前年の2021年には、予定されていた日本へのMOX燃料の輸送に遅れが生じていた。関西電力は2017年にオラノの前身のAREBA社と、高浜3号機と4号機用のMOX燃料をそれぞれ16体ずつ製造する契約を結んでいた。2基の燃料は一緒に出荷される予定だったが、2021年11月に日本に到着したのは4号機用の16体だけだった。そして、2022年7月に原子力委員会事務局が発表した「(2021年)我が国のプルトニウム管理状況」(pdf)により、そのプルトニウム含有量は、2017年に到着した高浜原発4号機用16体が703kgだったのに対して、629kgであることが判明した。2021年2月に電事連が発表したプルトニウム利用計画(pdf)では、高浜3号機と4号機に2017年の契約からそれぞれ0.7トン、2020年の契約からさらに0.7トンずつが装荷されることが示されている。629㎏だと、0.6トンとするのが普通だ。関電は、このプルトニウム含有量の「減少」の理由ついて説明していない。また、高浜4号機用16体の到着から1年後の2022年11月に到着した高浜3号機用16体のプルトニウムの量については、公表してもいない。こちらは、2023年夏に日本原子力委員会事務局が発表する「(2022年)日本プルトニウム管理状況」で明らかになるだろう。関電は、メロックス工場の運転状態とMOX燃料の輸送の遅れ、プルトニウム含有量の「減少」の関係について明確に説明すべきだ。

メロックス工場での生産問題は、高浜原発のMOX利用だけでなく、日本のMOX利用計画全般に影響を与える可能性がある(次を参照:日本のMOX利用に対する影響)。

フランスの民生用プルトニウムは、前述の2003年の「イコールフロー」原則採用後も、増え続け、1995年に約30トンだったものが、2021年末時点で84.9トンに達していることも忘れてはならない。原則採用時、フランスではすでにMOX工場が継続的に稼働していたにもにも拘わらずだ。日本のMOX工場は完成するかどうかも分からない状態だ。

現在の電事連の「プルトニウム利用計画」の夢と現実

629kg含有の16体の高浜4号機用MOX燃料が2021年末に到着した後に電事連が発表した2022年2月「プルトニウム利用計画」では、2022年度から2024年度まで毎年、上述の高浜原発の2基の原子炉のいずれかに0.7トンを装荷することが引き続き示されている。その後の計画は、使用する原子炉の名称を特定せず、以下の利用量を示している。2025年度に1.0トン、2026年度に2.1トン、2027~2030年度に6.6トン/年程度とされている。2027~2030年度の注には、次のようにある。「2027年度以降、2030年度までに、800トンU再処理時に回収される約6.6トンPut[全プルトニウム量]を消費できるよう年間利用量を段階的に引き上げていく。」これは、計画というより、そうなると再処理工場を計画通り運転できることになるからいいなぁという「希望」を示したものと言えるだろう。

実は、2020年12月17日、電事連は前述の2009年の目標を修正し、2030年までに12基の原子炉でMOX利用を導入するという新たな目標を掲げていた(「新たなプルサーマル計画について」(pdf))。2022年12月現在、福島第一原発事故後の閉鎖から再稼働した原子炉が10基、原子力委員会の新規制基準審査に合格したものの、安全性向上工事の完了、テロ対策施設の建設、地元自治体の承認などを待っていて再稼働していない原子炉が7基、原子力規制委員会の審査中のものが10基、という状態にある。上記の合計27基のうち、2009年の電事連のMOX使用炉導入目標にあった原子炉が12基。12という数字はここから来ている(27基の状況は次を参照:「原子力発電所新規制基準適合性審査状況とMOX利用炉」。表から分かるように、12基に含まれていないMOX利用計画炉では、女川3号、柏崎3号、志賀1号が未申請。福島第一3号が廃炉。そして、東京電力3~4基とあるうち東電が名前を出せなかったのが2基。これらを合わせると2009年計画の合計18基となる )。

ところが、電事連がこの新目標を発表した同日、中部電力は、そのプレスリリース(pdf)で、浜岡原発4号機(静岡県)の「プルサーマルの導入時期を定める状況にありません」と述べている。2010年12月、同社は2010年度のMOX使用導入計画を地元の要請により延期することを発表し、2014年4月には、静岡県知事が同炉のMOX使用に対する県の同意を取り下げてしまっていたのだ。

一方、電源開発株式会社(Jパワー)は、2021年6月に発表した有価証券報告書(pdf)で、プルトニウムを6.6トン/年回収できる六ヶ所再処理工場の安定稼働には、1.7トン/年消費できるフルMOX大間発電所の稼働が不可欠と述べている。しかし、同社は、2022年9月9日、同原発運転開始時期の目標を2028年度から2030年度へと変更する5度目の延期を発表した(大間原発、審査長期化で運転開始5度目延期 東奥日報2022年9月9日)。大間原発がこの計画通り2030年度に運転開始となっても、同社の計画では原子炉でMOX燃料を100%使用する状態を実現するには、少なくとも5年かかることになっている(Jパワー『段階的なMOX燃料装荷割合の増加』「初装荷として3分の1炉心程度以下を装荷し、運転開始後5年から10年程度かけて段階的に全炉心までMOX燃料の装荷割合を増やしていきます」)。

これら2基の状況からも、2030年度までに12基で6.6トン/年消費という電事連の「計画」が根拠のないものであることが分かる。再稼働を待つ他のMOX利用計画炉の起動と実際のMOX利用についても、乗り越えなければならないハードルがある。

欧州でのプルトニウムのスワップは解決策になるか?

電事連にとって、プルトニウム消費量を増やす上での一つの問題は、四国電力(伊方3号機)と九州電力(玄海3号機保有)がフランス保管のプルトニウムを使い果たしてしまったことだ。フランスで残っている両社のプルトニウム(四電97kg、九電167kg)は、Jパワーに譲渡し、大間原発で使用することになっている。一方、MOX燃料工場を持たない英国には、両社合わせて、合計2517kgのプルトニウムがある(四電975kg、九電1542kg)。このため、電事連の2021年「プルトニウム利用計画」(2021年2月26日発表)では、プルトニウムの利用を加速する方法として、「自社で保有するプルトニウムを自社のプルサーマル炉で消費することを前提」としたスワッピングに言及している。英国にある四電・九電合計2517kgの所有権を、福島第一原発の事故を起こし、近い将来MOX利用ができる状況にない東京電力に移し、その代わりにフランスにある東電の同量のプルトニウムの所有権を両電力に移そうということのようである。報道では、交換されたプルトニウムの装荷は、玄海原発3号機では2026年以降、伊方原発3号機では2027年以降に開始するという。したがって、このスワップにより、日本のプルトニウム消費能力は、保有する46トンのうち2.5トン程度しか増加しないということだ。そして、その時期は明確ではない。

実を言うと、東京電力は2013年にドイツの電力会社と650kgのプルトニウムのスワップを実施している(次を参照:「実際の移譲状況 2017年1月現在」 (核情報))。今回のスワップと合わせて、東電の英国でのプルトニウム保有量は1万1671キロに増える──他の大口保有会社は、関西電力(3946キロ)、日本原子力発電(3905キロ)、中部電力(1076キロ)だ。このような東電とのスワップは、英国にある日本のプルトニウムを処理する努力を先送りするための政策と言える。日本政府は、英国にある日本のプルトニウム合計約22トンについて、具体的な計画を打ち出していない。この量は、国際原子力機関(IAEA)の計算方法(8kgで核爆弾1発)によれば、3千発分に近い。英国は、2011年に、日本が満足な支払いをすれば自国のプルトニウム(2021年末現在116.5トン)とともに日本分(および他の再処理顧客国の分)を処分してもいいと申し出ている(2011年英国側オファー)。

岸田首相の迷言──核燃料サイクルを止めるとプルトニウムが積み上がる

岸田文雄首相は、2021年の自民党総裁選の際、日本記者クラブ主催公開討論会(2021年9月18日)で次のように述べている。

核燃料サイクルを止めてしまうとプルトニウムがどんどん積み上がってしまう。日米原子力協定をはじめ、日本の外交問題にも発展するのではないか。この問題をどう考えるか。核燃料サイクルを止めると別の問題が出てくるのではないかと思っている。

この意味不明の発言は当時、大きな問題にならずに終わってしまった。東奥日報の「自民総裁選、核燃サイクルの具体像見えず」(2021年9月24日:リンク切れ)が次のように指摘していたのが(唯一の?)例外だろうか。「再処理しなければプルトニウムは抽出されないため、プルトニウムが『積み上がる』ことはなく、岸田氏の主張には矛盾点もある。」

「プルトニウムがどんどん積み上がって」「日本の外交問題に発展する」のを防ぐためにどうすべきか、早急に国会内外で議論が必要だろう。

プルサーマルについて 原子力技術史研究会(2022年11月30日)発表資料改訂版



 
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