核情報

2017. 7.11

核兵器禁止条約と日本国民の宿題
 先制不使用政策支持と六ヶ所再処理工場運転計画の中止

7月7日、国連本部で、核兵器禁止条約が採択されました(賛成122、反対1、棄権1)。日本は会議に参加もしませんでした。日本に対する核兵器以外の兵器による攻撃にも核兵器で報復するオプションを米国が維持することを望むいう日本の長年の政策からすれば、ある意味当然のことといえます。世界中の兵器がなくならなければ、核廃絶を望まないというのが日本の政策だからです。どういうわけかこの問題は条約をめぐる報道の関連でほとんど報じられていません。もう一つ取り上げられていないのが核兵器6000発分に達するプルトニウムを保有しながら、使用済み燃料からこの核兵器利用可能物質を年間1000発分取り出す能力を持つ六ヶ所再処理工場の問題です。同工場の運転開始は核軍縮の障害となります。

核兵器禁止条約に関連したこれらの日本の課題について京都の市民団体グリーン・アクション(代表アイリーン・美緒子・スミス)のニュースレター(2017年7月号)に寄稿した記事を下に再掲載します。

(きっかけは、4月29日に京都で開かれた「揺れ動く極東アジアにおける原発事故とプルトニウム利用・核拡散・核テロの懸念」という会合での「講演」。この会合に招かれた韓国出身で現在米国のNGO「天然資源防護協議会(NRDC)」所属のカン・ジョンミン(姜政敏)博士に同行。同博士が 1)「警告:韓国の原発銀座で使用済燃料プールの大事故が起これば? 西日本の大半が避難」と 2)「韓国の再処理計画」という2本立てで話された後に、「カン・ジョンミンさんのお話しから考える」(パワポ資料)というタイトルで解題を試みたものです。(録画:IWJ 右に表示)

なお、記事の最後で触れている元ホワイトハウス科学技術政策局次長のスティーブ・フェター(現メリーランド大学教授)の論考及びインタビュー記事については以下を参照。

参考:




グリーン・アクション・ニューズレター版

六ヶ所再処理工場は核兵器問題だ
─来年の運開中止は被爆国国民の宿題─

核兵器禁止条約を巡る報道で見逃されがちなのが日本自身の核兵器関連政策だ。第一に、日本は、日本に対する核以外の攻撃に対しても核で報復するオプションを米国が維持することを願っている。つまり核を先には使わないとする「先制不使用政策」を米国が採用することに反対なのだ。第二に、日本は、核兵器の材料になるプルトニウムを原子力発電所の使用済み燃料から取り出す「再処理政策」を維持している。英仏両国への委託分と国内での再処理分と合わせ、溜まったプルトニウムは約48tに達する。「国際原子力機関(IAEA)」の一発当たり8kgという計算方法を使えば6000発分だ。にもかかわらず、日本は年間1000発分の処理能力を持つ再処理工場(青森県六ヶ所村)の運転を来年秋までに開始する計画だ。同工場は非核兵器国で初めての工業規模のものだ。この二つの核政策の変更は、「唯一の被爆国」の国民が核廃絶を世界に向かって訴えるに当たって国内で取り組むべき宿題だ。

同時多発テロからオバマの夢へ──障害は日本

2001年の同時多発テロを経験した米国では、「もしあのテロが核兵器によるものであったら」との不安から核廃絶を求める声が上がった。07年にキッシンジャー元国務長官ら民主・共和両党の4人の重鎮が米経済紙に核廃絶を提唱する論説を投稿し注目された。(核兵器全廃への新たな潮流?注目すべき米国政界重鎮四人の提言)

08年の大統領選挙で登場したオバマ大統領は、翌09年4月のプラハ演説で、「核兵器のない世界」の夢を語り、「冷戦時代の考え方に終止符を打つために、米国は国家安全保障戦略における核兵器の役割を縮小」すると約束した。また、核物質の量の最小化とセキュリティ(保安体制)強化を最優先課題の一つと捉え、「国際核セキュリティ・サミットを1年以内に開催」すると約束した。だが、どちらの面でも日本がネックとなった。

(参考:オバマ大統領広島訪問と日本の核燃料・核兵器政策再考 2016. 5.24)

オバマ大統領は、「核兵器の役割を縮小」するため、誕生時と退陣直前に先制不使用政策採用を検討したが2回とも不採用となった。重要な理由の一つが日本の反対だった。昨年の場合、ケリー国務長官が「米国の核の傘のいかなる縮小も日本を不安にさせ、独自核武装に向かわせるかもしれないと主張した」ことが不採用決定の裏にあったとニューヨーク・タイムズ紙(2016年9月5日)が伝えている。

「核物質の量の最小化」はどうか。オバマ大統領は、第2回核セキュリティ・サミットのため2012年3月に韓国を訪れた際のにこう述べた。「分離済みプルトニウムのような我々がテロリストの手に渡らぬようにしようと試みているまさにその物質を大量に増やし続けることは、絶対にしてはならない。」だが、日本は構わず再処理政策を続けた。

再処理は、元々、ウラン資源の枯渇についての懸念を背景に構想された。希少なウラン資源のうち、燃えるウラン(U-235)は0.7%しかない。世界で急速に伸びる原子力利用を賄えない。それでプルトニウムを燃やしながら使った以上のプルトニウムを燃えないウラン(U-238)から増殖する炉が必要とされた。普通の原発の場合よりも高速の中性子を利用し、冷却に液体ナトリウムを使う「高速増殖炉」だ。再処理は初期装荷燃料を提供するためのものだった。だがウラン資源は予想以上に豊富で、増殖炉の技術は難しかった。日本は溜まったプルトニウムを減らすべく、ウランと混ぜた「混合酸化物(MOX)燃料)」を普通の原発で燃やそうとするが、これも上手く行っていない。

増やす夢から減らす夢へ

米国を含むほとんどの国が再処理・高速増殖炉計画から撤退し、使用済み燃料はそのまま地層処分場に埋める方針に変えた。処分場ができるまでは、使用済み燃料プールが満杯になってくると古いものから空気の自然対流で冷却する「乾式容器」に移して保管する。日本は昨年12月に1995年のナトリム漏れ火災事故以来ほとんど動いていない高速増殖炉もんじゅ廃炉を決めながら、再処理・高速(中性子)炉計画は継続すると宣言した。地下処分場に送られる核廃棄物の量と毒性を減らすためにこの計画が必要だと主張する。

(参考:増やす夢から減らす夢へ

現在はウランより重い長寿命元素(超ウラン元素(TRU))のうちプルトニウムだけを取り出しているが、新しい方式ではネプツニウムやアメリシウムなども取り出す。これに高速中性子を当てて核分裂させ、寿命の短い元素にするという。主張はこうだ。①再処理と普通の原発でのMOX利用の組み合わせだけでも、処分場に送られる高レベル廃棄物の容積は、使用済み燃料の直接処分の場合の4分の1になる。②新しい再処理と高速炉の組み合わせだと7分の1になる(廃棄物の毒性が天然ウラン相当になるまでの期間は、直接処分の場合が約10万年なのに対しそれぞれ、8000年、300年となる)。

①は、原発でのMOX利用が計画通り進んだとしても、最初に入れたプルトニウムの3分の2から4分の3の量が使用済みMOX燃料に残っているという事実を無視している。経済産業省の役人はこれも再処理すると主張する。だが、役人も認める通り、六ヶ所再処理工場では2サイクル目のプルトニウムは取り出せない。新しい再処理工場を建てて取り出しても、高速炉がないとうまく燃やせないと原子力規制員会の田中俊一委員長は言う。使用済みMOX燃料をそのまま処分場に送れば、「減容効果」はなくなってしまう。処分場の必要容積を決めるのは廃棄物の容量ではなく発熱量だからだ。使用済みMOX燃料の発熱量は、取り出し後50年~300年の間、通常の使用済みウラン燃料の約3倍から5倍強に達する。再処理やMOX燃料製造工場で生じるTRUの混ざった廃棄物も処分場に入れる必要を考慮すれば六ヶ所式の再処理とMOX利用では「減容」効果など達成できない。結局六ヶ所再処理工場についての①のうたい文句は②と切り離しては実現のしようがないものなのだ。

ではその②はどうか。米国科学アカデミー(NAS)の報告書(1996年)によると、高速炉の場合もやはり燃料に入れられたTRUの6割以上の量のTRUが使用済み燃料に残る。そのため、使用済み燃料の再処理と何十基もの高速炉での再利用を繰り返すことになる。理想的シナリオでも、TRU量を直接処分の場合の約100分の1にするという再処理推進派の目標を達成するには200年ほどかかるという。世論調査は原発の段階的廃止を国民の大半が望んでいることを示している。国民は、全てうまく行っても核兵器何千発もの材料が長期にわたって地上を走り回ることになるうえ膨大な費用の掛かるこんな計画の続行を役人にお願いしていない。上記報告書の結論はこうだ。地下深くに埋設する放射性物質の量を減らして地上の人間への「被曝線量の減少」を目指しても、その効果は、計画の「費用と追加的運転リスクを正当化するような大きさのものではない」。検討されたリスクは、TRU用施設の運転が周辺住民に与えるものだけだ。実際には、この他に大きな核拡散と核テロのリスクが加わることを忘れてはならない。日本の再処理は悪しき前例ともなる。韓国はすでに日本と同じような再処理の権利を認めるよう米国に迫っている。

(参考:どうする「もんじゅ」?──核兵器問題から見た再処理・高速増殖炉計画 2016. 6. 6)

再処理放棄を求める米国の声──どうする日本国民?

2016年3月17日、上院外交委員会で証言したトーマス・カントリーマン米国務次官補は再処理には経済性も合理性もなく、核拡散防止の観点から「すべての国が再処理の事業から撤退してくれれば、非常に嬉しい」と述べた。さらに、無用な日中韓の再処理競争が始まりそうな現状を指摘して言う。「我々は、本質的な経済性という問題があると考えており、米国とアジアのパートナー諸国が、経済面および核不拡散面の重要な問題について共通の理解を持つことが重要だ。例えば[2018年に迫った]日米原子力協力協定の更新について決定をする前に」と。岸田外相は国会で、一般論としての米国の見解だと述べたが日本についての話だ。

オバマ政権でホワイトハウス科学技術政策局次長を務めたスティーブ・フェター(現メリーランド大学教授)は、今年2月22日、民進党非核議連との会合で、日本が核軍縮のためにできることは?と聞かれた。クリントン政権時代に国防省で核削減に取り組んだ経歴も持つ教授は迷わず答えた。「米国の先制不使用政策採用を支持することと再処理政策を放棄することだ。」これが日本国民の宿題だ。


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