プルトニウム問題の専門家プリンストン大学のフランク・フォンヒッペル名誉教授が4月20日、東京での講演で、日本は経済性の全くない再処理を止めるようにと訴えました。そして、使用済み燃料は、再処理によって核兵器の材料になりうるプルトニウムを取り出すのではなく、そのまま、プール貯蔵より安全な空気冷却の乾式貯蔵方式で最終処分場ができるまで保管するベきだと論じました。この時も紹介されましたが、日本でよくある議論は、敷地内・外の乾式貯蔵を許すと原発の延命に繋がるというものです。乾式貯蔵と再処理の両方を阻止すれば原発のプールは満杯になって原発が止まるという論理です。この論理の問題点は?
以下、乾式貯蔵反対論の問題点に簡単に触れておきます。その下に、教授が当日使った資料(1)「分離済みプルトニウム処分のためのオプション」)と、同教授が2016年11月22日に行った講演の資料(2)「使用済み燃料火災の危険低減のための提案: 米国原子力規制委員会(NRC)の反応」)を掲載します。
乾式貯蔵に反対する場合に考慮すべきこと
- 現実には、使用済み燃料は反対運動の一番弱い方へ、つまりは英仏と国内の再処理施設の方に流れていく。その結果、日本は約48トンのプルトニウムを保有するに至っている(国際原子力機関(IAEA)の数え方だと核兵器約6000発分)。日本政府は青森県六ケ所村の再処理工場をできるだけ早く運転することを望んでいる。同工場は年間8トン(1000発分)の分離能力を持つ。工場を所有する日本原燃は2021年運転開始を計画している。日本の反原発運動・反核運動はこれを阻止する運動を展開できるか。
- 資料(2)が示すように、福島第一原発4号機ではプールの冷却水がなくなってプール火災が起きることが心配された(これが起きなかったのは偶然がもたらした幸運)。これが起きていれば、160万人から3500万人の避難が必要になった可能性がある。原子力規制委員会の田中俊一委員長も更田豊志現委員長も再三、プール貯蔵よりも安全な乾式貯蔵を導入するべきだと主張している。反対運動にかかわらず原発が再稼働してしまうと新しい使用済み燃料がプールに詰め込まれ危険性が増大する。自然の対流による空気冷却方式なら、福島第一原発4号機のプールの場合のように冷却材喪失による火災を心配しなくていい。また、出来るだけ多くの使用済み燃料を早期に乾式貯蔵に移すことによってプール内の密度を下げれば火災が発生しにくくなるし、発生した場合も放出される放射能が少なくて済む。
参考:
- 使用済み燃料の乾式貯蔵への移行を訴える原子力規制委員会委員長─再処理政策への影響は? 核情報 2012.10.11~
- 田中原子力規制委員会委員長、乾式貯蔵の方がより安全と九州電力に 核情報 2016. 3. 1
- 福島4号機のプールで火災なら3500万人の強制避難の可能性 平和フォーラム/原水禁・ News Paper 2017. 6
- 使用済み核燃料は乾式貯蔵で―特別レポート「核廃棄物管理・処分政策のあり方」から 〔原子力市民委員会〕 2016年2月12日
- 核施設事故シミュレーション-韓国・日本-2017/06/05 『通信』より事故と安全国際関係 『原子力資料情報室通信』第516号(2017/6/1)より
- 敷地内乾式貯蔵は、それがそのまま最終処分場になってしまう恐れがあるため地元は反対するだろうという議論があるが、果たしてそうか。
- 浜岡原発や東海第二原発の場合、地元の反原発運動や自治体も安全性の観点から早期の乾式貯蔵への移行を要請している。
参考:「貯蔵施設を立地することが地元に受け入れられるかどうか」? 核情報 - 最近の例では、関西電力の高浜原発のある福井県高浜町の音海(おとみ)地区の自治会が2017年11月、プール貯蔵よりも安全な乾式貯蔵に移して町内に貯蔵すべきとの意見書をまとめ、県、町、関電に提出した。(同自治会は2016年末には1,2号機の寿命延長に反対する意見書を出している。)下の地図を見れば同地区の住民が持つ危機感が理解できる。地元住民のこのような切実な声を無視できるか。
- 使用済み燃料は乾式で町内保管をーー高浜原発の隣接自治会が方針 福井新聞 2017年11月24日
- 福井・高浜原発--「使用済み燃料、町内保管」 地元容認 「乾式」転換優先 毎日新聞2017年11月23日 大阪朝刊
- 平成29年8月末人口世帯数表(pdf)(音海地区の人口130人、66世帯)
- 浜岡原発や東海第二原発の場合、地元の反原発運動や自治体も安全性の観点から早期の乾式貯蔵への移行を要請している。
関連資料集
核情報から
- 同時多発テロ後の使用済み燃料関連論争
火災リスクを減らすため取り出し後5年の使用済み燃料を乾式に 2013. 2. 22 - 徹底検証・使用済み核燃料 再処理か乾式貯蔵か: 最終処分への道を世界の経験から探る
フランク・フォンヒッペル + 国際核分裂性物質パネル (編集), 田窪 雅文 (翻訳) 合同出版(*再処理と中間貯蔵の関係に関する図入りの説明と本の案内) - 「乾式貯蔵先進国」ドイツ──故高木仁三郎氏のメッセージ
乾式貯蔵が中間貯蔵のもっともよい選択肢
中間貯蔵能力不足を理由に再処理を選択するのは賢明ではない 2013. 2. 4 - 田中原子力規制委員会委員長、乾式貯蔵の方がより安全と九州電力に 2016. 3. 1
- 福島第一4号機使用済み燃料取り出し完了──計画の狂いは規制委のせい? 2014.12.26
- 使用済み燃料再処理 vs. 乾式中間貯蔵(pdf) フランク・フォンヒッペル
- 静岡県知事、プルサーマル「白紙」 六ヶ所の燃料返還なら、引き取って乾式貯蔵が立地県の「義務」 2014. 4. 7
- 日本学術会議提言案、再処理推進の口実に?
使用済み燃料の保管場所確保を再稼働の条件にと要求 2015. 3. 4 - 核兵器禁止条約と日本国民の宿題
先制不使用政策支持と六ヶ所再処理工場運転計画の中止 2017. 7.11
その他
- 使用済燃料対策推進協議会
- 使用済燃料貯蔵対策への対応状況について 電気事業連合会 2017年10月24日
- 核燃料貯蔵「乾式」に意欲 九州電力・瓜生道明社長 九州企業トップに聞く(1) 佐賀新聞 2018年1月10日
- 伊方原発2号機の廃炉方針及び敷地内乾式貯蔵施設の検討状況の報告について 愛媛県知事 中村時広 2018年3月27日
- 4月20日 原子力資料情報室第97回公開研究会「問われる⽇本のプルトニウム ―再処理政策の何が問題なのか―」
同録画 20180420 UPLAN - 20161121 もんじゅの終焉と日本の核燃料サイクルの行方(フランク・フォンヒッペルさん)録画つき