核情報

2011.11.10

フクシマの重さと「核燃料サイクル・事故リスク」コスト計算議論の軽さ
──忘れ去られる六ヶ所と核拡散:続編

原子力委員会「原子力発電・核燃料サイクル技術等検討小委員会」は、11月8日エネルギー・環境会議「コスト等検証委員会」から与えられた二つの問題に答えを出しました。10月25日の第三回会合での結論を翌日の原子力政策新大綱策定会議で報告し、同会議での議論を元に改訂したものです。原子力委員会が1ヶ月で解答を求められた二つの難題(珍題?)で見たとおり、課題は、1)使用済み燃料の再処理方針と直接処分のコスト比較と、2)将来「モデル原子力発電所」で事故が起きた場合のコストの算出です。答えはどちらもキロワット時当たり約1円前後でした。これがいろいろな形で行われている原子力政策見直し作業とどのような関係にあるのかは定かではありません。

参考






まとめをまとめると?

資料第4号 核燃料サイクルコスト・将来リスク対応費用試算結果報告(案)(PDF:244 KB)原子力発電・核燃料サイクル技術等検討小委員会第4回議事次第)の「まとめ案」を要約すると:

1)再処理と直接処分の比較

割引率3%では、全量再処理モデルが約2円/kWh、直接処分モデルが約1円/kWhで、約1円/kWhの違いがある。

2)事故リスク・コスト

・損害費用×事故発生頻度/総発電量の手法を採用して、出力120万キロワットのモデルプラントにて、稼働率80─60%で試算

事故確率を国際原子力機関(IAEA)の目標値(1/10万炉年)とすると0.006円〜0.008円/kWh

事故確率を福島の経験を反映した実情(1/500炉年)とすると1.2〜1.6円/kWh

・なお、一部委員より損害規模48兆円、事故確率1/500炉年の試算が紹介された(12〜16円/kWh)が、検証できないため参考値とした。

要するに、

1)直接処分の方が再処理より1円/kWh安い。

2)原子力発電所の事故リスク・コストは0.006〜1.6円/kWhである。

これが答えでした。

福島事故後のエネルギー政策を考えるために必要なデータを約1ヶ月で出だすよう求められた原子力委員会が小委員会を作って、急いで計算をした結果ですが、そもそも、こんな数字を今出す必要があったのかどうかが、疑問です。

これらの数字の「独り歩き」について、小委員会の鈴木達治朗座長の次のような警告をしています。

1) は、2005年原子力政策大綱と似たような結果ですが、同大綱が、再処理工場を動かさなければ、使用済み燃料の送り先がなくなり原子力発電所の運転が止まると論じたことを考えれば、再処理対直接処分の「闘い」では、コスト以外の要素が重要となることは最初から明らかです。

与えられた課題の性格のため、再処理が核不拡散問題にとってどういう意味を持っているかは議論されていません。日本は、2010年末現在、約45トンもの分離済みプルトニウムを保有しています(国内保管分が、約10トン、英仏保管分が約35トン)。8キロなくなれば1発作られていると思えとする国際原子力機関(IAEA)の基準によれば、5600発分以上になります。実際の需要もないのに六カ所再処理工場を動かしてプルトニウムをさらに分離することの意味を検討しないまま、近いうちに、再処理推進が確認されていく可能性があることに注意しなければなりません。

2) 事故リスク・コストは事故確率と福島第一原子力発電所事故の被害推定額を掛け合わせ、これを発電量で割る形で計算していますが、経験の少ない原子力発電運転において事故確率など、誰にも分からないとしか言いようがありません。恣意的に選んだ確率と福島の事故の被害についての推定を掛け合わせて事故リスク・コストなるものを計算させることにどんな意味があるのでしょう。エネルギー・環境会議で各電源の比較をするための資料ということでしょうが、事故のコストは、今回こんなことが起きていますとの報告の形でしか反映しようがないとの判断もあり得たはずです。

計算を委託したエネルギー・環境会議コスト等検証委員会の決定がそもそも問題です。今から、原発の新設は無理だろうとの発言を政府関係者は繰り返しています。ですから、コストを論じるのなら、これまでの日本の原子力のコストに事故の分も入れるとどのような結果となるかを検討すべきでしょう。ところが、会議では、各電源のコストを同じ条件で比較するためということで、前回比較がなされた2004年以降の7年間に建設された原子炉をモデルにして、それを今建てたらいくらになるかという計算をやろうとしています。そこに事故のコストを入れるために原子力委員会に事故リスク・コスト計算を依頼したわけです。そのため、原子力委員会の小委員会では、これから原子炉を建設するとの前提があるかの議論が展開されています。(おまけに、原子力委員会は、政府機関としては当然のことながら、政府の他の部局での政策・見積もりなどと矛盾するものは出したがりません。)

小さな確率の採用を主張する側は、今回の事故を教訓として、いろいろ対策が取られるから、確率は低くなるといいます。

10月3日の新大綱策定会議における田中明彦東京大学東洋文化研究所教授の次の指摘が印象的です。

方向性として今回福島で起きたようなことは絶対繰り返してはいけないというご決意は私は理解できるとは思うんですが・・・よく安全保障とか戦略論で言われるのは、将軍というのは往々にして常に直近の戦争のことを考えてストラテジーを、ザ・ラストウォーというのを考える。だけれども、次の戦争はザ・ラストウォーと同じであるという保証はないんですね。

参考

関係機関との連携

関係機関との連携

以下、二つの答えの詳細を検討します。

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課題1 再処理・六カ所問題

詳細は?

原子力発電・核燃料サイクル技術等検討小委員会第4回(11月8日)議事次第より、

資料第1号 前回 までのご意見へ対応 (1)核燃料サイクルコストについて(PDF:440 KB)

6ページ 過去の試算との比較(1)─割引率3%─

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1円/kWhの差は重要か?

再処理推進派が、今回のコスト試算を批判しているのは彼らにとって痛い所を突かれていることを示しているが、「問題はコストなのか」で指摘したとおり、2005年原子力政策大綱の論法では、再処理推進の理由は、1)直接処分の知見がない、2)使用済み燃料の置き場がない、の2点である。つまり、コストではない。

根幹は、2)の議論だ。六カ所再処理工場を運転しなければ、工場の隣にある満杯間近のプールに空きスペースを作れない。各地の原発の使用済み燃料貯蔵プールも満杯になっており、使用済み燃料の行き場がなくなる。しかも、怒った青森県が六ヶ所村と日本原燃株式会社との覚書(1998年7月29日)に基づき、六カ所のプールにある使用済み燃料を元の原子力発電所に送り返すよう要求する。となると、使用済み燃料を発生させることはできなくなる。つまり原発を止めるしかなくなる。代わりに火力発電所を作らなければならなくなり、それはコストを伴う。これが、2005年原子力政策大綱の議論だった。つまり、今再処理が必要とされている真の理由は、大綱によれば、使用済み燃料の置き場の確保だ。

このために、核兵器5600発分以上もプルトニウムが貯まっているにも拘わらず、再処理でさらに、年間1000発分以上のプルトニウムを分離しようとしている。

この論理の下では、キロワット時当たり1円や2円割高となっても再処理をするしかない。再処理を阻止できるのは、技術的トラブルだけとなってしまう。

実際の選択肢は

原子力発電所運転、つまりは、使用済み燃料の増加を前提とすると 

  1. 再処理+高レベル廃棄物のガラス固化体の中間貯蔵 ⇒ ガラス固化体の最終処分
  2. 使用済み燃料の中間貯蔵 ⇒ 使用済み燃料の最終処分(直接処分)
  3. 使用済み燃料の中間貯蔵 ⇒ 後に再処理・直接処分について再検討 ⇒ ?
    (2は潜在的に3を含むとも言える。)

    原子力発電所の即時閉鎖を前提とするなら
  4. 既存の使用済み燃料の中間貯蔵 ⇒ 最終処分

福島の4基が示したとおり、プール貯蔵は危険を伴う。原発をすべて止めても、より安全な乾式貯蔵が必要となる。

2、3の選択肢は、原子力発電所内外の貯蔵施設の確保を必要とするから、手を打たないで待っていると次第になくなっていく。それがこれまでのコースだ。「再処理するしかない」という「自己充足的予言」が当たることになる。

これは、高速増殖炉計画ともプルサーマルとも直接は関係のないことだ。もともとは、高速増殖炉計画のために始められたはずの再処理計画だが、いまや再処理計画は独自の力学で進んでいる。

福島事故の影響で使用済み燃料の発生が抑えられるので若干の余裕が出てくる。今こそ急いでこの問題を議論すべきだろう。

最終処分場ができていないという事実はどの選択肢にも当てはまる。

参考

現時点では、各原発における使用済核燃料の貯蔵容量は、燃料プールのリラッキングなどにより余裕がある。

まずは、核燃サイクル路線を凍結したうえで、1年ないしは2年でバックエンド問題の結論を導く決断が求められる。

青森県・六ヶ所村の態度は?

コスト論に警戒を示しつつ、とにかくこれまでの再処理政策の続行を訴えている。

三村青森県知事の注文

三村青森県知事は、10月26日、新原子力政策大綱策定会議(第8回)に出席し、コスト論だけで再処理の是非を議論しないよう注文を付けた。同知事は、原子力発電関係団体協議(原子力施設が立地する14道県の組織)会長として、策定会議のメンバーとなっている。

出典

参考

六ヶ所村は、10月26日村長・村議20人が経産省や原子力委員会などに核燃料サイクル維持を訴えた。

出典

参考

政府関係者の態度は?

減原発発言にも拘わらず、再処理推進政策の変更を伺わせるものはない。このままで行くと、運転する原子炉の数が減っても、再処理は行われることになる。

○経済産業省北神圭朗政務官

原発を再起動させる国の方針の下では、(使用済み核燃料の)中間貯蔵や再処理が大変な貢献になる。

[原子力政策大綱の見直しは]「青森県が25年間も国策に協力し、努力してきたことや国内の使用済み核燃料が増加し、逼迫(ひっぱく)した状況にあることを踏まえて議論する」

*2011年10月19日。青森県議会(高樋憲議長)による「使用済み核燃料の対策なしに原子力発電はできないという現実を受け止め、早期に国の方向性を示してほしい」との要請に対し。

出典

核燃サイクルの重要性認識/県議会意見書に回答 デーリー東北 (2011/10/20)

参考

○細野豪志原発事故担当相 

「使用済み核燃料が国内に大量に存在するという現実を踏まえ、[核燃料サイクル政策について]方向性を出していきたい」

○松下忠洋副大臣

「核燃料サイクルが機能しなくなれば原発運転に大きな支障が出るという現状を踏まえ、方針を決めたい」。

*2011年9月13日。両氏と非公開で会談した三村青森県知事による説明。

出典

○高原一郎資源エネルギー庁長官

原発を再稼働させる上でサイクル事業は重要

*2011年10月26日。上記六ヶ所村からの要請に対し。

出典

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川井吉彦日本原燃社長(元東京電力株式会社取締役理事広報部担任。1968年3月早稲田大学政治経済学部卒業)は?

課題1 バックエンド費用 (再処理方針と直接処分の比較)で触れた2005年大綱策定の際の議論と同じ主張を展開している。

「コストだけの問題ではない。エネルギーセキュリティーや環境保全など、多岐にわたる視点から議論されるべきだ」

[直接処分は]「環境保全の面から極めて難しい選択肢だ。わが国では直接処分の技術的知見が少ない」

「再処理工場の廃止措置に約1・4兆円を要する」

2011年10月28日定例記者会見

出典

報道によると、川井社長は、今再処理工場を止めても工場廃止措置に1.4兆円かかるとの「試算」を示したということだが、「試算」の根拠は明らかにされていない。再処理工場の廃止措置は、1.55兆円と見積もられていた。(今回の検討で使われた新しい数字は、1.54兆円)「六ヶ所再処理工場を運転しなければ、原子力発電所が止まるとの予言は当たるのか?」で指摘したとおり、「2006年3月31日、実際の使用済み燃料を使ったアクティブ試験を始めてしまった。これにより、施設は放射能で汚染され、廃止措置には、何年も運転したのとほぼ同じコストがかかってしまうことになった。」つまり、廃止措置には、1.55兆円の見積もりが適用される事態となっている。1.4兆円だろうと、1.55兆円だろうと、「汚してやったから金がかかるぞ」と社長が言うのはいかがなものか。廃止措置を含む操業費全体の見積もりは約11兆円。運転すれば、残りのお金がさらに出ていく。

参考

再処理等総事業費の状況
 最新
届出額
コスト等
検討小委
再処理単価については、本表より
該当部分を抽出した上で算出
前提とした
再処理計画
再処理期間2005~
2052年度
2005~
2046年度
再処理総量約3.2万トン約3.2万トン
(単位:百億円)最新
届出額
コスト等
検討小委
届出額算定の基本的考え方コスト等検討小委からの主な状況変化
六ヶ所
再処理
操業92790522日本原燃の最新事業計画に基づく建設
等投資額、運転保守費、その他諸経費
  • 再処理期間6年延長に伴う操業費用増
  • 増資に伴う支払利息減
  • 税制改正(償却前倒し)による支払利息減
廃止措置154155▲1コスト等検討小委時の単価・物量を基礎
に、物価変動等の状況変化を反映
  • 資材関係指標下落
返還高レベ
ル放射性廃
棄物管理
廃棄物貯蔵29272日本原燃の最新事業計画に基づく建設
等投資額、運転保守費、その他諸経費
  • 貯蔵期間2年延長に伴う費用増
廃止措置11▲0コスト等検討小委時の単価・物量を基礎
に、物価変動等の状況変化を反映
  • 資材関係指標下落
返還低レベル放射性廃
棄物管理
廃棄物貯蔵1835▲16コスト等検討小委時の建設等投資額、運転保守費、その他諸経費を踏襲
  • 代替取得反映に伴う低レベル廃棄物量減
廃止措置14▲3コスト等検討小委時の単価・物量を基礎
に、物価変動等の状況変化を反映
  • 資材関係指標下落
  • 代替取得反映に伴う貯蔵本数減
処分場への
廃棄物輸送
高レベル1091
  • 代替取得反映に伴う高レベル廃棄物量増
  • 輸送関係指標上昇
低レベル2122▲1
  • 代替取得反映に伴う低レベル廃棄物量減
  • 輸送関係指標上昇
廃棄物処分高レベル0.30.3最終処分法に基づく拠出単価×代替取
得分高レベル放射性廃棄物量
  • 代替取得反映に伴う項目追加
低レベル
[地層処分]
3778▲41最終処分法に基づく拠出単価×最終処
分法に基づく地層処分廃棄物量
  • 最終処分法改正に伴う物量減及び同法に基づく拠出単価の適用
低レベル
[その他]
23230コスト等検討小委時の単価・物量を基礎
に、物価変動等の状況変化を反映
  • 最終処分法改正に伴う物量増
  • 代替取得反映に伴う低レベル廃棄物量減
合計1,2221,259▲37 


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課題2 事故リスク・コスト計算

エネ環会議が原子力委員会に計算を依頼した理由は?

各種電源についてこれまで行われた発電コスト推定を最新のものにして統一的な形で比較するるに当たって、事故リスク・コストを原子力のコストに反映させるため。

これまでの発電コスト計算は?

発電コスト試算比較
(2011年現在公表されているもの)
種類単位:円/kWh
ベース電源原子力5-6
石炭火力5-7
風力11-26
地熱発電11-27
小水力10-36
ミドル電源LNG火力6-7
大規模水力8-13
バイオマス発電12-41
コジェネ 
ピーク電源石油火力14-17
太陽光37-46
省エネ 
出典 第1回 コスト等検証委員会(2011年10月7日)
資料2 これまでの経緯について(pdf)

7年前の総合資源エネルギー調査会の推定とそれを批判する大島堅一立命館大学教授の推定は?

総合資源エネルギー調査会の数字は、電事連提供のデータを使用したもの。大島教授は、採用された計算方式では前提の置き方によって答えが異なるので、『有価証券報告書総覧』で公表されるデータを元に算出した実際の電源別発電単価を算出。これに、財政支出を合わせたものを、公表している。これには、事故リスク・コストは入っていない。

大島教授は、原子力の夜間などの余剰分で水を汲み上げて発電する揚水発電に注目し、原子力+揚水の合計も原子力のコストとして示している。

電源別発電コスト比較(単位:円/kWh)
 総合資源エネルギー調査会*1大島堅一*2
電源種類2004年1970-2007年
 実績財政支出含む合計
水力 7.087.26
一般水力(揚水以外)11.93.883.98
火力石油火力10.79.809.90
LNG火力6.2
石炭火力5.7
原子力5.38.6410.68
揚水 51.8753.14
原子力+揚水 10.1312.23
注1:全電源とも運転年数40年、割引率3%、稼働率80%(水力は45%)とした場合(電事連提供のデータを採用)
  出典:総合資源エネルギー調査会電気事業分科会コスト等検討小委員会報告書(2004年1月23日)
注2:各電力会社の『有価証券報告書総覧』を基礎に算定
  出典:実は誰も分かっていない原発のコス日経BP Eco Japan Report 2011年6月9日

参考

原子力小委が採用した事故リスク・コスト計算方法は?

事故リスク・コスト計算方法
東電費用追加的廃炉費用9643億円
賠償額予測4兆5402億円
合計5兆5045億円
電力会社コスト:上の合計額を出力等から120万kWモデル原子炉に換算4兆9936億円
電力会社にとっての将来事故リスクコスト=損害費用(円)×事故発生頻度(/炉年)
総発電量(kWh)

東電の賠償額は、「東京電力に関する経営・財務調査委員会」の10月3日報告書に基づく。

参考

実際に使われた事故確率は?

次の二つの確率の間に入ると推定。

国際原子力機関(IAEA)安全目標 10万炉年に1回

福島第1原発事故を考慮した日本の経験 500年炉年に1回

事故リスク・コストをこのような計算で予測できるか

本当のところは誰にも分からない。

(福島の賠償額最低推定額)X(IAEAの安全目標)という不思議なかけ算をしようという発想が問題。

福島の経験から言えるのは、1,494炉年(廃止プラント含む)で福島第一原子力発電所の3基(1〜3号機)のシビアアクシデントが起きたということだけ。単純に計算すると、500炉年に1回の割合で事故が起きたことになる。

1)事故確率 500炉年に1度というのは歴史的事実の描写にすぎず、確率はもっとずっと長い年月の経験からしか割り出せない。これより高いかもしれないし、低いかもしれない。

IAEAの目標・希望をこの種の計算に使うのは、そもそも論理的に無理である。

2)被害額 

(1)最大被害額 福島の事故が起きうる最悪のケースという訳ではないから、福島の被害額推定値は、最大被害額の数値ではない。福島の場合にほとんど海に向かって吹いていた風が陸側に吹いていた場合を考えただけで被害額は大きくなる。

(3)社会的コスト 東電の賠償額の他に、社会が負うコストがあるが、この社会的コストが計算に入っていない。政府・自治体の要人・担当者らが他の作業をできなかったことによる損失などもこの範疇にふくまれる。

地震や津波は計算に入っている?

入ってない。理由は、経験に基づき対処するからというもの。

しかし、安全性について原子力委員会が責任を持つわけではない。10月26日の新大綱策定会議でも、近藤委員長が安全性は原子力安全委員会ということになっていると説明している。

起きた事故は繰り返されない、起こってない事故は起こらないだろうというのは、希望的観測に過ぎない。

地震については、原子炉は地震自体には耐えたが、津波が問題をもたらしたとの考えが根本にある。この見方に異論を唱えている技術者らを新大綱策定会議や原子力発電・核燃料サイクル技術等検討小委員会に招聘して話を聞くべきだろう。原子力安全・保安院も「地震によって配管の破損がなかったとは断定していない」と表明している。事故調査・検証委員会の結論も出ていない(年内をめどに中間報告、最終報告は福島事故の収束後の予定)。

「事故の詳細が判明しておらず、どのような事故対策が実施されるかも分からない状況で、将来の事故リスク・コストを円/kWh などという形で出すことは考えることすらできない」というのが誠実な答えだろう。

参考

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その他の外部リスクは?

後で見るように、テロやコンピューター・ウイルス攻撃の可能性も計算に入っていない。次の「想定外」は、今回の「想定外」と異なるという発想がない。

なお、直接処分と再処理のコスト比較にも関係する再処理工場での事故の可能性も計算に入っていない。「民間の再処理施設ではシビアアクシデントは発生していない」からだという。

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かけ算で出てきた答えは重要か?

意味がない。

500炉年に1回というのは、50基あれば、10年に1回を意味する。こんな確率で起きるのであれば、キロワット時当たりの数字とは関係なく許されないのは原子力推進派も認める通りだ。問題は、こんな確率で起きることを防げるのかどうかだ。それを徹底的に議論・検証しなければならない。安全性が原子力委員会の管轄でないのであれば、原子力委員会は、少なくとも、事故調査委員会の検討結果がでて、新しい安全対策が実施されるまで、IAEAの目標値を使った奇妙なかけ算などするべきではない。

計算結果は?

原子力発電・核燃料サイクル技術等検討小委員会第4回(11月8日)議事次第
資料第3号 前回までのご意見への対応(2)事故リスクコストについて(pdf)

5ページ 損害賠償額の原子炉出力による補正について─原子炉出力補正による事故リスクコスト



表3 損害の発生頻度に基づく事故リスクコストの試算について
モデルプラントでの事故リスクコスト

発生頻度(/炉年)モデルプラント稼働率毎の
事故リスクコスト(円/kWh)
損害額が一兆円増加した際に
追加されるコスト(円/kWh)
設備利用率
60%
設備利用率
70%
設備利用率
80%
設備利用率
60%
設備利用率
70%
設備利用率
80%
1.0×10-5
(既設炉の早期大規模放出
に対するIAEAの安全目標)
0.0080.0070.0060.0020.0010.001
3.5×10-4
(世界での商業炉シビア
アクシデント頻度,
57年に1回の頻度に相当[1])
0.280.240.210.060.050.04
2.0×10-3
(国内での商業炉シビア
アクシデント頻度,
10年に1回の頻度に相当[1])
1.61.41.20.320.270.24

[1] 発電用原子炉が50基稼働していた際の事故発生頻度

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伴委員が意見書で示した推定は?

採用となった計算方式に合わせ、福島の事故の推定最大損額総額と、日本の事故の実績に基づく「事故確率」を掛け合わせたもの。

今回の事故の最大損害総額推定:日本経済研究センターの報告書の被害額推定20兆円(チェルノブイリ事故並み)と広域除染費用推定28兆円を加えた48兆円

伴委員提出意見書の事故リスク推定
 被害総額 (兆円)事故リスク(1/炉年)事故リスクコスト(円/kWh)
設備利用率
60%70%80%
福島原発事故実績ベース(除染費用含めた推定最大ケース)48兆円2.1×10-31613.712

出典

伴委員が提出したライプチヒ保険フォラムの研究結果は取り入れられたか?

ライプチヒ保険フォラムの研究結果

原子力発電所の事故の無限責任を前提とした賠償保険は成り立たないとの結論は、紹介もされていない。原子力委員会小委の報告にある「米国の共済制度を例に原子力損害賠償の積立てを仮定した試算」は、まったく発想の異なるもの。

(「原子力損害賠償の積立てを仮定した試算」資料第3号 前回までのご意見への対応(2)事故リスクコストについて(pdf) 9ページ 右に表示)

「保険フォーラム・ライプチヒ」に「ドイツ再生可能エネルギー協会」が委託した研究 Calculating a riskappropriate insurance premium to cover thirdparty liability risks that result from operation of nuclear power plants「原子力発電所の運転の結果生じる第三者賠償責任リスクをカバーする、リスクに見合った保険料の計算」)は、福島の事故発生前の1月に始められ、その結果は、4月に発表された。


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日米の保険制度とライプチヒ保険フォラムが検討した保険の比較は?

米国:有限責任(=法的賠償措置額)、

日本:小さな賠償措置額と無限責任

保険フォラムの研究課題:無限責任の下における賠償額を保険でカバーできるか

神話を守る虚構で見たとおり、米国の制度は民間企業に原子力分野への参入を促すために賠償責任額を有限としたものであるのに対し、日本の制度は、保険への加入で準備しておくべき措置額は、小さく抑える一方で、絶対起こらない事故については、当然無限責任を負う用意が電力会社の側になければならないとの「安全神話」に基づいている。米国では、法律で原発保有の他社からも有限の遡及的徴収を行うことを定めている。日本は、事故が起きてから、原子力損害賠償支援機構法(2011年8月10日法律第94号)を定め、疑似相互扶助制度を定め、他社からの取り立て方式を作っている。

ドイツでは、25億ユーロの賠償責任について保険で措置しておくことが義務付けられている。これに加え、3億ユーロをEUから得られることになっている。責任は無限責任となっている。そこで、無限責任を保険でカバーできるかというのが研究の課題だった。

日米原子力賠償保険制度及び二つの試算の考え方の比較
 米国日本原子力小委試算ライプチヒ試算
法律プライス・アンダーソン法原子力賠償法 
制定1957年1961年 
責任有限責任無過失・無限責任有限責任無限責任
賠償措置考え方賠償措置額=有限責任額有限賠償措置額+無限責任保険外での積み立て無限責任賠償保険
賠償措置額3億7500ドル(約300億円)/基1200億円/事業所福島賠償推定値5兆円及び10兆円最大賠償額を計算により推定731兆円
他社の関わり遡及的徴収福島事故後疑似相互扶助制度の制定相互扶助的積み立て各社が保険プール形成
他社の支払い額各社保有の1基当たり最高1億1190万ドル2011年8月10日制定の原子力損害賠償支援機構法の下で定められる負担金全社でkWh当たり負担。40年で積立保険会社側が最大賠償額を何年で貯めようとするかによる
徴収合計(104基)122億2000万ドル 
総計約126億ドル(1兆80億円) 

ライプチヒの研究と「小委」の試算の発想の違いは?

ライプチヒ保険フォラムの研究は、電力会社の無限責任を前提にすると、保険料が膨大となり、賠償保険は成り立ち得ないことを示すもの。保険会社は、1000年に一回の事故は、間違いなく1000年目に起きるのではなく、最初の年に起こるかもしれないと考える。さいころの6は最初の一振りで出るのかもしれないのと同じことだ。また、保険会社としては、事故の被害の最悪のケースを想定しようとする。外部リスクなども含めはじき出した額(6兆900億ユーロ:1ユーロ120円として731兆円)をできるだけ早く電力会社から集めておこうとする。そうすると保険料は、電力料金に組み入れようがないほど膨大になる。

原子力委員会小委の「試算」は、出力120万キロワットのモデルプラントにおける福島型の事故の被害総額を約5兆円または10兆円とし、この有限額を各社の相互扶助の枠組みで、40年の期間に積み立てた場合についての計算。最初の年あるいは10年目に起きるかもしれない事故に備えることができないとの発想がない。その結果、有限額を長い期間で積み立てるという保険制度とは関係のない計算となり、キロワット時当たり1円以下との答えがでて、電力料金で事故に対処できるということになる。

1.原子力委員会計算
日本の電力会社が共同で事故用資金をプールするとの想定で電力料金への影響を計算
被害額を有限の5兆円または2倍の10兆円とし、2009年度の原子力発電電力量(約2,800億kWh)を維持として計算
例えば:5兆円÷40年÷約2,800億kWh=0.45円/kWh
単位:円/kWh
積立期間賠償額5兆円賠償額10兆円
40年0.450.89
*事故が40年より先に起きた場合には積立は間に合わない。
2.ライプチヒ保険フォラム計算
保険会社がドイツの17基の原子炉について無限責任保険を引き受ける場合にどういう計算をすべきかのシミュレーション
賠償額を6兆900億ユーロ(731兆円)と想定し,計算。この額を保険会社側が用意する時間枠をどうすべきかが問題。1000年に1度の事故は最初の日に起きるかもしれないとの考え方に従い、早期に最大賠償額を集めておこうとすると、キロワット時当たりの保険料が膨大なものとなるから、保険制度として成り立ち得ないというのが結論。
単位:ユーロ/kWh (1ユーロ=約120円)
貯める期間 1基毎17基全体のプール
500年0.000740.00004
100年2.360.14
50年8.710.51(=61円)
10年67.33.96(=475円)
日本の原発数を50基として、プールの大きさは約3倍。プール形式にした場合の保険料は約3分の1となる。475円/kWh÷3=約158円/kWh

保険でカバーできないなら誰が?決めるのは?

原子力推進派も、無限責任保険は成り立ち得ないだろうという。成り立つと見るのなられば、無限責任保険に加入するまで、原子炉を運転してはならないとの法律を定めればいい。

つまり、事故の責任は、電力会社ではなく、社会が負うことになる可能性があるということだ。これを受け入れるかどうかは、原子力の「専門家」ではなく、社会が判断すべきことだ。つまり、ドイツの脱原発を議論した「倫理委員会」のように「原子力専門家」以外の人が議論すべき問題ということだ。

原子力政策大綱策定会議や小委でも、「倫理委員会」の関係者や、同委員会に詳しい人を招いて話を聞くべきだ。

(ただし、スウェーデンでは、キャットボンド(カタストロフィ・ボンド=大災害債券)で対処する方法が議論されているという。)

参考

ライプチヒ保険フォラムで検討したリスクは?

シビアアクシデントに至る可能性のある次のような要因が検討されていないとして、独自に追加して分析した。

原発の老朽化

テロ(航空機、誘導ミサイル、部内者の破壊行為)(1/1000炉年)

コンピューター・ウイルス

人的ミス

地震

原子力小委でテロが検討されていないが、安全保障問題の専門家はなんといっているか?

東京大学東洋文化研究所の田中明彦教授は新大綱策定会議(10月3日)において、「悪意ある存在による想定外の事態」を考えるよう警鐘を鳴らしている。

やや今回の事態を受けて原子力発電所の安全を守るということはある種の安全保障問題であるという観点をやはり入れなければいけないというふうに思っております。

自然災害における想定外ということは今回大変思い知らされたわけでありますけれども、想定外はいろいろな想定外があります。ですから、悪意ある存在による想定外の事態ということもやはり考えないわけにはいかないわけでありまして。ですから、安全保障問題として原子力発電所というのがやりようによっては相当脆弱であるということはわかったわけであります。 (8ページ)・・・・

方向性として今回福島で起きたようなことは絶対繰り返してはいけないというご決意は私は理解できるとは思うんですが、それについても多分きょういろいろご議論あったようにいろいろな注文があると思うんですね。ただ、よく安全保障とか戦略論で言われるのは、将軍というのは往々にして常に直近の戦争のことを考えてストラテジーを、ザ・ラストウォーというのを考える。だけれども、次の戦争はザ・ラストウォーと同じであるという保証はないんですね。

ですから、もちろん直近の事態を絶対繰り返してはいけないためのプランはつくっていただかなきゃいけないんですが、これと違った形で同様のことが起きるかもしれないということを常に考えていただかなければいけなくて、これはなかなか難しい。いわゆるアンシンカブルを考えなきゃいけないわけですね。ですから、幾つかのこの間と同じようなことがあったらこれとこれとこれがありますから大丈夫ですというふうにおっしゃられるけれども、ひょっとすると自然災害でない悪意を持った存在だったら、こことこことここは守ってるから大丈夫ですと、そこを攻撃するかもしれないですね。(49ページ)・・・

出典

原子力委員会 新大綱策定会議 (第8回 10月26日)
配付資料第6号新大綱策定会議(第7回 10月3日)議事録(pdf) 8ページ及び49ページ

日米の対テロ警備状況は?

日本の原子力発電所の警備に当たっている警備会社は、言うまでもなく武装していない。警察や海上保安庁が武装警備を提供しているが、その状況についての情報公開が進んでいないので実態は明らかではない

米国の原子力発電所では、警備に当たっている民間会社の警備員は武装している。そして、原子力規制委員会(NRC)が、1991年以来、各原子力発電所で「武力対抗演習(FOF)」査察を実施してその警備体制を調べている。査察は、2〜3ヶ月前に予告して、三週間に渡って行われるが、その一環として、NRCの指揮下の模擬攻撃部隊が原子炉と使用済み燃料の安全システムに攻撃を掛け、警備員部隊が迎え撃つというのがある。実際の武器の代わりにレーザーとレーザー受光器が使われ、3日間で3度の攻撃を仕掛ける形で行われる。この査察は、現在、全ての原子力発電所に対し3年に1回の割合で実施されている。9・11以前は、8年に1回だった。2009年には22の発電所でFOF査察が実施され、そのうち3回で攻撃目標群全体の 損傷または破壊が達成されてしまった。

出典 岩波新書『原発を終わらせる』 石橋克彦編所収 「原子力発電と兵器転用─増え続けるプルトニウムのゆくえ」田窪雅文

参考

原子力のワンツー・パンチを生き延びる:ポスト・フクシマの世界におけるリスクと政策の評価 BY エドウィン・S・ライマン (EDWIN S. LYMAN) 13 SEPTEMBER 2011

技術的特効薬が第二のフクシマの可能性に対する予防接種の役割を果たすというのは極めてありそうにない。世界中の規制当局と公衆が、許容できる原子力のリスク・レベルについてコンセンサスに達するよう協力すべきである。そして、原子力は、この新しい、厳しい設計基準に適応するか、敗退の運命に直面するかしかない。スリーマイル・アイランド(TMI)の事故を検討するために招集されたケメニ委員会の言葉に耳を傾けるべきだろう。「この事故は深刻過ぎる。TMIのように深刻な事故は将来起きさせてはならない。」(The President’s Commission on the Accident at Three Mile Island, 1979[スリーマイル・アイランド事故に関する大統領委員会, 1979])。

これらの言葉が書かれてから、4基の原子炉が、スリーマイル・アイランドでの事故よりもはるかに深刻な事故を経験した。あの事故に対する世界の対応は、明らかに、ケメニ委員会の指令を遂行するには不満足なものだった。もし、歴史が繰り返され、規制当局が、フクシマ事故の根本原因に対処する思い切った措置を講じられないということになるなら、次の原子力災害が起きた際には、規制当局はその責任を全面的に負わなければならない。そして、NRCは、フクシマに対応する次の措置を検討するに当たってこのことを肝に銘じなければならない。

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