核情報

2022. 6. 2

日本で繰り返し語られる核共有の幻想と実体

安倍晋三元首相が2月27日にフジテレビの番組で、ロシアによるウクライナ侵攻を背景に、日本も米国の核兵器の「核共有」導入を検討すべきと発言したことをきっかけに、「核共有」についての議論が起きています[1]。核情報では、これまで、何度か核共有について取り上げてきましたが、ここでは、それらの記事の内容にも触れながら、今回の議論とその背景について簡単にまとめてみましょう。

  1. 概観:核共有とは?
  2. 冷戦初期の発想の遺物
  3. NPTとNATOの核共有――核兵器の移譲を禁止する1条及び2条に違反?
  4. NPT加盟国は米・NATOの解釈を知っていたか?
  5. NPTの効力がなくなる戦争開始とは?
  6. NATO内での反対
  7. 初めてではない核共有の主張
  8. ウクライナ情勢を背景に再登場:少なくともNPTの精神に反する提案
  9. 継続して注意が必要
  • 資料編
    1. 米国解釈Q&A 1967年4月28日 [核情報粗訳]
    2. NPT(関連部分抜粋)
    3. ニュークリア・シェアリングは非現実的で逆効果の提案──ハンス・クリステンセン(米科学者連合(FAS)) 2018年5月 (核情報の依頼で執筆)

    主要核情報参考記事

    • 核共有に魅かれる日本が核兵器禁止条約に賛成? 日本の核共有はNPTに違反と米科学者連合専門家 2018. 5. 7
       安倍元首相、稲田朋美元防衛大臣、石破茂元防衛大臣らの過去の発言を紹介するとともに、「米科学者連合(FAS)」の核問題専門家ハンス・クリステンセンによる日本での核共有導入論の問題点の整理(核情報へのメール)を掲載(本稿資料編に採録)。また、参考及び注で英文の関連文献のいくつかを紹介。
       本稿は、クリステンセンの数々の論考・データの他、この記事で紹介している次の文献に依拠する部分が多い:「欧州核不拡散に関するプロジェクト(PENN)」 [2]が2000年のNPT再検討会議を念頭に、1997年の同準備委員会に向けてまとめた『NATOの核共有とNPT――答えを得るべき問題』(研究ノート97.3:1997年6月発行。以下PENN研究ノート97.3) [3]
    • NATO 4カ国60発の核爆弾を「核共有」──魅せられる安倍元首相? 2022. 3.14
       2021年2月27日の安倍首相発言、3月9日の石破元防衛大臣発言の詳細などを紹介するとともに、最新情報を整理。

    概観:核共有とは?

    「核共有」は、米国と欧州の「北大西洋条約機構(NATO)」加盟国が冷戦時代以来とっている体制だ。核配備状況に詳しい「米科学者連合(FAS)」のハンス・クリステンセンによると、現在、ベルギー、ドイツ、イタリア、オランダの4カ国に15発ずつ配備されている計60発の米国の核爆弾が「核共有」状態にある。4カ国のパイロットたちが定期的に模擬投下訓練を受けていて、核戦争の際には実弾を投下する仕組だ。核投下の最終決定を下すのは米国大統領。4カ国が勝手に「共有核」を使えるわけではない。(米国は欧州5カ国6基地に約100発の核爆弾を配備しているが、イタリアのアビアノ米軍基地配備20発は米軍機用。また、トルコ配備20発は投下用トルコ機がなく、米軍の投下用航空機常駐もない[4]。)

    欧州配備の米国B61 型核爆弾2021年(クリステンセン/FAS)

    国名 空軍基地名 核兵器 各国運搬航空機
    ベルギー クライネブローゲル B61-3/-4 15発 F-16
    ドイツ ビュッヘル B61-3/-4 15発 PA-200
    イタリア アビアノ B61-3/-4 20発 F-16 (米軍)
    ゲディ B61-3/-4 15発 PA-200
    オランダ フォルケル B61-3/-4 15発 F-16
    トルコ インジルリク B61-3/-4 20発
    計:5ヵ国 100発

    ■ 現在配備中の基地   ● 撤去した基地

    出典:NNSA Removes F/A-18F Super Hornet From Nuclear Bomb Fact Sheet Federation of American Scientists December 15, 2021

    冷戦初期の発想の遺物

    「ワルシャワ条約機構(WTO)」の圧倒的通常兵力に対抗するためとして1954年から核砲弾、核爆弾、短距離ミサイル、核地雷など米国のさまざまな核兵器の欧州配備が進められ、1971年には、最高の約7300発に達した[5]。西側に侵攻してくる戦車を短距離ミサイルや核砲弾で狙う、侵入後も西側領土内で核砲弾や核地雷により破壊するなどという乱暴な発想だ。

    冷戦終焉時には約4000発だったこれらの地上配備核は、1991年8月に旧ソ連で起きたクーデター事件を見て、旧ソ連の核兵器の管理・保安体制に不安を持ったブッシュ(父)大統領が発表した一方的核削減措置で、撤去されることになった。ソ連側に同様の行為を呼びかけるためだ。同9月17日の演説でブッシュ大統領は、海外に配備していた地上発射の戦術核の全面的撤去について次のように述べている。「世界各地における米国の地上発射短射程(つまり戦域)核兵器を無くすことを命じる。われわれは、核砲弾と短射程弾道ミサイルの核弾頭を米国に持ち帰り破壊する。もちろんわれわれは、ヨーロッパにおける空中発射の効果的な能力[核爆弾]は維持する。これは、NATOの安全保障にとって不可欠である。」(地対空用の核弾頭及び核地雷はすでに配備から外されていた[6]。)

    現在の核共有60発と残りの40発は冷戦の遺物なのだ(ギリシャの共有核は2001年に撤去、英国配備の米軍用核爆弾も2008年までに撤去された)[7]。NATO加盟30カ国は、核共有如何に関わらず、冷戦終焉後の参加国も含め、すべて(独自の核戦力を持つ仏を除く)が、核使用について協議する「核計画グループ(NPG)」に参加している[8]

    ヨーロッパにおける米国の核兵器 1954〜2019


    出典:U.S. Nuclear Weapons In Europe(pdf)
    Federation of Amerian Scientists (Hans M. Kristensen) November 1, 2019

    NPTとNATOの核共有――核兵器の移譲を禁止する1条及び2条に違反?

    1970年発効(68年署名開放)の「核不拡散条約(NPT)」は第1及び2条で核兵器の非核兵器国への移譲を禁じている。だが、共有核は、平時は、移譲せず、米国管理下に置いており、[核]戦争が始まったら条約はご破算だから、その段階での移譲は問題ないとNATO側は主張する。この解釈により、核共有の対象とされた核弾頭の「運搬手段」であるミサイルや核砲弾システム、航空機の購入が続けられた[9]

    米国は核共有継続を前提にソ連とNPTの文言を交渉しており、両国は核共有体制を「欧州諸国によるさらなる核開発を防ぐために必要とみなした」とNATOのファクトシートは述べている[10]。西ドイツなどが核武装するのを防ぐためにこの体制の維持が必要と考えたという意味だ。1960年代初頭には、「多角的[複数国間]核戦力(Multilateral Force=MLF)」を創設するとの構想もあった。核弾頭付きのポラリス・ミサイルを潜水艦や水上艦に装備し、NATO諸国の共同所有・共同管理として、複数国の乗員で運用するというものだが、最終的にはNPT草案の交渉の中で放棄された[11]

    確かに米国は、NPTの下での核共有に関する米国側の解釈について、NATO加盟国との協議を経て4問のQ&A方式でまとめたものを、1967年4月28日にソ連側に提示している[12] 。同文書は、この段階で、条約を交渉していた「18カ国軍縮委員会」(ENDC)の数カ国にも示された。だが、条約に署名したすべての国々がこの解釈を知っていたわけではない。NPTが署名開放となったのは、1968年7月1日(56カ国署名)。条約の批准について議論する米上院に送付という形で同文書が「公開」されたのは同7月9日のことだ。そして、公開されたといっても、どれほどの国が署名・批准前にこの解釈について理解していたかは、疑問だ。

    NPT加盟国は米・NATOの解釈を知っていたか?

    1980年代に一部の外交官がこの問題について懸念を抱き、それを意識しながら1985年のNPT再検討会議の最終宣言に、「いかなる状況においても核兵器のさらなる拡散を防止する」上で「第1条及び2条の厳密な順守が中核」をなすという文言を入れた[13]

    そして、1995年のNPT再検討会議でメキシコが第1及び2条の解釈について明確にするよう求めて以降、論争が続いている。例えば、1999年には「新アジェンダ連合」と呼ばれる国々が国連総会に出した決議案で、「NPTの各条項は、各加盟国に対して、常に、いかなる状況においても拘束力を持つ」との文言を入れ、米国解釈に異を唱えた(賛成111、反対13、棄権39)[14]。日本の外務省担当者は、同年末の社民党との面談で、日本が米国解釈を通知された時期を聞かれた際、そもそも「米国がどう解釈しているか知らない」と答えている[15]。国際的な場面で米国・NATO解釈が大きな問題となっていたあの時点で実際に知らなかったのか。知っていて「知らない」と答えたのか。どちらにしても問題だ。冒頭で触れたように、1997年6月には、欧米のアナリストらがこの年開催されるNPT再検討会議準備委員会に向けて、『NATOの核共有とNPT――答えを得るべき問題』(PENN研究ノート97.3)という論考を発表していた。執筆者らはその中で、米国はNPT加盟国にいつの時点で米国の解釈について通知したかを明らかにすべきだと述べ、次のように提言している。「NPT加盟国は、自国が条約についての米国・NATOの解釈について、どのように、いつ、通知されたかについての詳細を自国のアーカイブで調べることによってこの議論を深めることができる[16]。」外務省に対する質問は、この提言に沿ってのものだった。

    NPTの効力がなくなる戦争開始とは?

    戦争が始まってしまえばNPTはご破算になるという米国・NATOの解釈の問題の一つは、「戦争」の定義のあいまいさだ。さすがに小さな紛争ではなく、核保有国の関わる「全面戦争」と解釈されているようだ[17]。米国・NATOが先制不使用のオプションを維持していることがこの問題を複雑にする。米国の解釈に従えば、米国は、一方的に先制使用の決定を行い、それをもって「全面戦争」開始とし、その瞬間にNPTは効力を失うということになる。これだと、第10条で定めた3か月前の脱退通知の義務はまったく意味のないものとなる。

    米国が、この解釈を可能とすることを目的として、条約前文冒頭に入れるよう強く要求したのが次の部分だと、「PENN研究ノート97.3」は説明している。「核戦争が全人類に惨害をもたらすものであり、したがって、このような戦争の危険を回避するためにあらゆる努力を払い、及び人民の安全を保障するための措置をとることが必要であるとし」。米軍備管理軍縮庁のエイドリアン・フィッシャー副長官(当時)が1966年にこのような趣旨の文言を前文に入れることを提唱している。核兵器国が関わる形で全面戦争が起きれば、「回避」のポイントはとっくに過ぎており、条約の目的はもはや果たせなくなっていると主張するためだ。

    米国が先制不使用宣言をすることに反対する日本が米国に核共有を要求すべきだ主張する人々は、米国のこの解釈について知っているだろうか。知っているとして、どう考えているのだろうか。

    NATO内での反対

    NATOの核共有実施国の間でも、米国のNATO配備核に反対する声は起きている。この声は核軍縮の考え方と「軍事的無用論」を背景に2000年代に大きくなっていった。当時現行のNATOの「戦略概念」(1999年採択)では、欧州配備の米国の戦術核は、NATOの「ヨーロッパ側及び北米側加盟国の間の不可欠の政治的・軍事的リンク」とされていた。だが、こんな「きずな」にしがみつく必要はないとの声を平和運動だけではなく、政治家たちも上げるようになったのだ。例えば、ドイツでは2008年4月、フランク=ヴァルター・シュタインマイヤー外相(当時:社会民主党(SPD))が、独誌『シュピーゲル』にNATO配備の核爆弾は「今日、軍事的に時代遅れ」であり「ドイツからの撤去」のための措置を講じると述べている[18]。また、同年6月には、クリステンセンがNATO配備核の管理状況のずさんさを論じた米国の文書を公開したのを受けて、当時野党だった自由民主党(FDP)のギド・ヴェスターヴェレ党首が、米国の核兵器の撤去を要求した[19]。同党首は、同年9月の総選挙の結果、10月にキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)とFDPの連立政権が誕生した際に外務大臣になったが、公式就任に先立ち、共有核撤去のため同盟国と協議すると述べている[20]。だが、翌09年11月にリスボンで開かれたNATOサミットで採択された新しい「戦略概念」でNATOの連帯が強調されるなか、ドイツだけからの撤去は難しくなっていった[21]

    2021年9月の総選挙の結果、共有核の撤去を主張してきたSPDと緑の党、それにFDPが12月に連立政権を発足させることになり、いよいよ撤去で合意かとの声もあったが、同24日に発表された合意文書には、老朽化の進む核爆弾搭載可能航空機の後継機を早期に購入との文言が入っていた[22]。そして、ウクライナ危機を背景にした軍備増強の流れの中で、今年3月14日、クリスティーネ・ランブレヒト国防相(SPD)が後継機としてF-35A戦闘機(核爆弾搭載可能)35機の購入計画を発表という状況に至っている[23]。だが、ドイツ議会が(オランダ及びベルギーの議会も)共有核撤去要求決議を出した過去の経緯を考えればこれで議論が完全になくなると見るのは早計だ[24]

    初めてではない核共有の主張

    今回の核共有発言で注目されている自民党議員らは、実は、以前から、同様の主張をしていたことに留意すべきだ[25]。例えば、稲田朋美元防衛大臣は『正論』2011年3月号で「安倍元首相が、あるシンポジウムで、アメリカの核をシェアして日本の判断で使うことができるという仕組みを考えるというのも一つの選択肢だと言われた…シェアするにしても、結局、アメリカ頼みであるという現状は変わりません。最終的には、日本が独自で核兵器を持つべきだという声もあり…国家戦略として検討すべき」と主張している。今回、2月27日のテレビ番組で核共有について口火を切った安倍晋三元首相は、16年10月11日参議院予算委員会で上記『正論』記事について聞かれ、「米国が核兵器を使う際に言わばドイツも同意をするということにおいて共同の責任を負う…研究として申し上げたことはある」と答えている。石破茂元防衛大臣は、17年9月7日テレビ朝日及び翌8日のブログで「核共有も検討が必要」、核共有をはじめとする「核戦略については随分と以前から公の場でも論じてきた」と述べている。「議論を!」と主張してきた人々がどれほど専門家らと議論して、NATOの「核共有」の実態について知識を深めてきたかは定かではない。これらの主張が出てきたときに、正確な情報に基づく議論がマスコミなどであまり提示されなかった付けが現在回ってきているとも言えるのかもしれない。

    ウクライナ情勢を背景に再登場:少なくともNPTの精神に反する提案

    前提として、ウクライナが世界第3位の核保有国だったのに核を放棄したから今ロシアに侵略されているという趣旨の主張がされているが、ウクライナには旧ソ連の核が配備されていただけで、ウクライナが所有していたわけでも、使用できる状態にあったわけでもない。ウクライナがロシアへの搬出を拒んでいれば、ロシアが力づくで「回収」していた可能性もある。

    上述のNTP関連の議論から言って、日本での新たな核共有の導入は多くの国から少なくともNPTの精神に反すると見られるだろう。単に米国による持ち込みを認めようという話なら、日本が独自に国是として宣言している非核3原則に違反するという「だけ」だ。だが、NPT制定以前から存在しているNATO以外では例のない核共有を今新たに日本で導入するというのは、それとは次元が異なる。防衛省防衛研究所所長も務めた髙見澤將林元軍縮会議日本政府代表部大使も、新潮新書(2022年)の座談会で次のように述べている。

    「NATOと同じような形でのシェアリングをすると、恐らくNPT的な説明としてはなかなか抜け道がないんじゃないかと思います。今のNATOのニュークリアシェアリングをNPTにおいて正当化している説明論理で、日本のそういう体制も正当化できるのかというと、私は、結構難しいかなという印象があります。」
    『核兵器について、本音で話そう』(新潮新書、2022年3月)

    このことについて自民党関係者の間で議論されてきたのだろうか。また、「敵国」から攻撃されやすい日本に核爆弾が配備されても日本が自由に使えるわけではない。米国としては、戦略原潜や米国配備の大陸間弾道弾、グアムにも配備の戦略爆撃機など「核抑止」手段を持っており、こちらの方が「使い勝手」が良いから日本に核共有を提供するのに乗り気ではないだろう[26]。核共有を強く要求すれば、通常兵器も含めた日米同盟の抑止力への不信表明となり、自民党の立場に矛盾する。それでも「議論すべき」と言い続けているのは、稲田氏らが言うように、核武装の考えが背景にあるからではないかと疑われてもしょうがない。

    継続して注意が必要

    岸田文雄首相は、2月27日の安倍発言の翌日、参院予算委員会で「非核三原則を堅持する我が国の立場から考えて認められない」と核共有導入の可能性を否定した。ただし、安倍首相(当時)も上述の2016年10月の参議院予算委員会において「非核三原則に抵触する中では、当然それは行えない」と答えているから、両首相の発言がどう違うのかという疑問は残る。

    自民党はというと、報道によれば、同党安全保障調査会が3月16日に勉強会を開き、岩間陽子政策研究大学院大教授と神保謙慶応大教授の講演を聞いた結果、核共有は日本にはなじまないとの結論に達したいう。調査会としては当面採用しない方針だそうだ[27]。だが、核共有論が消え去るということにはなりそうにない。安倍元首相は、5月6日、BSフジの番組で今度は、日本に対する核攻撃があった場合の報復の手順を日米で決めるべきと主張している。「必ずアメリカが報復すると相手が思わなければ抑止力にならない。核の傘をより現実的にしていくため、どのような手順で報復をするのか等を日米で協議し決めていく必要がある。日本も核シェアリングをしろというのではなく、核についての議論を深めていくべき」という。NATOの核計画グループでの議論を意識しているのだろうか[28]。また、自公の支援を受けて再当選した佐竹敬久秋田知事が4月末発売の月刊誌「Will」の記事で、岸田首相の答弁について「はじめから議論にふたをしてしまうのは言語道断だ」と批判し、「核兵器保有も含め、真剣な防衛政策の在り方の議論を」と呼び掛けている[29]。また、日本維新の会は、2022年夏の参院選に向けた公約案(6月初旬発表予定)に「核共有」政策を盛り込んだという[30]。国民や政治家の間で核共有についての正確な情報が「共有」されるようにするための努力が各方面で継続されることが重要だろう。

    初出:核兵器廃絶をめざすヒロシマの会 Hiroshima Alliance for Nuclear Weapons Abolition News No.29 2022.5.1 (出典等を入れ、加筆修正)


    資料編

    米国解釈Q&A 1967年4月28日 [核情報粗訳]

    核不拡散条約草案に関する米国同盟国からの質問及び米国からの回答

    1. Q.条約草案の下では、何が移譲でき、何が移譲できないか?
      A. 条約草案は、禁止されるものだけを規定しており、何が許されるかは規定していない
      条約草案は、いかなる受領者に対してであれ、「核兵器」(つまり、核爆弾及び核弾頭)を、あるいは、その管理を、移譲することを禁止している。条約草案はまた、他の核爆発装置の移譲も禁止している。なぜなら、平和目的用の核爆発装置は、核兵器として使用されたり、簡単にそのような使用に合わせて改造されたりし得るからだ。
      条約は、核兵器運搬手段または運搬システムの、あるいは、その管理のいかなる受領者への移譲についても——移譲が核爆弾あるいは核弾頭の移譲を伴わない限り——規定しておらず、したがって、これを禁止していない。
    2. Q.条約草案は、NATO加盟国の間での核[兵器による]防衛に関する協議及び計画を禁止しているか?
      A. 条約草案は、同盟国間での核防衛に関する協議及び計画について——核兵器またはそれらの管理の移譲が伴わないかぎり——規定していない
    3. Q.条約草案は、NATO加盟の非核兵器国の領土内に米国が所有し管理する核兵器を配備する体制を禁止しているか?
      A. 条約草案は、同盟国の領土内における核兵器の配備の体制について規定していない。なぜなら、そのような体制は、戦争突入の決定がなされない限り、そして、その決定の時点まで、核兵器あるいは核兵器の管理のいかなる移譲も伴わず、そして、決定の時点で条約はもはや効力を持たなくなるからだ。
    4. Q. 条約草案は核兵器国がその構成国家の一つである場合、欧州の統合を禁止するか? 
      A. 草案は、欧州統合の問題について規定しておらず、新たな欧州連邦がその以前の構成国の核兵器国としての地位を継承することを禁止することはない。新しい欧州連邦は、その外的安全保障機能のすべてを——防衛及び外的安全保障に関するすべての外交問題を含め——管轄しなければならないだろうが、政府機能のすべてに責任を負うほど中央集権化する必要もないだろう。条約草案は、このような連邦による継承について規定していないが、核兵器(その所有権を含む)またはそれらの管理のいかなる受領者——複数国主体を含む——への移譲も禁止することになる。

    出典:Foreign Relations of the United States, 1964?1968, Volume XI, Arms Control and Disarmament Document 232. Letter From the Under Secretary of State (Katzenbach) to Secretary of Defense Clifford 1 April 10, 1968. (Tab A)

    NPT(関連部分抜粋)

    前文 冒頭

    この条約を締結する国(以下「締約国」という。)は、
     核戦争が全人類に惨害をもたらすものであり、したがって、このような戦争の危険を回避するためにあらゆる努力を払い、及び人民の安全を保障するための措置をとることが必要であるとし、
     核兵器の拡散が核戦争の危険を著しく増大させるものであることを信じ、
     核兵器の一層広範にわたる分散の防止に関する協定を締結することを要請する国際連合総会の諸決議に従い、

    第一条 [核兵器国の不拡散義務]

    締約国である核兵器国は、核兵器その他の核爆発装置又はその管理をいかなる者に対しても直接又は間接に移譲しないこと及び核兵器その他の核爆発装置の製造若しくはその他の方法による取得又は核兵器その他の核爆発装置の管理の取得につきいかなる非核兵器国に対しても何ら援助、奨励又は勧誘を行わないことを約束する。

    第二条 [非核兵器国の拡散回避義務]

    締約国である各非核兵器国は、核兵器その他の核爆発装置又はその管理をいかなる者からも直接又は間接に受領しないこと、核兵器その他の核爆発装置を製造せず又はその他の方法によって取得しないこと及び核兵器その他の核爆発装置の製造についていかなる援助をも求めず又は受けないことを約束する。

    第一〇条 [脱退・有効期間]

    1 各締約国は、この条約の対象である事項に関連する異常な事態が自国の至高の利益を危うくしていると認める場合には、その主権を行使してこの条約から脱退する権利を有する。当該締約国は、他のすべての締約国及び国際連合安全保障理事会に対し三箇月前にその脱退を通知する。その通知には、自国の至高の利益を危うくしていると認める異常な事態についても記載しなければならない。

    出典:核兵器の不拡散に関する条約(NPT)

    ニュークリア・シェアリングは非現実的で逆効果の提案──ハンス・クリステンセン(米科学者連合(FAS)) 2018年5月 (核情報の依頼で執筆)

    *日本の潜水艦に核型巡航ミサイルを搭載せよという松村昌廣桃山学院大学法学部教授の以下の投稿に関するコメント。The time for ‘nuclear sharing’ with Japan is drawing near BY MASAHIRO MATSUMURA SPECIAL TO THE JAPAN TIMES,SEP 17, 2017.

    誰でも自分の見解を持つ権利があるが、松村論文にはいくつか問題がある。

    まず、NATOのようなニュークリア・シェアリングを日本に拡大するというのは、政治的に非現実的だ。なぜなら、米国は日本に核兵器の運搬能力を与えることに興味が全くないからだ。日本では核兵器開発に関して極端な見解が時々表明されているが、米国はすでに拡大抑止のミッションの機能と範囲について日本側に安心を提供するために日本と密接に連携している(付言するなら、これは核兵器だけではない。最近では通常兵器能力に関する部分がますます増大している)。そして、米国は、この地域において圧倒的な核及び通常兵器能力を有しており、いかなる敵をも抑止し、そして、抑止が失敗した場合には対処するに十分すぎるものである。

    第二に、もし日本が核兵器の開発──NPTの下で「ならず者国家」となること──を実際に検討するほど不安に感じているとするなら、ニュークリア・シェアリングの体制は、日本に核兵器のコントロールを実際に与えるものではない。ニュークリア・シェアリング体制の下では、日本は核計画に今でよりもっと直接的に関わることになるが、それでも米国に頼らなければならないことには変わりない。したがって、日本が核の不安に対処する上でニュークリア・シェアリング体制によって何が得られるのか定かではない。

    第三に、日本とのニュークリア・シェアリング体制は、核兵器国から直接的にも間接的にも核兵器を受領しないというNPTの下での日本の義務に対する違反を意味する。NATOのニュークリア・シェアリングがNPTによって受け入れられている唯一の理由は、条約が交渉され、発効した当時すでに存在していたからだ。しかし、日本とのシェアリング体制は、日米がNPTに署名した後での新たな体制となる。NATO形式の体制のものとなれば、日本のニュークリア・シェアリング体制においては、日本の発射装置が核兵器を発射できるものとなり、日本の軍人がこれを使う訓練を受け、戦争の際に、核兵器の使用のために、これらの兵器を物理的に移譲しコントロールを受け渡す手続きを設定することになる。これは、日本のNPTの下での義務や、核拡散防止や核兵器削減及び究極的廃絶のために努力するとの繰り返しなされてきた表明と相容れない。

    第4に、NATOのほとんどの国々はニュークリア・シェアリング・プログラムに関係していない。29カ国のうち5カ国だけがこのような役割を担っている(ベルギー、ドイツ、オランダ、イタリア、トルコ)。これら5カ国のうち、トルコの役割は休眠状態かもしれない。しかし、NATO加盟国は全て(フランスを除き)、核計画グループに入っており、NATOを支える核抑止の状況及び活用に関する継続的な協議・決定に直接関与している。NATOの非核兵器国の多くはニュークリア・シェアリング体制に入っておらず、その代わり、いわゆるSNOWCAT(=通常航空戦術による核作戦支援)プログラムの一部として、核作戦に参加している。核ミッションを支えるために非核能力で貢献するものだ。だから、例えば、核攻撃演習においては、これらの国々は、他の国々の核攻撃機を守り、支援するために非核型の航空機で貢献する。

    第五に、米国はもう核型トマホーク巡航ミサイルを保有していない。したがって、筆者が提案しているように日本の潜水艦用に提供することも日本で貯蔵することもできない。たとえ、米国が将来核型海洋発射巡航ミサイル(SLCM)を取得する計画を進めたとしても、これらは、米国の攻撃型潜水艦だけのものとなるだろう。米国がこのような兵器を外国(日本も含め)に移譲するというはまずないだろう。現在、通常型トマホーク・ミサイル(核型ではない)を受領した唯一の国は英国で、イスラエルでさえこの兵器の入手を拒まれている。

    第六に、核型巡航ミサイルを日本に前進配備するという提案は、日本の非核三原則の方針に違反する。米国がこれに同意し、日本の国会がこの方針を変えたとしても、このような配備は特殊な核認定貯蔵施設の日本における建設を必要とする。これらの施設は、中国、ロシア、そして潜在的には北朝鮮の核ミサイルの攻撃対象となり、日本に対する核の脅威を増大こそすれ、減らすものとはならない。

    結局のところ、ニュークリア・シェアリング体制を作ろうという提案は、非現実的で逆効果をもたらす熟慮の足りないアイデアだ。日本の安全保障にとって一番いいのは、核兵器追求を自制し、米国との密接な非核防衛関係を維持すると同時に、むしろ、地域における核兵器の役割の低減に向けて努力することだ。

    出典 核共有に魅かれる日本が核兵器禁止条約に賛成?──日本の核共有はNPTに違反と米科学者連合専門家 核情報 2018. 5. 7


    1. 安倍元首相の2月27日のテレビ番組での発言、それに続く石破茂元防衛大臣の3月9日の発言の詳細については、次を参照。 NATO4カ国60発の核爆弾を「核共有──魅せられる安倍元首相? 核情報 2022. 3.14 ↩︎

    2. The Project on European Nuclear Non-Proliferation (PENN) ↩︎

    3. NATO Nuclear Sharing and the NPT - Questions to be Answered(PENN研究ノート97.3)。なお、この研究ノートは、Questions of Command and Control: NATO, Nuclear Sharing and the NPT (PENN Research Report 2000.1,March 2000, pdf)(PENN研究報告2000.1)として、結実する。 ↩︎

    4. NNSA Removes F/A-18F Super Hornet From Nuclear Bomb Fact Sheet Federation of American Scientists(Hans Kristensen) December 15, 2021 ↩︎

    5. 中東情勢の混迷とトルコ配備の米戦術核 核情報 2019.11. 5 ↩︎

    6. 戦術核撤去・削減を約束する「ブッシュ大統領一方的核削減措置演説」─1991年9月27日 核情報 2009.6.4 ↩︎

    7. ずさんな保安体制の欧州配備の米国戦術核兵器──NPTにも違反 核情報 2008.6.26. バイデン政権は、2023年度予算要求で、以前に米国の核兵器を配備していた英国のレイクンヒース米空軍基地を核兵器貯蔵サイト・アッグレード・リストに追加している。セキュリティー対策、通信システム、施設の向上のためのもので、22年度予算では、ベルギー、ドイツ、イタリア、オランダ、トルコの基地だけがリストに入っていた。現在、すでに核配備が始まっているかどうかは不明だが、いずれにしても、これは米国の欧州配備核を増やす計画を意味するのではなく、域内での移動に備えてのものだろうとクリステンセンは見る。予想される対象は、例えば、トルコ配備の核兵器だ。次を参照。 Lakenheath Air Base Added To Nuclear Weapons Storage Site Upgrades FAS (Hans Kristensen), April 11, 2022 ↩︎

    8. そして、これらの国々は、「NATOを支える核抑止の状況及び活用に関する継続的な協議・決定に直接関与している。NATOの非核兵器国の多くはニュークリア・シェアリング体制に入っておらず、その代わり、いわゆるSNOWCAT(=通常航空戦術による核作戦支援)プログラムの一部として、核作戦に参加している。核ミッションを支えるために非核能力で貢献するものだ。だから、例えば、核攻撃演習においては、これらの国々は、他の国々の核攻撃機を守り、支援するために非核型の航空機で貢献する」
      ニュークリア・シェアリングは非現実的で逆効果の提案──ハンス・クリステンセン ↩︎

    9. PENN研究ノート97.3 Annex 2. ↩︎

    10. NATO’s Nuclear Sharing Arrangements February 2022(pdf) ↩︎

    11. PENN研究ノート97.3;矢田部厚彦,核兵器不拡散条約論, 有信堂,1971, 24-31p ↩︎

    12. 原文は、核共有に魅かれる日本が核兵器禁止条約に賛成? 日本の核共有はNPTに違反と米科学者連合専門家 (核情報 2018. 5. 7) で紹介している。本稿資料編 米国解釈Q&A 1967年4月28日 に粗訳を掲載。 ↩︎

    13. FINAL DECLARATION OF THE THIRD REVIEW CONFERENCE OF THE NPT 1985 (pdf)
      “The Conference agreed that the strict observance of the terms of Articles I and II remains central to achieving the shared objectives of preventing under any circumstances the further proliferation of nuclear weapons and preserving the Treaty’s vital contribution to peace and security.” 次を参照。PENN研究報告2000.1 (pdf) ↩︎

    14. New Agenda Coalition: UNGA Draft Resolution & Communiqué ACRONYM INSTITUTE, Disarmament Diplomacy Issue No.50, September 2000; 第54回国連総会:核軍縮関連決議より日本原水協 ↩︎

    15. 先制不使用政策と日本 ─ 1999年12月明治学院大学国際シンポジウム・レジュメ
      「2.1.外務省によるNAC決議への対応 」核情報 1999.12.19 ↩︎

    16. PENN研究ノート97.3 ↩︎

    17. PENN研究ノート97.3 ↩︎

    18. ACT:NATOの核の遺物をなくせ 核情報 2010. 3 ↩︎

    19. ずさんな保安体制の欧州配備の米国戦術核兵器──NPTにも違反 核情報 2008.6.26 ↩︎

    20. Oliver Meier , German Nuclear Stance Stirs Debate, ARMS CONTROL TODAY, December 2009;登場したロシアの戦術核の削減とのリンク 核情報 2011. 1.27 ↩︎

    21. 2010年NATOリスボン・サミット、約10年ぶりの新「戦略概念」採択──欧州配備の米国戦術核は不要だが削減に慎重? 核情報 2011. 1.27; Oliver Meier , NATO Revises Nuclear Policy Arms Control Today, December 2010 ↩︎

    22. ドイツ連立政権合意文書(pdf)(ドイツ語)p149; Germany to remain part of NATO’s nuclear sharing under new government Reuters Nov 24, 2021 ↩︎

    23. ドイツ、対ロシアで米戦闘機F35調達 核共有に使用 ウクライナ侵攻 日経新聞 2022年3月15日; ドイツが新しい「核攻撃機」をF-35ステルス戦闘機に変更 JSF軍事/生き物ライター 2022/3/1; ドイツ、最新鋭ステルス戦闘機「F35」調達へ…核爆弾搭載可能 読売新聞 2022/03/15; ドイツ、最新鋭ステルス戦闘機「F35」調達へ…核爆弾搭載可能 読売新聞 2022/03/15;ドイツ、米戦闘機F35Aを購入へ ウクライナ侵攻受け軍事費増額 CNN 2022.03.16 ↩︎

    24. ONE YEAR ON: EUROPEAN ATTITUDES TOWARD THE TREATY ON THE PROHIBITION OF NUCLEAR WEAPONS–A YOUGOV POLL OF FOUR NATO STATES ICAN 2018。最近では、2020年1月16日に、ベルギー議会で、ベルギーからの核兵器の撤去を求める決議案の投票が行われ、74対66の僅差で否決されている。次を参照。Belgium narrowly rejects removal of US nuclear weapons The Brussels Times, 18 January 2020 ↩︎

    25. 核共有に魅かれる日本が核兵器禁止条約に賛成? 日本の核共有はNPTに違反と米科学者連合専門家 核情報 2018. 5. 7 ↩︎

    26. ニュークリア・シェアリングは非現実的で逆効果の提案──ハンス・クリステンセン 核情報 2018年5月 ↩︎

    27. 核共有 自民党、提言に盛り込まない見通し 勉強会で積極論なく 毎日新聞  2022/3/16 ↩︎

    28. 安倍元首相 “米の核反撃の手順を” 日本が核攻撃されたら FNN 2022年5月7日;
      「核報復の手順」決定必要 安倍氏、日米協議訴え 日経新聞 2022年5月6日。放送の詳細は次を参照。BSフジLIVE「プライムニュース」5月6日放送 ↩︎

    29. 佐竹知事「核保有も含め議論を」「憲法9条改正すべき」 月刊誌で見解 秋田魁新報 2022年4月27日;
      「憲法9条、今すぐ改正を」秋田知事、月刊誌で主張 共産は撤回要求 朝日新聞 2022年5月7日 ↩︎

    30. 「積極防衛能力」を整備 維新、参院選の公約案全容 共同通信 2022年5月28日 ↩︎


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