核情報

2021. 9.29〜

過密貯蔵の進む日本の原発と乾式貯蔵
──危険な稠密貯蔵の実態分析

日本の原発の使用済み燃料プールは、元々、1~2炉心分程度しか収納できない設計になっていました(1炉心分というのは、原子炉の炉心部に収容できる核燃料全体に相当する量のことです)。使用済み燃料は数年プールで冷やした後、再処理工場に送られることが想定されていたからです。しかし、再処理計画が想定通り進んでいないため、使用済み燃料は、元々の想定の何倍もの密度で貯蔵されています。これを可能にしたのは、収納方式の変更です。燃料集合体同士の間隔を狭めて詰め込んでいるのです。この措置は、ラック(収納棚)の形状・方式を変えるという意味でリラッキング(詰めなおし)と呼ばれます。この稠密貯蔵状態では、プールの水が何らかの理由で失われていくと、燃料棒の温度が上がり、被覆管(ジルコニウム合金)の発火、そして、最終的には大量の放射能汚染を伴う大規模なプール火災に至る可能性があります。福島第一原子力発電所4号機で恐れられていた事態です。

以下、立憲民主党宮川伸議員事務所の問い合わせに対する原子力規制委員会の回答(2020年)[*⬇]を基に、日本の使用済み燃料貯蔵状態の現状をまとめた後、稠密貯蔵問題の背景について考えてみましょう。(なお、本稿の執筆に当たっては、表の作成や参考文献の収集などを含め、原子力資料情報室の松久保肇事務局長の全面的協力を得た。背景説明は、筆者とフランク・フォンヒッペル及びカン・ジョンミンの共著『プルトニウム──原子力の夢の燃料が悪夢に』(緑風出版 近刊)に基づいている部分が多い)。
<追記1> 同事務局長の関連データ整理(2022/04/29)が、原子力資料情報室核燃料サイクル特設サイト「一緒に考えよう 日本の核燃料サイクル」(2022年4月28日公開)に載りましたのでお知らせします ➡「️各原発の使用済み燃料貯蔵状況」。なお、核燃料サイクル特設サイト開設記念シンポジウム 「核危機と平和利用―六ヶ所再処理工場の操業が持つ意味」では、稠密貯蔵問題を追い続けてきたフランク・フォンヒッペル(プリンストン大学)とカン・ジョンミン(独立アナリスト、元韓国原子力安全委員長)が登壇。上記ページで二人を含め登壇者全員のパワポ資料が見られます。

参考




目次


日本の原子力発電所における使用済み燃料リラッキングの現状

詰め込みの結果──プール貯蔵容量が1~2炉心分から最大12炉心分に

規制庁の回答2[*⬇](2020年10月14日付)を見ると、日本原子力発電(原電)敦賀原発1号炉(1970年3月運転開始)の場合、当初の全貯蔵容量が1炉心分だったことが分かる。関西電力美浜1・2号炉(それぞれ、70年11月、72年7月)は、1.3炉心分である。同大飯1・2号炉(79年3月、同年12月)は2基合わせて1.7炉心分、つまり、1基当り0.85炉心分にしかならない。運転し始めたばかりの時に炉に問題が生じたとしても、炉心をそっくり移すスペースもないという「大胆な」設計だった。

下の表「稠密貯蔵の進む日本の原発(「運転段階」の原子炉)」は、回答2に基づき、廃止措置段階の原子炉及び福島第一原発を除いた「現在運転状態」の原発の状況をまとめたものである(現在の実際の貯蔵量は、原子力資料情報室松久保事務局長による各電力会社のデータ整理から)。リラッキングにより、2020年現在、多いところで大飯3・4号機、四国電力伊方3号機、九州電力川内1号機などが11~12炉心分、平均で約6炉心分が収容できるようになっている。実際に収納されているのは、平均約4炉心分である。多いところでは、関西電力高浜3・4号、大飯3・4号、伊方3号、川内1号が約8~9炉心分を貯蔵している。

新しい原発では、最初から稠密貯蔵ラック使用を想定している。例えば、北海道電力泊3号(2009年12月稼働)の場合、当初から全貯蔵容量が9.2炉心分となっている。これは、プールの面積を大きくしたためではない。低面積当たりの貯蔵能力が4.1トンとなっていて、想定稠密度がリラッキングの進んだ炉と同等ベルであることが分かる。

表1 稠密貯蔵の進む日本の原発(「運転段階」の原子炉)
現在の貯蔵容量(集合体数) 現在の貯蔵量
(集合体数)
参考
容量密度 貯蔵容量の変化(集合体数)
原発名
稼働日 全容量/1炉心分 1炉心分 現貯蔵量
(2020年)
貯蔵量/1炉心分 貯蔵能力/底面積
(t/m2)
現容量/当初容量 当初容量/1炉心分
北電
89/06/22 5.7 121 311 2.6 2.0 1 5.7
91/04/12 5.7 121 378 3.1 2.0 1 5.7
09/12/22 9.2 157 292 1.9 4.1 1 9.2
東北電力
東通
05/12/08 4.3 764 600 0.8 3.0 1 4.3
東北電力
女川
95/07/28 4.0 560 1263 2.3 2.3 1 4.0
02/01/30 5.0 560 706 1.3 3.4 1 5.0
東電HD
柏崎刈羽
85/09/18 3.6 764 1835 2.4 2.8 1.33 2.7
90/09/28 4.2 764 1759 2.3 3.4 1.56 2.7
93/08/11 4.2 764 1733 2.3 3.3 1.56 2.7
94/08/11 4.2 764 1660 2.2 3.3 1.56 2.7
90/04/10 4.2 764 1934 2.5 3.4 1.56 2.7
96/11/07 3.9 872 2324 2.7 2.3 1.44 2.7
97/07/02 3.9 872 2489 2.9 2.3 1.44 2.7
北陸電力
志賀
93/07/30 4.8 368 672 1.8 2.4 1.68 2.9
06/03/15 4.3 872 200 0.2 2.6 1 4.3
中部電力
浜岡
87/08/28 4.0 764 2060 2.7 2.9 1.33 3.0
93/09/03 4.0 764 1977 2.6 2.9 1.33 3.0
05/01/18 4.2 872 2505 2.9 2.5 1 4.2
関西電力
高浜
74/11/14 2.7 157 138 0.9 1.8 2.08 1.3
75/11/14 2.7 157 58 0.4 1.8 2.08 1.3
85/01/17 11.3 157 1241 7.9 6.5 3.42 3.3
85/06/05 11.3 157 1398 8.9 6.5 3.42 3.3
関西電力
大飯
91/12/18 11.0 193 1546 8.0 5.7 2.20 5.0
93/02/02 11.0 193 1565 8.1 5.7 2.20 5.0
関西電力
美浜
76/12/01 5.2 157 412 2.6 4.0 2.60 2.0
中国電力
島根
89/02/10 6.3 560 1956 3.5 3.2 1.58 4.0
四国電力
伊方
94/12/15 11.5 157 1362 8.7 4.3 2.30 5.0
九州電力
玄海
94/03/18 8.7 193 730 3.8 3.0 1.61 5.4
97/07/25 7.8 193 1232 6.4 2.7 1.44 5.4
九州電力
川内
84/07/04 11.9 157 1284 8.2 4.3 2.09 5.7
85/11/28 8.6 157 970 6.2 3.4 2.61 3.3
日本原電
東海第二
78/11/28 2.9 764 1250* 1.6 3.2 2.23 1.3
日本原電
敦賀
87/02/17 9.0 193 1094 5.7 3.4 1.43 6.3
平均 6.2 3.6 1.70 3.9
参考:廃止措置中原子炉
敦賀 1 70/03/14 4.0 308 756 2.45 2.9 4.0 1.0
美浜 1 70/11/28 2.4 121 231 1.91 0.8 1.8 1.3
2 72/07/25 4.6 121 510 4.21 1.6 3.5 1.3

*備考:東海第2発電所の現在の貯蔵集合体数は乾式貯蔵分を差し引いた数字。乾式貯蔵分を含むと2165体となる

リラッキングの始まり

回答2の①と②を合わせて見ると、最初、余ったスペースに使用済み燃料を入れるために新しくラックを設置する(ラック増設という)措置を講じ、1978年からリラッキングを進めていった様子が分かる(炉によって複数回実施され、そのたびに貯蔵容量が増大)。

東京電力 福島第一1号(1978年)、2号(79年)、3号(78年)、4号(79年)、5号(79年)、6号(79年)
東京電力 福島第二1号(1994年)、2号(94年)、3号(94年)、4号(93年)
関西電力 美浜2号(1980年)
中国電力 島根1号(1980年)
日本原電 東海第二(1994年)
中部電力 浜岡3号(1994年)

増設とは

既存のコンクリートピットにライニングを施し、燃料貯蔵ラックを設置すること(下図参照)。


出典:使用済燃料の管理・プルトニウムの軽水炉利用に関する現状における取り組みについて[*⬇] 電気事業連合会 1997年1月24日


リラッキングとは

燃料集合体1体を収める部分をラックセルと呼ぶ。ラックセル間(つまり燃料集合体間)を狭めることでプールの収容能力を増やすのがリラッキング(詰めなおし)。「未臨界性を確保するため、ラックセルの材料に中性子を吸収するほう素を添加したステンレス鋼を使用する。」下図を参照。


出典:九州電力の説明(2020年9月1日)

1974年のインドの核実験で顕在化した再処理工場への円滑な搬出想定の問題点

使用済み燃料の貯蔵問題は、1977年の日米再処理交渉の前後にすでに表面化していた(伊原辰郎『原子力大国の黄昏』日本評論社1984年)。1974年のインドの核実験の影響でフォード政権が核不拡散政策を強化したために、76年の3月と10月に予定されていた日本原電敦賀原子力発電所の使用済み燃料の英国への輸送が危うく中止されそうになった。中止は、プールの貯蔵容量の小さな敦賀発電所の運転中止を意味する。新しい燃料を装荷しようと思っても、炉から取り出した古いものを入れるスペースがプールにないからだ。この時は、交渉で何とか輸送を認めてもらった。78年10月にも日本原電、東京電力、関西電力の使用済み燃料の英仏への輸送を巡って同様の事態が発生している。この時点で、再処理への依存の問題点について、真剣に検討すべきだった。

出典:田窪雅文 日本の原子力政策と核拡散―核燃料再処理の核拡散抵抗性と必要性 『軍縮研究』(Vol.2, 2011)


稠密貯蔵の背景

再処理の想定がもたらした稠密貯蔵

世界の原子力発電容量の約90パーセントが軽水炉(LWR)である。そして、今日の軽水炉の約70パーセントは、1960年代から70年代にかけて設計されたものである。これらの炉の使用済み燃料プールは、日本の場合も含め、ほとんどすべてが、使用済み燃料は数年の冷却の後、再処理工場に送られて、増殖炉の初期装荷燃料用にプルトニウムが回収されるとの前提の下に設計されている。したがって、その炉の1炉心あるいは2炉心分の量の使用済み燃料しか収納できない設計になっている。そして、原発敷地内で別途、貯蔵スペースを確保するという考え方もなかった。

ところが、再処理政策が放棄されたり、遅延したりした結果、使用済み燃料の搬出先がなくなるという事態が世界各地の原発で生じた。各電力会社は、使用済み燃料集合体同士の間隔を詰めて貯蔵の密度を上げていった。最終的には、その密度はほとんど運転中の原子炉の炉心のようになる。それで、連鎖反応を防ぐために、使用済み燃料集合体は、中性子吸収材の壁で囲まれた箱の中に収められる状態なる。

図 稠密化の過程の例(Figure 3 加圧水型、Figure 4は沸騰水型)


出典:原子力機関報告書(2015年 英文)
p.28-29

箱型形式の稠密貯蔵とプール火災

稠密貯蔵前と後


左が元々のオープン・ラック、右が現在の稠密貯蔵ラックである。オープン・ラックの場合、燃料が露出状態になって危険なレベルに加熱し始めると、冷却効果を持つ空気が側面から流入し温度上昇を低減することができる。稠密貯蔵ラックでは、上述の「壁」のために、このような水平方向の空気の流入が不可能となる。福島第一4号機では、亀裂や温度上昇によってプールの水位が下がっていった結果、使用済み燃料の温度が上昇し、プール火災に至るのではと恐れられた。これが起きていれば、100万人から3000万人の避難が必要になった可能性がある
出典 近刊『プルトニウム──原子力の夢の燃料が悪夢に』(緑風出版)
*図5.1

4号炉のプールの状態



出典 2.11. 使用済燃料プールからの燃料取り出し設備 原子力規制委員会 [*⬇]

幸運な偶然によって助かった福島第一4号炉


当時4号炉では、シュラウドの切断・除去作業が遅れていたため、原子炉の上に位置する原子炉ウェルと機器貯蔵ピットが水をいれたままになっていた。これがプールとつながった状態にあった。プールの水が蒸発して水位が低くなり、普通は水のないはずのウェルとの水圧差が生じたためゲートが開き、ウェル側からプールに水が流入。これがなければ2011年4月9日から火災が発生していたはずと、米国科学アカデミー(NAS)の2016年5月の報告書が述べている。 
出典:『プルトニウム──原子力の夢の燃料が悪夢に』(緑風出版 近刊)

リラッキングなんてやめるべきと田中原子力規制委委員長(当時)、九州電力に

2016年2月3日の原子力規制委員会臨時会議で田中俊一委員長が「もうリラッキングなんていう考え方はやめるべきで、ドライキャスクに保管していく方がより安全だという、これは世界的にもそういうのが普通」との考えを九州電力の瓜生道明社長に改めて伝えた。14年10月にも田中委員長と更田豊志委員長代理(当時)は同様の考えを伝えていた。15年11月に九州電力が空冷式の敷地内乾式貯蔵を検討していることを明らかにしたことについて、これを評価した格好だ。

出典:田中原子力規制委員会委員長、乾式貯蔵の方がより安全と九州電力に 2016. 3. 1

リラッキングでも満杯⇨六ヶ所再処理工場の運転開始に向けた圧力に

英仏との再処理委託契約分の搬出終了(仏分1997年、英分2001年)後、六ヶ所再処理工場の受け入れプールが使用済み燃料の送り先にとなってきた。ところが工場の運転開始が遅れ続けたため、この受け入れプールもほぼ満杯に達している。そのため、受け入れプールに空きを作るために、使用済み燃料をプールから再処理工場の方に早く送り出すことが必要と叫ばれている。つまり、早く運転開始を! というわけだ。そうしないと、使用済み燃料の搬出先を失った原発は、運転できなくなるという議論である。そのため、元々は、貴重な燃料となるプルトニウムを取り出すために必要というはずだった再処理が、使用済み燃料貯蔵場所の欠如の問題を解決するために必要ということになっている。

出典:使用済み燃料輸送量

参考:2004年の「勝手な足し算」 核情報 2012. 4. 17

日本の中間貯蔵(乾式貯蔵)議論の歴史

1990年代には、六ヶ所再処理工場が設計通り年間800トンの使用済み燃料を再処理できたとしても、原子炉のプール以外の場所に燃料の貯蔵施設を設ける必要があるとの議論が出てきた。年間約1000トンの使用済み燃料が発生しており、200トン余る計算になるからだ。既に発生していた使用済み燃料も処理しなければいけないことを考慮すると、敷地外に貯蔵施設を早期に建設する必要があると考えられた。そこで、1999年6月に原子炉等規制法が改正され、「第四章の二 貯蔵の事業に関する規制」において、原発敷地外中間貯蔵施設を作る事業が行えるように定められた。原発敷地内での貯蔵とは別に、敷地外に貯蔵施設を作る事業者について規定したものである。ただし、この法律では、「中間貯蔵施設」という言葉は登場せず、「使用済燃料貯蔵施設」、「使用済燃料貯蔵事業者」という言葉しか使われていない。

出典:法律ではどう定められているのか? 核情報 2005.12.27

この法律によって敷地外貯蔵施設を作ることが可能となったが、実際にできたのは今のところ青森県むつ市のものだけだ。敷地外にせよ、敷地内にせよ、乾式貯蔵施設の設置が進んでいない一つの理由は、乾式貯蔵推進政策と再処理推進政策の間の矛盾にある。乾式貯蔵が進んでしまうと、使用済み燃料の送先がないから早く六ヶ所再処理工場を運転せよという再処理正当化の議論が使えなくなってしまうからだ。

敷地内乾式貯蔵導入済みは福島第一原発と東海第二原発のみ

敷地乾式貯蔵を実際に導入しているのは、福島第一原発(1995年9月から)と東海第二原発(2001年12月から)だけである。

福島第一

福島第一では、2011年の事故時、乾式キャスク貯蔵施設に9基の乾式キャスク(計408体の集合体収納)が保管されていた。
事故後、敷地内の高台に仮保管施設がつくられている。2021年4月現在のキャスク基数37(設置許可容量:65基)である。
出典 使用済燃料等の保管状況 東京電力ホールディングス株式会社 2021年4月27日 [*⬇]

貯蔵建屋が津波で破損しても無事だった乾式貯蔵キャスク

乾式貯蔵の写真

乾式貯蔵の写真

出典: 福島第一原子力発電所事故の状況把握に係る写真(平成25年2月1日公開)
(06)乾式貯蔵キャスク保管建屋の状況(1) 撮影日:2011/3/17

<追記2> キャスク仮保管施設のキャスク設置状況(2023/08/16)

東海第二

東海第二は、24基許可で、21基設置、17基使用可、15基に実際に収納 (規制庁回答1)
(敷地内乾式総容量:250t、現在の管理容量:180t、さらに70tの貯蔵が可能)
出典:使用済燃料貯蔵対策の取組強化について(「使用済燃料対策推進計画」)電気事業連合会 2021年5月25日 [*⬇]

参考:使用済燃料中間貯蔵に係る貯蔵後輸送の安全性確保方策について 2010年2月3日 輸送物技術顧問会(pdf)
*福島第一、東海第二の両乾式貯蔵施設でのテストなどにも言及
福島原発における事故後の仮保管設備導入については次を参照
福島燃料プール危機の教訓 全国の原発でプールから乾式に 核情報 2012.12. 16~
*プール内にある燃料の移動計画の説明など
使用済燃料プールからの燃料取り出しの状況 東京電力
*「4号機は、2014年12月に全ての燃料取り出しが完了しました。」(1535体)

地元が反対??

敷地内乾式貯蔵は、それがそのまま最終処分場になってしまう恐れがあるため地元は反対するだろうという議論があるが、果たしてそうか。

浜岡原発や東海第二原発の場合、地元の反原発運動や自治体も安全性の観点から早期の乾式貯蔵への移行を要請している。
最近の例では、関西電力の高浜原発のある福井県高浜町の音海(おとみ)地区の自治会が2017年11月、プール貯蔵よりも安全な乾式貯蔵に移して町内に貯蔵すべきとの意見書をまとめ、県、町、関電に提出した。(同自治会は2016年末には1,2号機の寿命延長に反対する意見書を出している。)

出典:米専門家、プルトニウム増大をもたらす再処理政策中止をと訴え──使用済み燃料は再処理ではなく、敷地内乾式貯蔵を 2018. 4.27
*音海地区と高浜原発の位置関係を示す地図もある。地図を見れば同地区の住民が持つ危機感が理解できる。

参考:
「貯蔵施設を立地することが地元に受け入れられるかどうか」? 2015. 3. 4
*東海第2、浜岡、玄海、美浜を巡る動き
福井県知事、県内乾式貯蔵検討と―崩れる再処理正当化論 2019. 4. 3
*前福井県知事と現福井県知事はともに、2019年春の県知事選を前に、県外搬出までの暫定措置として県内乾式貯蔵検討する用意があると述べている。県内の原発受け入れ自治体首長の声を考慮してのことだ。

乾式貯蔵施設のコスト

キャスク価格は1基、100万~200万ドル(約1億~2億円)程度。
乾式貯蔵の資本コストは、原子炉の何十億ドル(何千億円)もの資本コストと比べると低い。分厚い鋼製の貯蔵キャスクと、対流による冷却方式の建屋のコストを含めても、日本のむつ市の貯蔵施設の約3000トンの使用済み燃料の貯蔵コストは建屋とキャスクの費用合わせて約1000億円である(3億円/10トン)。(以下を参照:リサイクル燃料貯蔵株式会社 事業概要 [*⬇]

むつ市の施設で貯蔵される予定の使用済み燃料は、電気出力100万キロワット発電用原子炉4基の40年分の取り出し量に相当する。これから計算されるキロワット時当たりの貯蔵コストは、総発電コストの約1パーセントとなる。

同じ容量の使用済み燃料プールは、ほぼ同じ資本コストとなるが、日本の経済産業省の前身(通商産業省)のために行われた1998年の研究によると、アクティブな水冷却及び処理システムの必要、そして、これらのシステムの維持・監視の必要のため、プール貯蔵の運転コストは乾式貯蔵の約6倍になるという。
出典 近刊『プルトニウム──原子力の夢の燃料が悪夢に』(緑風出版)

再処理工場・MOX工場 vs 乾式貯蔵のコスト比較

六ヶ所再処理工場とMOX燃料工場の総事業費は約40年間の操業費も入れて約16兆円に上る。(「返還廃棄物管理、廃棄物輸送・処分費用」は除く)
日本使用済燃料再処理機構「再処理等の事業費について2021年6月25日」(pdf))。負担するのは電力消費者である国民だ。いま中止すれば、使用済み燃料の追加的貯蔵やMOX燃料に代わる濃縮ウラン燃料の費用などを差し引いても、今後約10兆円の節約となる。

再処理工場の費用

初期投資と新規制基準の一部が既に支払われている。
操業費の一部も試運転開始後発生しているので複雑。(ローン返済とは別)

廃止措置費用、返還廃棄物関連

今再処理計画を中止しても発生する。

MOX工場の費用

日本原燃の資料(pdf) によると2021年6月末現在、工事進捗率は約11.8%なので、ほぼ全額がこれから投資。(実際に建設すれば、これまでの経験から言って間違いなく費用は高騰)。
参考:MOX燃料工場の建設状況 現在の工事状況 日本原燃
*2021年1月現在などの写真・ビデオがある。

これらから大雑把に12兆円程度今後必要になると仮定。

代替コスト

低濃縮ウラン燃料+乾式貯蔵費用=2兆円程度
★乾式貯蔵施設建設費用はむつ市の施設の費用を参考にしてあるのでもっとかかるとの議論があるかもしれないが、MOX工場なども不確定要素が大きいので、相殺できるレベル。
★地層処分に関しては、直接処分の方が割高になるとの計算があるが、これは、使用済みMOX燃料が将来、第二再処理工場に回され、高速増殖炉で使われることを前提としたもの。実際には、第二再処理工場は建設されず、使用済みMOX燃料は高レベルガラス固化体とともに、直接処分されることなると想定。その場合、発熱量の高さのために、処分場の必要容積は、直接処分と同程度となり、再処理による費用削減効果は消える。それで、この計算では、地層処分コストは同等と想定。

仮に第2再処理工場を使用済みMOX燃料のために建設し、これを消費するための高速炉を建てるとなると、その膨大なコストを現在の再処理シナリオに追加する必要が出てくる。

参考:使用済みMOX燃料用再処理工場はできる?──国会は世耕経産大臣に根拠を示すよう要求を 核情報 2018. 9.30

不必要で経済性もないうえ核兵器に使えるプルトニウムを取り出す再処理

英仏に委託した再処理などにより、保有プルトニウムは、2020年末現在、約46トンに達している。1発8キログラムという国際原子力機関(IAEA)の計算方法で6000発分に近い。福島事故後に運転再開しているMOX使用炉は4基しかない。それでも、日本は六ヶ所再処理工場を動かそうとしている。

解決策は、乾式貯蔵

解決策は──もし原発の運転を続けるなら──再処理政策の失敗を認め、再処理計画を中止するとともに、各地の原発のプールで貯蔵されている使用済み燃料を古いものから、早く、空気冷却の乾式貯蔵に移すことだ。出来るだけ多くの使用済み燃料を早期に乾式貯蔵に移すことによってプール内の密度を下げれば火災が発生しにくくなるし、発生した場合も放出される放射能が少なくて済む。

原発利用を早期に停止する場合も、廃炉を進めるためには、乾式貯蔵が必要だ。廃炉となった原発のプール内の使用済み燃料を取出して保管する場所がなければ、廃炉が進められない。

例えば、美浜発電所1、2号機廃止措置計画認可申請書の概要(pdf) 関西電力 2016年2月12日 4ページに「使用済み燃料は、第2段階(2022年度から2035年度)が終了するまでに廃止措置対象施設から搬出する」とある。同ページの表が概要発表の時点(2016年初頭)で、1号機の40体と2号機の110体が3号機に移されていることを示している。現在では、この合計150体が3号機の運転を確保するためにそれぞれ元の原子炉に戻されている(現在の貯蔵量は1号機231体、2号機は510体)。乾式貯蔵が導入されてないために起きた混乱だ。今後、敷地内・外の乾式貯蔵導入が遅れれば、廃止措置も遅れることとなる。


資料編

宮川伸議員事務所から原子力規制庁に送られた質問内容(2020年9月29日)

1.各原発、原子炉毎の、運転開始日及び、当初の使用済み燃料プールの容積、全貯蔵容量及び管理容量(燃料集合体数及びトン数)
ラック増設及びリラッキングの申請がある場合、それぞれの申請年月日・許可年月日、及び実施完了年月日とラック増設及びリラッキング後の全貯蔵容量及び管理容量

*なお、ラック増設及びリラッキングが複数回行われている場合は、それぞれについて記すこと。
*管理貯蔵容量:この計算に使われている数字が原子炉ごとに異なるので、それぞれの数字を期すこと:
1炉心+1取替分(体数及びトン数)
1炉心+2取替分(体数及びトン数)、など。

2.号機間の使用済み燃料共用化について、どの原子炉を共用化したのか、また、それぞれの申請年月日・許可年月日、及び実施完了年月日

3.各原発、原子炉毎の炉心の1炉心の燃料集合体数及びトン数

4.共用プールの申請・設置年月日と容積、貯蔵容量(集合体数・トン数)

5.乾式貯蔵施設の申請年月日・許可年月日、及び貯蔵容量(キャスク数及びその貯蔵可能体数・トン数)、設置完了年月日及び貯蔵容量(実際に設置されたキャスク数及びその貯蔵可能体数・トン数) 
 これは、プールの貯蔵容量の計算に入れてしまわず、別途表示すること

6.東海第二は、24基許可で、17基設置、15基に実際に収納と理解しているが正しいか?

7.福島第一原発の乾式キャスク仮保管施設について、当初の保管容量、増設時の申請年月日・許可年月日、及び実施完了年月日と保管容量

原子力規制庁回答データ

宮川伸議員事務所の問い合わせに対する原子力規制委員会の回答(2020年)↩︎

追補


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