2006年04月03日

六ヶ所と核拡散について質問主意書──辻元清美議員

六ヶ所の再処理方法で得られる製品は核兵器に転用できない?

六ヶ所再処理工場が核拡散に与える影響についての懸念を1月26日付けの加藤良三駐米大使宛て書簡において表明したマサチューセッツ州のエドワード・マーキー議員を初めとする6人の議員に対し、加藤大使は2月14日に送った返答において、六ヶ所では、プルトニウムとウランとを混合したMOX粉末(混合酸化物粉末)にする技術的措置も講じられていると述べ、この混合酸化物が、核兵器用物質にするのが極めて難しいかのように述べています。3月29日、社民党の辻元清美衆議院議員がこの主張について質問主意書を提出しました。

参考:青森県も驚いたMOX(混合酸化物)で核兵器ができるという事実

青森県六ヶ所村再処理工場運転開始に関する質問主意書

右の質問主意書を提出する。

  平成一八年三月二九日

提出者  辻元清美  

 衆議院議長 河野洋平殿

青森県六ヶ所村再処理工場運転開始に関する質問主意書

二〇〇六年一月二六日、エドワード・J・マーキー議員(米国、民主党 マサチューセッツ州)——エネルギー・商業委員会のシニア・メンバーで、超党派核拡散防止タスクフォースの共同議長——は、他の五人の下院議員らと署名した書簡を、加藤良三駐米大使に送り、六ヶ所再処理工場運転開始計画についての懸念を表明した。日本政府は、二〇〇六年一月二七日、内閣府、外務省、文部科学省、経済産業省の連名で「日本政府見解」を発表し、二月一四日には、この「見解」を基礎とする返答を加藤大使がマーキー議員らに送った。

マーキー議員らは、書簡の中で「私たちは、核兵器利用可能なプルトニウムの抽出の継続が重大かつ不必要な脅威を国際的安全保障及び核不拡散にもたらすと確信しております。このため、私たちは、二〇〇六年の六ヶ所でのアクティブ試験を中止し、それを六ヶ所再処理工場の運転を延期するというより広範な合意の一環とするよう要請します。」と述べ、さらに、「私たちは、世界全体の核兵器利用可能核分裂性物質─高濃縮ウラン(HEU)及び分離済みプルトニウム─保有量を減らすと言う世界的イニシアチブの一環としてこのような措置を講じるよう日本に要請します。私たちは、これは国際社会にとって高い優先順位を持つべきものと考えます。なぜなら、このような行動が、核軍縮と核拡散防止を推進し、テロリストたちによる核兵器の獲得を防止するのに役立つだろうからです。 『余剰プルトニウムを持たないとの原則』を約束した一九九七年一二月のIAEAに対する日本声明を私たちは、高く評価します。しかし、私たちは、二〇〇三年末までに日本のプルトニウム保管総量は四〇・六トンに増大したと理解しています。商業用の増殖炉計画がなく、混合酸化物(MOX)使用計画が相当の問題に直面しているということを考えれば、新しい再処理工場におけるさらなるプルトニウムの分離及び蓄積は、日本の方針に反するものであることは明らかです。」

マーキー議員らの書簡に対する日本政府の見解は次の通りである。

  1. 1.我が国は、核不拡散性を確保した上で、使用済燃料を再処理し、回収されるプルトニウム、ウラン等を有効利用することを国の基本方針としており、このような方針は、二〇〇五年一〇月の原子力政策大綱においても、複数のシナリオ分析を徹底的に比較検討した上での結果として改めて確認されている。
  2. 2.核燃料サイクルの推進に当たっては、利用目的のないプルトニウムを持たないという原則を踏まえて、透明性をいっそう向上させる我が国独自の原則として、電気事業者等は、アクティブ試験を前に、我が国のプルトニウム利用が厳に平和の目的に限られることについて内外の理解と信頼の一層の向上を図るため、プルトニウム利用計画を公表した。この公表内容は、原子力委員会により、プルトニウム利用の透明性の向上の観点から妥当であると判断されている。
  3. 3.また、六ヶ所工場においては、純粋なプルトニウム酸化物単体が存在することがないように、ウランと混合したMOX粉末(混合酸化物粉末)を生成するという技術的措置も講じられている。
  4. 4.なお、我が国は、非核三原則を堅持し、核不拡散の観点から、厳格な核物質防護及び輸出管理規制に基づくIAEA(国際原子力機関)保障措置及び国内保障措置の厳格な適用を確保してきており、六ヶ所工場についても、平和利用を担保するための保障措置が適切に実施できることが国際的にも認められている。
  5. 5.我が国としては、非核兵器国としてこれまで原子力平和利用の実績・経験に基づいた核不拡散と平和利用を両立させるべく、核燃料サイクル政策を推進していく考えである。

これに関連して以下の通り質問する。

  1. 一.「見解」の2で触れられている利用計画によると、六ヶ所村で建設計画中のMOX燃料工場が完成する予定の二〇一二年までは、六ヶ所再処理工場で分離されるプルトニウムは蓄積され続けることになると考えられるが、二〇一二年までにその在庫量は、何トンに達するのか。(国際的なやり方に従い、国際原子力機関(IAEA)に報告するときと同じく、「核分裂性」プルトニウムの量ではなく、全プルトニウム量で答えるよう求める。)
  2. 二.日本は、国際慣行と異なり、核分裂性プルトニウムの量だけを示すことが多いが、「非核分裂性」プルトニウムは、高速増殖炉の運転や核爆発の際に核分裂を起こさず役に立たないというのが政府の立場か。
  3. 三.国際原子力機関(IAEA)は、プルトニウムの有意量(一個の核爆発装置が製造される可能性を排除できない核物質のおおよその量)を、プルトニウム238の含有量が八〇%以上のものを除き、その組成にかかわらず八kgとしているが、これに従うと、二〇一二年までの六ヶ所再処理工場のプルトニウムの在庫量は、核兵器何発分に当たるのか。
  4. 四.六ヶ所再処理工場では、二〇一二年以後もプルトニウムの分離が続けられ、右の在庫量に加わることになるが、マーキー議員らの懸念に応えるため、六ヶ所再処理工場での在庫量が、「見解」の2で触れられている利用計画に従えば、二〇一二年以後、年々どのようなレベルで推移するのか、毎年の在庫量を示されたい。
  5. 五.ヨーロッパや国内に既にある四三トン以上のプルトニウムを優先的に消費した場合、六ヶ所再処理工場での在庫量は、二〇一二年以降も増え続けることになるが、この量が何トンになれば、余剰プルトニウムだと見なすのか。
  6. 六.とりわけ、「見解」の2で触れられている利用計画に遅れが出た場合、六ヶ所再処理工場での在庫量は、長期に渡って増え続けることになるが、それが何トンになれば、余剰プルトニウムを持たないとの方針に従って、六ヶ所再処理工場の運転を中止させるのか。
  7. 七.テロリストによる盗取を懸念するマーキー議員らに対し、「見解」の3は、「六ヶ所工場においては、純粋なプルトニウム酸化物単体が存在することがないように、ウランと混合したMOX粉末(混合酸化物粉末)を生成するという技術的措置も講じられている」としている。IAEA保障措置用語集(二〇〇一年版)では、核爆発装置の金属構成要素に転換するのに必要な時間(転換時間)の推定を示す表において、MOXは酸化プルトニウムと同じカテゴリーに入っており、その時間は一〜三週間となっている。政府は酸化プルトニウムと比べ、MOXでは懸念がどれほど少なくなると考えるのか。また、その理由を示されたい。
  8. 八.MOXが盗まれる可能性を減らすために、六ヶ所再処理工場ではどのような警備が行われているか示されたい。
  9. 九.米国のエネルギー省は、一〇%以上のプルトニウム含有率を持つMOX(混合酸化物物)をすべて、最高レベルの保安措置を必要とする「カテゴリー1」の物質とみなし、そのようなMOXを貯蔵する施設では、武装グループの襲撃を想定して演習を行っている。施設の保安部隊に対し、その施設の保安要員とは別のグループからなる「攻撃側部隊」を組織して模擬襲撃をかける訓練である。六ヶ所再処理工場では、このような演習を行っているか、また今後行う予定はあるか示されたい。
  10. 一〇.米国政府は、六ヶ所再処理工場で使われているピューレックス法は、核拡散性が高いとし、核拡散抵抗性の高い新しい技術を開発すべきだとの考えをその国際原子力パートナーシップ(GNEP)構想で打ち出している。日本は、このGNEPを支持するとしながら、核拡散性の高い六ヶ所再処理工場を急いで運転しようとしているが、それは矛盾ではないか。

 右、質問する。

内閣衆質164第189号

平成18年4月7日

内閣総理大臣 小泉 純一郎

衆議院議長 河野洋平 殿

衆議院議員 辻元清美君提出

 青森県六ヶ所村再処理工場運転開始に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。

衆議院議員辻元清美君提出青森県六ヶ所村再処理工場運転開始に関する質問に対する答弁書

一、三及び四について

お尋ねの点については、日本原燃株式会社再処理事業所再処理施設(以下「六ヶ所再処理工場」という。)において回収されるプルトニウムの量が、六ヶ所再処理工場で再処理される燃料集合体の種類等により大きく異なるものとなることから、お答えすることは困難である。

なお、日本原燃株式会社が核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(昭和32年法律第166号。以下「原子炉等規正法」という。)第46条の4の規定により、平成18年3月31日付で経済産業大臣に届け出ている使用計画によれば、平成20年度までに六ヶ所再処理工場で生産されるプルトニウム製品量は、ウラン・プルトニウム混合酸化物(以下「MOX」という。)製品の金属ウラン及び金属プルトニウムの合計質量換算で、17,536キログラムである。

二について

非核分裂性プルトニウム(核分裂性プルトニウム(プルトニウム239及びプルトニウム241をいう。以下同じ。)以外のプルトニウムの同位元素をいう。)は、軽水炉においては核分裂しにくいが、高速増殖炉などにおいて高速中性子の吸収がある場合には、核分裂性プルトニウムに比べれば核分裂しにくいものの、核分裂するものであり、ご指摘のような考え方はとっていない。なお、我が国は、プルトニウム保有量を国際原子力機関(以下「IAEA」という。)に報告し、かつ、これを公表しているが、透明性の向上の観点から、プルトニウム保有量のうちの核分裂性プルトニウムの数量を併せて公表している。

五及び六について

利用目的のないプルトニウムを持たないという原則を堅持すれば、我が国が保有するプルトニウムがご指摘の「余剰プルトニウム」となることはないものと考えている。

七について

MOXに含まれるプルトニウムのみを核爆弾装置の金属構成要素に転換することは、MOXからウランを除去してプルトニウムのみを取り出す工程が必要となることから、酸化プルトニウムを核爆発装置の金属構成要素に転換する場合に比べ、より困難である。

また、ご指摘の「IAEA保障措置用語集(2001年版)」の「核爆発装置の金属構成要素に転換するのに必要な時間(転換時間)の推定を示す表」においても、ご指摘の「1〜3週間」との記述については「純粋のプルトニウムやウランの化合物はこの範囲の最短に、混合物やスクラップは最長に位置する傾向がある」と注記され、ご指摘の「核爆発装置の金属構成要素に転換するのに必要な時間(転換時間)」については「転換時間には、転用物質を転換施設に輸送する時間、又はその装置の組立に要する時間、あるいはその後に要するいかなる時間も含まれていない」と定義されていること、昭和52年から昭和55年にかけて多くの国や国際機関から多くの専門家が出席して行われた「国際核燃料サイクル評価」の報告書においては、MOXの形態でのプルトニウムの輸送は優位性がある旨及びMOXを製造する技術である混合転換は核拡散のリスクを低減させる旨が記述されていることなどから、MOXは酸化プルトニウムに比べ、テロリストによる盗取に対する懸念が小さいとの国際的な評価があると認識している。

八について

六ヶ所再処理工場においては、原子炉等規正法第48条第2項に基づく防護措置として、人の侵入を確認することができる装置、見張人による巡視等の措置が講じられている。

九について

再処理事業者については、原子炉等規正法第48条第2項及び使用済燃料の再処理の事業に関する規則(昭和46年総理府令第10号)第16条の3第2項の規定に基づき、防護措置として必要な訓練を行うことが義務付けられているが、その具体的な内容を明らかにすることは核物質の防護上支障が生じる恐れがあることから、お答えを差し控えたい。

一〇について

我が国は、非核三原則を堅持し、核不拡散の観点から、厳格な核物質防護及び輸出管理にかかる規制を行うとともに、核兵器の不拡散に関する条約(昭和51年条約第6号)に基づくIAEAによる保障措置及び国内保障措置の厳格な適用を確保しており、平成16年1月までに我が国政府とIAEAとの間で行われた協議の結果、六ヶ所再処理工場についても、原子力の平和利用を担保するためのIAEAによる保障措置の実施の詳細が確認された。また、本年2月にアメリカ合衆国政府が発表した「国際原子力エネルギー・パートナーシップ」(以下「GNEP」という。)は、原子力発電の世界的な拡大を許容しつつ核不拡散を確保するものである。したがって、核不拡散を確保しつつ行われる六ヶ所再処理工場の運転とGNEPは矛盾するものではない。なお、アメリカ合衆国政府からは、GNEPは原子力の平和的利用に関する協力のための日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の協定(昭和63年条約第5号)に基づく六ヶ所再処理工場における再処理に関する両当事国政府の合意に影響を及ぼすものではないとの説明を受けている。

投稿者 kano : 2006年04月03日 10:18